5.最新の油理論――「オメガ3」と「オメガ6」のバランス理論

新しい油理論の登場

油に関する研究が進むにつれ、より詳しい油の働きが分かってくるようになりました。必須脂肪酸である「アルファ・リノレン酸(オメガ3)」と「リノール酸(オメガ6)」は、単なるカロリー源ではなく、細胞膜の構成成分になったり、体のほとんどすべての機能を調節するホルモン様物質(局所ホルモン)の原料となる不可欠な脂肪酸です。

現代栄養学で問題としているのは、「オメガ3」と「オメガ6」の摂取比率についてです。この2種類の脂肪酸の「摂取比率・体内比率」が崩れると、現代人の多くが抱えているような病気が引き起こされるということです。必須脂肪酸のアンバランスは、ガン・心臓病・脳卒中・糖尿病・関節炎・不妊や生理のトラブル・アレルギー・喘息・精神疾患など、さまざまな病気にかかわっています。最新の栄養学によって、「オメガ3」と「オメガ6」の摂取比率が、私たちの健康を大きく左右するということが明らかにされてきました。

現代栄養学では、「オメガ3」と「オメガ6」の理想的な摂取比率を、およそ1:1〜1:3くらいであると考えています。これはアメリカで言えば、百年ほど前の食事の内容です。それが現代では、極端に崩れてしまっています。オメガ3は、必要量の20%程度しか摂られていません。

その状況は日本においても同様です。我が国では1960年頃までは、かなりよい比率を保っていたと思われますが、その後急速に悪化してしまいました。今ではオメガ3とオメガ6の摂取比率は、1:10〜1:50というような、ひどいアンバランス状態にあります。オメガ3の著しい不足に対して、オメガ6は極端な過剰摂取に陥っています。

オメガ3とオメガ6のアンバランスを引き起こす原因

では、どうしてこのような異常な事態を引き起こすようになったのでしょうか。「オメガ3」も「オメガ6」も、植物性食品や植物油の中に多く含まれています。そして、その植物油がアメリカや日本において大量に摂取されるようになったのは、1960年以降のことです。食事が欧米型に向かい、油料理・揚げ物料理が多くなった時期ということです。

食事の欧米化の中で摂取量が増え続けてきた油と言えば、コーン油・大豆油・サフラワー油(紅花油)などです。そして、それらをベースにしたマヨネーズやドレッシング・マーガリンなどです。実は、こうしたどこの家庭でも毎日のように使う油には、「オメガ6(リノール酸)」が豊富に含まれているのです。(※食用植物油の脂肪酸組成を参照してください。一般に使われる油の中には、45〜75%もの「オメガ6」が含まれています。)

一方、「オメガ3(アルファ・リノレン酸)」を多く含む油としては、シソ油・エゴマ油があり、欧米では亜麻仁油があります。しかし現代人のほとんどは、これらの油を料理に使うことはありませんでした。(※日本ではあまりなじみのない「亜麻仁油」ですが、食用に用いられた歴史は古く、ギリシャ・ローマ時代からだと言います。北欧諸国では第2次世界大戦の前まで、どこの家庭でも使われていました。)

また食品によっては、オメガ3を比較的多く含むものもあります。野菜(特に緑の濃い冬野菜)・海藻・魚(背の青い大衆魚)などです。そしてこれらの食品は、昔の日本人は日常的によく食べていました。そのためかつては、かなり「オメガ3」を摂取することができていたのです。油料理をひんぱんに摂るような現代とは違って、オメガ3とオメガ6のバランスは自然に良好だったのです。

現代人は、オメガ3の摂取源となる野菜・海藻・魚などをあまり摂らなくなっているのに対し、オメガ6の摂取量は激増しています。食事が欧米型に傾けば傾くほど、「オメガ6」だけが多くなってしまうのです。こうして必然的に、「オメガ3」と「オメガ6」のバランスは大きく崩れてしまいました。

現代人の深刻な「オメガ3脂肪酸欠乏」

食生活の欧米化が深刻な「オメガ3欠乏」を招いていますが、その一因としては、次のようなことも挙げられます。一般に現代人は、寒い地域の食物より、温かい地域の食物を好んで食べるようになっています。温室栽培や輸入によって、冬でも、トマトやキュウリ・ピーマンなどの夏野菜が食べられるようになりました。実は、「オメガ6」が暖かい地域の農作物に多く含まれているのに対して、「オメガ3」は寒い地域の農作物に多いのです。ホウレン草・シュンギク・小松菜・白菜・ブロッコリーなどの冬野菜は、よいオメガ3の摂取源となっています。

また精白技術の進歩が、オメガ3不足に拍車をかけています。穀類の胚芽にはオメガ3とオメガ6がともに含まれているのですが、精白することで「オメガ3」が失われてしまいます。

さらにオメガ3不足の大きな原因として現代式の製油方法が挙げられます。食用油といえば、かつては手絞り的な圧搾法「コールド・プレス(低温圧搾法)」で製造されていました。しかし現代では、そうした方法でつくられているのは亜麻仁油・オリーブ油などの一部の油のみです。それ以外のほとんどの食用油は、化学的溶剤で原料の中の脂肪を溶かし出し、その後に溶剤を除去するといった方法でつくられています。そして最後の脱臭工程では、230℃以上もの高温処理がなされています。取り出された油には、部分的に水素が添加されます。“水素添加”とは、不飽和脂肪酸の二重結合部分に、高温高圧下で強引に水素をつなげて油を飽和状態に変えてしまうことです。こうすると油は酸化しにくくなって日もちがよくなり、商品寿命が延びるからです。

こうした製油過程で真っ先に失われてしまうのが、水素と最も反応しやすい「オメガ3」なのです。原料となる大豆やゴマなどの種子類には、わずかですがオメガ3が含まれていますが、今述べたような製油方法では、ほとんどなくなってしまいます。そのうえ「トランス型脂肪酸」という有害な脂肪酸が生成されることになります。(※「溶剤使用」「高温処理」「水素添加」という現代式の製油方法の中では、オメガ3だけでなく、ビタミンなどの栄養素も失われてしまいます。トランス型脂肪酸の害については、後で述べています。)

このような原因が重なって、現代人の「オメガ3不足」は、きわめて深刻な状態になっています。

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