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千秋針灸院の症例報告  ※リンクや紹介は自由ですが、千秋針灸院の著作物です。内容の無断での転載等は固くお断りいたします。

中医学による脈絡膜新生血管(若年性黄斑変性)への鍼灸治療   Copyright © Chiaki. All Rights Reserved 2009.12.1

第3部 脈絡膜新生血管(CNV)への鍼治療による長期成績と、変視症の変化、千秋針灸院の取り組み

 第3部のあらましと、脈絡膜新生血管(CNV)に伴う変視(歪みや暗点)の測定に使用した器具について

 脈絡膜新生血管(CNV)と瘢痕の関係 (なぜ、長期間の視機能維持が難しいのか)

 針治療による12ヶ月間での平均視力の変化

 12ヶ月間の針治療による視力の段階の変化

 ○針治療を24ヶ月以上継続した症例の長期経過


 針治療による中心暗点の変化の実際

 脈絡膜新生血管の再発を防ぎ、瘢痕を拡大させないために

 第3部のまとめ

 ○おわりに

第3部のあらましと、脈絡膜新生血管(CNV)に伴う変視(歪みや暗点)の測定に使用した器具について

第3部では、鍼治療による脈絡膜新生血管(CNV)への、1年から数年以上といった長期成績を中心に、当院の視力変化の統計から
説明していきたいと思います。また患者さんにとって最も日常生活に影響する、CNVに伴う変視(歪みや中心暗点)についても、
鍼治療による典型的な変化を掲載します。また提携治療院として、全国で当院と共に眼科分野で連携して治療をしていただいている
連携治療や、患者さんへ指導している日常生活での注意点等を紹介していきます。

当院での視力測定については、第2部で紹介したNIDEK社のSC-2000を使用していますが、ここでは脈絡膜新生血管(CNV)に伴う
変視(歪みや暗点)を測定し、患者さんの実際の見え方を反映させるための器具を紹介いたします。

中心暗点や歪みに代表される変視症については、鈴木式アイチェックチャートを使用して測定します。鈴木式アイチェックチャートは
全国の眼科や脳外科で各種スクリーニングに役立てられている検査方法です。アムスラーチャートから改良された測定シートでは
歪みや暗点などの自覚症状に対して、その大きさや位置などを特定することができ、視界内の状況の変化を記録に残し、変化を
確かめることができます。患者さん自身に見える範囲を申告していただき記録するため、実際の感覚にあった測定法といえます。
照明には美術館・博物館向けの蛍光灯(演色性能99%)を使用し、色までも含めた見え方を正確に把握する工夫をしています。

中心暗点の大きさや色は眼底出血や障害部位の規模を示し、暗点の状態からは瘢痕化しているかどうか、回復の可能性までを
ある程度予測できます。光干渉断層計(OCT)や眼底写真と比較し確認していますが、視力やM-CHARTSの結果と併せることで、
眼底の状況を概ね掴むことができています。

M-CHARTSは近畿大学医学部眼科学教室が開発した、歪みを中心とした変視症の状態を数値化できる測定チャートです。
変視症(歪み)が変化していく場合に、チャートの数値にも変化が現れ、再現性も優れることが当院でも確認できています。
鍼治療により変視症(歪み)が改善している場合には、確実に数値として変化が現れてきています。脈絡膜新生血管において、
この数値が高い(歪みが多い)場合には、光干渉断層計(OCT)でも浮腫や新生血管等による黄斑部の乱れが大きくなります。

     

鈴木式アイチェックチャート                        M-CHARTS

千秋針灸院で行える測定範囲は僅かですが、患者さんの眼に負担をかけることなく行え、患者さんの実際の見え方を再現できる
ため、針治療による変視を含めた見え方の改善や、長期間が経過したCNVにおける視力低下の実際など、医学書にも掲載されて
いなかった事実が明らかになりました。CNVだけでなく、緑内障や網膜色素変性症、視神経炎、糖尿病性網膜症、網膜静脈閉塞等、
様々な眼科領域の疾患に対して、当院では全体で数百症例にも及ぶ記録を蓄積しています。


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脈絡膜新生血管(CNV)と瘢痕の関係 (なぜ、長期間の視機能維持が難しいのか)


若年性黄斑変性に近似の疾患である加齢性黄斑変性は、欧米では中途失明の第一位を占めています。抗VEGF療法を代表とする
最新の治療法が開発されているにも関わらず、網膜黄斑変性が失明に繋がる病気であることに変わらないのは、脈絡膜新生血管
(CNV)だけが問題なのではなく、CNVの発症に伴い発現し、消退後も網膜に残る瘢痕が深刻なリスク要因となっているからです。
CNV後の瘢痕の形成は、周辺の健全な網膜に悪影響を与え、網膜の健康レベルの悪化を促し、CNVの再発リスクを高めてしまい
ます。網膜黄斑変性は、網膜の健康状態悪化→CNV発症→瘢痕化→瘢痕の拡大→網膜の健康状態悪化→CNV再発症、という
サイクルを繰り返して、視機能が損なわれていく病気なのです。

網膜黄斑変性症の進行には大きな個人差があり、これから示すイメージ画像でも、数倍以上の期間の差が生じてきます。この差は
日常生活を基本として生じてくる、眼底を含めた眼周囲の血流状態、紫外線暴露量、抗酸化物質の摂取、様々な眼への負担や
喫煙などの習慣、強度近視と遺伝、その他の条件等が、進行状態の差となっていることが考えられます。当院へ来院される方で
最初の発症から何年も経過した患者さんの眼の状況は、数重なるCNVの再発と瘢痕の拡大で、視力を含めた視機能が大きく低下
されている方が多くなります。

東京医科歯科大学、眼科学教室の報告にもあるように、長期間が経過したCNV発症眼は、著しい視力低下を伴っており、当院でも
100症例以上の黄斑変性の(加齢性、若年性を含む)患者さんへの問診や測定から、長期的なCNVの状況を掴んでいます。

以下の画像はイメージです。患者さんの不安を煽る目的ではありませんが、不安を感じる方は見ない方が良いかもしれません。
画像を飛ばす

以下の画像は、当院で行う鈴木式アイチェックチャートの測定結果から、実際の見え方を再現しようと試みたものです。見え方は
患者さん毎の個人差も大きいため、必ずしも写真のままではありません。しかし当院では患者さんの見え方を再現する測定方法に
より、多くの患者さんの状況を把握できることから、標準的な見え方を再現することが可能になりました。現在までの眼科医学書や、
Web上でも明確に報告されたことのない画像になります。この画像を報告すべきかどうかは、私自身に迷いもありましたが、事実を
伝えることが重要と考えました。 画像は当院の多くの患者さんに予め見ていただき、概ね正確であることを確認しています。




正常な見え方①と、脈絡膜新生血管(CNV)発症初期の見え方②です。CNVの発症初期は、視界の中心付近の暗点や歪みが特徴です。
(左)の写真では、中心暗点は黒色ですが、CNVからの出血が予想されます。中心付近が黄色っぽくに着色する場合は、漿液の漏れが
考えられ、また大型のCNVでは、中心暗点は灰色のことが多いようです。CNVが小型の場合や中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)では、
中心暗点は無く、歪みだけとなる症例が多くなります。




発症から1~数年程度の見え方③では、CNVの活動は落ち着いていますが、歪みは残っており、CNVや出血の瘢痕と考えられる
灰色の暗点も若干生じています。
発症から概ね5年以内程度の見え方④では、瘢痕自体の拡大や数度の再発などにより、中心
暗点の範囲は広がる事が多く、瘢痕と考えられる灰色の暗点がどの部分にあるかで、視力は大きく変わります。




発症から5~10年以内程度の見え方⑤は、中心暗点は更に拡大し、また中心付近の若干見えていた部分も減ることから、視力は
低下してきます。
発症から10年以上経過した見え方⑥では、中心部はほとんど見えなくなり、また視線をズラしても暗点が大きい
ため見えず、視力は0.1以下へと大幅に低下します。なお⑤、⑥については、中心部がほとんどマスクされるため、周辺部は上の画像
以上に不明瞭になり、ほとんど見えないのが実際です。(イメージを知っていただく目的の画像のため、不安を煽らない配慮です)

CNVは発症後の時間が経つほど、瘢痕自体の拡大や再発症を繰り返すことにより、視力は大きく低下する傾向がある。

最近眼科で行われるようになった抗VEGF(アバスチン、ルセンティスなど)療法については、新生血管の活動期(画像②)に対しては
非常に有効ですが、新生血管の活動が休止し、瘢痕となった状態(画像③~⑥)に対しては、再発症などで新生血管が存在している
場合を除いて無効で、眼科では経過観察のみとなり、瘢痕に対しては原則治療方法はありません。網膜の瘢痕変性に対しては、
鍼治療でも難しい状況にはなりますが、画像④以降の状態では、1年程度の治療により、症例により1段階程度(⑤→④など)改善し、
視力なども向上する症例が多く、また適切な治療間隔で鍼治療を続けた症例では、長期的な進行例はみられません。

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針治療による12ヶ月間での平均視力の変化

1年以上に渡り、鍼治療を継続されている27名36眼について、鍼治療開始当初から、概ね12ヶ月時点での平均視力の変化を表して
みました。表1は全36眼の平均視力の変化、表2は発症後の鍼治療の開始時期が12ヶ月未満の20眼、12ヶ月以上の16眼の2群に
分けて、平均視力を出したものです。視力は基本的に患者さん持参の眼鏡等による矯正視力ですが、12ヶ月という期間では眼鏡を
作り直す方もあることから、眼科での視力検査の数値や、変更前の眼鏡との視力差から、妥当と考えられる視力値に修正している
症例を含んでいます。ただし黄斑変性による視力低下に対しては、基本的に矯正しても視力の変化は大きくはありません。

なお針治療の間隔は、3ヶ月までが週2回、1年程度までが週1回という症例が多いですが、様々な理由により適切な治療間隔で
針治療を行えなかった症例や、当院以外の提携治療院での治療を受けられた方が含まれています。

表1表2

針治療開始から1年後の視力は3ヶ月後を上回り、特に発症からの期間が短い症例では良好な結果が得られた。

1年以上の針治療を継続された36眼では、平均視力は0.42→0.71(+0.29)と向上しました。第2部の報告にある3ヶ月後(+0.22)を
上回り、針治療開始から3ヶ月以降も視力の改善が続いていることが分かります。また発症から針治療開始までの期間が12ヶ月
未満の20症例の平均視力は、0.50→0.85(+0.35)、12ヶ月以上の16症例では、0.31→0.53(+0.22)となりました。やはり第2部の
報告と同様、発症後1年以内の症例での平均視力の改善が著しい傾向がありますが、どちらのグループも3ヶ月後を上回る結果が
得られました。正常な視力として、眼科医療のの目標とされる1.0を達成できたのは10症例(27.8%)となりました。

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12ヶ月間の針治療による視力の段階の変化

平均視力ではなく、治療開始当初から視力1.0以上の3症例を除いた全33眼の視力変化の詳細を、発症からの期間別(12ヶ月
未満、12ヶ月以上)に分けて、表にしてみました。視力変化の段階は、NIDEK社のシステムチャートSC-2000を基準としており、
0.03、0.04、0.05、0.06、0.08、0.1、0.15、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.2、1.5、2.0 の各視力の値となります。

表3

12ヶ月間での鍼治療の総有効率は、78.8%(26/33)にも及び、抗VEGF療法(ルセンティス等)を上回る結果が得られた。

2段階未満の変化(不変)は5眼(15.2%)、2段階以上の向上(有効)は26眼(78.8%)、3段階以上の向上(著効)は19眼(57.6%)と
なりました。また2眼(6.1%)については2段階以上の悪化となりました。悪化した1例は、脈絡膜新生血管(CNV)の再発症による
急速な悪化時期に来院され、遠方のため12ヶ月間で十数回程度の治療しかできず、当時は抗VEGF療法も実用化されていない
時期だったことから悪化したものです。もう一例は発症後早期に来院されたものの、外傷によるCNVの為、網膜の損傷が大きく、
回復が望めなかった症例になります。こうした特殊な症例を除けば、針治療の12ヶ月間の結果は概ね良好であり、特に発症後
12ヶ月以内の症例では、改善量が大きくなる傾向が分かります。


第2部で報告した3ヶ月間での結果は良好なものの、抗VEGF療法(ルセンティスなど)に対して大きな有位性はありませんでした。
しかし12ヶ月間での鍼治療の結果は、報道されている抗VEGF療法の有効率40.3%(海外での139症例の結果)を大きく上回り
ました。ただし報道されている有効率は、加齢性黄斑変性に対しての結果ですので、単純な比較はできないことはお断りしておき
ます。鍼治療は副作用が無い上、現時点では最も効果に優れる治療法であることが分かります。なお12ヶ月以上、針治療を
続けられている当院の患者さんでは、網膜の状況が良好なため、抗VEGF療法を継続されている方はありません。また当院で
適切に治療を継続されている患者さんについては、CNVの再発症や健側での発症は現在までありません。ただし他の治療院に
ついては、1例で健側にも発症したとの報告があります。

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針治療を24ヶ月以上継続した症例の長期経過

当院もしくは提携治療院で、針治療を24ヶ月以上行った12名15眼について、長期間経過後の平均視力の経過や、到達視力を
まとめてみました。15眼の発症から針治療開始までの平均期間は13.8ヶ月以上、針治療の継続期間は24~73ヶ月間であり、
平均37.4ヶ月でした。つまり、この報告は、発症から針治療開始までの期間(13.8ヶ月以上)+針治療の継続期間(37.4ヶ月)の
発症から平均51.2ヶ月(約4年3ヶ月)後の15眼の視力ということになります。なお当院では針治療開始から、3ヶ月までが
週2回、1年程度までが週1回、1年以上では概ね2~4週間に1回という治療間隔を、患者さんの状態に合わせて指導しています。

表4表5

針治療を長期間継続した症例では、視力の著しい改善が得られた。

2年以上針治療を継続された15眼の平均視力は、当初0.51→3ヶ月後0.76(+0.25)→12ヶ月後0.89(+0.38)→37.4ヶ月後1.07
(+0.56)となり、治療開始から長期間が経過した症例程、良好な結果が得られました。針治療の継続は黄斑部の回復を促し、
網膜の健全化に役立っていることが分かります。その結果は、15症例の全てで再発を防ぐことができたことにも表れています。
長期間針治療を継続されている患者さんが、眼科で診察を受ける際によく言われることですが、「視力が下がりませんね」と
首をかしげられるという話です。一般に長期に渡る黄斑変性は、徐々に視力低下が進みますが、針治療を行っている方は、
徐々に良くなる方が多いという結果になりました。

なお15眼中、針治療開始以前に、抗VEGF療法(アバスチン)を行った1症例が含まれており、3ヶ月時点では2段階の視力向上
(0.3→0.5)でしたが、12ヶ月、24ヶ月時点では視力1.2まで回復しました。抗VEGF療法は、針治療開始後は行っておらず、
薬剤の効果消失後の視力の改善が、大きくなったことが分かります。抗VEGF療法は活動期のCNVを一旦消去させますが、
網膜の健全性に対しては、悪影響を与えている可能性があります。第2部で抗VEGF療法などを複数回以上行った症例の結果が、
必ずしも良好ではないことも、私の見解を支持しています。抗VEGF療法は有用ですが、用い方は検討されるべきと考えます。

東京医科歯科大学眼科学教室の長期経過観察では、発症から5年以上(平均約9年)の患者さん(52眼)の平均視力は、半数以上
(64.9%)で0.1以下、0.5以上は僅か14%ということでした。針治療を継続した患者さんでは、0.1未満無し、0.5以上が86.7%、半数以上
(53.3%)で1.0以上という結果となりました。今回の長期症例は15眼と少なく、発症からの経過期間も半分程度(平均約4年3ヶ月)と
短いものの、針治療の有効性は長期間に渡る結果ほど明確であり、視機能の改善が得られる可能性が高まることが分かります。


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針治療による中心暗点の変化の実際

針治療による黄斑変性症の中心暗点の変化を記録した、鈴木式アイチェックチャートによるイメージ画像を紹介します。

実際の治療記録を分かりやすく簡素化したイメージ画像になります。実際には複数の暗点や歪みの部位を伴い、複雑な画像です。
鈴木式アイチェックチャートについては、第3部の最初で紹介しています。測定方法は40センチ程度の距離を取り、片眼で行います。
患者さんは中心部を固視した状態で、周辺部を意識していただき、どのような見え方をしているかを全て記録していきます。



針治療による見え方の変化は、鈴木式アイチェックチャートの記録画像の変化として、詳細に再現することができる。

①治療開始当初、②3ヶ月後、③12ヶ月後、としたイメージ画像です。①ではやや大型の中心暗点があり、中心部は僅かに見える
程度で、暗点内のラインも若干分かる程、視力は0.2であり著しく低下した状況です。②では中心暗点は小さく明るくなり、周辺に
比較して若干暗い程度になります。暗点内が明るくなったことから歪みが出現し、ラインが一部で消えていることにも気づきます。
視力は0.4程度に向上しています。③では中心暗点が更に縮小し、幸い中心部から逸れたため、視力は0.9程度まで回復しました。
暗点は目を細めたり、曇り空などで僅かに気がつく程度。チャート上ではラインがやや薄く見えることや、軽度の歪みが残っている
他は問題はなく、両眼で見る際には異常を感じない状況となりました。

なお、歪みについてのM-CHARTSの測定結果については、まだ完全には把握できてはいませんが、歪みは視力が向上するに
つれて、やや目立つようになり、数値上も一旦悪化します。しかし視力の向上後は数値上も減少する症例が多く、歪みは減少して
いるものと考えられます。患者さんが歪みが軽減したと話される場合には、大きく数値が減少していることも、根拠になります。
針治療での歪みの改善についてのM-CHARTSの結果は、概ね良好なケースも多いのですが、M-CHARTSの測定方法自体に
課題があることに気が付いています。申し訳ありませんが次回の報告までお待ち下さい。

鈴木式アイチェックチャートを使用した測定は、これまで患者さん本人にしか分らなかった実際の見え方を、かなり詳細に再現する
ことができます。千秋針灸院ではこの測定法を用いることにより、脈絡膜新生血管(CNV)の進行状況を把握していきます。この
データの積み重ねが、先に紹介したCNVの様々な進行状況の見え方を再現することも可能にしました。光干渉断層計(OCT)等、
様々な検査機器が進歩してきましたが、最終的には患者さんの実際の見え方が最も重要と考えています。千秋針灸院では、
視力はもちろん、歪みや暗点といった変視の改善を目指して、CNVの治療に取り組んでいます。


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脈絡膜新生血管の再発を防ぎ、瘢痕を拡大させないために

眼科疾患に対する栄養療法について

脈絡膜新生血管(CNV)について、これまでの報告から最も重要なことは、CNVの再発症や健側への発症、そして瘢痕の拡大を
防ぎ、網膜の健全性を保つことが大切であることが分かりました。針治療が有効であることは、今回の結果からも明らかですが、
他にも何かできることはないかという期待がかかります。当院では眼科学だけでなく、抗加齢医学や中医学、分子栄養学等から
CNVの病態を掴み、再発症や瘢痕が拡大する仕組み、網膜の健全化を実現するための試みを続けています。こうした中で、
網膜の健全化を実現するためには、針治療等による網膜の血流改善と、抗酸化物質による活性酸素の除去が、最も重要である
ことが分かってきました。また眼の活動に関わる各種栄養素も、網膜の健全性を高めるために大切です。

抗酸化物質とは、ビタミンCやルテイン(βカロチン)に代表される栄養素で、網膜を含めた細胞の正常な活動から、病気による
損傷の修復や感染症からの回復まで、様々な状況で生まれる活性酸素に対して、中和し無毒化する作用があります。私たちの
眼においては、光が網膜に到達するだけで活性酸素を生じます。活性酸素の生じた全部位に充分な抗酸化物質が行き渡らず、
活性酸素の毒性が網膜に及ぶと網膜は損傷し、結果として網膜の健全性は損なわれ、再発や瘢痕が拡大することになります。

これまでの眼科の治療(経過観察)だけでは、再発を繰り返したり瘢痕の拡大から視力が低下していく理由は、網膜の健全性が
損なわれたままになるのが原因と考えられます。針治療を行っている方の多くで再発や瘢痕の拡大が見られないことから、針
治療等による網膜の血流改善も、酸素や栄養、抗酸化物質を網膜の隅々まで行き渡らせ、老廃物を速やかに運び出すなど、
抗酸化物質と共同で、網膜の健全化を保つ働きに深く関わっていると考えられます。

眼の健康状態に関わる栄養素には、ルテインをはじめ多くの種類があります

黄斑変性ではルテインの減少については有名ですが、分子栄養学の見地からは、眼の活動に関わる全ての微量栄養素の
必要量を満たすことが重要であることが分かっています。何か一つでも必要な栄養素が不足すると、そこがボトルネックとなり
眼全体の健全性を保つことは難しくなります。眼の活動に関わる栄養素は
ビタミンA、B1、B2、B6、B12、C、E、H、ニコチン酸、
パントテン酸、葉酸、ユビキノン、鉄、銅、亜鉛、マンガン、マグネシウム、クロム、モリブデン、ヨード、コリン
が挙げられます。
その中でも特に網膜周辺では、特に
ビタミンA、C、亜鉛が重要な働きをしています。なおルテインはビタミンAの前駆体として、
紫外線から網膜を守る働きをします。

黄斑変性では「ルテイン」が大切と言われ、実際に重要な働きをしますが、眼の活動にはルテインの他にも、様々な栄養素が
必要になります。そこで当院では、マルチビタミン・ミネラルというタイプのサプリメントを基本として、ルテインを加えるよう指導
しています。私自身の眼を使って
1 視力測定をしてみましたが、ルテイン10mg単体よりも、マルチビタミン・ミネラル(ルテインは
2.25mg)の方が優れた結果が得られました。なお私自身が使用しているタイプは、
米国ダグラス社のマルチビタミンタイプ ※2
なります。サプリメントには様々な商品がありますが、先に挙げた栄養素が幅広く含まれていることも、商品を選ぶ際には考慮
されることをお勧めします。
※1 私自身でルテイン10mg摂取、全て摂取なし、マルチビタミン摂取を、各1ヶ月間継続して行い、3回の視力測定の平均値を比較した結果によります。
※2 米ダグラスラボラトリーズ UPX(10) 但し1日推奨量の8錠から、栄養素の含有量が多いため、1日3錠へと減量しています。

有効と考えられる日常生活上の注意点

これまで針治療に加えて、栄養療法について書いてきましたが、他にも日常生活上での注意点を挙げてみたいと思います。

 ○遮光眼鏡の使用...紫外線が関与することは、第1部の報告でも明らかです。最近は薄い色のレンズもあるのでお勧めです。

 ○コンタクトレンズは極力避ける...第1部の報告でも明らかです。CLは本当に必要な時だけ使い、眼鏡の常用をお勧めします。

 ○たばこ、お酒...たばこは止めましょう。お酒については、毎日多量の飲酒は回復力を低下させます。時々なら問題ありません。

 ○運動はウォーキング程度まで...強い負荷のかかる運動は、大量の活性酸素を作りますので、多くの抗酸化物質が必要です。

 ○睡眠...眼を休めることは、網膜に回復の時間を与えるということになります。睡眠時間は充分に取り、夜更かしは避けましょう。

 ○目への負担を軽くする...パソコンやテレビ、携帯等からはできるだけ距離をとり、明るさなどを調整し、時間を減らしましょう。


概ね千秋針灸院で指導している主な内容になります。網膜の健全性を保つために、できるところから始めることをお勧めします。

全国で針治療を受けられることを目標とした、日本で初めての取り組み(当院との連携治療)

針治療の有効性は、前回(2007年)に続き、今回の報告でも明らかになりましたが、大きな課題として、遠方の患者さんは、
治療を継続することが難しいという現実がありました。どんなに優れた治療も、必要な治療回数が行えなければ、十分な効果は
期待できません。この課題を克服するために、当院では患者さん本人への測定記録やカルテを全面的に公開し、できる限り
居住地の近くの治療院で、有効な針治療を受けられることを目指してきました。その際数ヶ月後に再来院していただくことで、
当院での測定により、良好な結果が得られていると確認できた治療院には、その後も眼科領域の患者さんを受け入れていただ
ける様、お願いしており、当院との提携治療院としてHP上で公開させていただいています。

2009年12月現在で、全国15都道府県に当院との提携治療院があり、その他にも非公開でお願いしている治療院が同数程度と
なっています。まだ全国どこでもという訳にはいきませんが、各都道府県全てに提携治療院ができることを目標としています。
当院と提携治療院との間には、一切の利害関係は持たず、当院での各種測定により、患者さんは客観的な評価が得られます。
現在まで150名以上の遠方の患者さんが、当院と地元治療院の連携した治療を行われ、多くの方で良好な結果が出ています。


当院との連携治療の詳細は、眼科鍼灸ネットワーク に掲載しています。

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第3部のまとめ

今回の報告の最後となる第3部では、「脈絡膜新生血管(CNV)とは、どのように進行する病気なのか」を、当院の測定結果から
導き出し、また12ヶ月、24ヶ月以上の長期間に渡る針治療の成績についての統計報告、「CNVの再発を防ぎ瘢痕を拡大させない
ために、患者さんは何をすべきか」として、当院からの栄養療法やその他への見解について書いてきました。

CNVの再発や瘢痕の拡大を繰り返すことで進行する黄斑変性は、対症療法では不十分
「脈絡膜新生血管(CNV)とは、どのように進行する病気なのか」では、発症したばかりの活動期のCNVについては、抗VEGF療法
(アバスチンやルセンティスなど)や針治療は有効であり、まずは網膜へのダメージを最小限に抑えることが大切になります。
しかし抗VEGF療法は対症療法であり、網膜の健康状態が改善されることはありませんから、多くの場合で数年以内の再発症が
報告されています。針治療はCNVへの初期の効果こそ、抗VEGF療法ほどではありませんが、網膜の健康状態は改善し、適切な
針治療を行えた場合には、再発や悪化の多くを防ぎ、視力や変視(中心暗点や歪み)は改善することが分かってきました。
加えて針治療は、視力低下の少ない初期からCNVの活動期、瘢痕に対してまで、どのような状況でも安全に行える治療法です。

針治療は安全な上、最も優れた治療法になる可能性がある
針治療の長期間の治療成績については、今回初めて統計を報告する私さえ想定できないほどの結果が得られました。針治療の
開始から12ヶ月後の結果は、有効(2段階以上の視力向上)が78.8%(26/33)となり、最新の抗VEGF療法であるルセンティスの
40.3%(海外139症例)を遙かに上回りました。また著効(3段階以上の視力向上)も57.6%(19/33)であり、抗VEGF療法を大幅に
上回る結果が得られています。ルセンティスの成績は加齢性黄斑変性へのものであり、また症例数も少ないため単純な比較は
できませんが、今後概ね100症例を超えて同様な結果なら、これまでの各種の治療に対して、針治療の有効性が圧倒的に高い
ことが証明されることになります。更に、針治療は純粋な物理療法であり、全く薬剤を使用しないことから、抗VEGF療法や手術に
対して、安全性の面でも大きく有利になります。

網膜の健康状態を改善するために、針治療をはじめ、前向きな努力が必要
加齢性黄斑変性の欧米での現状から、CNVは将来的に中途失明の原因に繋がる可能性がある疾患です。誰もが加齢に伴い、
回復力は少しづつ低下するからです。当院の報告から、CNVは再発と瘢痕の拡大を繰り返しながら進行する病気であることが、
お分かりいただけたと思います。そして根本的には網膜の健康状態が重要となり、CNVを例え抗VEGF療法で一旦抑えても、
網膜の健康状態が改善しないままであれば、必ず再発・進行してきます。針治療をはじめ、網膜の健康状態を改善する可能性の
ある方法はいくつか存在します。残念ながらCNVに有効な針治療は、まだどの地域でも可能というわけにはいきませんので、
患者さんのできる範囲の方法を実行していただき、CNVの再発や瘢痕を拡大させないよう努力していただけたらと思います。


眼科医の先生方や、鍼灸師の方へ
私から、眼科医の先生方へお伝えしたいこととして、患者さんが一番望んでいることは、「どうしたら良いのか」に尽きます。
お忙しい診療時間の中で、どうか患者さん自身で取り組めることを提案していただけたらと思います。黄斑変性症に対しての
消極的な経過観察は、「放置」と同じで、徐々に悪化していくことを見守るだけになることは、ご存じと思います。やや冒険的な
各種の代替療法も、安全な内容であれば患者さんが前向きに取り組むことで、結果が伴う可能性は十分に考えられます。

また鍼灸師の方は、患者さんから治療の要請があれば、積極的に取り組んでいただきたいと思います。当院は眼科領域専門の
針灸院として、これまで150名以上の患者さんを、お近くの治療院へご紹介してきました。一度でも実際に診せていただいた場合
には、当院での測定結果や治療法を記入したカルテの写しを患者さん本人にお渡しており、患者さんへのメールサポートや先生
方からの治療上の質問にもお答えしています。客観的な測定結果を患者さんにお伝えすることで、可能な限り有効な針治療を
目指していますので、提携治療院を含めて他の治療院との一切の利害関係は持ちません。安心してご紹介ください。

また、どのような治療法でも客観的な結果が伴うことが大切です。全国で有効な針治療を行える治療院を探していますので、
結果が伴う場合には、今後当院からもご紹介させていただけたらと思います。


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おわりに

前回、2007年に(社)日本鍼灸師会の大阪大会で、網膜黄斑変性症の報告させていただいてから、早くも2年が経ちました。
当時の状況は、私も眼科領域の勉強を始めたばかりな上、症例数も少なく不十分な感は否めませんでした。しかし患者さんの
期待は大きく、全国から100名を超える加齢性や若年性の黄斑変性の患者さんが来院され、当院や提携治療院で治療を続け
られた結果が、今回の報告へと繋がっていきました。特に長期間の針治療を継続された症例では、眼科での最新の治療薬さえ
大幅に上回る好結果が得られ、報告を作成した私自身が大変な衝撃を受けるほどでした。

脈絡膜黄斑変性への針治療は中国などで行われていましたが、リスクを伴う眼窩内への針治療であり、日本においては一般
的ではありませんでした。私の開発した針治療は、眼窩内への刺針は不要なため安全性が高く、また提携治療院での治療でも
結果が出ているため再現性も高いことが分かっています。今後更に症例数が増え、引き続き良好な結果が得られる場合には、
針治療は世界的にも有望な治療法に成り得る可能性さえ秘めています。

しかしながら、今回の報告で私が最も感じたことは、当院に来院された黄斑変性の患者さんに共通する「前向きな努力」でした。
決して近所ではない当院まで、私が指定した治療間隔で治療を受けられ、私の指導を聞いて守っていただき、毎回の測定から
喜んだり、落ち込んだりしながら、多くの患者さんが良くなられていきました。この報告も下書きの段階から多くの意見や要望を
いただきました。私も眼科の専門書を数十冊は読み込み、また実際の見え方や症状については、患者さんから伺ってきました。
患者さんの主治医の先生方の中にも、患者さんを通して応援していただけたり、考え方のヒントをいただけたこともありました。
今回の報告は本当の意味で、患者さんに後押しされ、私の家族やスタッフにも支えられながら、完成にたどり着いた次第です。

今回の報告は脈絡膜新生血管への針治療としては症例数も多くなり、有効性もほぼ確実という段階になりました。それでもなお
現実に黄斑変性は社会的な失明への可能性を伴う大変恐ろしい病気です。当院は今後も治療法の改良を続けることと共に、
患者さん自身が黄斑変性に、どのように立ち向かうべきかを探っていきます。また今後も更に多くの症例での再報告を目指し、
眼科領域の他の疾患に対しても、針治療を中心に黄斑変性同様、病気を克服していくための試みを続けていくつもりです。
当院へ来院していただいた全国の患者の皆様、治療院の先生方、支えていただいたスタッフや家族の協力に感謝いたします。

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