A FAREWELL TO KINGS

Released 09/1977


A FAREWELL TO KINGS
XANADU

CLOSER TO THE HEART
CINDERELLA MAN
MADRIGAL
CYGNUS X-1 BOOK ONE - THE VOYAGE

私的解説


フェアウェル トゥ キングス

この時代がはるか昔となり
後世の人々が歴史のページをめくる時
僕らが育んでしまった種ゆえに
彼らは僕らの時代を
悲しみとともに読むのだろうか
はるかに見える城から視線をそらし
僕らは目を伏せて
服従の道を選ぶ

 憎悪と恐怖、偽りに満ちた町
 しぼんでしまった心と
 悲惨な苦悩を宿した瞳
 王の装束に身を固めた腹黒い魔物が
 民衆を打ち倒し
 賢者をあざ笑う

偽善者たちは
聖なる真実の殿堂を誹謗する
年老いた貴族たちは
若者たちに厳しい言葉を浴びせかける
見つけられないだろうか
僕らを強くしてくれる心を
学べないだろうか
何が正しく、何が悪いのか感じるすべを

 恐怖と憎悪、偽りに満ちた街
 しぼんでしまった心と
 悲惨な苦悩を宿した瞳
 王の装束に身を固めた腹黒い魔物が
 民衆を打ち倒し
 賢者をあざ笑う

目を上げて
新しく始めることは、できないだろうか
見つけられないだろうか
もっと自らの心に忠実になれるよう
導いていくれる精神を

TOP



ザナドゥ

「聖なる川アルフを捜し求め
 氷の洞窟を歩き
 蜜のしずくと楽園のミルクを
 我の糧とするために‥‥」

不老不死の伝説が囁かれるのを聞いた
それは、最大の神秘
古代の本から、僕は手掛かりを得た
誰も知らない東の国の
凍りついた山の頂上に
僕はよじ登った
時間と人間だけが存在するところ
失われた場所を求めて──ザナドゥ

 ザナドゥ──
 忽必烈汗が建設を命じたという
 歓楽宮の只中に立ち
 命の木の実をもう一度味わうために
 ただ一人、不老不死の人間として
 聖なる川アルフを発見し
 氷の洞窟を歩こう
 ああ、僕は蜜のしずくをその糧とし
 楽園のミルクを飲もう

千年の時がやってきて、去っていった
でも時は、僕のそばを素通りしていく
空で星は動きを止め
永遠に変わらぬ風景の中、凍り付いている
世界の終わりが来るのを待ち焦がれながら
夜には、もううんざりだ
光を求めて祈っている
失われた牢獄──ザナドゥ

 ザナドゥ──
 忽必烈汗が建設を命じたという
 歓楽宮に閉じ込められ
 苦い勝利を味わっている
 正気をなくした、不老不死の人間として
 もう二度と戻ることはないだろう
 この氷の洞窟から脱出することもできない
 僕は蜜のしずくを食し
 楽園のミルクを飲んでしまったのだから

TOP



クローサー・トゥ・ザ・ハート

そして高い地位をつかむものは
新しい現実を形作る
創始者でなければならない
もっとその心に沿うものの

鍛冶屋や芸術家たちは
それを自らの芸術に反映させ
その想像性を鍛え上げていく
もっとその心に沿うような形で

哲学者も農夫たちも
それぞれの役割を自覚しなければならない
新しい精神の種をまくために
もっと、その心に忠実なものを

君は船長になれる
僕は海図を描こう
運命という名の海へ、漕ぎ出すんだ
君の心の赴くままに

TOP



シンデレラ・マン

マンドレイク生まれの慎み深い男が
街へ向かって裕福な旅をしていた
彼は手に入れたばかりの財産の使い道を
見つける必要があったのだ

彼が人間的だから
彼には善の心があるから
彼は道徳をわきまえているから
人々は彼のことを、イカレていると言った

誇大妄想
壮大な空想
そううつ病
(そんな風に呼ばれながら)
彼は雨の中を歩く

大きく見開かれた眼
無防備な心
汚れを知らぬ純真さ

シンデレラ・マン
君はできるだけのことをしているさ
でも彼らには、それがわかっちゃいない

シンデレラ・マン
君のやり方で、がんばるんだ
みんなが何をしようと、
君の夢まで奪えはしない

恋人に裏切られて、彼は目覚め
冷たい現実世界に直面した
飢えた人の目を覗きこんで
彼は自分に何ができるかを悟った

彼は自分の財産を投げ出して
飢えた人々を救おうとした
イカレているという男にしては
なんと思いきった行動だろう

ただ打ち負かせないというだけの理由で
人々は彼と争おうとした
雨の中を歩いていく
このそううつ病の男と

シンデレラ・マン
君はできるだけのことをしているさ
でも彼らには、それがわかっちゃいない

シンデレラ・マン
君のやり方で、がんばるんだ
みんなが何をしようと、
君の夢まで奪えはしない

TOP



マドリガル

竜があまりに強大になりすぎ
ペンでも剣でも退治できなくなると
僕は戦いに疲れ果て
行く手には嵐が待ち受けている
世界中が狂気にあふれ
安全な港がどこにも見つけられない時
僕は家へと向かう道を辿りたいと願う
君との一時を過ごすために

人生が不毛なものとなり
冬の空のように荒涼としてしまっても
一条の光線が暗闇を照らす
彼方の瞳の中に
秩序を求めても叶わず
真実を捜し求めても、叶わない
でも、いつかはきっと見つけられるだろう
君の愛が、そう信じさせてくれる

TOP



シグナスX−1 第一巻:航海


プロローグ

 白鳥座の星々の中に
 目に見えない、神秘の力が潜む
 シグナスX−1のブラックホール
 北十字の六つの星たちは
 失われた仲間の星を悼んでいる
 (その星は)最後の激しいきらめきを発し
 そしてもう、決して夜空を飾ることはない

 目には見えない──望遠鏡で見ても
 無限──星は死んだわけではない
 その進路を無謀にも横切ろうとするものはすべて
 恐るべき力に飲みこまれてしまう
 虚空を抜け、破壊されるのか?
 それとも、なにか他のものがあるのか?
 徹底的に──粉砕されるのか
 それとも宇宙のドアを抜けて──
 舞い上がっていくのか‥‥

 僕はてんびん座のちょうど東、
 そしてペガサス座の北西に進路を取る
 天の川を渡って
 デネブの光の中へ飛びこむんだ
 僕の船、ロシナンテ号は
 銀河を(順調に)渡っていく
 白鳥座の中心を目指して
 神秘の中に飛び込むんだ

 X線は、サイレンの歌
 僕の船はそう長くは抗えない
 致命的なゴールが近づいてくる
 ブラックホールに──
 引きこまれる

 くるくる回りながら、きりもみしながら
 落ちつづける
 終わりのない
 らせん状の海のように

 激しい音と力の中に
 僕の心は溺れていく
 あらゆる神経が
 バラバラにちぎれていく‥‥

(つづく)

TOP


あくまでも私的解説


A FAREWELL TO KINGS

   タイトルトラックでもあります。このタイトルは、ヘミングウェイの小説タイトル"A Farewell  to Arms"(武器よさらば)のもじりです。「王よさらば」と言う感じでしょうか。ここでは圧制を ふるう権力者と、恐れ、己の無力に打ちひしがれて支配される人民の姿が描かれています。
 冒頭のフレーズは、自分たちがそう言う状態でいたから、ますます後世はひどい時代になり、 (我々が育んでしまった種ゆえに) 後の人たちは、もうちょっとなんとかできなかったのかという 悲しみを込めて、この時代を振りかえるのだろうか、と言う意味にとれます。(ちょっと深読みし 過ぎかな?)

 それを避けるためにも、立ち上がることはできないだろうか? 強い心を育めないだろうか、と言う 表明で終わるわけですが、この最後のフレーズは、"Closer to the Heart"です。 これがすなわち、ズバリのタイトル曲へとつながるのではないか、と、Mystic Rhythms(以下MR)に 書いてありました。少なくとも、CTTH(Closer To The Heartの略です)は、何かの続編であること は間違いない。"And〜"で始まるから、ともありました。たしかに、この二編はつながっているのでは、 と思えます。このアルバムの仮タイトルが"Closer to the Heart"で、それから"A Farewell〜"に なったことからも、この二曲の関連付けを感じさせます。
 アルバムの解説にも、この曲が問題提起で、CTTHがその解法だと、書いてありました。



XANADU

 この曲がSamuel Taylor Coleridgeの詩 "Kubla Khan"を下敷きにして書かれていることは、 ご存知の方も多いと思います。平井正穂編、『イギリス名詩選』(岩波書店)の解説によりますと、 英語読みで「クブラ・カーン」、中国語で書くと「忽必烈汗」となるこの人は、日本ではフビライ・ ハーンという名で知られている人です。(歴史の教科書に出てきますよね) 13世紀に生きていた、 元の世祖です。(元は「元攻」で知られる、中国の王朝です。もとは蒙古地区で発祥しています。 これも歴史の教科書にあったような気がします。私にとっては、もう大昔なんですが‥‥)

 XanaduはELOやOlivia Newton Johnの曲、映画のイメージもあってか、『楽園』的な感覚なのです が、普通に訳すと、『上都(じょうと、と読みます)』と言う地名になるのだそうです。上都とは、 今の内蒙古自治区にある、古い都の名前で、フビライ・ハンは上都で即位し、のちに北京に遷都したら しいです。北京に遷都する前は、上都が首都だったのですから、その時、歓楽宮を建設させたのかも しれません。たぶんに、この歓楽宮は、芸術的な用途で使われたのではないでしょうか。 コールリッジの詩を読む限りでは、そのニュアンスを強く感じます。原詩のXanadu、もしくは、 Pleasure Domeが象徴するものは、「不滅の芸術」であるような気がします。

 この歓楽宮(もしくはXanadu)は、でもこの曲では、不老不死の都と化しています。それも、時間が 凍りついた暗黒の牢獄──怖いですね。結局、この曲最大の主題は、"Kubla Khan"の詩ではなく、 楽園を求めて最大限に努力したのに、勝ち得た勝利は苦いものだった。楽園の幻想は砕かれてしまった。 それまでの生活の方が、よっぽどましだった。現実は往々にして、こんなことがあるのだ──そんな パラドックスのような気がします。

 それにしても、この曲、イントロ部分がと〜ても長いのですが、『世界の果てにある桃源郷』の イメージを、その怪しさや寂しさも含めて、想起させてくれます。『CYGNUS X-1』もそうですが、 情景をインストで描写する、その表現力は本当に脱帽ものです。

Coleridge 「Kubla Khan」


CLOSER TO THE HEART

 さて、タイトル曲の回答とされるこの曲は、今やライヴには書かせない、会場中大合唱の、RUSHの アンセムとなっています。彼らの主張のエッセンスがこの曲のこめられているとも言われます。 それゆえに──難しい! なかなか納得のいく訳ができません。とりあえずアップしましたが、私の 感覚では、70点くらいの出来です。(いや、60点かな?)
 最高に迷ったのが、ずばりタイトルフレーズの訳なのですが、直訳すると、「心にもっと近づいて」、 もうちょっと砕くと、「心にもっと忠実に」さらに意訳すると、「もっと、心の命ずるままに、自由に」 となるわけですが、さすがにここまで行くと意訳しすぎかな、という感もなきにしもあらずです。

 ところで、『心』とはなんでしょう? "Heart"には、ずばり「心」の他に、「本質」とか「核心」 さらには、「寛大さ」や「愛情」までのニュアンスが含まれます。それを全部ひっくるめての「心」 なのです。さらにひっかかるのは、"Heart"が、大文字で始まっている点です。タイトルトラックの ラストフレーズもそうだったのですが、大文字で始まる単語は、固有名詞となります。で、英語では 普通名詞が大文字で始まって固有名詞化するのは、キリスト教関係の単語が多い。たとえば、"shepherd"は 羊飼いですが、"Shepherd"となると、神の羊飼い、つまりイエス・キリストの意味になりますし、 (ただし、theがつく) "father"は「お父さん」ですが、"Father"は、「神」もしくは「神父さん」 です。それで言うと、この"Heart"も、「神のみ心」となるのかも知れない。でも、RUSHには、あまり その手の宗教心って、感じられなさそうだし‥‥それが、アンセムとも言える曲で、 いきなり「神の御心に沿うように」とやってしまうのは、いかにもそぐわない。となると、何のための大文字なのだろう‥‥

 たぶん、これがわかれば、もう少し納得のいく訳が出来ると思います。みなさんは、どう思われますか?



CINDERELLA MAN

 この曲はGeddyが「Mr. Deeds Goes To Town」という映画を見て、それをもとに作ったそうです。 私はその映画を見ていないのですが、おおむね映画のストーリーと曲のストーリーは合致していると、 RUSH FAQにはありました。(ちなみにこの映画、アダム・サンドラーとウィノナ・ライダーの主演で、2002年に リメイク予定だそうです。)

 タイトルの「シンデレラ」は、いわゆる「シンデレラ・ボーイ」とか「シンデレラ物語」的な、 普通の人がどちらかというと実力というより運の助けを借りて、一躍大金持ちになったり、スターに なったりする、そんな意味に感じますが、この場合の主人公も財産を相続したかなにかで、簡単に富を 手に入れたので、シンデレラ・マンなのでしょう。実際、映画の中で主人公につけられたニックネームが、シンデレラ・マン なのだそうです

 この曲が切ないのは、主人公は労せずして裕福にはなったけれど、とても純真で善人なのに、 いや、それゆえに、まわりに受け入れられない。一生懸命にやっているのに、認めてもらえない。
「自分のやり方でがんばれ。結局どうやったって、君の夢まで盗めはしないのだから」
その最後のフレーズが、妙に切なさを感じさせます。個人的には、「そのうちに、きっと誰かわかって くれる人が現れるといいね」と、声をかけたくなってしまいます。



MADRIGAL

 タイトルは「叙情短詩」と言う意味で、「対位法によるアカペラコーラス」と言う意味もあるそうで す。どちらかと言うと、吟遊詩人が歌う小唄のようなイメージです。
 この曲は、ラブソングですね。それも、ずいぶん知的な。RUSH(というか、Neil)がラヴソングを 書くと、こんな高尚になるのか、と妙に感心した覚えがあります。
 シンセのメロディーがタイトルのイメージ通り、吟遊詩人の小唄的な雰囲気を出していて、良い感じ だと、私的には思っています。



CYGNUS X−1 BOOK T:VOYAGE

 結果的に二枚のアルバムに渡って展開されることになるシグナス組曲の、第一巻です。ここでは、 自分の宇宙船ロシナンテ号をかって、白鳥座にあるブラックホールを目指す、宇宙飛行士の話が展開 されています。ということは、これは当然SFですね。自家用宇宙飛行船で、白鳥座まで行ける時代です から。乗組員は、主人公一人だけのようです。一人で愛機もろともブラックホールに飛びこむところ で、曲は終わっています。この後に続くのが"HEMISHPHERES"と、いうわけです。

 ちなみに、ロシナンテというのはセルバンテス作の「ドン・キホーテ」に出てくる主人公の愛馬の 名前で、またスタインベッグのモーターホームの名前でもあるわけですが、(最近では、電波少年の ロバを思い出す‥‥) この場合、風車に突っ込んでいくドン・キホーテのイメージと、ブラック ホールに突っ込んでいくこの曲の主人公のイメージが、なんとなく重なったりします。 好奇心と探求心が、ここまで思いきった行動をとらせるのか、と言う部分が、なんとなくドンキホーテ 的だったりして。それだから、ロシナンテ号なのかなあ、なんて、個人的には思ったりしています。

 白鳥座X−1と言うのは、発見されたブラックホール第一号で、X−1のXとは、X線のXです。 (レントゲン線とも言いますが。)強いX線を発していたために、天文学者の注意を引き、観察・研究の結果、 どうやらブラックホールらしいと認定されたものです。入ったら光さえ脱出できないブラックホール なのに、なぜX線が出ていたかというと、このブラックホールは普通の星と連星になっていて、その 相棒の星の一部がブラックホールの重力によって引っ張られ、その中に落ちる時にX線を発するの だそうです。これがなかったら、もともと目には見えないブラックホールですから、観察はされな かったでしょう。
 「X線が彼女のサイレンの歌」と言うフレーズの、X線はこうして出るのです。彼女とは、ブラック ホールの擬人化ですね。(宇宙や自然は、女性形で表されることが多い)サイレンはセイレーンと 読んだほうがピンと来るかもしれません。ローレライと同じで、不思議な歌を歌って、船乗りたちを 遭難させるという言い伝えの海の精です。ただ、セイレーンはローレライと違って、半分は絶世の 美女で、半分は鳥の姿だったそうですが。

 ブラックホールに落ちたら、もう二度と出ることは出来ないのだから、まさに「セイレーンの歌」 です。そしてこの後、主人公はどうなるのか──Neilはここで、思わず「続く」と記してしまい、 後で思いっきり悩む羽目になるのですが。

☆ ブラックホールの話


アルバムについて

 最初のライブアルバムで初期を締めくくり、次なる段階を目指した最初の作品です。 いまだにマニアの間では高い人気を誇る『第二期RUSH』のはじまりです。初期はへヴィ・メタル的 な音像でしたが、二期はかなりプログレ色が強くなっていると、一般には言われています。複雑な曲 展開、変拍子、哲学的な歌詞、それに長〜いインスト部と、プログレ的要素はたしかにてんこもりです。 でもユーロ系の、いわゆるプログレ本家(YESとかKING CRIMSONのような)とは、まったく毛色の違う音 ですね。そう言う生粋のプログレファンの方たちからはあまり認知されていないというのも、理由は わかる気がします。

 本作はイギリスのロックフィールドスタジオで制作された、彼らにとって初めての海外録音作品です。 ウェールズの森に近い、自然の静けさの中でのレコーディングは、本作のムードにも微妙に反映されて いると思います。スタジオの外で生録された小鳥の声がイントロに使われたりもしていますが、 全体に穏やかな、しかしその中に激しさを秘めたサウンドです。




Page Top    BACK    NEXT    Rush Top