2112

Released 03/1976


2112

A PASSAGE TO BANGKOK
THE TWILIGHT ZONE
LESSONS
TEARS
SOMETHING FOR NOTHING



2112

 僕は横になったまま、荒涼たるメガドンの風景を見つめていた。街並みと空が一つに溶け合い、連綿と続く 灰色の海のように広がっている。双子の月が、か細い光を放ちながら、鉛色の空を横切っていく。
 僕は、毎日の生活に満足していた。昼間は機械操作に没頭し、夜になるとテンプルヴィジョン(寺院テレビ)を見たり、 テンプルペーパー(寺院新聞)を読んだりする、そんな生活が。
 友人のジョンは、外惑星の人工ドームの中で暮らすより、ここにいるほうがずっと素晴らしいと、いつも言っていた。 2062年に戦争が終わり、生き残った惑星が集まって、レッドスター太陽系連合を作ってからは、ずっと平和が続いていた。 運がなかった、つまり戦争に破れた惑星は、地球をまわる新しい月になりはてていた。
 僕は言われたことを、微塵の疑いも持たずに、ずっと信じてきた。ここでの暮らしに、満足していた。自分が幸せだと思っていた。 そのあと、僕は「それ」を見つけた──そして、すべてがまったく変わってしまったのだった。

2112年 作者不明



T 第一章 序曲

 そして柔和なものたちが、大地(地球)を受け継ぐであろう。


U 第二章 シリンクスの寺院

「あらゆる連邦都市の中心部にそびえたつ、寺院の巨大な灰色の壁。(それを見るたびに)僕はいつも、畏敬の念を 感じたものだった。どんな小さなことも、すべてここで決められたいたからだ! 本も、音楽も、仕事も、そして遊ぶことも、 すべてが司祭様たちの、情け深いお慈悲によって、導かれていた」

我々は、あらゆることの面倒を見ている
君たちが読む言葉
君たちが歌う歌
君たちの目を楽しませる絵画も
一人はみなのために、みなは一人のために
ともに働こう
平等な仲間として
どうして、なぜ、などと思い悩む必要など、まったくないのだ

我らはシリンクス寺院に勤める司祭
我らの偉大なコンピュータが
広大な広間に並ぶ
我らはシリンクス寺院に勤める司祭
人生のあらゆるものが
この、我らの壁の中にあるのだ

我らが築き上げた世界を、見まわしてみるがよい
平等
それが我らのモットー
さあ、来てこの兄弟同盟に加わるがよい
なんと素晴らしき、満ち足りた世界よ
我らの旗を広げよう
赤き星を、誇りとともに、高く手に掲げるのだ


V 第三章 発見

「僕には、お気に入りの滝がある。その裏に、洞窟の下に隠れた、小さな空間があった。そこで、僕は「それ」を見つけた。 長い年月の間に積もった埃を払うと、畏怖にも似た思いを感じながら、そっと手にとってみた。それがなんなのか、まったく想像も つかなかった。でも、とても美しいと感じた」
「僕はその針金(弦)の上に指を置き、そしてそれぞれ(の弦)を調律すれば、違う音程に鳴ることを知った。 もう一方の手で針金(弦)をはじくと、僕にとって初めてのハーモニーが生まれた。そしてそれは、すぐに僕自身が生み出した音楽に なった。寺院の音楽とは、なんて違っているんだろう! 司祭様たちに、このことを早く伝えなければ」


この奇妙な装置は、いったいなんだろう
触れると、音が出てくる
振動する針金がついていて、それが音楽を生み出す
僕が見つけたものは、いったいなんなのだろう?

わかるかい、それが悲しい心のように歌うのを
そして苦痛のあまり、歓びの悲鳴を上げるのを
和音は山のように高くそびえ立ち
音符は雨のように優しく降りそそぐ

この新しい驚きを、一刻も早くみなと分かちあおう
みんな、きっとわかってくれる
みなが、自分自身の音楽を生み出せるんだ
司祭様はきっと、今夜、僕の名を褒め称えてくれる


W 第四章 披露

「僕が演奏を終えると、あたりは恐ろしいまでの静寂に包まれた。僕は周りを取り巻いた陰鬱な、表情のない(司祭たちの) 顔を、目を上げて見まわした。ブラウン神父がおもむろに立ちあがり、その重々しい声が寺院の静かな広間に響き渡った。」
「僕が予期していたような、感謝や歓びの言葉ではなかった。それは、沈着な拒絶の言葉だった。称賛ではなく、不機嫌な 退去命令だった。ブラウン神父が僕の大切な楽器を足で踏みにじり、粉々に壊していく光景を、僕は衝撃と恐怖に凍り付きながら、 ただじっと見つめていた。」


このようにあなた方の前に出ることは
異例のことだとは、わかっています。
でも、僕は古代の奇蹟を見つけたのです。
あなた方も、ぜひお知りになった方がいいと思ったのです。
僕の音楽をお聞きください。
どんなことができるのかを、どうか聞いてください。
ここには、生命と同じくらい力強い、何かがあります。
それはきっと、わかっていただけるでしょう。

司祭たち:
「そうとも、我らは知っている。
 それは、新しいものでも何でもない。
 ただ、時間の無駄になるだけだ。
 我らに古代の様式など、まったく必要はないのだ。
 我らの世界は、素晴らしくやっているのだから。
 ただのおもちゃにすぎぬ。
 そんなものにうつつを抜かしたことも
 古代人たちが破滅した一因なのだ。
 そんな愚かな気まぐれなど、忘れるがよい。
 それは我らの計画に、ふさわしいものではないのだ」

恐れながら、あなたのおっしゃることは信じられません。
本当のことだとは、どうしても思えないのです。
僕たちの世界でも、この素晴らしさを取り入れても、良いはずです。
どんなことができるか、考えてもみてください。

司祭たち:
「これ以上、我らを煩わすでない。
 我らには、やるべき仕事があるのだ。
 人並みに生きることだけを、考えていればよい。
 そんなものが、お前に何の役に立つというのだ?」


X 第五章 神託:夢

「たぶん、夢なのだろう。でも、今になっても、すべてが鮮明に感じられる。今でも、階段の頂上で手招きする神の使いの姿を、 はっきりと見ることができる」
「あの彫刻に彩られた街の、信じられないような美しさが、今も見える。そこで生き、働いている人々が見せてくれた、純粋な人間の 精神も。僕はまったく違った生活様式を見た時、驚きと理解の念に、すっかり圧倒されたのだった。それは遠い昔に、 連邦政府によって潰された、生活様式だった。そのすべてが失われた今、人生はなんと意味のないものになってしまったのだろう。 そう思わずにはいられない」


静まりかえった通りを抜け、僕はよろめくように家に帰りついた。
そして、落ちつかない眠りに落ちていった。
夜の彼方の王国に、逃げ出そう。
夢よ──少しでも、希望の光を与えてくれないだろうか。

僕は螺旋階段のてっぺんに立っていた。
神の使いが、そこに、僕の前に立っていた。
彼は僕を導いていった。何光年もの彼方へと。
天の夜と、銀河の日々を超えて

才能ある人々の手によって生み出された作品が
この奇妙な、不思議な世界を優美に彩っているのを見た
人の手によって何かが生み出されていくさまを
熱望する心を抱き、目を見開いて、僕は見つめていた。

彼らは過去の時代に、僕らの惑星から離れていった。
先人たちは今もなお、学び続け、発展している。
彼らの力は、強い目標のもと、強さを増していく
彼らにふさわしい場所──かつての故郷を求めて

故郷に帰ろう、寺院を打ち倒すために
故郷に帰ろう、変革のために──


Y 第六章 独白

「この洞窟に閉じこもってから、もう何日が過ぎただろうか。ここは絶望しきった僕にとって、最後の避難場所だ。 今では流れ落ちる滝の音が、僕を慰めてくれる、唯一の音楽だ。僕はもう、連邦の統制のもとでは、生きてはいかれない。 でも、どこにも行く場所もない。死が僕をあの夢の世界にいざなってくれること、そこでついに心の平安を得ること── それが、僕の最後の望みだ。」

眼には、まだ眠りが宿り
夢は、まだ頭の中に残っている
僕はため息をつき、悲しげに微笑んで、
しばらくベッドに横たわる

本当に現実になったら、どんなに良いだろう
あの夢のように、はかなく消えたりしないで
僕が見たあの世界で生きていたら
僕の人生はどんな風だったのだろうと、考えてしまう

こんな冷たく空しい人生を
これ以上続けていくなんて、とてもできない
僕の心は絶望の淵に深く沈み
僕の生命の血液(活力)は、こぼれ落ちていく


Z 偉大なる終楽章(フィナーレ)

「注意せよ、太陽系連合の諸惑星たちよ──我らは支配を当然のことと思ってきた」





パッセージ・トゥ・バンコク

最初の滞在地はボゴタ
コロンビア平原の状態を調べるために
現地の人々は微笑み、先へと進んでいく
彼らの収穫物のサンプルとともに
ジャマイカン・パイプの甘い夢
黄金のアカプルコの夜
それからモロッコへ、さらに東へと
朝日の中を飛んでいく

僕らはバンコクへと向かう列車の中。
タイ国鉄道に乗りこんでいる。
途中でいろいろな所に止まったけれど、
一番良いところにしか、滞在はしないのさ

レバノンでは、煙が渦巻いている
僕らは夜遅くまで仕事に精を出している
アフガニスタンの芳香
それが長い一日の苦労に対する報酬
カトマンドゥに到着だ
煙が空に輪を描いて、立ち昇り
ネパールの夜の香りが満ちる
急行列車に乗れば、君もそこに行けるのさ





トワイライト・ゾーン

愛想の良い顔つきをした男が君に歩みより、挨拶をする
微笑みながら、お会いできて大変うれしいですと
その帽子の下に、奇妙なものが潜んでいる
帽子を脱ぐと、彼には眼が三つあるんだ
真実は偽りになり、論理は失われる
今、四次元が横切っていった

君はトワイライト・ゾーンに入ってしまった
この世界の彼方にあるのは、奇妙なものが息づく領域
鍵を使って、その扉を開いてごらん
君の運命に何が待ち構えているのか、見てみるといい
おいで、君の夢が生み出した世界を探検しに
この想像の世界に、入っておいで

目覚めると、誰もいない町に一人、迷子になっている
どうして周りに誰もいないのだろうと、不思議に思いながら
見上げると、巨人の男の子がいる
君はその子の、新しいおもちゃになってしまったんだ
逃げることは出来ない、隠れる場所もない
ここは時間と場所がぶつかり合った世界なのだから





レッスンズ

甘美な思い出、
それは一瞬で飛び去っていき
僕に思い出させ、
どうしてそうなったのか理解させてくれる
わかっている、
僕の目指すゴールは、思っている以上のものだということを
でも、僕はそこに辿りつくだろう
今まで教わってきたことを、誰かに教える頃には

前、君に話したことがあったね
でも君はその時、僕たちの話を聞いてくれなかった
だから、君は今でもなぜと問いかけつづける
でも、もう二度と君に教えるつもりはないよ

甘美な思い出
こんなものだとは、思ってもみなかった
思い出すよ
ぎりぎりのところで、僕は逃げるのを思いとどまったことを
わかっている
これが僕の行くべき道だって言うことは
きみはそこにいるだろう
僕が知っていることを、君がわかった時には





ティアーズ

いくつもの季節を
そして過ぎ行く日々をずっと
僕は考え続けていた
なぜこんな風に感じるのか
その理由をずっと
そう、こんなにも長い間

君の瞳をのぞき込んだ時
僕は感情(の波)に飲み込まれてしまった
君のその情動と
君が泣いていることに気づいたから
そう、僕のために
やっと、わかった

ただ泣き続けている
その瞳からこぼれ落ちる涙ほど
僕の心を震わせるものはないだろう
そして(君が泣く)その理由を知って
思わず目からこぼれおちた涙は
同じように君の心を震わせてくれるだろうか

人生最大の疑問
君の頬を伝う涙
僕はその答えを味わい
そして僕の体は力を失う
君のために
それが真実





サムシング・フォー・ナッシング

雲をすっかり吹き飛ばしてくれるような
変革の風が吹くのを待ち望み
君の行く手にその黄金をばら撒いてくれるような
虹の果て(ふもと)を見つけることを待ち望んで
あらゆるやり方を試し
日々は過ぎていく

誰かが電話をかけてきて
君の世界をすっかり変えてしまうことを待ち望み
君が見つけた質問の答えを捜し求めて
開いたドアを、捜し求めている

何もなしに(ただで)、何かを得ることは出来ない
自由は、無償では得られない
どんな夢を見ていようと
君の目にまだ眠りが宿っている間は
賢くなどなれはしない

君のものにできるのは、君自身の王国
君がなすことは、君自身の栄光
君が愛するものは、君自身の力(権力)
君が生きているのは、君自身の物語
君の頭の中に、答えは存在している
だから、その導きにしたがってみよう
君の心をその錨にして
その心の鼓動を、君自身の歌にして




あくまでも私的解説


2112

 西暦2112年の世界を舞台に展開するSFで、アイン・ランドの「Anthem」に触発されて書いたと言う説と、書いていたら偶然似て しまったという説があります。RUSH FAQによると、後者だとNeil自身が言っているので、そちらの方が信憑性は高いかもしれません。 個人的な感想では、ジョージ・オーウェルの「1984」(全体主義で、個人の自由がまったく許されない社会に生きている主人公がその 閉塞性に悩み、自分自身であろうとするが、政府に発見されて拷問の末、洗脳されてしまうという、救いのないストーリーです)にも 通じる世界を、感じてしまいます。
 この曲には歌詞のほかに、いわゆる説明部分がついていますので、ストーリーの解説はあまり必要はないかとも思われます。 アルバムの裏ジャケにプロローグのようなものが書いてありますが、(CDだと、読むのに苦労するけれど)それもいちおう 訳してみました。("OVERTURE"の前、冒頭部分がそうです)

「そして柔和なものたちが、地球を受け継ぐであろう」
「OVERTURE」唯一の歌詞である、このフレーズは、聖書の引用ですが、ここでは「柔和=従順」という意味に使われているようです。 「従順なものたちだけが、地球に住む資格がある」と。
 この社会は非常に中央集権的な、社会主義という感じでしょうか。昔の共産主義国家のようでもありますが、違うのはここでは 中央権力が「宗教」の衣をまとっていることです。圧制的でありながら、「宗教」や「慈悲の心」というカモフラージュゆえ、人々は 「押し付けられている」と言う感覚を持たないわけですね。そしてこの主人公「私」もそうでした。
 それにしてもこの主人公、ギターの何たるかを知らないのに上達が早すぎるとか、そんな昔の遺物ではとっくにぼろぼろで チューニングもまともに出来ないんじゃないかとか、そう言う現実的な疑問を思わず感じてしまいますが、潜在的に音楽の天才、 ギターの神になり得る才能を持った人だったのだのかもしれませんね、ということで。

 ちなみに、個人的な感想を言わせてもらうと、「2112」の中では、私は「ORACLE〜」が一番好きなのです。(邪道?) でも、 このパートがあってこそ希望が続くと言う意義もありそうなのに、ライヴでこのパートだけいつもオミットされて、T4Eツアーで やっと陽の目を見たのでした。なぜでしょうね。「PRESENTATION」から「SOLILOQUY」へいきなり続くと、なんだか絶望しきって終わり、 になってしまうような気もして。「GRAND FINALE」の最後の言葉が、いくぶん救っていますが。
 この「GRAND FINALE」のえんえん同じように続くリフは、まるで何かに抵抗し、もがき出ようとする苦闘のように聞こえます。 そして最後に、重々しい声が響き渡り、ストーリーは終わります。

 でもこのあと、どうなるのでしょうか。他の惑星に住む「古代人」たちが地球を以前の姿に 返そうと、再び戦争をしかけるのでしょうか。それは成功するでしょうか。そして我らが主人公は、滝の裏の洞窟で干からびるかわりに この最後の啓示を得、夢に見た古代人の星を目指すのでしょうか。無事、太陽系外惑星に脱出することは、可能でしょうか? 彼らの 世界で幸せに暮らし、もしかしたら彼らの戦いに加わって、打倒「シリンクス寺院」を目指すのでしょうか。

 エンディングは、聞き手の数だけ、存在するのかもしれません。

★ R30DVDのDisk2インタビュー、その他で、Neilが「この曲はその当時、僕らが感じていた怒りを込めたものだ」というようなことを言っていました。前作、「Caress Of Steel」が意欲作だったにもかかわらず、商業的には認められずに失敗。「もっと売れる音楽を」というプレッシャーをレコード会社や、マネージメントからさえもかけられた中、「僕らの音楽をなぜわかってくれない?!」というフラストレーションが、この組曲の原動力となったと。
「Listen to my music..」と訴える主人公は、実はRush自身の投影でもあったわけです。

 また、2112のインスピレーションの元となったとされる、Ayn RandのAnthem、snowdogさんのブログ経由で読むことが出来ましたが、読んでみると、たしかに一部シナリオはダブるようです。特に主人公が自らの発見したものに感激し、きっとためになると思って権威者に披露し、拒絶されるという展開はよく似ています。当時のNeilが、バンドのおかれた現状に対してもどかしさや憤りを感じた時、無意識にAnthemの主人公がオーバーラップしたのかもしれません。 (2006年3月10日、追記。)



A PASSAGE TO BANGKOK

 これは彼らの旅行記、まだ見ぬ東方への旅を、イマジネーションの世界で組みたてたように聞こえます。でも、「Mystic Rhythms」に よると、これはドラッグソングだとか。「VISIONS」には、「大麻の栽培地を訪れる架空の旅」だと書かれていました。ここに出てくる 地名は、有名な大麻の栽培地ばかりなのだとすると、詩に出てくる「収穫物」(yeildには、収穫物という意味もあります。ここではsampleと連結する言葉だから、 この意味でとってみました)って? 
 RUSHとドラッグって、あまり縁のなさそうな組み合わせですが、(実際ファンサイト、“COUNTERPARTS“の公開質問で、「RUSHは アルコールやドラッグには縁がないのですか?」と聞かれ、「僕らはノーマル過ぎるから」とGeddyが答えていました) でもこの当時は、 若気の至りで、そういうこともなかったとも、言えないのかも──それとも、それは本当に単なる深読みし過ぎで、Neilはこの頃から 異郷への憧れをもっていたんだと、自然に解釈した方が良いのかもしれませんが。

 まったくの余談ですが、劇的な「2112」の余韻が覚めやらぬ中、中国ふうの「チャラララララ、チャチャチャ〜」と言う フレーズ(うーん、言葉で書くと変)が出てくると、私は思わず気が抜けます。アナログ盤なら、A面が終わるとレコードをひっくり返す 「間」があり、その間に気持ちの切り替えもできるのですが、CDだとどうも──最初からCD時代にこのアルバムが製作されていたら、 曲順は変わったのだろうか──ふと、そう思いました。



THE TWILIGHT ZONE


 「トワイライトゾーン」とは、現実と空想の境目、現実の淵に突如現れる異世界、と言う意味を持ちます。同名のテレビシリーズが ありまして、やはりそう言う現実離れした世界を描き出していました。詩に出てくる「三つ目男」と「巨人の子供」は、実際その シリーズにあったと、FAQに書いてありました。(ただ、巨人の子供は女の子で、主人公は巨大なドールハウスの中にいたらしい)  私はテレビシリーズは見たことがないのですが、映画は見ました。たしかに奇妙な世界 です。「世にも奇妙な物語」は、「トワイライトゾーン」の日本語版と言う感じです。
 この曲の一部がマンガに引用されたらしいです。詳細はRUSH FAQにあります。



LESSONS

 この曲はAlexが珍しく歌詞を書いています。(ソロ以外では、「Making Memories」と、これだけでは? Alex本人は「Victor」で作詞をしたのは、「Making Memories」以来 なんて言っていましたが、この曲は?)
 感覚的に言葉を積んでいてるような印象で、三人三様の作詞の個性が見えるようで、興味深かったりします。



TEARS

 この曲は、Geddyの作詞です。「VISIONS」によれば、ファーストアルバムではほとんど彼が詩を書いていたそうですが。Neilの世界とは また違うタッチです。それにしてもこの詩、ウェットですね。彼の作詞の中では一、二を争う、情動的な歌詞だと思います。一緒に 泣いて、どうするの!って。

 DREAM THEATERが「意表をつく形で」カバーしたことで有名かもしれません。それにしてもDTはトリビュート盤ではいろいろとやっていますが、 それ以外では「DIFFERENT STRINGS」とかこの曲にとか、どうしてGeddy作詞のバラードばっかり、カバーするのでしょう。単なる偶然?



SOMETHING FOR NOTHING


 この曲の主張は、「自分の可能性を信じて、自ら行動を起こす」と言う、セカンドからT4Eまで一貫した、RUSH、もしくはNEILの 思想の根本なのではないかと思います。

 細かい部分を少し補足しますと、「waiting for the rainbow's end 〜」の部分は、「虹の根元には黄金が埋まっている」と 言う欧米の言い伝え(もしくは伝承)に基づいています。その黄金を、自分の行く手にばらまいて欲しいと。(まあ、たしかに虫のいい 話かも。かく言う私は、いつもそれを期待して宝くじなど、買っていますが)
 「開いたドアを捜し求める」と言うのは、聖書にある、「叩けよ、さらば開かれん」という言葉の反語とも言えます。自分から アクションを起こさなければ、門は開かない。あらかじめ開いているドアはない、と言う感じですね。
 最後のフレーズ "What's your own is 〜"に出てくる"kingdom" "glory" "power"は、またまた「主の祈り」(キリスト教徒が 毎朝毎晩捧げる、お題目のような祈りです)からの引用です。本来は「神の王国」「神の栄光」「神の力」なのですが、この曲では、 「君の王国」「君の栄光」「君の力」となっています。神頼みではく、自分のためにやりなさい、と言うことでしょう。
「主の祈り」
 この曲も個人的には、迷いの多かった若い頃の一時期、非常に励まされました。


アルバムについて

 「ロック史上に残る名盤」とか、「RUSHを代表する一大傑作」との呼び声も高い作品です。リアルタイムではないですが、個人的にも このアルバムからRUSHを知っただけに、思い入れもあります。

 それにしても、前作が商業的に失敗し、レコード会社から「もっと売れるアルバムを作れ」「BAD COMPANYみたいにしろ」(RUSHが BAD COMPANY風に? 想像できない!)などのプレッシャーをかけられ、最悪「解散」すら考えたほどの状況に追いこまれたというのに、 そこからこれだけの名盤を作ってしまえるRUSHってすごい!と、感嘆してしまいます。それも、まだ22、3才という若さで。いや、若さ ゆえの、怖いもの知らずなのかもしれませんが。
「たとえ成功できなくても、これでバンドが終わったとしても、自分たちのやりたいことをやり、信じた道を行きたい」と言う気概が、 これだけの名作を生んだのでしょうか。

 「SOMETHING FOR NOTHING」のように、自分を信じて行動を起こす、その理念を実践したかのようです。体制の中での個人の葛藤を 描いた「2112」で始まり、自己信頼の具現化とも言える「SOMETHING〜」で終わるのは、「個人の尊重」と言うテーマを、アルバム全体で 主張しているような構成です。




Page Top    BACK    NEXT    Rush Top