2112
僕は横になったまま、荒涼たるメガドンの風景を見つめていた。街並みと空が一つに溶け合い、連綿と続く
灰色の海のように広がっている。双子の月が、か細い光を放ちながら、鉛色の空を横切っていく。
僕は、毎日の生活に満足していた。昼間は機械操作に没頭し、夜になるとテンプルヴィジョン(寺院テレビ)を見たり、
テンプルペーパー(寺院新聞)を読んだりする、そんな生活が。
友人のジョンは、外惑星の人工ドームの中で暮らすより、ここにいるほうがずっと素晴らしいと、いつも言っていた。
2062年に戦争が終わり、生き残った惑星が集まって、レッドスター太陽系連合を作ってからは、ずっと平和が続いていた。
運がなかった、つまり戦争に破れた惑星は、地球をまわる新しい月になりはてていた。
僕は言われたことを、微塵の疑いも持たずに、ずっと信じてきた。ここでの暮らしに、満足していた。自分が幸せだと思っていた。
そのあと、僕は「それ」を見つけた──そして、すべてがまったく変わってしまったのだった。
2112年 作者不明
T 第一章 序曲
そして柔和なものたちが、大地(地球)を受け継ぐであろう。
U 第二章 シリンクスの寺院
「あらゆる連邦都市の中心部にそびえたつ、寺院の巨大な灰色の壁。(それを見るたびに)僕はいつも、畏敬の念を
感じたものだった。どんな小さなことも、すべてここで決められたいたからだ! 本も、音楽も、仕事も、そして遊ぶことも、
すべてが司祭様たちの、情け深いお慈悲によって、導かれていた」
我々は、あらゆることの面倒を見ている
君たちが読む言葉
君たちが歌う歌
君たちの目を楽しませる絵画も
一人はみなのために、みなは一人のために
ともに働こう
平等な仲間として
どうして、なぜ、などと思い悩む必要など、まったくないのだ
我らはシリンクス寺院に勤める司祭
我らの偉大なコンピュータが
広大な広間に並ぶ
我らはシリンクス寺院に勤める司祭
人生のあらゆるものが
この、我らの壁の中にあるのだ
我らが築き上げた世界を、見まわしてみるがよい
平等
それが我らのモットー
さあ、来てこの兄弟同盟に加わるがよい
なんと素晴らしき、満ち足りた世界よ
我らの旗を広げよう
赤き星を、誇りとともに、高く手に掲げるのだ
V 第三章 発見
「僕には、お気に入りの滝がある。その裏に、洞窟の下に隠れた、小さな空間があった。そこで、僕は「それ」を見つけた。
長い年月の間に積もった埃を払うと、畏怖にも似た思いを感じながら、そっと手にとってみた。それがなんなのか、まったく想像も
つかなかった。でも、とても美しいと感じた」
「僕はその針金(弦)の上に指を置き、そしてそれぞれ(の弦)を調律すれば、違う音程に鳴ることを知った。
もう一方の手で針金(弦)をはじくと、僕にとって初めてのハーモニーが生まれた。そしてそれは、すぐに僕自身が生み出した音楽に
なった。寺院の音楽とは、なんて違っているんだろう! 司祭様たちに、このことを早く伝えなければ」
この奇妙な装置は、いったいなんだろう
触れると、音が出てくる
振動する針金がついていて、それが音楽を生み出す
僕が見つけたものは、いったいなんなのだろう?
わかるかい、それが悲しい心のように歌うのを
そして苦痛のあまり、歓びの悲鳴を上げるのを
和音は山のように高くそびえ立ち
音符は雨のように優しく降りそそぐ
この新しい驚きを、一刻も早くみなと分かちあおう
みんな、きっとわかってくれる
みなが、自分自身の音楽を生み出せるんだ
司祭様はきっと、今夜、僕の名を褒め称えてくれる
W 第四章 披露
「僕が演奏を終えると、あたりは恐ろしいまでの静寂に包まれた。僕は周りを取り巻いた陰鬱な、表情のない(司祭たちの)
顔を、目を上げて見まわした。ブラウン神父がおもむろに立ちあがり、その重々しい声が寺院の静かな広間に響き渡った。」
「僕が予期していたような、感謝や歓びの言葉ではなかった。それは、沈着な拒絶の言葉だった。称賛ではなく、不機嫌な
退去命令だった。ブラウン神父が僕の大切な楽器を足で踏みにじり、粉々に壊していく光景を、僕は衝撃と恐怖に凍り付きながら、
ただじっと見つめていた。」
このようにあなた方の前に出ることは
異例のことだとは、わかっています。
でも、僕は古代の奇蹟を見つけたのです。
あなた方も、ぜひお知りになった方がいいと思ったのです。
僕の音楽をお聞きください。
どんなことができるのかを、どうか聞いてください。
ここには、生命と同じくらい力強い、何かがあります。
それはきっと、わかっていただけるでしょう。
司祭たち:
「そうとも、我らは知っている。
それは、新しいものでも何でもない。
ただ、時間の無駄になるだけだ。
我らに古代の様式など、まったく必要はないのだ。
我らの世界は、素晴らしくやっているのだから。
ただのおもちゃにすぎぬ。
そんなものにうつつを抜かしたことも
古代人たちが破滅した一因なのだ。
そんな愚かな気まぐれなど、忘れるがよい。
それは我らの計画に、ふさわしいものではないのだ」
恐れながら、あなたのおっしゃることは信じられません。
本当のことだとは、どうしても思えないのです。
僕たちの世界でも、この素晴らしさを取り入れても、良いはずです。
どんなことができるか、考えてもみてください。
司祭たち:
「これ以上、我らを煩わすでない。
我らには、やるべき仕事があるのだ。
人並みに生きることだけを、考えていればよい。
そんなものが、お前に何の役に立つというのだ?」
X 第五章 神託:夢
「たぶん、夢なのだろう。でも、今になっても、すべてが鮮明に感じられる。今でも、階段の頂上で手招きする神の使いの姿を、
はっきりと見ることができる」
「あの彫刻に彩られた街の、信じられないような美しさが、今も見える。そこで生き、働いている人々が見せてくれた、純粋な人間の
精神も。僕はまったく違った生活様式を見た時、驚きと理解の念に、すっかり圧倒されたのだった。それは遠い昔に、
連邦政府によって潰された、生活様式だった。そのすべてが失われた今、人生はなんと意味のないものになってしまったのだろう。
そう思わずにはいられない」
静まりかえった通りを抜け、僕はよろめくように家に帰りついた。
そして、落ちつかない眠りに落ちていった。
夜の彼方の王国に、逃げ出そう。
夢よ──少しでも、希望の光を与えてくれないだろうか。
僕は螺旋階段のてっぺんに立っていた。
神の使いが、そこに、僕の前に立っていた。
彼は僕を導いていった。何光年もの彼方へと。
天の夜と、銀河の日々を超えて
才能ある人々の手によって生み出された作品が
この奇妙な、不思議な世界を優美に彩っているのを見た
人の手によって何かが生み出されていくさまを
熱望する心を抱き、目を見開いて、僕は見つめていた。
彼らは過去の時代に、僕らの惑星から離れていった。
先人たちは今もなお、学び続け、発展している。
彼らの力は、強い目標のもと、強さを増していく
彼らにふさわしい場所──かつての故郷を求めて
故郷に帰ろう、寺院を打ち倒すために
故郷に帰ろう、変革のために──
Y 第六章 独白
「この洞窟に閉じこもってから、もう何日が過ぎただろうか。ここは絶望しきった僕にとって、最後の避難場所だ。
今では流れ落ちる滝の音が、僕を慰めてくれる、唯一の音楽だ。僕はもう、連邦の統制のもとでは、生きてはいかれない。
でも、どこにも行く場所もない。死が僕をあの夢の世界にいざなってくれること、そこでついに心の平安を得ること──
それが、僕の最後の望みだ。」
眼には、まだ眠りが宿り
夢は、まだ頭の中に残っている
僕はため息をつき、悲しげに微笑んで、
しばらくベッドに横たわる
本当に現実になったら、どんなに良いだろう
あの夢のように、はかなく消えたりしないで
僕が見たあの世界で生きていたら
僕の人生はどんな風だったのだろうと、考えてしまう
こんな冷たく空しい人生を
これ以上続けていくなんて、とてもできない
僕の心は絶望の淵に深く沈み
僕の生命の血液(活力)は、こぼれ落ちていく
Z 偉大なる終楽章(フィナーレ)
「注意せよ、太陽系連合の諸惑星たちよ──我らは支配を当然のことと思ってきた」
パッセージ・トゥ・バンコク
最初の滞在地はボゴタ
コロンビア平原の状態を調べるために
現地の人々は微笑み、先へと進んでいく
彼らの収穫物のサンプルとともに
ジャマイカン・パイプの甘い夢
黄金のアカプルコの夜
それからモロッコへ、さらに東へと
朝日の中を飛んでいく
僕らはバンコクへと向かう列車の中。
タイ国鉄道に乗りこんでいる。
途中でいろいろな所に止まったけれど、
一番良いところにしか、滞在はしないのさ
レバノンでは、煙が渦巻いている
僕らは夜遅くまで仕事に精を出している
アフガニスタンの芳香
それが長い一日の苦労に対する報酬
カトマンドゥに到着だ
煙が空に輪を描いて、立ち昇り
ネパールの夜の香りが満ちる
急行列車に乗れば、君もそこに行けるのさ
トワイライト・ゾーン
愛想の良い顔つきをした男が君に歩みより、挨拶をする
微笑みながら、お会いできて大変うれしいですと
その帽子の下に、奇妙なものが潜んでいる
帽子を脱ぐと、彼には眼が三つあるんだ
真実は偽りになり、論理は失われる
今、四次元が横切っていった
君はトワイライト・ゾーンに入ってしまった
この世界の彼方にあるのは、奇妙なものが息づく領域
鍵を使って、その扉を開いてごらん
君の運命に何が待ち構えているのか、見てみるといい
おいで、君の夢が生み出した世界を探検しに
この想像の世界に、入っておいで
目覚めると、誰もいない町に一人、迷子になっている
どうして周りに誰もいないのだろうと、不思議に思いながら
見上げると、巨人の男の子がいる
君はその子の、新しいおもちゃになってしまったんだ
逃げることは出来ない、隠れる場所もない
ここは時間と場所がぶつかり合った世界なのだから
レッスンズ
甘美な思い出、
それは一瞬で飛び去っていき
僕に思い出させ、
どうしてそうなったのか理解させてくれる
わかっている、
僕の目指すゴールは、思っている以上のものだということを
でも、僕はそこに辿りつくだろう
今まで教わってきたことを、誰かに教える頃には
前、君に話したことがあったね
でも君はその時、僕たちの話を聞いてくれなかった
だから、君は今でもなぜと問いかけつづける
でも、もう二度と君に教えるつもりはないよ
甘美な思い出
こんなものだとは、思ってもみなかった
思い出すよ
ぎりぎりのところで、僕は逃げるのを思いとどまったことを
わかっている
これが僕の行くべき道だって言うことは
きみはそこにいるだろう
僕が知っていることを、君がわかった時には
ティアーズ
いくつもの季節を
そして過ぎ行く日々をずっと
僕は考え続けていた
なぜこんな風に感じるのか
その理由をずっと
そう、こんなにも長い間
君の瞳をのぞき込んだ時
僕は感情(の波)に飲み込まれてしまった
君のその情動と
君が泣いていることに気づいたから
そう、僕のために
やっと、わかった
ただ泣き続けている
その瞳からこぼれ落ちる涙ほど
僕の心を震わせるものはないだろう
そして(君が泣く)その理由を知って
思わず目からこぼれおちた涙は
同じように君の心を震わせてくれるだろうか
人生最大の疑問
君の頬を伝う涙
僕はその答えを味わい
そして僕の体は力を失う
君のために
それが真実
サムシング・フォー・ナッシング
雲をすっかり吹き飛ばしてくれるような
変革の風が吹くのを待ち望み
君の行く手にその黄金をばら撒いてくれるような
虹の果て(ふもと)を見つけることを待ち望んで
あらゆるやり方を試し
日々は過ぎていく
誰かが電話をかけてきて
君の世界をすっかり変えてしまうことを待ち望み
君が見つけた質問の答えを捜し求めて
開いたドアを、捜し求めている
何もなしに(ただで)、何かを得ることは出来ない
自由は、無償では得られない
どんな夢を見ていようと
君の目にまだ眠りが宿っている間は
賢くなどなれはしない
君のものにできるのは、君自身の王国
君がなすことは、君自身の栄光
君が愛するものは、君自身の力(権力)
君が生きているのは、君自身の物語
君の頭の中に、答えは存在している
だから、その導きにしたがってみよう
君の心をその錨にして
その心の鼓動を、君自身の歌にして
|