民法あれこれ図解編 
法律の思考
トップページに戻る  目次ページに戻る

 民法の法律行為の説明は調べれば調べるほどわからなくなります。

 民法は自由で対等な人間が互いの意思を表示する法律関係を扱います。そこに、自由な思考と行動を原則にしつつも、公の秩序や慣習のような社会規範としての規制が介入するとともに、私人間の思考や行動のパターン(形態)に有効・無効・取消しの区分や善意と悪意(良い悪いでなく知っていたか否かの区分)が絡みます。

 民法には法律の目的や用語の定義がでてきません。自由や平等も明記されません。基本原則(公共の福祉、信義誠実、権利濫用)や解釈の基準(個人の尊厳、両性の平等)で大枠を示すだけです。それに反して、法律行為は意思表示を中心にして、個人の意思表示のパターンから他人にまかせた場合までを想定し、それが確実か不確実化の条件や期限まで含めて細々した条文が並べられます。

詳細は、総則4の「法律行為のわかりにくさ」をあわせてお読みください。 

1ブラックボックスとしての法律行為

  法律行為はブラックボックスに似ています。目的や期待を入力すると、有効・無効あるいは合法・違法が出力されるブラックボックスです。そこでは、入力に応じた区分当てはめフィルター機能とともに、取消しとなるものを有効にさせる関連づけ補助機能も仕組まれています。また、IF関数が組み込まれ、条件設定に応じて入力項目が変換されます。意思表示がどの関数のパラメータになります。(意思表示)(意思表示)

 ブラックボックスとかIF関数などを持ち出して違和感をもたれた方もいるでしょう。そんなものは民法に関係がないという反論もあることでしょう。わかりにくいからブラックボックスでなく、多くの機能を含むブラックボックスと考えればなじめます。法律がからむ関係は当事者の欲得が反映しますが、引き出される結果はきわめて技術的な世界です。

角丸四角形: 目的
期待
角丸四角形: 法的
効果

 

 

 

 

 

 


 




2法律関係に寄り道

  民法は、民法という法典だけではなく多くの特別法で構成される世界です。『学習六法』には、民事執行法、法に関する通則法、不動産登記法、利息制限法、出火の責任に関する法、借地借家法、製造物責任法、仮登記担保契約法、国家賠償法が付いていますがそれだけではありません。そして、憲法以外に法律は刑法や商法も行政関係の法律もあります。こういうものを含めて人と人の法律関係は成り立っています。

 法律行為をあれこれ詮索するのは専門家に任せ、法律関係がどのような状況で飛び出してくるかを考えてみます。権利を主張したり、紛争を解決するためでなく、罪に問われたり、責任に応じた負担を求められるのも法律関係です。

 なぜ罰せられるかといえば、刑法の場合は、こういうことを行えばどんな罪になるとあらかじめ決められています(罪刑法定主義)。また、事件が起きる前に決められていた法律で罰せられます(不遡及の原則)。そして、罪の重さに応じた罰の程度があります(盗んだだけで死刑は重すぎます)。

 罪が罰になるのは、これをすればこういう罪に該当するという「構成要件」のほかに、正当防衛や緊急避難でない「違法性」があること、あるいは、その人や法人がその行為を行う「責任能力」(有責性)があることです。だから、違法行為であっても責任能力がなければ罪を問いません。心情的には許せなくても法律関係ではそれ以上の追及は許されません。

 法律は何もかもを規制し、罰する機械ではありません。人としての尊厳や権利を守る役割もあります。そうさせるのが法律的な思考です。

             
刑法の法律関係の場合


























 
3人の思考パターン

 法律に限らず人の思考のパターンは定型的なものです。原因と結果(因果関係)、動機と成果、目的と成果の二者択一思考がほとんどです。理想と現実、過去と未来などの考えは現在を中心にした判断ですがたいていはぼかされます。区別をするだけなら何の意味もありません。それを結びつけ、何らかの意味づけをするのが思考です。切り口を一つに限らないのも思考の特徴です。ひとつしかできない硬直的な思考をワンパターンとか頑迷(がんめい)といいますが、それはその人の偏りにすぎません。 

角丸四角形: 結 果
効 果
成 果
角丸四角形: 原 因
動 機
目 的
角丸四角形: 思考








 

 

 


4法律の思考

 法律の思考は特別なものではありません。法律関係に基づいて、ある事実を、@動機・目的・原因に区分し、A該当する法律に当てはめ、B権利義務・責任・有効無効に関連づけ、合法・違法の結論に至ります。結論を結果・効果・成果と言い換えるだけで、灰色の内容を含めつつ合法か違法かを示すのが法律的な解決です。だから、ある者には厳しく、ある者には温情に映るにせよ、定められた条文に従う以上、法律の解決は技術的です。

 それではなぜ、ブラックボックスを持ち出すかといえば、多種多彩な事実に対応し、多様な思考や行為を行う人間を対象にし、ある程度柔軟で弾力的な判断を行えるメカニズムが欠かせないからです。許される範囲あるいは許せない範囲という大枠の中で臨機応変な判断を行うしかないからです。むろん、人の生死にかかわる判断には慎重さが求められ、それ以外では最大限の自由の尊重を認めるなどの幅はあります。

 法律的な思考は万能ではありません。○○すべきだという条文でも例外は必ずあります。そいうことを忘れた法律的な思考は押しつけにすぎません。法律関係の中での思考に限られます。そこにあいまいさを含ませながらも双方が納得できる技術的なパターンがあるわけです。

法律的な思考の基本は、ある事実を、@動機・目的・原因に区分し、A該当する法律に当てはめ、B権利義務・責任・有効無効に関連づける部分です。それは個々の法律で異なっても、共通するメカニズムです。

角丸四角形: @	区  別 ・・・動機、目的、原因
A	当てはめ ・・・該当する法律
B	関連づけ ・・・権利義務、責任、有効無効









5民法の法律行為と不法行為

 民法の法律行為は、意思表示を中心にしながら、
 @社会規範である公序良俗・強行規定・慣習と任意規定の関係、
 A当事者から代理を含めた意思表示の類型、
 B不確定な条件や確実な期限
などを含めて有効や無効のパターンを示します。
 扱う範囲が広いためにわかりにくくなりますが、法律的な思考を意思表示と行為で説明するためのわかりにくさです。

法律行為を有効な効果だけに絞り、権利義務の移転や変動だけに限定する思考では、債権編に出てくる「不法行為」や「違法利得」が見えてきません。不法行為や違法利得は契約に基づかない違法行為ですが合法と違法の区別がどこでされるかの区別の説明がわかりません。民法の法律行為は有効・無効に限られ、過失責任に触れないからでしょうか。また、違法行為は意思表示とかかわらずに生ずる場合もあるからでしょうか。

でも、総則の説明に登場する「私的自治の三原則」(条文は見当たりません)では過失責任の原則が出てきます。また、意思表示を伴わない過失にしても無過失責任まで民法は認めていません。

民法の条文の範囲内でも、法律的な思考のパターンには意思表示の有効・無効だけでなく、法律行為の合法・違法が含まれています。法律的な思考の結果には都合の良いものばかりでてきません。むろん、有効と合法、あるいは無効や取消しと不法とすることは誤りです。それは計測単位が異なるものをごったにすることです。

でも、ものさしを変えれば合法・違法の区別も出ます。だから、債権編で、契約行為とその他の行為を区別し、違法利得と不法行為を区別するのでしょう。

民法の範囲を超えてしまいましたが、法律関係の範囲での、法律的な思考を忘れると細かい世界に踏みとまってまわりが見えてこないような気がします。

なお、契約不履行・事務管理・違法利得および不法行為は債権編の図解:損害賠償にかかわることで触れています。

文頭に戻る