日本国内における電波観測は、50MHz帯のビーコン電波が主流で多くの観測者が利用している。
一方、近年の技術でVORの電波も簡単に受信できるようになってきている。
ここでは、VORによる電波観測が2万円程度(パソコンを除く)で実現できるので紹介をする。
実際に製作したうえでの掲載だが、無線工学の知識が乏しいので間違いがあればご指摘願いたい。
航空無線のVOR (超短波全方向式無線標識)は、地上の設備から見かけ上30HzのAM変調で送信し、それを飛行中の航空機が受信して現在位置を把握するのに使われている。
VORは、将来的にはGPS(全地球測位システム)に移行する計画があるが、しばらくはVORが継続されるようである。
VORはその性格上から常時発信している箇所が多いので、電波観測として使用することができる。
近隣の海外のVORの情報を含めて、設置個所一覧(Excel) と 想定航空路図を紹介するので受信時の参考とされたい。
<長所>
・送信箇所が100ヶ所以上もあるので、観測方向の制約が少ない。
・周波数が高いのでスポラディックE層による異常伝搬の影響を受けにくい。
・50MHz帯と比較して混信が少ない。
・出力は100と200Wが大部分で電波を主として水平方向に水平偏波で発射している。
<短所>
・周波数が高いので、流星の捕捉が悪化するためエコー数が減少する。
・定期的に装置の切替え(1ヶ月に1〜2回程度)を実施するため、そのつど周波数が変動(〜200Hz程度)する。
・VORの周波数は108〜118MHzの範囲なので、アンテナを特別に製作する必要がある。
今回、使用した機材等の構成図である。詳細については次項以降で説明をする。
以下に述べる内容は、最も安価に受信できる方法の機材を紹介する。なお、各項目のカッコ内の数字は購入価格を参考に記載している。
1) アンテナ(3,000)
前述のとおり受信周波数が108〜118MHzなので市販でのアンテナの入手は困難である。
したがって、特別注文をするかアルミパイプなどを購入して受信周波数に合ったアンテナを自分で製作することとなる。
無線の知識も必要となるためハードルがかなり高くなる。そこで材料の入手と加工・組立てが簡単にできる方法として、周波数が少し低いFMアンテナを購入して改造することとする。
FMアンテナは、各メーカーで製造しているが、今回はマスプロ電工のFMアンテナ FM 3 (製造中止)を使用する。これだと、素子を切断するだけなので1時間もあれば組立てることができる。
取り付け場所によっては、支柱(ポール)も必要となる。
今回は3素子で製作をしているが、5素子を使用するとエコー数の捕捉が1.5倍に増加するので1,000円増しとなるが、設置スペースがあるなら FMアンテナ FM 5 (製造中止)を推奨する。
なお、日本アンテナのFMアンテナ AF-4が手元にある場合は、こちらを参照すると改造できる。
2) 同軸ケーブル(3,000+α)
購入前に事前のルート調査が必要となるが、長すぎると伝送損失が大きくなり、微弱電波の受信に影響してくるので注意する必要がある。
パソコンとアンテナまでの実長に1〜2mを加算した長さで同軸ケーブル(5D-FB-LITE)を購入する。その時にBNCコネクタ(BNCP-5DFB)も同時に購入をしておく。
3) 受信機(6,000)
汎用無線受信機を使うのが最も簡単だが中古品でも2万円を超えるので、ここでは電波観測で最近普及しつつあるSDR(SoftwareDefined Radio)を使うこととする。 SDRは大きく分類しても10種類くらいはある。中には取扱いが簡単で高性能な「Airspy
mini」や人工衛星の受信用に開発された「FUNcube Dongle Pro+」という製品もあり、いずれも使用可能である。
今回は安価で簡単に入手できる製品として、地上デジタル放送受信用のDVB-T-USBドングルを使うこととする。地上デジタルテレビ用ではあるが、ドライバーと処理プログラムを入れ替えることで広帯域無線受信機に変身して使うことができる。
DVB-T USBドングルにも数種類の製品があるが、最安値はHROで使用すると2000Hzずれているのは当たり前で、温度変化でも周波数が簡単に変動するのでお勧めできない。
高精度で温度補償型の水晶発信器に取り替えた改良品がAmazonで購入(4,000〜6,000円)できる。Googleで「RTL2832U
& R820T2」を検索すると見つかる。
接続するコネクタは、製品によるがMCX-P型やSMA-J型なので「BNC変換アダプター」が必要となる。本体を購入する際に、同時に購入をしておくこともできる。
なお、「Airspy mini」は、今では国内の代理店としてマルツエレック社から容易に購入できる。このSDRは、12bitのADC(アナログ−デジタル変換回路)で処理するため、前述の8bitと比べて再現性が向上しています。高精度で温度補償型の水晶発信器を搭載しているので、本格的に電波観測をするならお勧めです。
4) パソコン(15,000)
SDRを安定して稼動するためには、Windows7以降のパソコンが必要となる。CPUとしては「インテルCore
xx」なら間違いなく動作する。高性能なパソコンは不要なので、手持ちが無ければ市場で中古品を購入してもよい。パソコンにステレオミキサー(録音デバイスの一つ)が内蔵されていなければ、オーディオケーブルでスピーカ端子とマイク端子をつなぐ方法となるが、ソフトを使用して仮想的に接続する方法もあるので試してみると良い。
1) アンテナの製作
エコー数は、周波数の2乗に反比例するので、HRO(50MHz)と比較すると1/4に激減することとなる。できれば素子数の多いのを使うと良い。
・素子(エレメント)の切断
VORはFMより周波数が高いので素子を切り詰めることとなる。素子を切断する際は、切断後の長さはミリ単位の精度が要求されるとともに、左右の長さを同じにすることが重要である。
下記は各素子の切断する長さを記載しているので参考とされたい。(単位[mm])
(参考)
アンテナを製造するときは、アンテナと同軸ケーブルがインピーダンスマッチングするように設計をする。折返しダイポール素子の放射器だとアンテナのインピーダンスは通常200〜300Ωとなる。
同軸ケーブルが50Ωなので今回のアンテナを200Ωで設計することで、給電器内にある「1:4」の既存のバランをそのまま使用することができる。
FM3 の改造寸法
反射器 | 放射器 | 導波器 | 反射器〜放射器 | 放射器〜導波器 | |
FMアンテナ FM3 | 1,986 | 1,704 | 1,498 | 529 | 381 |
VOR用改造アンテナ | 1,308 | 1,220 | 1,096 | 529 | 381 |
FM5 の改造寸法
反射器 | 放射器 | 導波器3 | 導波器2 | 導波器1 | 反射器〜放射器 | 放射器〜導波器3 | 導波器3〜導波器2 | 導波器2〜導波器1 | |
FMアンテナ FM5 | 1,920 | 1,750 | 1,502 | 1,502 | 1,480 | 740 | 340 | 390 | 390 |
VOR用改造アンテナ | 1,280 | 1,224 | 1,158 | 950 | 1,080 | 740 | 340 | 390 | 390 |
※放射器は折返しダイポール素子となっているので、突起長を含む両端の長さであることに注意する。素子間の間隔は、既存の間隔としているので余計な穴を空けることはない。
Pic-1 切断前 Pic-2 切断後
・組立て
組立ては、同梱の「FMテナー」を参考にすれば容易にできる。この時点で、無線屋ならSWRメータなどでアンテナの性能を確認することとなるが、用途が受信だけなので測定は省略しても構わない。
2) 同軸ケーブル
アンテナの給電部との接続は同軸ケーブルを直付けができるので、コネクタ取付けはSDR側だけとなる。コネクタは、SDR側がBNC−Jなので同軸ケーブル側のコネクタはBNCP-5DFBとなる。
コネクタの接続の方法はこちらを参考にしで製作する。 コネクタの出来栄えしだいで受信感度に大きく影響することもあるので、高い難易度だが確実に作業をする。
なお、給電部との接続にM型コネクタを使用するなら、直付けの反対側にスペースがあるので、レセプタクル「M-BR」を取付けることができる。バランも移動することでリード線をそのまま使える。
3) SDR
SDRを直接パソコンに接続すると同軸ケーブルが硬いため自由度が制限されるので、USBケーブルを介したほうが良いが、USBケーブルは雑音が発生し易いのでシールドが確実な20cm程度の短いのを使うのが良い。
4) 周波数の選定
VORの送信アンテナは、水平方向に電波を放射しているので近距離のVORを使うとエコー数が極端に減少することが考えられる。また、近距離だと直接波や航空機によるエコーを受信してしまうので定常観測には600Km以上離れている局を選定するのが望ましい。しかもアンテナの位置から見て支障物が無く遠方まで見通せる方向が理想である。
<留意点>
●机上での選定
600〜1000Kmの範囲が望ましい。
最初は送信出力が200WのVORを選ぶ。
24時間稼動のVORを選ぶ。
●VORの周波数変動
公称どおりの周波数で送信しているVORは、ほとんど無い。
±200Hzの誤差は当たり前で±500HzのVORもある。
羽田空港のVORは、900Hzもズレている。
これを念頭に30分〜1時間毎に500Hzずつ段階的に周波数を変更して、±1,000Hzを捜索することを基本とする。
もちろん、その間にエコーが確認できれば終了。
●送信機切替え
運用マニュアル等により全国的にVORの「号機切替え」が義務付けられているようである。
大部分のVORは、月替わりの「0」時前後に切り替えが発生しているが、1日と16日の2回切り替えをしているところもある。
VORの中には、初日7時に切り替えているところもある。
号機切替えの都度、設定周波数を変更してHRO画像にエコーを入れることも煩雑なので、変更幅が400Hz以内のVORを探すと、HRO画像の範囲内に入るので手間がかからない。
●VORの設置環境 (経験上)
受信局から見て、VORの設置場所が海岸付近や平地となっていることです。
VORの直近に遮蔽物が無いのが望ましいのではないかと。
●環境の良い方向
設定周波数を110MHzにして、アンテナを東西南北のそれぞれに向けて、雑音のレベルが一番低い方向を決める。
全方向が同じようなレベルなら、全国のVORを対象して作業ができる。
八王子では、西方で雑音が大きいため、仕方なく東北・北海道から選局している。
5) アンテナの取付け
アンテナの取付けはベランダの手摺りが最も簡単である。2m以上の支柱があれば理想であり、方向調整も取付け後に自由にできることがメリットである。ベランダが無理なら本格的に屋根の上も選択肢の一つとなる。 アナログTV時代のVHFアンテナがあればその箇所に取り付ければ簡単である。室内への引き込みは、暫定的には窓越でも可能だが、恒久的には空調設備の室外機の出入り口などを利用することが最良である。
受信から音声画像の出力までの説明となるが、SDRによる電波受信で詳細を説明しているので、そちらのページを閲覧願いたい。
また、Liveなど更なるグレードアップを希望する場合は、現在使用しているソフトを紹介するので問い合わせを願いたい。
6.連絡先
ご質問、ご提案等がありましたら、杉本弘文まで連絡を願います。