図解編
他人にまかせるときの法律関係
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もくじ
1法律行為の代理権
★法律行為に定める代理人の意思表示(条文要旨)
2注意義務のあらまし
3委任契約について
民法の解説を読むと代理人と使者の違いがでてきます。
代理人は、@本人の代理であることを相手方に示し(顕名:けんめい)、A本人の意思表示を伝え、B相手の意思表示を受け取る者とされ、そこには判断が介在します。
使者は本人の言葉をそのまま相手に伝える者で使者の意思はないとされます。使者は民法の条文に見当たりません。代理人の意思の介在も条文にはでてきません。
他人に任せたり頼むことを委任とか代理といいます。そのために委任状を持たせて、本人が頼んで任せたという証明にしています。
これは、@多種多様に専門分化した社会状況とA本人の経験や知識の不足あるいは出向く時間がないなどの個人事情から派生します。
従って、頼む相手も家族や知人のほかに法律や税の専門家まで幅広いわけです。そこで、任せたことにつきまとうズレやミスから生じるトラブルも知っておく必要があります。本人の意思、任せた範囲、代理人の受け止め方や理解力、相手の受け止め方にトラブルの発生原因があります。
・本人の意思のとおりに進行しているか・・・段階に応じて本人が確かめる
・代理人が本人の意思をどの程度理解しているか・・・未成年、素人、プロの注意力
・相手に本人の意思が伝わっているか・・・代理人が勝手な合意をしていないか
・どの程度までの意思のズレを許容するか・・・・追認できる範囲か
・ミスの責任は誰が取るのか・・・・・・・・・・損害賠償
・本人の任せ方に誤りはないか・・・・・・・・・過失責任、過失相殺
・なりすましはないか・・・・・・・・・・・・・白紙委任の悪用、無権代理
以上を考えると民法総則の代理だけでは済まないため、債権編の委任契約を含め、注意義務もあわせて考えます。
1法律行為の代理権
民法総則に「代理」が出てきます。それも第5章の「法律行為」に登場します。主人公の人や法人の補助者である代理人が、主人公(主体)の延長として説明されず、主人公の目的(客体)である物の前に置かれないのか不思議です。また、本人が知らないはずの無権代理が民法に飛び出すのに違和感がつきまといます。
それは、民法が意思と行為で組み立てられているからでしょう。法律行為の章は、@総則(90〜92)、A意思表示(93〜98)、B代理(99〜118)、C無効及び取消(119〜126)、D条件及び期限(127〜137)と総則編の中で条文が最も多い章です。代理は意思表示と無効及び取消しにはさまれています。本人に任されていない「無権代理」が登場するのも、ひとつの行為に反対側の当事者(相手方)が絡むからでしょう。無権代理は、本人が任せたものの委任契約が切れた権限外の行為をした表見代理とは別の存在です。
代理は任された者の権限として規定されるのではなく、代理が行なった「行為」が本人の「意思」に従ったか否かで、本人に及ぶ責任と代理人が負う責任に区別されます。
未成年者や行為無能力者の場合は保護のために本人の意思と法定代理人で異なる意思表示をするのが普通ではないでしょうか。民法の代理の規定は本人の意思表示を中心として組み立てられているので、法定代理人の行為は注意する必要があります。
代理人の職務の代行をする「復代理人」は、任意代理人と法定代理人が選任できますが相違があります。任意代理人は@本人の許諾を得る、Aやむを得ない事由のいずれかの場合ですが、法定代理人は「自己の責任」で行えますので本人の意思とは異なります。
もう一つの注意は、第102条に「代理人は行為能力者であることを要しない」とあることです。未成年者などの行為無能力者に任せても良いわけですから、そういう者に代理させた本人はリスクを負い、そういう者の判断誤りの責任を負うこととなります。行為無能力者が行なった行為は第120条第1項で取り消せますが、本人が行為無能力者に任せることと行為無能力者が行なった行為は区別され、本人が未成年者などに代理を依頼した場合は取り消せません。
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■法律行為に定める代理人の意思表示(条文要旨)
・代理人が権限内で本人のために行う意思表示は本人に効力が及ぶ(99@)
・第三者(契約の当事者など)が代理人に対して行なった意思表示は本人に及ぶ(99A)
・代理人が本人のためであることを示さない意思表示は代理人の自己行為(100)
・代理人が本人のためと示さなくても相手がそれを知り、知ることができた場合は本人に効力が及ぶ(100ただし)
・本人の意思の不存在(通謀虚偽表示・錯誤)、詐欺、強迫の事情を知っていた場合、あるいは知らなかったことに過失がある場合は事実の有無は代理人が決す(101@)
・特定の法律行為を委託された場合で代理人が本人の指図に従って行なったときに本人は知らなかったと主張できない(101A)
・他人に代理権を与えた旨を表示した者は表見代理人が行なった責任を負う(109)
・第三者が表見代理人に代理権がないことを知っていた場合、あるいは過失により知らなかった場合は他人に代理権を与えた旨を表示した者は責を負わない(109ただし)
・表見代理人の権限外の意思表示は、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理
・代理権消滅後の表見代理は、善意の第三者に対抗できない(112)
・代理権消滅後の表見代理を第三者が過失で知らなかった場合は対抗できる(112ただし)
・無権代理は、本人が追認しなければ効力を生じない(113)
・無権代理については114条〜118条を必ず読んでください。
以上の説明は、法律行為の章にある「意思表示」と「無効及び取消し」を知らないと理解できない面があります。これについては「権利義務の成立と第三者への対抗」をごらんください。権利義務は意思表示と行為で成り立ちますが民法の総則編では触れられません。
代理行為は要点だけに触れましたので、代理行為のあらまし.pdf をごらんください。
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2 注意義務のあらまし
世の中には他人にまかせたことを逆手にとって責任回避を図る人がいます。「妻が勝手にやったことだから」とか、「プロにまかせたから」と言って済ませるのは政治家だけではありません。詐欺商法の被害者にしても、相手の巧みな手際もありますが、相手が並べるもうけ話が実現可能かと確かめるのを欠いている面も見逃せません。そして、実現できなかった結果を並べ、被害者をよそおうのも納得できません。
まかせっぱなしというのは権利の上に眠る者と同じで、自分の義務を果たしていないことです。また、信頼することとまかせたことを確かめることは別のことです。行為無能力者と違って、法律行為をする者は事理弁識能力と責任能力を持つからです。わからないことを確かめ、自分の意思を的確に相手に伝えるのは法律行為の基本でしょう。
注意義務は債権編の不法行為で登場します。過失の程度を説明するために、かなり高度な抽象的過失として「善良なる管理者の注意義務」、通常レベルの現実的過失として「自己の財産に対すると同一の注意」に区別されます。ということは、まかされた人の義務であって、まかせた人にはかかわりがないとみなされがちです。でも、本人に過失があれば過失相殺だけでなく、本人に責任が及ぶわけですからまかせた人にもかかわります。
代理人に権限を与えたことを第三者に示しながら、解任した事実を第三者に伝えないことが表見代理を生じます。また、作成する理由を確かめずに白紙委任状を相手に渡し、それが悪用されたと主張するのも本人の不注意です。これを錯誤だと主張するのも無責任です。
不法行為は契約外の法律行為ですから損害賠償の対象になります。まかせたことに伴う責任を負うということは本人の過失が問われることです。先に取り上げた代理人の意思表示がどういう結果となるのかをあわせて考える必要があります。
注意義務のあらましは 注意義務と過失責任.pdf をごらんください。
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3 委任契約について
代理は委任契約とは限りません。親権者、後見人、保佐人、補助人、監督人(以上は行為無能力者に関連)のほか不在者の財産管理人、相続人不在の財産管理人、親子の利益相反などの特別代理人は法定代理人であり、本人の委任がなくても選任されます(当事者と第三者の名称一覧表を作成しましたのでごらんください)。
でも、任意代理人は委任契約でまかせるものです。そこで委任契約のあらましを説明します。「図解:委任契約のあらまし」を眺めてください。委任契約は債権編の契約に定められています。
委任契約は、当事者の一方(委任者)が、他方(受任者)に対して、法律行為を委託する契約です(643条)。法律行為でない場合は「準委任」(656条)ですが、委任の規定が準用されるので違いはありません。余計なことですが、民法で「準」が付く用語は法律行為以外のことです。そして、委任契約は互いの合意で成立する諾成契約です。
委任状は他人に示すとき必要になります。代理は本人のためにする「顕名」を要件にしていることを思い出してください。個人情報の保護が厳しく問われる現在では口約束だけで代理だと信じる人はいません。相手には代理だと確かめる義務があるから委任状の提示と持参した人の確認をすることも知っておきましょう。生半可な法律知識を持ち出しても相手には個人情報の保護責任を果たす義務があります。
委任契約は無報酬が原則です。そして、受けた人は善良なる管理者の義務を負います。タダ(無料)で行なっても、自己の財産と同一の義務以上の重い注意義務を負わされます。
似たような契約に寄託(きたく)があります。物を預かる契約で、預金も含まれます。寄託は有料の契約のときだけ善良なる注意義務を負います。タダの場合は普通の注意義務です。委任契約は高度の専門知識や経験を持つ人、つまりプロですから過失に対するペナルティも重いわけです。
代理のところで行為無能力者にも代理を依頼することができることを説明しましたが、こういう人をプロのレベルとは言いません。ですから、任意代理人をすべて委任契約だと言い切るには無理があります。それじゃ何の契約かと問われてもわかりません。契約のない代理というところでしょうか。
委任契約は信頼関係に基づく契約です。頼む人は、@報酬支払義務(有料の場合)、A費用償還義務、B損害賠償義務があります。また、頼まれた人は、@善良なる管理者の注意義務、A報告義務、B受取物の引渡義務、C自己消費の損害賠償義務があります。これらの内容は図解をごらんください。そして、互いに契約解除権を持ち、信頼関係が崩れた場合はいつでも解約できます。委任の終了は委任者・受任者がいずれも死亡や破産した場合のほか受任者が後見開始の審判を受けた場合です。
民法から脱線しますが、プロの受任者には善良なる管理者の注意義務のほかに、忠実義務と説明・助言義務があると説明されています。今のところ忠実義務は会社の取締役にかかる条文(会社法355条)であり、説明責任はアカウンタビリティのことで、専門家に求められれる倫理レベルの要請にとどまるようです。
委任契約のあらましは、委任契約のあらまし.pdf をごらんください。