青と蒼と藍

BLUE ・ BLUE ・ BLUE
DIARY
NOVEL
GAME
BOOK
LINK
MAIL

VS士郎(シロウ)

第6話

 ある晴れた春の一日。
 私は一人、新都に出ていた。

 新都に来るのは今回が初めてのことではない。
 聖杯戦争当時にシロウや凛と共に来たことがあったし、聖杯戦争が終わり、平和に暮らせるようになってからも何度か足を運んできた。十回には届かないが五回は越えた、だいたいそのぐらいだ。最近は一週間に一度はここに来ることになっているので、この数字はあっというまに伸びるであろうが。

 なぜ私が一人でこの町を訪れるのか。
 それは、最近なにやら家計が傾きつつある衛宮家の事情による。
 そもそも私のかつてのマスターであり今も我が剣を捧げる主、衛宮士郎はまだ学生だ。それゆえ生活に必要な金銭をねん出する方法が限られてくるらしい。にもかかわらず、最近の衛宮家にはその家計にいろいろと害をあたえている存在がいる。
 それはつまり、彼の家に居候(凛が顔を赤くして言うには同棲)する二名の少女、とくに金髪の騎士王――つまりはセイバーたる私。この私が衛宮家のエンゲル係数とやらが右肩上がりになっている原因であり、それが家計をじょじょに圧迫しているというのだ。

 一度、シロウが私に食事の量を減らしてもいいかと尋ねてきたことがあった。もちろん、居候の身である私に否応もない。シロウのおいしい料理を堪能する機会が減ってしまうのは残念のきわみだが、だからといって無理やりにもっと食べさせろなんて言うはずもない。できるかぎり感情を押し込めて「仕方ありません」とそう答えた。

 答えたのだが……

 シロウはなにかに怯えたようにあっさりと前言を撤回し、隣にたまたまいた凛はそそくさとなにかから逃げるように席を立った。
 結局、良くはわからなかったが食事の量が減らされることはなかった。おまけにその日の夜はやたらと豪勢だった。シロウが上目づかいでちらちらと私の様子をうかがっていたのが気にはなったが。

 まあ、とにかく……衛宮家の料理の質と量が減ることはなかった。
 その代わり、シロウのバイトへと行く回数が急激に増えたようだ。学業、魔術の鍛錬、剣術の稽古、それ以外の時間はバイト。最近のシロウの生活サイクルはほとんどがそれの繰り返しだった。
 私としてもシロウにだけそんな苦労を押し付けるわけにいかない。とはいえ、私が働きに出るということもいろいろ問題があるらしく、シロウや凛に止められた。
 それでも私はなんとか頼み込んだ。頼み込んで、頼み込んで、その結果シロウが折れた。一週間に一度だけ、知り合いの店で働かせてくれるというのだ。土曜の午後、ほんの3時間だけ。
 どうもシロウは私の身体がまたいつ不安定になるのか心配らしい。確かに以前、魔力不足が深刻化し倒れたことがあったが、今の私は……その……シロウとああなってからはまったく問題がないのだ。過保護すぎるのも困る。
 私は――シロウのために役立ちたいのだから。

 私は黙々と歩く。
 向かいから歩いてくる人とすれ違う。すれ違い、私の背後でその人物がふりかえる気配を感じる。それだけでなく、私の身体に周囲の視線が向けられているのを感じる。
 いつものことだ。
 初めのころ、シロウや凛と一緒に町を歩いた時もおなじようなことがおきた。周りの人たちがじろじろと私を見ているのがわかるのだ。
 なにか私の格好におかしな所があるのか。
 そう思い、シロウや凛にたずねたが、彼らはただ笑って「気にしなくていい」とそれだけを言った。凛は「貴女もすぐに慣れるわ」などとも言った。
 意味は良くわからないが、凛も私と同じように視線を浴びて平然としていたのだから、やはり慣れの問題なのだろうか。私はいまだに不快感を感じるのだが。


「彼女、外人さん? 可愛いねえ」

 長い茶色い髪と銀色の鼻輪をした男がとつぜん私に声をかけてくる。

「なあ、俺たちと一緒に遊ぼうぜ。」

 私は無視した。今までもなんどか遭遇した出来事。足を止め、話しをしたところでなんら益をなさないことはわかりきっている。

「なんだよ、無視かよっ」

 ええ、無視です。
 先ほどの男の仲間らしい、髪を金色に染めた男を無視して歩く。

「おい、ちょっと待てよ!」

 また別の男だ。
 気に入らない。今度はよりにもよって『彼』とおなじ赤い髪をしている。
 その赤い髪をした男が私の腕を掴もうとしてきた。
 私は足を止める。そして、少し――ほんの少しだけ『力』を入れた。

 男たちの動きが止まった。私を掴もうとしていた腕が馬鹿みたいに突き出されたまま固まっている。
 情けない。
 シロウに稽古をつけるときの10分の1程度だというのに。

 私はつったったままの男たちを睥睨する。男たちの瞳に脅えが走った。
 王だったころにこのような部下がいようものならすぐにでも鍛えなおしてやっていただろう。死の直前まで追い込み、それこそ性根から叩きなおすために。
 だが今の私は王ではなく、彼らも私の部下ではない。
 これは運が良いのか悪いのか。

「彼の者と同じ色の髪を持つのなら……」

 私は赤い髪の男に視線をすえる。

「まずは己の足元から見直しなさい」

 でなければ無礼であろう。
 ある限定された分野とはいえ私に勝利しえる男――赤い髪の愛しい男を頭に思い浮かべ、私はついそんなことを口走っていた。





 私は再び歩く。
 いま私が向かっている場所はコペンハーゲンという酒屋と飲み屋がいっしょくたになったような店だ。シロウが五年以上働いている店らしく、いろいろと融通がきくようなので私も働かせてもらえるようになった。

 シロウは一週間のほぼ毎日をこの店で働いて過ごす。もちろん、魔術の鍛錬や剣術の訓練を欠かさずにだ。
 さすがにそれは忙しすぎるのではないかと心配したが、そんな私や凛の心配をよそに、このごろのシロウはやたらと元気だ。どこかこう、なにか別の場所から魔力やら生気やらを吸い取っているような、そのぐらい不自然に元気だ。

 逆に最近の凛のほうはそれとはまったく正反対。元気がない、というよりはなにか疲労が溜まっているという感じ。昨日もやけに疲れた顔をして学園から帰ってきた。
 どうしたのか、と聞いたらしばらく口をつぐんだあと、ただ一言「悔しい!」とそれだけを答えた。
 それでなんとなくなにがあったのか気づいてしまい、こういった場合気づいてしまうことを喜ぶべきことなのかどうかは微妙ですね、などとつまらないことを考えてしまう。
 つまるところ、ついにシロウの『魔の手』が学園内にも伸びはじめたということ……

「ふう」

 私は歩きながら思わずため息をついてしまう。


 私と凛とシロウの三人は、現在すこしばかり複雑な関係にある。 
 私とシロウ。士郎と凛。
 それぞれに、いわゆるなんというか……そういった関係がある。俗に言えば三角関係というものだろうか。
 ただ、普通のそれと違うところは、三人がそろってそれを認め、なおかつその関係を良しとしているところだ。
 なぜこうなったか。これにはいろいろな理由がある。いろいろありすぎてそう簡単には説明できないほどいろいろある。当事者である私ですらはっきり噛み砕けていないほどいろいろある。他の二人も多分同じようなものだろう。

 だが問題はそこには無い。いや、無いとは言い切れないがとりあえずより重要な問題が、私たち――私と凛の二人にはある。


 衛宮士郎。
 もはやわれらの手には余るほどの最強の敵。
 いや、私にとっては別に敵などではないのだが、我がマスターである凛にとっては最大の敵であり、マスターにとっての敵はどうやらそれに仕えるサーヴァントにとっても敵となってしまうらしい。
 どうあっても敵うはずがないのだからと何度かさとしたが、凛は聞く耳を持たなかった。完全に意地になっている。そして、意地を張った遠坂凛ほど手に負えないものはなかった。

 そんなこんなで連敗を繰り返す私たち。
 凛はその意趣返しとして、昼間、魔術の鍛錬でさんざんシロウを苛め抜いているようだが、それもどうやら効果がないらしい。いや、一度私も道場での稽古時にいつもよりちょっとだけきつい稽古をしてシロウを失神させたことがあったが、その日の夜きっちりとベッドの上で失神させられた。
 まあつまり、昼間のシロウへの攻撃は夜のシロウを凶暴化させるだけであって、いわゆる諸刃の剣……愚策中の愚策だと気づいたわけである。

 では、どうすればシロウに勝てるというのか。
 歩きながらそんなことを考えている自分に気づく。

「これは……凛のことは言えませんね」

 私もいつの間にかシロウに勝ちたいと思っている。あ、いや、正確には、その……もっと上手くなってシロウを喜ばせたいと……そう思っている。
 こんな感覚は王であったときには一度たりとも感じなかったことだ。この世界に呼び出され、シロウに出会い、彼に抱かれて初めて感じた感覚。
 はしたないとは自分でもわかっているが、それでもやはり、私は女としてシロウと深く愛し合いたいと願っている。

 ああ、そう考えると――
 私の最大の敵は、シロウではなく、やはり凛なのかもしれない。

 凛があれだけ士郎との勝敗にこだわるのも根底には私とおなじ思いがあるのではないだろうか。シロウを喜ばせたい。その思いはおんなじで、ただ、凛は私と違って自分が主導権を握っていないと気がすまない。だから勝とうとして、そして結果的に敗北を積み重ねる。

 こう考えると、

「凛……私たちが勝利を得る可能性は限りなく薄いようですよ」

 もしかしたらゼロかもしれない、そう考えながら深くため息をついた。







「それでは、お疲れ様です」
「んー、おつかれさまー」

 仕事を終え、やる気のかけらも感じられない声に見送られて私はコペンハーゲンを出た。

 もともとは飲み屋としての営業が主であるこの店。普通は夕方から夜にかけてだけの営業らしいが、最近はお昼時にも店を開けることにしたのだそうだ。「不況だからねー」とは店主の娘の言葉。
 まあ、そのおかげで私はこうして働かせてもらえるのだから文句はないが。
いまは土曜のお昼だけだが、慣れたら平日のお昼も、と私は考えている。凛やシロウが学園で勉学にいそしんでいるあいだ、私もできるだけのことをしたいから。

 なんとなく清々しい気持ちを抱えながら家路につく。
 てくてくと、相変わらず突き刺さってくる視線を無視しながら歩く。

 ふと。
 道路わきのある一角に目を奪われる。

「あれは……」

 壁じゅうにいろいろな宣伝文句をうたった看板をぶら下げている雑多なビル。あまり近づきたくはないような汚れたビル。
 その入り口に私の良く知る人物が立っていた。
 あの赤い髪、あの瞳、あの体格、あの雰囲気。

「シロウ?」

 まぎれもなく衛宮士郎。
 ここにいるはずのないその人だった。

「学園は休みではなかったはずですが」

 それは間違いない。
 朝、シロウと凛が登校するのを私自身が見送ったのだから。
 時刻はまだ3時前。土曜とはいえ学園が終わる時間ではない。ではなぜ彼はここにいるのだろうか。早退でもしたのだろうか。いや、それにしたって新都に来ているのはおかしい。

「聞けばわかりますね」

 すぐそこにいるのだからここで考えている必要などないわけだ。
 聞けば良い。

 私は彼のいる場所へ足を進め……すぐに止めた。


 誰かいる。
 シロウの隣に誰かいる。
 私の知らない人。私の知らない女性だ。
 ややきつめの化粧を顔にほどこし、艶然と微笑む妙齢の女性。それに笑い返しているシロウ。シロウの腕には女性の細い腕がからまり、それに引かれるようにしながらゆっくりと二人はビルの中へ消えて行った。

「……あ」

 シロウだった。
 それは間違いない。
 見間違うはずがない。
 では、隣りにいた女性は誰なのか。
 見たことがない女性だった。

 どくん、と、胸がなる。

「ん……」

 それを押さえつけるように私は手を胸にやった。
 胸が熱い、痛い。
 どこか、なつかしい感覚。
 あれはいつごろだったか。
 凛とシロウのふたりを後ろから見守っていた日々。そう在りたいと願ってこの世界に残ったはずだったのに、それがこれほどにも苦しいことだとは想像もしていなかったあのころ。
 いつしか私たちの関係が変わり、ただ眺めているだけの日々が終わりを告げた。
 それ以来、この感情を持ったことはなかった。

「シロウ……まさか、私や凛以外の女性と……?」

 頭で考えたことではなく、不意に漏れた言葉。それが自分の耳に入り思わず慌てる。
 私はなにを考えているのか。そんなことあるはずがないのに。
 あるはずがないとはわかっている。
 でも、最近のシロウは――というよりも最近の『夜』のシロウは、私や凛の想像をはるかにこえるほどの変貌を遂げている。なんというか、すでに私たちの手には負えないほどの怪物。あるいは王。
 だから、もしかしたら……私たちでは彼を満足させることが出来ていないのかもしれない。
 シロウが私や凛以外の女性に心の底から惹かれるということはないと思う――思いたい。でも、その……男性の心と身体はべつのものに支配されていると、そう、凛が買ってきた雑誌には書いてあった。

 ならば、心ではなく身体のつながりを別の女性に求めるということも……

「いや、そのようなこと……想像することすらシロウに対する侮辱だ」

 シロウはそのような人ではない。
 それはわかっている。

 それでも、自分の足がそのビルへと歩を進めるのを私は止めることが出来なかった。





「う……これは」

 私の目の前に広がるのはあまりに雑多な光景。
 汚れた壁、狭い階段、その階段を通れなくするかのように置かれたわけのわからないゴミのような物、そして……あたりに立ち込める淀んだ空気。

 ここは駄目だ。この先に入ってはいけない。
 私の直感が告げている。
 この先に待ち構える『もの』は決して私が勝利し得る存在ではない、と。

 だが、幾たびも自身を窮地から救ってくれたその直感を、私はあえて無視した。
 死地がこの先に待っているのだとしても、そこに踏み込まなければ真実はつかめない。たとえこの身がどうなろうと、私はシロウを―――

 そんな良くわからない使命感に包まれながら、私はその汚れた階段を上がる。
 もしかしたら最近の連敗続きで敗北にたいしての認識がうすくなっているのかもしれない、そんなことを考えながら。

「む……」

 いくつかの階を上がった先に二人がいた。
 わたしは身を隠し気配を絶つ。
 彼らが立っているのはある店の前。それがなんの店なのかはここからではわからない。女性がその店へ入ろうとシロウを誘い、シロウがそれを少しためらっているようだ。
 もっとはっきりと断れば良いものを、と少々シロウの態度に不満をもつが、まあ、昼間のシロウはたいていああだ。無理やり強引に押してくるものには徹底的に頑固だが、引いてくるものには弱い。
 今回もそう。
 シロウはその女性に引かれるままその店の中へと消えていった。

 とうぜん、私もそのあとを追う。
 見つからないよう、少しだけ時間をおいて店の中へと入っていた。
 店の中は思ったよりも広く綺麗だった。やや明るめの照明が少しうるさく感じられるが、店の外のようには汚れていない。
 周りを見渡す。
 客はまばらだった。
 男性の客が数人。それからカップルが一組。それぞれ、どこか周囲を意図的に見ないようにしながら、陳列品を熱心に眺めている。

「……シロウは?」

 シロウと、それからあの女性を探し、すぐに見つける。
 ちょうどカウンターのある方向。頭が綺麗に禿げ上がり、かなり年齢のいった店主らしき人物がいた。おじいさん、と、そう呼ばれそうなぐらいの風体だがその瞳だけが妙に精力に満ちている。あの瞳が放つ視線にはさらされたくない、と私は本能的に感じた。
 その老人となにやら仲良さげに話し込んでいるのがさっきの女性で、シロウもそのすぐ隣りにいた。三人は楽しげに会話を交わしたあと、すぐにカウンターの奥の部屋へと引っ込んでいってしまった。

 困った。
 さすがにあのあとを追うわけにはいかない。

 でもまあ、二人っきりではなく、あの老人も一緒に行ったのだからおかしなことにはならないだろう。
 ……おかしなこと。
 ああ、やはり。自らを恥ずべきことだが――私はシロウを疑ってしまっている。シロウが私たち以外の女性に……その……ああいうことをしてはいないのかと疑ってしまっている。

「ふう……」

 こういうことを思い悩んでしまうのもやはり最近のことがあるからだろうか。最近、凛とのこともあるおかげで、前のようにシロウと二人っきりで夜を過ごすという機会がだいぶ減ってしまった。二人で愛情を確かめ合って抱き合えば、なんどもなんども身体を重ねれば、きっとこんな不安な気持ちにならなくてもすんだはずだ。
 シロウと……ふたりで……

「はあ……」

 思い悩んでいても仕方がない。まだシロウたちは奥の部屋から出てくる気配はなさそうだ。とにかく待とう。待って、シロウの顔を見てから考えよう。
 私は暇つぶしに陳列されている品々に目をやった。

 ひとつ、近くにあった小さなピンク色の品物を手に取る。
 はて? これはいったいなんでしょうか?
 見たことのない物体。かたちは卵をそのまま小さくしたような感じで、手触りはつるつるとしている。先からコードが延びていてその先端にはスイッチのようなものが……
 つい私はそのスイッチを入れてみる。

「あ」

 ブブブブッ、と、小さな音を立てて震える卵。その感覚が妙に手に気持ちいい。
 しかし、これはなんの役に立つのでしょうか。マッサージ用でしょうか。
 腕とか肩に当ててみるが振動が微弱なためあまり効かない。これをマッサージ用として役立てるのならよほど敏感なところに押し当てないと意味がなさそうだ。

「……?」

 横から強烈な視線を感じる。ふっとそちらを向くと、近くにいた男性が顔を真っ赤にしてこちらを見ているところだった。視線が合うとあわててあさっての方角を向き、そのままそそくさと棚の向こう側に歩いていった。
 私は首をひねり、再びこの道具の活用法を模索しはじめた。





「お、おい」

「ん? なんだよ」

「あっち、あの娘見てみろよ」

「あのこ……って……おお、すげえかわいい! って、あの娘ひとりでこんなとこに来てるのか?」

「ああ、つれの奴はいないみたいだ。で、ほら、あの娘……あんなに熱心におもちゃの品定めしてるぜ」

「あ、ああ、ローターをあんなにいじくり回して。顔は清純そうなのに、結構すきなのかな?」

「意外とああいうのが、そっちを憶えると夢中になるのかも」



 ふむ。
 こちらのほうはなんでしょうか。先ほどのものとは比べ物にならないぐらいに大きい。素材もずいぶん違いますね。ゴムみたいな感じです。ああでも、この大きさ、このかたち、どこかで見たような覚えが……



「うわ、こんどはあんなでかいバイブを」

「あ、あれは無茶だろ。あんなでかいの、いくらなんでもあの娘には大きすぎるだろ」

「いや……意外と平然とした顔で見てるぜ。あのぐらいなら問題ないのかも……」

「マジかよ。す、すげえ……」



 おや?
 これはなんですか?
 ネックレス? にしては少し短いですね。宝石も少々大きめですし……む、宝石ではないのですか、これは。なんと……こんなものにだまされて買う人がいるのでしょうか?



「ア○ルビーズ……」

「そ、そっちもOKかよ……」

「あの娘。いったいどんな奴と付き合ってたんだ?」



 これは、服ですね。レザー製ですか。素材はなかなか良いようです。ただ、少し肌を覆う部分が少なすぎるような気がしますが……下着でしょうか? む、隣りにあるのは、これは武器ですね。騎士である以上、このような武器を使うことは許されませんが、使い勝手はどうなのか少々気になります。



「むち――っ!!」

「女王様――っっ!!?」



 こちらはペット用品の棚ですか。くさりのついた首輪に、ほう、これは名札ですか。ここにペットの名前を書くのですね。それに、これは……尻尾? む、もともと尻尾がある動物に新たに尻尾をつけてどうするというのでしょう。良くわかりません。しかし、この手触りは気持ち良いですね。どうやってつけるのかはわかりませんが。
 しかし、この隣りにある蝋燭は……明らかに店員のミスですね。陳列する場所を間違っているとしか思えません。



「ちょ、調教済み……か?」

「なんて……うらやましい……」

「いったい、どんな奴なんだよ。あの娘の彼氏って。清純そうなあの娘をあんなふうに……」

「生粋の変態か?」



 しかし、ここの店の品揃えは正直いって良くわからない。いったいなんの店なのだろうか。置かれている物からはまるで見当がつかない。



「おい、声かけようぜ」

「あ、ああ。あんだけ可愛くて、向こうのほうも好きなんて……こんな良い娘めったにいないよな。もしかしたら……」

「やらせてもらえ……」

「あ……っ!」

「だ、だれだ、あの赤い髪の奴。女の娘に近づいて……あ、話しかけた」

「あの女の娘、顔真っ赤になってるぞ」

「なに話してんだ? ん、あれ、奥の部屋に連れてかれた……」

「くぅー、出遅れたか」



「シ、シ、シロウ……な、なぜ……」

「え? ビデオカメラ? 店の中にですか? あ、このモニター……」

「う……その、すいません。いえ! 疑っていたわけではなく、その、少し気になっただけで……」

「あ、そういえばあの女性は?」

「え、ここの店主の奥さん? いや、しかし、年齢が……」

「そ、そうですね……そういったことに年齢は関係ない。すいません、シロウ」

「しかし、ここの店主とはどういった……え、慎二の入院している病院で知り合ったのですか」

「あ、いえ、その……申し訳ありません、シロウ。私としたことが……剣を捧げた主を信じきれないとは……」

「え? プレゼント……ですか? 私に……裏へ

「これは、確かこの店にあった。身につける物なのですか? はい、それは構いませんが、ですがどこに……」





「もったいないことしたよなぁ。先に声かけてたら絶対に引っかかってたぜ」

「そうかも……な。あんだけ可愛い娘とやれたらなあ……」

「ああ……おっ、見ろよ。あの二人出てきたぞ」

「…………」

「…………」

「……なあ、あれって」

「ああ、俺もそう思う」

「だよな、やっぱりそうだよな」

「ああ、間違いなく……」







「「入れられてるな」」







    セイバー
       VS
        シロウ

      第七戦

衛宮士郎による先制攻撃により開戦




「シ、シロウ……! このような、んっ、うぅ」

「え? こ、このまま、ですか? む、無理です。そ、んっぁ」

「あっぅ、シ、シロウ……せ、せめて、うっく、こ、この振動を、と、止めてくださ、んあっ!」




「あれは……」

「ああ……だな……」

「おい、あのまま外に行くみたいだぞ」

「なんというか……すげえな、あの赤い髪の男」

「まだ20前の若造って感じだけどな。末恐ろしいというか……」

「うらやましいよな」

「ああ……」




「はぁ……はぁ……ん、ん、シロウ……」

「え? ん……止めてくれればなんとか。ですが、このまま家までは……」

「腕に、ですか? あ、はい。その……失礼、します」

「んっ、これなら……あ、シロウ。でも、その、みなが見ているような……」

「くっぅ! シ、シロウ。また……なかで……動いて……んっ」

「駄目です……! う、く、止めてください……シ、ロウ……ん、やは、り、怒っているのですか? 疑って、ん、いた、ことを」

「な、らば、やめて……ください、んぁっ、も、う……ゆる、して」

「え? あ、シ、ロウ、どこへ……?」



「このようなところに……。そ、それは確かに、ここならば他人には見られないかもしれませんが、声が漏れたら……」

「それに……もし、誰かが……くぅっん、ん、だ、から、シロウ、いきなり、動かさないで、ひぁっ! あ!」

「だ、めです、んあっ! これいじょう、は、んっ、ス、スイッチを、切って、くだ……ふあっ、や、もう、んっ、んっっ――っ!」




「はぁ……はぁ……はぁ……」

「このような屈辱……シロウ、いくら貴方とはいえ……」

「そ、そのような顔をしても、だ、だめです。私は……」

「ん……ん……はぁ、んっ……ん」

「シ、ロウの、唇は……ん……ん、え? あ、はい……私も……もう」

「……はい、シロウ。来て……ください」









「ずいぶん遅いわね。二人とも」

 遠坂凛は衛宮邸の一室でなんとはなしに呟いた。
 その手にあるは一冊の本。今の彼女にとってはどんな宝石よりも大切で、どんな魔術書よりも力となる本。ある一人の男を打ち負かすために多大なる犠牲を払って入手した本。
 その本のページをめくる。

「まあ、いいわ。今日は土曜日だし、時間はたっぷりとある。ふふ……士郎、今日こそあなたに勝利してみせる。明日の朝、敗北感に打ち震えるのは今度こそあなたのほうよ」

 遠坂凛はそう言って微笑み、秘術が記されたその本を熱心に見つめていた。

 そして、そのころ……



「ふあぁぁ――っ!! シ、ロウ、シロウ――――っっ!!!」


 一人の金髪の少女が、赤い髪の男に、圧倒的な敗北をきっしていた。




Back | Next

あとがき

ちょっと遅れましたが第六話お届けします。
今回は思わず18禁に突入しかけましたがなんとか修正。
というか、これもじゅうぶん18禁?

次回は裏切り編の予定。
誰が誰を裏切るかは……あれ、バレバレですか?

6月8日、微妙に修正。

Copyright (C) Bluex3, All Rights Reserved.