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はじめ通信10−1216
堀船水害レポートNO.15
隠されていた52センチの水位上昇<1>

●12月6日に、それぞれ首都高と東京都に、別々に開示請求していた資料が、相次いで入手できました。
 その中で、ひとつどうしても矛盾じゃないかと思う点が見つかりました。

●水害が起きて2か月たった9月15日の水害対策協議会で、ようやく首都高から、水害が起きた時の石神井川の河道状態「ステップ6’」については、昨年3月から今年5月にかけての「追加実験」で、水理模型実験が行われていたと住民に説明されました。
 その説明資料の一部をコピーしたのが、右のいちばん上の画像です。

 この資料を見ると、「追加実験」を平成10年の模型実験(これまで水害レポートNO.4などで分析してきたもの)と整合させるために、隅田川との合流地点の出発水位を前回と同じAP3・11mとし、そこから逆算して、追加実験の模型の最下流端NO.18地点の水位はAP4・4mと設定されています。

●今月6日に開示されたのは、国会の笠井亮衆院議員事務所から国土交通省を通じて取り寄せていただいた、この「追加実験」の詳しい報告書です。
 その一部が、右の2番目の画像です。
 これを見ると、この模型の下流で「(一部東京都により工事中)」と書かれていますが、「再現範囲上流は改変の規模は小さい」とされ、その都の工事による水位への影響は無視されているようです。

●この「都により工事中」のなかみが、70メートルもの河川内の桟橋だったなら、これほど大規模な河川内構造物の工事が、なぜ「改変の規模は小さい」として無視されたのか・・。
 それは、この実験模型を造ったと思われる昨年の春ごろには、新柳橋付近にはまだ桟橋は造られておらず、おそらく計画段階だったからかもしれません。
 ところが「追加実験」報告書がまとめられたのは今年の水害直前の5月であり、すでに桟橋は完成し、それを使っての護岸工事が始まっていました。
 しかし、1年以上かかった水理模型実験を、この桟橋を模型に加えてやり直すことはできないとの判断から「東京都により工事中」だが「改変の規模は小さい」として、その水位への影響は無視することにした・・・。

 以上が私の推理した、この不可解な記述の書かれた理由です。 

●一方、やはり今月6日に東京都から開示された、70メートル桟橋構造による水位への影響シミュレーション結果についての資料の一部が、上から3番目と4番目の画像です。
 上の図が桟橋のない状態(現況)で50ミリ降雨が起きた場合の水位、したの図は桟橋完成後に同じ降雨があった場合の水位の、いずれもシミュレーション結果です。
 見てのとおり、桟橋の上流の端、NO.17+6.0では、52センチの水位上昇が予測されています。



●このシミュレーションは、都委託の設計会社が作成し、昨年9月の桟橋設計書に収録されています。
 これを前提に桟橋が設計され、今年1月から桟橋を使った高潮護岸工事が始まりました。
 ここで問題にされたのは、桟橋による水位上昇が、都が管理している桟橋のすぐそばの護岸の高さAP5・8mを超えないかどうかでしたから、52センチ上昇してもこの付近では護岸を超えないので、桟橋の設計はそのままゼネコンに発注されました。
 しかしこの52センチの水位上昇が、河川の付替え工事を行っている上流の首都高の管理部分に影響するはずだと考えないほうが不思議です。
 「そこは首都高の管轄で、都の心配する場所じゃない。資料を提供してやれば良い」と考えたとすれば、私がこの水害レポートのNO.1以来ずっと懸念してきた点が、不幸にもこの水害に影を落としたことになります。

●護岸の安全管理の責任が、首都高と東京都に分かれている、ちょうどその前後に、上流には20センチ低い護岸を放置した首都高の手抜きがあり、下流には水位上昇が上流に影響するかもしれない設計の桟橋をそのまま発注した東京都の手抜きがあったということです。

●もし桟橋付近の水位が、模型実験の想定より52センチ上昇していたとすると、上流で溢水したあたりの水位にどの程度の影響を及ぼすのでしょうか。
 ある専門家の意見では、「これは、模型実験で、出発水位(つまり模型の下流端の水位)が、AP4・4mからAP4・9mに上がったのと同じと解釈できるので、川の断面積にもよるが、出発水位が上がった影響は、40〜50センチの水位上昇を溢水部分でもたらすと考えてよい」とのことでした。

●桟橋の影響を無視した場合の、溢水した日本たばこ倉庫付近の50ミリ降雨時の予測水位が護岸より20センチ低いAP5・4mですから、桟橋の水位への影響が20センチをこえることが確実ならば、間違いなくたとえ50ミリの豪雨だった場合でも、5・6メートルの護岸は安全ではなかったことになるのではないでしょうか。



●次回は、この52センチがどのように無視され隠されていったかを考えてみたいと思います。

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