はじめ通信11−0105
堀船水害シリーズNO.17
いま首都高が住民に説明すべき重要問題は
(1)首都高は「説明責任は果たした」と開き直りの弁明
●前2回のレポートで、12月に入手した資料から発見された最大の矛盾点である、都の工事桟橋による水位上昇予測データが、都から首都高への提供資料から除外され、首都高の模型実験では事実上、桟橋はなかったことにされていた問題を明らかにしました。
●都内各地で高速道路建設を一手に担う大企業であり、あまつさえ5年前に手抜き工事で水害被害を引き起こした結果、多額の補償を支払い、石神井川の工事がいかにハイリスクであるか身にしみているはずの首都高が「まさか再び」と思う方も多いでしょう。
●私もNO.15と16のレポートを出す前に首都高から説明を受けようと、昨年7月に訪問した首都高鞄結梹x社の担当課長に連絡を取り、地元の要望や疑問も含めて会見を申入れました。
最初は「検討する」としていた担当者は、その後数日間、幾度連絡しても「打ち合わせ会議」や「都に出張」や「現場廻り」など慌ただしい動きで「不在」だったあげく、数日後には「お会いする必要はない」との回答が返ってきました。
●その理由が「既に当社は十分説明責任は果たした」というものです。
7月訪問のとき、私たちの疑問に答えきれない部分は再度調べ「住民や区議会に報告したのちは説明できる」と答えていたのに今回は一切遮断してきました。おそらくこれが首都高の”統一見解”だというのが私の印象です。
(2)首都高の説明責任が残された問題の第1・・桟橋の水位上昇についての疑問にこたえよ
そこでこの水害レポートbP7では、首都高速鰍ノは被害住民への説明責任が数多く残されていることを私なりに整理しておきたいと思います。
まず水害レポートbP5,16で指摘した、都の桟橋の影響調査のデータをステップ6´の模型実験になぜ反映させなかったかについてです。
●下の図を参照してください。この図の下のほうの川を縦に切った断面図を見ると、水色に塗られた部分が、首都高の模型実験で想定された、50ミリ豪雨時の水位です。図のbP8ポイントのところが、模型の下流端で、模型実験では、ここの水位をAP4・4mに固定しながら、上流側から毎秒480トン相当分の水を流して実験を行っています。ちょうど桟橋を模型からはずした造りになっているのが分かると思います。
●一方、都が桟橋工事を始める前に設計業者に委託してコンピュータ計算させた水位上昇予測が、青緑色に斜線で塗られた部分で、bP8のポイントでは、桟橋がない場合に約4・4mの水位が、桟橋完成後は約4・9mとなり、50センチあまりの水位差が生じるとされています。
●この点では、首都高から少なくとも次の説明が必要でしょう。
@首都高は、なぜ都から桟橋による水位上昇のシミュレーションデータの提供を受けなかったのか。
A9月15日に、桟橋の影響で溢水部分の水位がむしろ下がるという推定資料を出したのは、どういう根拠なのか。都の水位上昇データとどのように整合するのか。
B複数の実験やシミュレーションのデータがくいちがう場合、あらためて客観的な条件で水理実験等を行うつもりがあるか。
そして説明いかんでは、首都高の人為的ミスが明瞭になる可能性も否定できません。
(3)説明責任の第2・・水害再々発の危険か所はどこなのか
●私はさらに、首都高は今後の水害の危険性について、自らのデータや情報について住民に示す必要があると考えます。
7月末の住民説明会以来いっかんして首都高の説明は、「5年前の水害後、自分たちは都の50ミリ対策の指導に従っており、50ミリまでの豪雨には護岸の安全は確保されている」というものですが、一方で5年前も今回も、「想定を超える100ミリ以上の豪雨が石神井川流域で降ったため、水害を防ぎきれなかった」とも説明しています。
●つまり首都高は、自ら50ミリ豪雨までの安全は守るが、現実にはそれ以上の豪雨が降っており、そのときは再び堀船で水害が起きる危険があることを認めていることになります。
問題は、首都高の行った昨年の模型実験の結果から、今後工事の各段階で、水害リスクの高い場所や時期がどのように変化していくのかについてかなり推定できるはずなのに、その情報は住民にまったく示されていないということです。
●右の図は、私が入手した昨年の水理模型実験報告書の中の「ステップ8´」の水位データですが、ここには二つの水路の合流部分の右岸側に「5・71m」という数字が書き込まれています。この「5・71m」について報告書には「最高水位が護岸高を超えることはなく、対策を行う必要はない」との説明しかありません。
この部分は現在仮設で6・0mになっていますが、「ステップ8´」の工事段階での完成護岸の計画高は5・8mですから、50ミリ豪雨ならかろうじて安全でも、5年前や昨年のような100ミリ豪雨が襲ってきた場合、この合流ポイントがもっとも危険な箇所ではないかと想像できます。
わざわざ模型実験で危険性を把握していながら「50_までしか責任がないから」と、住民にこの大事な情報を出そうとしない・・これが公共の道路建設をになう首都高速のやることでしょうか。
●首都高担当者は「すでに水理実験報告書は開示した」と言い訳していました。
しかしこの報告書は共産党国会議員を通じてようやく開示されたもので、しかも首都高が住民に提供したのは「ステップ6´」のデータの一部だけであり、今後もステップ8´の危険がやってくることなど、まだ誰も知らないのです。これで「説明責任を果たした」のでしょうか。
●5年前の水害後、都知事の指導や立ち入り検査まで行われたことで、私たちも首都高がその後の対策で手を抜くとは考えませんでした。
しかし私たちが「水害箇所の下流側護岸もかさ上げするよう」求めた要望は、溝田橋までしか行われていませんでした。
今回水害が再発してから、改めて当時入手した平成10年の水理模型実験報告書をよく読むと、前回の水害ポイントが最も危険で、次に危ないのが、たばこ倉庫前であることがデータで示されていました。(水害レポートNO.4参照)
この痛恨の見落としを絶対に繰り返さないというのが、私の決意です。
(4)説明責任の第3・・6メートルにかさ上げした仮設護岸を計画通りの5・8メートルに戻すのか
●首都高の責任範囲は別にして、今後の水害の客観的危険性を少しでもまじめに検討するなら、現在の仮設護岸から最終護岸に切り換えていく際に、また計画の5・8メートルに戻すことが現実的でないことは、誰が考えても明らかです。
しかし東京都の護岸計画はあくまで50_対策が基になっているので、水害対策を抜本的に引き上げる決断をしていない都は「では6メートルに計画変更します」とは簡単には言いません。都議会でも正式表明はいっさいありません。
では間もなくやってくる護岸の切り換え工事に向けて、護岸の安全管理を委託されている首都高としてどういう対応でのぞむのか、施工者としての良心を持って説明すべきです。
(5)説明責任の第4・・首都高の「水防計画」では護岸からの溢水を現場でくい止めるのは不可能だと住民に説明すべきです。
●7月末の説明会で、都が首都高に、水害を繰り返しても護岸の安全管理を委託し続ける最大の根拠が、「都の指導のとおり水防計画を見直して守っている」ことでした。
しかしこの水害レポートNO.7で指摘したように、水防計画は工事現場の作業員や機材を守ることが主目的です。
前回水害後、確かに「住宅地域への浸水を防ぐ」との新たな記述が加わりましたが、そのための手段は、あくまで土のう積みが基本であり、コンクリート護岸の上には緊急の土のう積みができないため、護岸からあふれる濁流を道路際の土のうで防ぐのがせいぜいです。
実際はいったん護岸を超えれば、傾斜のきつい溝田橋付近の道路をひざ上の激しい濁流がゴウゴウと流れ、土のう積みは役に立ちません。
●護岸の高さを水害の前にかさ上げするか、川の水位を下げる貯留施設や下水道の対策などをとらなければ水害を防ぐ方法はないこと、つまり、高速道路工事会社である首都高速鰍ノは、堀船の水害を防止する総合対策のなかで、責任も権限もほとんど担うことなどできないことを改めて住民に説明すべきです。
それが明らかになれば、今後の水害対策が、もっぱら都をはじめ行政の姿勢にかかっていることが明確になり、必然的に護岸管理の責任も都に返上すべきことが明らかになると考えます。
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