ライフスタイルを変えることにより、冠状動脈性心臓病を改善することができる

最新疫学研究情報No.99

20年以上前の研究報告になりますが、医学界で最も権威のある専門誌の1つとして知られる『ランセット(1990年7月21日号)』に、画期的な疫学調査が掲載されました。その内容を要約して紹介します。

米国のカルフォルニア大学(サンフランシスコ校)医学部のディーン・オーニッシュ博士の研究チームにより、「食事や運動などのライフスタイルを変えることによって、薬物や手術などの治療を行うことなくアテローム性動脈硬化症を改善することができる」との報告がなされました。

今回の研究は、ライフスタイルの変化が心臓病に与える影響について調べるための、アテローム性動脈硬化症の患者48名を対象にした無作為割付比較試験です。研究チームは、被験者を「ライフスタイルを改善するグループ(28名)」と「通常の治療(薬物投与など)を行うグループ(20名)」に分け、被験者の冠状動脈の狭窄の度合いを1年にわたって検査(*血管造影法による)し、比較検討しました。ライフスタイルの介入グループでは「プラントベースの食事(植物性食品を中心とした低脂肪(*全カロリーの10%以下)の食事)」「禁煙」「ストレス管理のためのトレーニング」「適度な有酸素運動」「グループによる心理的なサポート」といった複数の項目を組み合わせた改善プログラムが実施されました。

調査の結果、ライフスタイルの介入グループでは、82%の被験者に、冠状動脈の狭窄に改善が見られたことが確認されました。さらにこのグループの被験者は、調査開始時に比べて、コレステロール値が37.2%低下し、狭心症の発生頻度が91%も減少したことが確認されました。被験者からは、心臓病の胸痛から解放され、以前よりも活動的な生活が送れるようになったことが報告されています。一方、通常の治療を行ったグループの患者は、冠状動脈の狭窄がさらに進行し、病状が悪化したことが判明しました。

研究者らは、「今回の研究結果は、ライフスタイルの包括的な改善プログラムを、わずか1年間継続するだけで重度のアテローム性動脈硬化症を改善できる可能性があることを示唆している」と結論づけています。

当研究所の見解

今回の研究報告の画期的な点は、ライフスタイルをトータルに変えると、わずか1年という短い期間でアテローム性動脈硬化症のような生活習慣病が劇的に改善することを明らかにしたことです。それまでの研究によっても、食事や運動など単独のライフスタイルの改善が、さまざまな病気の発症リスクを低減させることが報告されていました。しかしこの研究のように、食事・禁煙・運動・心のケア(ストレス対策)といったトータルなライフスタイルの改善を研究デザインに取り入れたのは、極めて画期的なことです。

さらに本研究は、すでに心臓病を発症している患者に対して目覚ましい成果を上げたことから、“トータルなライフスタイルの改善は、現代医学による標準的な治療よりもはるかに強力な効果をもたらす”証拠を示した優れた研究として、世界中から注目されました。この調査結果は、ホリスティック医学が掲げる「人間の健康は、トータルなアプローチ(*人間の構成要素である肉体や心に対して、食事や運動といったホリスティックな療法を複数併用して働きかけること)によって維持される」という基本理念を裏付けるものとなっています。

出典

  • 『The Lancet 1990年7月21日号』
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