２４　民法用語（３）債権

民法の条文を読むときの主な用語をグループで整理しました。

文章の訂正と根拠条文を加えました（2012･4･22）

民法用語　（３）債権

用語	大まかな内容　　　★かっこの数字は民法の条文です。必ず確かめてください
債権と債務	権利や義務はすでに総論でまとめました。債権は権利、債務は義務といえますが、そうとも言えない場合があります。　売買を持ち出せば、売り手は物を引き渡す義務と代金を受け取る権利があります。買い手にも支払い義務と物を受け取る権利があります。そこで、行為に着目して権利や義務を表すために債権と債務が使われます。　債権は相手に請求する権利、つまり意思表示ですから二重売買も生じます。　排他的で絶対的な物権と違って、債権は平等的で相対的な権利にすぎません。　●債権：　相手に一定の行為を求める権利　●債務：　相手から一定の行為を求められる義務　●債権者平等の原則：　債務者に多数の債権者がいる場合、債権の発生原因や時期にかかわらず、すべての債権者が平等に弁済を受けます。
給付と反対給付	債権債務に伴う義務を履行する（はたす）ことを給付といいます。　１債務者が義務の履行としてなす行為（作為）又はなさないこと（不作為）。　①与える給付となす給付：　物の引渡しを目的とする給付を「与える給付」といい、物の引渡し以外の給付を「与える給付」といいます。　与える給付には、特定物の引渡しと不特定物の引渡しに区分されます。　なす給付は一定の行為を行う「作為給付」と一定の行為をしない「不作為給付」があります。　②可分給付と不可分給付：　分割して給付することが許される場合を「可分給付」、それが許されない場合を「不可分給付」といいます。　③一時的給付と継続的給付：　給付の態様で一時的給付と継続的給付に区分されます。　２反対給付：　双務契約においては債権者・債務者が互いに給付を持つので、給付を区別するために反対給付が用いられます。たとえば、雇用契約では労働に従事する給付（なす給付）に対し、報酬を支払う反対給付（なす給付）があります。
債権の発生原因	民法の債権編は総則・契約・事務管理・不当利得・不法行為に区分されています。　ここには４種類の大きな債権の区分がされているものの性格が異なる債務が並べられていることに注意を要します。　民法の解説書は契約と不法行為に区分し、損害賠償を「担保責任」と「損害賠償」に分けて論じています。その違いは、契約に基づくか否かです。　１契約に基づく債権　　　民法は13の契約を挙げていますが、契約自由の原則によりこの他もあります。　２契約以外の債権　　①事務管理：　義務なく、他人のために、事務を管理すること　　②不当利得：　法律上の原因がないのに利益を得た人に利得の返還を求めること　　③不法行為：　故意または過失で他人に損害を与えた場合の損害賠償のこと
債権の種類	債権は給付の種類によって分類されます。　１特定物債権：　特定物の引渡しを内容とするものです。引渡し前の善良なる管理者の注意義務やリスクにかかる危険負担が注意点です(400)。　２種類債権：　　種類や分量だけを定めた不特定物の引渡しを内容とするものです(401)。　３金銭債権：　　金銭の引渡しを内容とするものです。履行不能は生じませんが、履行遅滞は遅延利息の賠償を行います(402・403)。　４選択債権：　　数個のうちいずれかの引渡しを内容とするものです。特定の有無が問題になります(406-410)。　５任意債権：　　代わりに他の物で行う引渡しを内容とするものです。代用物を何にするかの取り決めが必要です。　この他に、物の引渡しを行う「与える債務」と物以外の引渡しを行う「なす債務」の区分があります。　１与える債務：　特定物や不特別物の引渡し　２なす債務：　　代わりの人ができる「代替債務」、なり代われない「非代替債務」
債務不履行	債権編は債権者の権利から始まらず、400条の善良なる管理者の注意義務や利息を定めた後に、「債務不履行の責任等」へ進みます。　　債務者が、後発的に債務の本旨に従った履行をしないこと。いずれも債務者に責任があることに限られ、始めから履行ができないことを「原始的不能」といい、契約は無効です。　債務不履行を確実に頭にいれないと、契約に基づく「担保責任」や契約の「解除」がつかめないことがあります。　①履行遅滞：　　履行が可能なのに債務者が履行しないこと(412)。履行の強制(414)を要する　②履行不能：　債権発生後に履行できなくなったこと(415後段）。　③不完全履行：　履行はしたが、内容が不完全であること（415前段）。
利息の種類	民法では利息が多数登場します。契約に基づく利子を「利息」　、期限を過ぎたて罰的な損害賠償を「遅延利息」や「違約金」といいます。　また、利率の決め方で利息を「法定利息」「約定利息」と区分します(419）。　利息を付すか否かは契約自由です。　●利息：　　　　元金を利用する対価として期間に応じて支払われるもの　●遅延利息：　金銭債務の履行が遅延したときに支払われる遅延賠償金　●違約金：　　契約を結ぶときあらかじめ定める、契約違反にかかる支払額（420）　●法定利息：　利息の取り決めがないとき適用される利率をいう　民法５％、商法６％（404）　●制限利息：　利息制限法による利率の上限をいいます　●約定利息：　契約によりあらかじめ定められた利率
損益相殺と過失相殺	いずれも損害賠償額の算定に考慮されるものですが、損益相殺は民法の条文にはなく、法理として認められ、過失相殺は民法４１８条にあります。　①損益相殺：　債務不履行が、債権者に損害をあたえるとともに利益を与えた場合をいう。損害金からその利益を控除したものが損害賠償額になる　②過失相殺：　債務不履行に債権者にも過失がある場合をいう。損害の責任や範囲の適用に考慮される(418･722②）。
遅延賠償と補填賠償	いずれも損害賠償の内容や性格を表すものです。　①遅延賠償：　債務の履行が遅れたために生じた損害の賠償。本来の給付も併せて請求できる　②補填（ほてん）賠償：　履行遅延や履行不能で本来の給付を受けてもしかたない場合に、金銭で賠償を受けること
債権の確保	契約の解除や損害賠償の他に、ここでは債務不履行の防止策と不履行後の債権確保に触れます。ただし、債権者には自力で債権を回収する権限（自力執行権）がないので、債務者の任意の応諾や裁判所への申し立てが必要です。　また、債権の回収は債権者平等の原則があることも忘れてはなりません。優先配当を受けるには登記などの手続きが必要です。　１債務不履行前の防止　　①保証：　債務者以外の人の財産や資力を担保にする方法（446）。　　②担保：　債務者の財産に抵当権などを設定する方法。　　③代物弁済：　他の物に代えて支払わせる(482）。　　④代位弁済：　他の人に肩代わりして弁済してもらう（499・500）。　２不履行後の債権確保　　①債権譲渡：　譲渡禁止の債権でなければ、手順を踏んで債権を譲渡できます(466）　　②代位権の行使：　第三債務者から代金を回収する債権者代位権があります(423）　　③取消権の行使：　債務者が行なった詐害行為を取り消しすことができます（424）　　④担保権の実行：裁判所に申立てて競売などで債権を回収します（民事執行）　　⑤相殺の行使：　　履行期限が過ぎた債権は相殺を行なって債務額を減らす（505）　　⑥更改の利用：　　契約内容を改めて、後日の回収に有利な条件とする（513）　　⑦破産法等：　　　　債権の種類に優先区分がされ、債権は平等に分配されます
人的担保	保証は、資力や財産を持つ人を担保とするものです。保証人の要件は弁済資力のある人です（450条）。保証人の責任は債務者が債務の履行をしないときにそれを履行する責任を負います（446条）。要は、債務者の返済能力リスクを保証人に転化させることです。　債務と保証は区別されますが、混同されるのも保証につきまとう問題です。一人に売るのは不安なので複数の買い手（債務者）にさせる「連帯債務」を保証と混同しがちです。ということで、ここでは連帯債務である①と、保証債務である②・③をあわせているのに注意してください。　①連帯債務：　一人の債権者に対し、複数の人が連帯して債務者になり保証する契約。債権者は誰に対しても債権全額を請求できる。債務者間では内部負担に応じた求償権がある(432-445)。　②連帯保証：　一人の債権者に対し、主たる債務者と保証人が連帯して保証する契約。債権者は先に保証人に請求でき、保証人には抗弁権がないが、求償権はある(454･458)。　③保証債務：　一人の債務者に対し、主たる債務者と保証人が保証する契約。複数の保証人がいる場合は人数で按分した額が保証額の上限となる。債権者はまず、主たる債務者に請求を行なってから催告を行わなければならない。保証人は抗弁権がある(446)。　（※）保証人は、主たる債務者や他の保証人に、負担額を超えた支払額を請求できます。これを「求償権」といいます(459･460･462･464･465)。連帯債務者間にもあり。
保証の抗弁権	保証債務において保証人が有する抗弁手段。連帯保証人にはない(454)。　①催告の抗弁：　債権者の請求があった場合に、「まず、主たる債務者に請求せよ」という抗弁(452) 　②検索の抗弁：　債権者から執行があった場合に、「まず、主たる債務者に執行せよ」という抗弁(453)
債権譲渡と債務引受	債権の譲渡と債務の引き受けは同一の権利・義務が移転します。　①債権譲渡：　債権の同一性を保ちながら契約により移転させること。譲渡禁止の特約がなく、確定日付のある通知をもって債務者に通知し、債務者が承諾する手続が必要(466･467･469･473)。　②債務引受：　民法上の規定なし。債務者の意思に反せず、債権者・債務者・債務引受人の合意が必要。
債権者代位と詐害行為	いずれも、条件を満たすときに債権者が債務者に代わって行う権利です。　①債権者代位：　債務者が怠慢して第三者に対して持つ債権を取り立てない場合、債権者が代わって第三者から債権を取立て、弁済に充てること(423)。　②詐害行為取消：　債務者がした不当な財産処分を裁判所に請求して取り消し、債権者が一般財産に取り戻す権利(424) 　　（※）弁済の対象になる債務者の財産を「責任財産」といいます。
債権の消滅	債権の消滅には、弁済・代物弁済・供託・相殺・更改・免除・混同があります。　ここではあらましをまとめるにとどめます。　①弁済：　債務者または第三者が契約した金銭を支払い、物を引き渡す（474）　②代物弁済：　債権者や弁済者の合意により、弁済者の財産を引き渡す（482）　③供託：　債権者が代金の受領を拒む場合に供託して債務を逃れる（494）　④相殺：　債権者と債務者が互いに持つ債権を対等額で消滅させる（505）　⑤更改：　新しい契約を成立させて、古い契約を消滅さてせて消滅させる（513）　⑥免除：　債権を無償で消滅させる（519）　⑦混同：　相反する債権と債務を同一人のものにさせ債務を消滅させる（520）
充当と代位	弁済の中に「充当」と「代位」が含まれます。充当と相殺の違いは条文で確かめてください。代位は債務者以外の者が弁済して権利を得るものです。　充当：　弁済をする者が充当を指定（488)する方法と法定充当(489)があります　代位：　弁済をして債権者に代わる方法には任意代位（499)と法定代位（500)があります
相殺（そうさい）	債務を減らす方法に、自分の債権と相手の債権が対等額の場合に利用されるのが相殺です。相殺が有効に行われるためには双方の債務が「相殺適状」にあることが前提で、互いの債権が履行期にあるなどの条件があリます。相殺で使われる用語が自働債権と受働債権です。　①自働債権：　相殺の意思表示をする側の債権(508) 　②受働債権：　相殺を受ける側の債権(509-511) 　互いに債権者ですから、立場を特定して使い分ける必要があります。
契約の成立	申し込んで、それを承諾すれば契約が成立し権利と義務が発生しますが、そこに至るには次のハードルがあります。　１申込み　　　①申込みの誘因と効果：　　②懸賞広告：　　③申込み期間：　　④申し込みの撤回の方法と時期　２承諾　　①意思表示　　②承諾期間の有無　　③クーリングオフ（特別法）
契約の区分（１）	契約の効果で債務に注目した分類です。　①双務契約：　当事者の双方が債務を負う契約。売買や賃貸借　②片務契約：　当事者の一方だけが債務を負う契約。贈与や無償寄託
契約の区分（２）	契約の対価が有料か無料かに注目した分類です。　①有償契約：　お金の支払いを伴う契約　②無償契約：　お金を払わない契約。
契約の区分（３）	契約の成立条件に着目した分類です。　①諾成契約：　意思表示の合致で足りる契約。賃貸借・売買・贈与　②要物契約：　意思表示の他に物の引渡しや給付を伴う契約。消費貸借・使用貸借
契約の区分（４）	契約が民法に定めがあるか否かの分類。　①典型（有名）契約：　１３種類あります。贈与・売買・交換・消費貸借・使用貸借・賃貸借・雇用・請負・委任・寄託・組合・終身定期金・和解　②非典型（無名）契約：　民法の定めがない契約。リース契約、クレジット契約など
同時履行の抗弁権	双務契約では物の引渡しと代金の支払いが伴います。この場合、相手が債務を履行しなければ自分の債務を履行しないことが認められています（５３３条）。　保証人の２つの抗弁権とともに忘れてはならない権利行使の方法です。
危険負担	契約して履行するまでの間には災害や火災などによる、当事者の責めに負わないリスクが生じます。そのリスクを誰が負うのかを「危険負担」といいます。民法には次の３つの危険負担が決められています。条文を確かめてください。　どのように負担するかは任意です。定めがないとき適用されます。　①債権者の危険負担（５３４条）　②停止条件付双務契約における危険負担（５３５条）　③債務者の危険負担（５３６条）
契約の解除	契約は合意によって成立しますが、解除原因が発生した場合には解除権者が一方的な意思表示により、契約を遡って解除することができます（540）。　なお、債務不履行は形態によって契約解除と選択したり、あわせて損害賠償を求めることができます。債務不履行もごらんください。　①合意解除：　当事者の合意によって解除すること　②法定解除：　債務不履行、売主の担保責任、事情変更による解除があります　③約定解除：　当事者の契約に従い解除すること。手付や買戻しによる解除
物の移転契約	物の移転を伴う契約は贈与（549）・交換（585）・売買（555）です。なじみやすい契約なので説明は省略します。
贈与契約	贈与は一方が無償で与えることを約束し、相手が受諾する契約です（549）。　①定期贈与：　毎月いくら贈与するという契約で、当事者の死亡で効力を失う（552）　②負担付贈与：　ある物の贈与にあたって負担が付いている契約(553）　③死因贈与：　贈与者の死亡で効力が生じる契約を生前に契約しておくこと（554）　　　④遺贈：　遺言によって贈与すること（964）　⑤寄付：　対価を伴わない贈与
頭金と手付	売買契約を行うときに内金・申込金・予約金・頭金・手付金などの名目で支払いを求められますが、法的には、売買契約が成立した後に最初に支払う金額が「頭金」で、売買代金の一部に充てられる金額が「手付金」（557）です。その他の金は仮払金や預け金にすぎません。　①証約手付：　売買が成立したことの証拠となるもの。本来の効果　②違約手付：　債務不履行が発生したときの違約金となるもの　③解約手付：　契約後に解約を解除することができるもの。売主は倍額
物の貸借契約	物の使用・収益を目的にした契約には消費貸借・使用貸借・賃貸借があります。　①消費貸借：　一定の金銭その他の物を受け取り、同種・同等・同量の物を返す契約。利息をとったり、とらなくても良い（587）。準消費貸借（588）　②使用貸借：　無償（ただ）で貸し借りして、使用・収益する契約（593）。　③賃貸借：　　　賃料を払って使用・収益する契約（601）。短期賃貸借（602）
役務提供型の契約	労働やサービスなどの役務を提供する契約には雇用、請負、委任、寄託があります。　①雇用契約：　労働力を提供し、報酬を支払う契約（623）　②請負契約：　仕事を完成させ、報酬を受け取る契約（632）　③委任：　　　受任者の知識、経験、才能を信頼して処理を任せる契約（643）　④寄託：　　　　他人に頼まれて物を保管する契約（657）
担保責任	契約に伴う損害賠償を「担保責任」といい、瑕疵（かし＝キズ）の責任が重いものを「瑕疵担保責任」として区別しています。不法行為の場合は「損害賠償責任」と呼ばれます。　①担保責任：　　贈与者、売主、貸主、相続人、遺贈義務者などが負う損害賠償　②瑕疵担保責任：　売買の売主（570）や請負人（634）が負う損害賠償。特別法があります
事務管理	契約外に好意で本人の代わりに仕事をすることです。管理人が管理に要した費用の請求と無責任な管理とならないための管理人の義務を決めています。１義務　①知りうるときは本人の意思に従う（697②）　②知り得ない時は本人の利益に適合する方法（697①）　③本人に事務管理の開始を報告（699） ④管理を継続（700）２権利　①管理者が要した費用の償還（702）
不当利得	契約外に行われる不当利得は、　①利益を受けたこと、　②他人に損失を与えたこと、　③利益を受けた因果関係、　④法律上の原因がないことで成立します。　その結果、不当利得の返還義務が生じますが、その範囲は善意・悪意によって異なります。悪意の受益者（704）は損害の全部を返還しますが、善意の受益者は利益の損する限度（現存利益）の返還にとどまります（703）。　なお、賭博などの負け金の返還請求を求めても元が不法なので返還されません。これを不法原因給付（７０８条）といいます。
不法行為	不法行為は他人に損害を与える違法行為です。民法は故意または過失に基づく「過失責任主義」をとっていますが、特別法で故意または過失がなくても責任を負う「結果責任主義」が定められています。１過失責任主義の損害賠償　（１）責任立証を被害者が行う　　①不法行為による損害賠償（７０９条）　　②財産以外の損害の賠償（７１０条）　　③近親者に対する損害の賠償（７１１条）　（２）責任立証を加害者が行う　　①責任無能力者の監督義務者等の責任（７１４条）　　②使用者の責任（７１５条）　　③注文者の責任（７１６条）　　④土地の工作物等の占有者及び所有者の責任（７１７条）　　⑤動物占有者等の責任（７１８条）　　⑥共同不法行為者の責任（７１９条）　　２結果責任主義の損害賠償　　製造物責任法の責任　　自動車賠償責任法の運行供用者責任　　失火責任法の重過失　　国家賠償法の公務員の不法行為