KUBLA KHAN



「忽必烈汗」は、イギリスの思想家であり、評論家、また詩人でもあった、Samuel Taylor Coleridge(1772-1834)が、 18世紀末に書いた作品です。
医師からもらった阿片を飲み、眠っている間に見た夢にインスピレーションを得、目がさめて猛然とこの詩を書き始めたのですが、 途中で来客が来て中断し、戻って続きを書こうと思ったら、もうインスピレーションは頭からすっかり消えてしまい、書けなくなって しまったという、未完の作品です。
本当は全文を引用したいところですが、さすがに著作権が心配ですので、部分引用にとどめたいと思います。


KUBLA KHAN
(OR, A VISION IN A DREAM.
A FRAGMENT)


In Xanadu did Kubla Khan
A Stately pleasure-dome decree:
Where Alph, the sacred river,ran
Through carens measureless to man
Down to a sunless sea.

(中略)

The shadow of the dome of pleasure
Floated midway on the waves;
Where was heard the mingled measure
From the fountain and the caves.
It was a miracle of rare device
A sunny pleasure-dome with cave of ice!

A damsel with a dulcimer
In a vision once I saw:
It was an Abyssinian maid,
And on her dulcimer she played,
Singing of Mount Abora.
Could I revive within me
Her symphony and song,
To such a deep delight 'twould win me,
That with music loud and long,
I would build that dome in air,
That sunny dome! Those caves of ice!
And all who heard sould see them there,
And all should cry, Beware! Beware!
His flashing eyes, his floating hair!
Weave a circle round him thrice,
And close your eyes with holy dread,
For he on honey-dew hath fed,
And drunk the milk of Paradise,


忽必烈汗
  夢の中のヴィジョン。断片。


忽必烈汗は上都の地に、
壮麗な歓楽宮の造営を臣下に命じた。
その地に流れる聖なる川アルフは、
測り知られぬ深さを持つ洞窟にに流れこみ、くぐり抜け、
光のささぬ地底の海へと注いでいた。

(中略)

歓楽宮は巨大な泉と洞窟の間に漂う
波間に漂蕩として影を落としていた。
音の調べがその泉から流れ出、また洞窟からも
流れ出て、一つになり、あたりに輝いていた。
まさに奇蹟とも言うべき創意工夫の極致であった、
氷の洞窟を擁して太陽に燦として輝く、この歓楽宮は!

ダルシマーを抱いた乙女の姿を、
私はかつて幻の中で見た
彼女はアビシニアの娘で、
ダルシマーを奏でながら、
アボーラ山について歌っていた。
もしも、彼女のあの楽の音と歌が
私のうちに蘇りさえすれば、
私は歓喜の念にみたされ、
朗々たる調べを奏でながら、
あの歓楽宮を空中に築けるかもしれないのだ!
そうだ、あの輝ける歓楽宮を! あの氷の洞窟を!
かくして私の調べを聞いたものはみな、それらの姿を見、
口をそろえて叫ぶはずだ、──見ろ! 気をつけろ!
彼のあのきらきらした眼に、あの風になびく髪に!
彼のまわりに三度輪を描き、
厳かに目を閉じるのだ、──
彼は甘美な神酒を飲み、
楽園の乳を飲んだ人間に違いないのだから、と


イギリス名詩選  平井 正穂 編 (岩波書店 1990年)より抜粋
 


Back   Rush Top