民法あれこれ図解編 
法律行為のわかりにくさ
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【お 詫 び

以下の説明は法律行為を条文に関連させるため複雑にしています。
法律行為は次の図の「意思表示」の部分と理解してください。
ちなみにこの図は「法律の思考」で使用しています。

ここでは法律行為の意味を論じていますが、「法律行為にかかわること」もごらんください。
言葉の詮索よりも民法で法律行為が他の条文とどのようにかかわるかを知る方が大切です。

  もくじ

  1総則編の法律行為の構造

  2通常の法律行為の説明を確かめる

    (1)法律行為とは

   (2)法律行為の要素

    (3)法律行為自由の原則

   (4)法律行為が無効となる場合

民法の総則で最も条文が多い章が第5章の法律行為です。90条の公序良俗から137条の期限の利益の喪失まで48条もあり、総則・意思表示・代理・無効及び取消し、条件及び期限の5節に分かれ、半分以上が意思表示に割かれています。ところが、法律行為についての定義がでてきません。

そこで用語辞典やテキストを並べてみると、法律にかかわる当事者の意思表示では一致しますが、二者の意思の一致である契約ばかりではないと釘を刺されると頭を抱えてしまいます。おまけに、準法律行為が飛び出してきて意思や事実の通知は法律行為ではないと言い出されるとまったくお手上げです。

この法律行為という概念は、権利義務の設定や変動の根拠を統一的に説明するために、単独行為(一人で行う意思表示)・合同行為(複数者が同方向に行う意思表示)・契約(異なる方向の二人の意思表示が一致)の上位概念だそうです。そして、一定の法律効果の発生を望む者にその望みを達成させる仕組みといいます。そして、単独行為の権利変動は、法律がそれを認めているから行うのであって、契約のように当事者の意思と言い切れないと書かれると錯乱状態です(以上は有斐閣の「法律学小辞典(第4版)」を参考にしました)。

 

1総則編の法律行為の構造

民法総則の法律行為の章は、節を並び変えると次のような構成になります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 





四角で囲ったのが法律行為の章に出てくる各節の内容です。

第1節の総則は、公序良俗90条)、公の秩序である「強行規定」と公の秩序に関しない規定である「任意規定」(91条)そして慣習92条)で成り立っていますが、これは本来的に自由である各人の意思を制限ないし規制するものです。このフィルターを通り抜けなければ有効な法的効果は得られません。

第2節の意思表示は、意思の存在に当たる心裡留保、意思の不存在となる通謀虚偽表示と錯誤、瑕疵ある意思表示である詐欺と強迫のほかに隔地者の意思表示や公示による意思表示という意思表示のパターンが並べられます。ここではパターンに応じた有効・無効・取消しが規定されます。民法の定義は例外を並べてそこから通常をイメージさせますからどんなものかつかみにくい面がありますが、意思表示は当事者の内心や動機でなく他者に向けて表示された意思を問題にすることは確かです。

第3節の代理は本人の意思の実現ですから表見代理までは原則的に有効な行為です。でも、無権代理は本人が知らないうちに行われますので、本人が追認しない限り無効な行為です。この節は代理の権限の条文より、代理が行う行為が有効か無効か、つまり本人の意思か及ぶか否かを規定する条文が多いことに注意してください。

第4節の無効及び取消しは、取り消しうる行為を有効にさせる追認の条文が多いのが特徴です。ここでも、意思の有効無効が大きなウエイトを占めています。

第5節の条件及び期限は、そのあとの章である期間の計算や時効とかかわりますが、内容は行為の有効・無効が中心です。無条件という用語はもとどおりの意味ですからこれまた有効無効と同じことになります。

以上から推定できるのは、ある人の意思表示がどのように制限され、どんなことでその意思表示が有効・無効となるかを問うことで共通していることです。法律行為の説明が、ある人の意思が法律的に有効な効果を得ることとされるのはここに至って理解できます。各節の条文は有効な法律効果に至るフィルターの役割を果たし、それを通過していく流れ(手続ないし過程)が法律行為です。

とはいえ、これは民法総則の法律行為の章の位置づけであって、これが民法の考え方だと言い切る自信はわたしにはありません。でも、学説が条文にない「内容の確定性」や「実現可能性」を持ち出すより納得できます。法律行為の種類として単独行為、合同行為、契約を並べて上位概念と説明し、有効と無効の行為を並べ立てて法律行為を区分するわかりにくさよりマシではないかと思われます。

 

2通常の法律行為の説明を確かめる

 

民法では意思表示行為が重視されますが、他の法律の場合は、たとえば刑法では構成要件や有責性、違法性なしに犯罪を罰することはできません。起こった事実(事件)が、どのような条件(要件)を満たせば、どんな罰(法的効果)になるかを決めるのも法律行為です。つまり、事実に要件と効果を結びつけるのが法律行為ではないでしょうか。民法も個人の意思(目的)に要件と効果の結びつきがあり、要件にかかわるのが意思表示になるのではないかとわたしは思います。もっとも、民法と刑法はそもそもレールが違うと言われればそれまでです。図解は通常の解説をもとに整理しました

このままでは門外漢の自説の押しつけになりますから民法の解説に戻って考えます。菅野耕毅さんの『事例民法入門』(法学書院)や尾崎哲夫さんの『はじめての民法総則』(自由国民社)その他の方々の説明を参考にしました。非難や批判でないことをあらかじめお断りしておきます。

 

(1)法律行為とは

法律行為の意義は、菅野さんは「当事者の意思に基づき意思表示どおりの法律効果(権利義務の変動)が生ずる行為」とし、尾崎さんは「ある行為を発生させたいという自分の意思を表示して行い、法律がその実現を助けてくれる行為」とします。当事者とその片方である自分の違いはありますが、意思表示を実現させるための法律の範囲内の行為であることは一致します。尾崎さんは実現される内容に触れていませんが菅野さんは権利義務の変動と限定しています。そして、有斐閣の『法学小辞典』や自由国民社の『図解による法律用語辞典』では法律効果を有効なものに限定していますが、両者はその効果が有効無効とまでは触れません。これでは法律行為には有効無効を含むフィルターがあることがボケてきます。菅野さんは法律行為と準法律行為を区分するためカッコ書きで権利義務の変動を含ませています。

 

(2)法律行為の要素

菅野さんは法律行為を、成立要件、有効要件、目的の妥当性に区分して説明し、尾崎さんは区分をせずに個々の条文の解説の中でそれに触れます。ここでは菅野さんの説明に従って法律行為の要素(エレメント、パーツ)を整理します。 

1成立要件:法律行為は次の要素で成り立っています。

@当事者が存在すること:単独行為も含まれます。誰もいなければ問題が出ない

A目的が明確であること:学説であって、明文規定がありません

B意思表示がなされること:条文はもとより解説書もこれを重視します

C(例外)要物契約は物の引渡し、要式行為は書面等に要式を伴う場合がある

2有効要件:成立要件を有効にさせる要件です

@当事者に行為能力がある:制限行為能力者ではないことです

A意思表示に意思の不存在や瑕疵がないこと:本人の意思が確実に反映している

B法律行為の目的に、目的の確定性、目的の可能性、目的の適法性、目的の妥当性がある:明文規定が無いものや、次の目的妥当性を含んでいます

3目的の妥当性:目的が社会的に妥当であるしばりです

 民法も法律ですから強行規定の制約を受けます。民法90条が明文規定です

 

(3)法律行為自由の原則

 何度も繰り返しますが、民法の定義は外枠を決めてから内容をあれこれ整理します。それは、民法が原則的に各人の自由な意思を認めるからです。ここが他の法律と異なります。意思の表示にしても婚姻届や遺言書には厳格な定めがあり、保証契約は必ず書面で行うのは例外です。

 原則的に自由な内容のことを「法律行為自由の原則」といいますが、これは条文に見当たりません。当たり前すぎて条文にする必要がないからと説明されていますが、自由な意思を表示する方法も定められていません。だから、多様な意思表示のパターンが登場し、取り消しうることも当事者の行為によって追認する条文も出てくるわけです。自由ということは不確実で不正確なものも含みます、そこに、不備な意思表示を有効にさせ、未確定を含めるために条件や期限を加えるなど法律行為を幅広く説明することになります。法律行為がわかりにくいのはこんなところにあります。

 

 (4)法律行為が無効となる場合

 意思表示や代理、あるいは条件と期限は別に触れていますので最後に法律行為が無効になる場合を整理しておきます。それは法律行為自由の原則が絶対的ではなく、社会規範の制約を受けることです。尾崎さんは「法律行為の解釈」で、菅野さんも「法律行為の目的の妥当性」で触れていますが民法90の公序良俗だけではありません。

 法律行為の総則は、公序良俗、強行規定、任意規定、慣習が条文に含まれます。

@強行規定に反する法律行為:必ず無効になります

自由を並べ、成文化したのが民法ではありません、法律である以上社会秩序を守るための規定が含まれます。ということは、民法以外の法律があれば規制されるわけです。刑法や利息制限法の条文は民法に優先します。民法になくてもそれに該当する意思表示や行為は無効になります。

A公序良俗に反する法律行為:必ず無効になります

これは民法が定める無効な法律行為です。自由や人権を害する行為(買春や人身売買)、経済秩序に反する行為(暴利)、家族の秩序に反する行為(愛人)、犯罪をさせる行為(賭博や談合)

B慣習に反する法律行為:無効となる場合があります

C任意規定で当事者が排除した法律行為:法律に反する約束は無効になります

D意思能力がない者:未成年者と成人被後見人の行為は取消しができますので、無効になる場合があります。

E無効とされる意思表示:通謀虚偽表示や錯誤は無効となります。

F実現不能な行為:明文はありませんが学説で出てくる無効の原因です


【追記】

法律行為を理解するために用語辞典や参考書を並べ、比較するうちにますますわからなくなり1週間ほど悩みました。
おかげで胃酸過多になり苦手な病院に出向く始末です。
それはともかく、法律行為は目的と効果、事実と刑罰、期待と成果をつなぐブラックボックスと考えれば納得できます。
ブラックボックスは、有効・無効あるいは合法・非合法のフィルターであるとともに取消しとなるものを有効とさせる関連づけの補助機能を持ちます。
パソコン用語を持ち出せば条件式のIF関数を組み込んだフィードバック機能が含まれるわけです。
民法の「法律行為自由の原則」は、不完全・不確定・不確実な意思表示を含むので、無効に結びつく取消しを追認で有効とさせる機能も組み込むしかないからです。
それを整理したのが「法律の思考」です。原題は「法律行為はブラックボックス」ですが、民法にパソコン用語を持ち出すのも気が引け、また、他の法律とのかかわりも無視したくないのでタイトルを穏便なものにしています。民法学者には受け入れられないでしょうが、部外者の目で見れば法律の思考方法に違いはないはずです。

法律行為の定義で最もスッキリしているのは、「意思表示を要素とする権利義務変動原因」というのを見つけました。
熊田裕之著『やさしい法律シリーズ民法の解説ー債権編ー』(ネットスクール出版)に出ています。
ここには意思と効果を結びつける関係でなく、意思表示を要素と割り切っています。
マクロ経済学で消費(C)が所得(Y)の関数C=f(Y)であるように、権利義務の変動(Z)は意思表示(V)の関数Z=f(V)と考えるのでしょう。
こういう考えの方がわたしにはなじむのもおかしなものです。

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