作曲入門1 (荒井公康著)                                              

 音楽好きの皆さん、自分で曲を作ってみたいと思ったことはありませんか。しかし、実際に曲を作ってみようと思っても、どうしたらよいか分からない人が多いかと思います。たとえ、メロディーが心に浮かんだとしても、それを書き留めるには絶対音感がいりそうで、才能がなければできそうもありません。作曲は才能がなければできないのでしょうか。計算機に音楽情報処理をさせるという音楽関連システムの研究をしてきましたが、計算機には絶対音感も音楽の才能もないにもかかわらず、計算機に音楽の知識を埋め込めば、ある程度の作曲ができることが分かりました。計算機が作曲できるのですから、普通の人でも作曲できないはずありません。ここではジャズの理論をやさしく解説し、誰でも作曲できることを示したいと思います。

   ハ長調の音階ドレミファソラシドを知らない人はいないと思います。ドとレの間は全音、レとミの間は全音、ミとファの間は半音、ファとソの間は全音、ソとラの間は全音、ラとシの間は全音、シとドの間は半音になっています。全全半全全全半となっています。ドとレの間には#ドまたは♭レ、レとミの間には#レまたは♭ミ、ファとソの#ファまたは♭ソ、ソとラの間には#ソまたは♭ラ、ラとシの間には#ラまたは♭シがあることになります。平均律ではこれらの間の音は等しくなります。例えば、#ドと♭レは等しくなります。

   音程の数え方は結構難しいものです。音程とは2音間のへだたりのことです。まず、度数について説明します。これは音程のおおざっぱな尺度です。度数とは2音間に幹音を想定したときに、その2音が幹音何個にわたっているかを示すものです。幹音とは変化記号#、♭がついていない音符のことです。例えば、ドとファはドレミファと4個の幹音にわたっているので4度になります。同様にドーシはレミファソラなので7度になります。幹音を同じくする2音は同音といい、1度と数えます。ドードは1度です。度数の数え方は変化記号がついても変わりません。ドーファ、#ドーファ、ドー#ファはともに4度です。しかし、度数が同じでも、これらの音の間の実際の距離が異なっているのは明らかです。また、既に述べたように音階中で隣接する音の間隔は全音か半音になるので、起点によって、度数が同じでも実際の距離は異なってきます。1度は同じ高さの音であるので相互の関係はどの高さでも変わりませんが、ミとファ、シとドの間隔は全音ではなく半音であるため、2度と3度は、起点によって隔たりが大きいものと小さいものがでてきます。この両者を区別するため、狭い2度や3度を短2度(m2)、短3度(m3)と呼び、他のひろい2度や3度を長2度(M2)、長3度(M3)と呼びます。6度や7度についても同様にミファ、シドの二つの半音を含むものは隔たりが小さく、短6度(m6)、短7度(m7)と呼び、他のものは半音を一つしか含まないので、長6度(M6)、長7度(M7)と呼びます。1オクターブは起点がどこであっても隔たりは同じです。そこで、この音程を完全8度(P8)と呼びます。1度についても同様に完全1度(P1)と呼びます。ここで、全音間の距離を1.0、半音間の距離を0.5とおいてみます。すると次の関係が成り立ちます。下線部は半音の位置です。

    距離  音程                                       距離  音程
ドレ  1.0  M2                2.0  M3
レミ  1.0  M2             ファ  1.5  m3
ミファ 0.5  m2             ファ  1.5  m3
ファソ 1.0  M2             ファ  2.0  M3
ソラ  1.0  M2                2.0  M3
ラシ  1.0  M2                1.5  m3
シド  0.5  m2                1.5  m3


           距離  音程                   距離  音程
ミファ   4.5  M6       ミファソラ  5.5  M7
ミファソラ   4.5  M6       ミファソラ  5.0  m7
ファソラ   4.0  m6       ファソラシド  5.0  m7
ファソラシド   4.5  M6       ファソラシド  5.5  M7
シド    4.5  M6       シドファ  5.0  m7
シドファ   4.0  m6       シドミファ  5.0  m7
ドレミファ   4.0  m6       ミファ  5.0  m7

即ち、音程と距離の関係は次のようになります。

   m2=0.5(半音1個)           M2=1.0(全音1個)
   m3=1.5(全音1個+半音1個)    M3=2.0(全音2個)
   m6=4.0(全音3個+半音2個)    M6=4.5(全音4個+半音1個)
   m7=5.0(全音4個+半音2個)    M7=5.5(全音5個+半音1個)
   P1=0.0
   P8=6.0(全音5個+半音2個)

次に4度と5度について調べてみます。

        距離  音程                   距離  音程
ファ  2.5  P4          ミファ  3.5  P5
ミファ  2.5  P4          ミファラ  3.5  P5
ファ  2.5  P4          ファソラ  3.5  P5
ファソラ  3.0  +4         ファソラ  3.5  P5
   2.5  P4          シド   3.5  P5
シド   2.5  P4          シド   3.5  P5
   2.5  P4          ファ  3.0  −5


即ち、4度と5度の場合に、音程と距離の関係は次のようになります。

   P4=2.5(全音2個+半音1個)     P5=3.5(全音3個+半音1個)
   +4=3.0(全音3個)
   −5=3.0(全音2個+半音2個)

2、3、6、7度のグループと異なる特徴を持っています。ここで、転回という操作を行ってみます。ドレという長2度(M2)の音程をもつ二つの音のうち、低いほうのドを1オクターブ上の高いドに移すと、元のレと移ったドの音程は短7度(m7)になります。同様に長3度(M3)は短6度(m6)に、長6度(M6)は短3度(m3)に、長7度(M7)は短2度(m2)になります。短音程の場合は、短2度(m2)は長7度(M7)に、短3度(m3)は長6度(M6)に、短6度(m6)は長3度(M3)に、短7度(m7)は長2度(M2)に移ります。式で表すと次のようになります。

    M2+m7=P8  M3+m6=P8  M6+m3=P8  M7+m2=P8
    m2+M7=P8  m3+M6=P8  m6+M3=P8  m7+M2=P8

転回という操作によって、長音程は短音程に、短音程は長音程に、2度は7度に、7度は2度に、3度は6度に、6度は3度になります。では、4度と5度の場合はどうなるでしょうか。半音を一つ含む4度は5度に、5度は4度になり、度数が変わるだけで長音程が短音程になるような変化は生じません。同じことは1度と8度についても言えます。式で表すと次のようになります。

    P4+P5=P8  P1+P8=P8  (+4)+(−5)=P8

この半音を一つ含む4度、5度をそれぞれ完全4度(P4)、完全(5度)と呼びます。+4は増4度、−5は減5度と呼ばれますが、これについては後で述べます。以上から、大きく分けると1、4、5、8度の完全系の度数と2、3、6、7度の長短系の度数に分けられます。

  ドーレという長2度の音程から、レに#がついて2音間のへだたりが大きくなったときは、増2度と呼ばれます。更に半音広がると重増2度となります。長3度が更に半音ずつ音程が広くなると、増3度、重増3度などと呼ばれます。同様に長6度、長7度は半音広がるごとに、増6度、重増6度、増7度、重増7度と呼ばれます。長3度(M3)を半音ずつ狭めていくと、短3度(m3)、減3度(−3)、重減3度、となります。逆に、短3度を半音広げると長3度になります。6度、7度についても同様です。

  1度、4度、5度、8度の完全音程の場合は直接、増、重増、減、重減音程になります。

  さて、実際に音程を決定するためには次のようにします。調号又は臨時記号によって、2音のうち一方又は両方に変化記号がついている場合の音程は、まず2音とも幹音にいったん戻して、その音程を正しく知り、変化記号によってその音程がどのように変化したかを調べます。その際、その度数が完全系か長短系かを識別し、以下の図を見ながら決定します。

重減♭♭ ←−→ 減ー  ←−→  完全P(1、4,5、8) ←−→ 増+ ←−→ 重増X

重減♭♭ ←−→ 減ー  ←−→  短音程(2,3,6,7) ←−→ 長音程(2,3,6,7) ←−→ 増+ ←−→ 重増X

音程をいくつか書いておきます。

                     音程             距離
    ドード          完全1度(P1)          0.0
    ドー#ド         増1度(+1)           0.5
    ドー♭レ                 短2度(m2)           0.5
    ドーレ          長2度(M2)           1.0
    ドー#レ         増2度(+2)           1.5
    ドー♭ミ         短3度(m3)           1.5
    ドーミ           長3度(M3)           2.0
    ドー♭ファ               減4度(−4)           2.0
    ドー#ミ         増3度(+3)           2.5
    ドーファ         完全4度(P4)          2.5
    ドー#ファ        増4度(+4)           3.0
    ドー♭ソ         減5度(−5)           3.0
    ドーソ                    完全5度(P5)          3.5
    ドー#ソ         増5度(+5)           4.0
    ドー♭ラ         短6度(m6)           4.0
    ドーラ           長6度(M6)           4.5 
    ドー#ラ         増6度(+6)           5.0
    ドー♭シ         短7度(m7)           5.0
    ドーシ           長7度(M7)           5.5 
    ドー#シ         増7度(+7)           6.0
    ドード           完全8度(P8)          6.0

距離が同じでも音程名が異なることに注意して下さい。ドー#ドが増1度、ドー♭レが短2度になっているのは、前者が完全1度ドードを、後者が長2度ドーレを基準にし、そこからのずれを考えているからです。他の例も同様に考えてみて下さい。今までは単音程、即ち完全8度(1オクターブ)までの音程を考えてきましたが、複音程、即ち完全8度を超える音程もあります。例えば、

    9度  = 1オクターブ+2度
    11度 = 1オクターブ+4度
    13度 = 1オクターブ+6度

となります。以上で、音程の数え方の説明を終えます。


音楽豆知識  音楽情報処理技術文献  作曲入門(2)  対位法の基礎  コード(和音)の性格
各調の機能とコード(和音)  音楽関連システム  コードスケールの構成音と性格

トップページへ戻る  ご意見ご希望の掲示板