思うこと 第119話           2006年8月3日 記       

夏の読書ーその2ー 
『日はまた昇る』

 今年初めの新春読書シリーズ(1月8日の「思うこと第56話 2006年の“年の初め”の読書 ーその1ー 」から始まって、1月30日の「思うこと第67話 2006年の“年の初め”の読書 ーその11(最終回)ー 」、それに引き続く「思うこと 第69話〜71話」の友人からのコメント「思うこと 第75話」の「プロのコメント」、そして「思うこと 第79話」の「やってよかった新春読書」のシリーズ)の主題は、日本の将来予測に関し、悩みながら読み漁り、私なりの結論が出せたのであった。 あれから半年以上が経過した時点で、あのテーマを総括してくれる様な2冊の本に出会い、感動を新たにしたので、この119話と次回120話の2回に亘り、順次その2冊の本を紹介し、コメントを添える。
 その1冊目が左写真の『日はまた昇る』(吉田利子訳)である。 著者のビル・エモット(Bill Emmott)氏はオクスフォード大学出身の政治・経済学者で、ロンドンに本社をおくグローバルな経済誌『エコノミスト』の編集長である。 日本には1983年〜86年、同誌の東京支局長として滞在し、その後も世界的視野で日本を観察し続け、日本の動きの実態をよく把握している人である。 この本の日本語訳は本年2月に発売された。 この本の冒頭の『日本の読者に』は次の文章で始まっている、
「あきれるほど長い時間がかかってしまった。 だがようやく、ほんとうにようやく、1989年から90年にかけて『日はまた沈む』を書いたわたしが、今度は本書『日はまた昇る』を書くことができるようになった。」 著者のビル・エモット氏がどれほど日本の政財界の動きを把握しているかを端的に示すいい例として、ビル・エモット氏がこの本を執筆した昨年末頃には誰も注目していなかった村上ファンドへの福井俊彦日銀総裁の投資のことに44ページでふれている。 あきれるほど長い時間がかかった理由の一つとして、政治の失敗、特に、1990年代の国の予算の使い方の間違いをあげ、『政治家は歴史に残る大盤振る舞いを行って金をばらまいた。』と述べている。これこそは、私がかって『思うこと 第59話』でとりあげた、小渕首相に請われて元総理の宮澤喜一氏が大蔵大臣を務めたときの失敗を含めた一連の行政の失敗を指している (しかも、『思うこと 第59話』の宮澤喜一氏本人の回想の言葉から判断すると、自分の行った事が大変な間違いであったと言う認識が全く欠落している)。 このことを含めた様々な要因が重なって15年という長い期間がかかったものの、日本がやっと復活の軌道に乗ったと氏が確信する理由は、日本が行ってきた漸進的改革、特に小泉政権発足以降の改革がようやく実を結び始めたことに立脚している。 そしてまた、国民の意識が今後も必要な改革を推し進めることに理解を示し始めていることをあげている。 細かなデーターを示しながら論じているが、例えば、「2005年4月以来、雇用データーに新たな心強い傾向が見えてきた。 この10年で初めて、フルタイムの雇用の伸びがパートタイムのそれを上回った」ことを、注目すべきこととして指摘している。 「国家の貸付や支出に新しい制約とインセンティブを与えるべきで、いずれは縮小すべき」という小泉首相の方針が、次の後継者を含めた一つの流れに引き継がれると判断したこと、なにより中間層にそういう人々がたくさんいて、改革が徐々ではあるが確実に進んでいくと判断したこと、そのことが今後の日本の回復を氏が確信する理由となっている。
 この本の6章のうちの1章をさいて靖国問題を論じている。 海外からの、第三者的視点で見ている点、貴重である。 A級戦犯が合祀されていることに対し『欧州の人間にとっては、これはアドルフ・ヒトラーや他のナチ高官を祀り上げるのに等しく、彼らの行動を是認するばかりでなく、彼らが裁かれて有罪となった裁判をも否定するものだと思われるからだ』と述べている。 また、『日本の謝罪に依然としてつきまとっている問題は、その回数でもなければ文言でもない。 問題は2つある。一つは靖国神社の存在と自民党政治家、特に小泉首相の参拝が謝罪の真剣味に疑問を抱かせている事だ。 第2の問題は謝罪が孤立して一方的に行われていることだ。』と述べている。 
 この本は、私がこれまで考えてきたことと驚くほど機軸が同じであったことも驚きであった。