2.脂質についての、新しい分類――分子構造の違いによる分類

脂肪・油の新しい分類法

脂肪・油に対する科学的な研究が進むにつれ、新たな事実が次々と明らかにされるようになりました。これまでは脂質を、脂肪(動物)と油(植物・魚)に分類していましたが、それとは別に、分子構造の違いによる分類が行われるようになりました。

脂質は、元素である炭素と水素と酸素の組み合わせによって成立していますが、その組み合わせ・分子構造の違いが大きな性質の違いを生み出します。新しい分類法では、脂質は分子構造の違いから、大きく「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」の2つに分類されます。そして不飽和脂肪酸は、「一価不飽和脂肪酸」と「多価不飽和脂肪酸」に分類されます。さらに多価不飽和脂肪酸は、「オメガ6不飽和脂肪酸」と「オメガ3不飽和脂肪酸」に分類されます。

脂肪酸の分類

食品中の脂質は、こうした脂肪酸のいくつかが組み合わさってできています。それぞれの脂肪酸の含有比率はさまざまですが、大半の食品にはすべての脂肪酸が含まれています。先に述べた動物の脂肪には「飽和脂肪酸」が多く含まれ、植物や魚の油には「不飽和脂肪酸」が多く含まれています。

脂肪酸の二重結合とは?

脂肪酸は、炭素(C)・水素(H)・酸素(O)の3つの元素からなる化合物です。炭素には、他の元素と結び付くための4つの手があります。水素にはその手が1つ、酸素には2つあります。脂肪酸は炭素同士が手をつないで鎖をつくり、それに水素と酸素がつながった構造をしていますが、その炭素と水素の結合の仕方で種類が分けられます。酸素については、どの脂肪酸でも同じような結合になっています。

次の図のように、炭素同士が1つの手で結合しているのを「一重結合」と言い、2つの手で結合しているのを「二重結合」と言います。この二重結合があるかないか、あるとしたら1つか複数か、また複数あるならどの位置にあるか、ということによって脂肪酸の種類が決められます。

脂肪酸中の炭素の二重結合と一重結合

脂肪酸の分子構造と性質の違い

それぞれの脂肪酸の、分子構造と性質の違いを見ていきます。

各脂肪酸の分子構造

(1)飽和脂肪酸(ex.ステアリン酸)

図1には、二重結合はなく、炭素の手がすべて水素と結合しています。これが「飽和脂肪酸」です。飽和脂肪酸は、肉・乳製品・卵などの動物性食品に多く含まれています。私たちが肥満して「お腹につく脂肪・中性脂肪」の主成分が、この脂肪酸です。

飽和脂肪酸は、エネルギーとして消費されないかぎり、どんどん蓄積されていきますから、摂取は控えめにするべきです。摂取エネルギーが消費エネルギーを超過すれば肥満を招き、現代病・成人病の引き金となります。(※他の脂肪酸や糖質・タンパク質を含めてのエネルギー総量が問題です。)

(2)一価不飽和脂肪酸(ex.オレイン酸)

図2には、二重結合が1つだけあります。これが「一価不飽和脂肪酸」です。そして二重結合の位置がメチル基(左側)から9番目の炭素にあるので、「オメガ9不飽和脂肪酸」と言います。この脂肪酸は、動物性食品やオリーブ油に多く含まれています。

一価不飽和脂肪酸は、体内で飽和脂肪酸からつくられます。

(3)多価不飽和脂肪酸(ex.リノール酸)

図3には、二重結合が2つあります。これが「多価不飽和脂肪酸」の「リノール酸」です。そして二重結合の位置がメチル基から6番目の炭素にあるので、「オメガ6不飽和脂肪酸」と言います。この脂肪酸は、穀類や種子、コーン油・大豆油・紅花油などの食用油に多く含まれています。

リノール酸は、細胞の成長・維持に不可欠で、体内では合成されない「必須脂肪酸」です。局所ホルモンの材料として、さまざまな生理機能のコントロールのために使われます。

(4)多価不飽和脂肪酸(ex.アルファ・リノレン酸)

図4には、二重結合が3つあります。これが「多価不飽和脂肪酸」の「アルファ・リノレン酸」です。そして二重結合の位置がメチル基から3番目の炭素にあるので、「オメガ3不飽和脂肪酸」と言います。この脂肪酸は、野菜(特に冬野菜)や海藻・豆・ナッツ類などに含まれています。亜麻仁油・シソ油・エゴマ油には多く含まれています。

アルファ・リノレン酸は、リノール酸と同じく「必須脂肪酸」で、細胞の成長・維持にかかわり、局所ホルモンの材料として重要な働きをしています。アルファ・リノレン酸は、細胞や組織を柔軟にし、現代病・成人病を防いでくれる大切な脂肪酸です。

またアルファ・リノレン酸からつくられ、魚の油に多く含まれているのが、オメガ3系列の「EPA」「DHA」です。EPA(エイコサペンタエン酸)は、肉の脂肪とは逆に、血液の粘度を下げてサラサラにし、血流をよくします。近年、EPAの動脈硬化や心臓病を防ぐ働きが注目されています。DHAは脳をはじめとする神経組織に多く含まれ、脳や神経組織の成長・維持に重要な役割を果たしています。DHAが不足すると、学習や記憶能力に障害が起きるようになります。EPA・DHAを多く含んでいるのは、イワシ・サバ・サンマ・サケ・ブリなどの大衆魚(青魚)です。

各脂肪酸の酸化スピードの違い

図で分かるように「飽和脂肪酸」は、すべての炭素が水素で飽和されており、最も酸化しにくい脂肪酸と言えます。分子構造が飽和状態にあるので、他の水素や酸素などの原子がくっつきにくいのです。飽和脂肪酸についで酸化しにくいのが、「一価不飽和脂肪酸」です。二重結合が1つだけで、飽和度がかなり高いからです。

それとは反対に「多価不飽和脂肪酸」は、酸化が速く進みます。二重結合が複数あって、他の原子と化合しやすいためです。なかでも「オメガ3」は、不飽和度が最も高く酸化しやすい脂肪酸です。しかし酸化が速いからといって、「オメガ3」が悪い脂肪酸というわけではありません。酸化が速いというのは、それだけ活性が高く反応性に優れているということです。

人間の体の中で“脳”は最も重要な器官の1つですが、その構成成分の60%は脂肪が占めています。そして、このうち一番量が多いのが「オメガ3」です。無数の神経細胞から成り立っている脳は、神経刺激を伝達したり、外からの刺激を受け取ったり、いつも活発な活動をしていますが、その動きに鋭敏に反応し、素早く対応しているのが「オメガ3」なのです。脳では「オメガ3」が最も大切な脂肪酸なのです。(※空気中と体内では脂肪酸の酸化のスピードは異なり、体内ではオメガ6よりもオメガ3の方が酸化されにくいことが分かっています。脂肪酸の酸化による害については、後で述べています。)

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