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「ストロべリィ・ワルツ」
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「オイシイ生活」 〜ストロベリィ・ワルツ〜 <1> ――その日は、オレにとって。 自分なりに、かなりトクベツな日だったのです。 とは、言ってもね。 たまたま入った奪還の依頼のため、丸一日をそれに費やすことになってしまったから。 実は、自分でもすっかり忘れちゃってたんだけど。 それでも朝から、なんか大事なことを忘れてるような気がして。 なんだっけなー。 なんて考えてたら。 もう仕事の方は、そりゃもう大ドジの連続で。 オレは、蛮ちゃんに怒られてばっかだったのでした。 それでも仕事は無事完了し、時計の針が、もう夜の10時半を回ろうかという頃。 やっと、忘れていた物が何だったのか、オレは思い出したのです。 ――あ。 もしかして。 今日、オレ、お誕生日だったんじゃ…。 そして思い出した途端。 まったく自分勝手だなぁとは思うけど、一番最初に気になったのは、蛮ちゃんはどうだろう?覚えててくれてるのかな?ってコトだった。 もっとも。 当の本人が忘れてるぐらいだから、あまり他人の(自分のさえも)誕生日なんかに興味のない蛮ちゃんが、はっきり言って、気づいてくれてるなんてことは考えにくく…。 スバルのサイドシートから、ちらりと横目で伺う蛮ちゃんの顔は、思ったより簡単に奪還の仕事を終わらせられたことに、とにかくご機嫌ってカンジで。 鼻歌まで、歌っちゃって。 「ご機嫌だねー、蛮ちゃん」 探りを入れるかのように、オレは蛮ちゃんに声をかけてみました。 いやはや、結構狡いかも、オレ。 「おう、あったりまえじゃねーか! なんせ、あの程度の奪還で、あの報酬だせ。ボロ儲けだっつーの」 「でも。まだお金もらってないから、ワカんないけど」 「…不吉なこと言うんじゃねえ! ま、明日になりゃ、金もがっぽり入ってくるしよ。また、テメエの好きな肉でも寿司でも、たんまり食わせてやらぁ」 「本当!? わーい、お肉ー♪お寿司ー♪ あ! じゃあさ。今夜は盛大に前祝いだね!」 何気に話の中に"お祝い"を入れてみるあたり。 我ながら、なんか狡いというよりは、セコい気もする…。 だけど、蛮ちゃんは。 なぜかこういう時に限って、えらくシビアだったりして。 「バーカ! 今回は、奪還完了後の実入りが良い分、前金はケチられたんだ。んな余裕あるかっての!」 「ちぇー。そりゃそーだけどさ…。あ、でも、お弁当くらいは買ってくでしょ? コンビニ寄る?」 「ああ、そっだな。帰っても、冷蔵庫に何もねーしな。あ、缶ビールは、まだちょいと買い置きがあったか」 「うーん。一人二本ずつぐらいなら」 「なら、弁当と、ついでにツマミでも買って…。そんでいいか」 「――あ!」 「あ?」 「え、えと」 「ん? 何だよ。まだ何か買うモンでもあったか?」 聞き返されて、返答に困る。 もちろん、買ってくれたら、そりゃあ凄く嬉しいですケド。 でも、コンビニだしなぁ。 こんな時間にあるのかどーか、今まで気にしたことないから、ワカんないし。 「あ、あの。うん。えっと」 「んだよ! はっきり言え」 「あ! お、お菓子、とかは… 買ってもいい?」 「は? 菓子だぁ? 別にいいけどよ。つーか、わざわざ訊かなくても、いつも勝手にカゴに放り込んでくるじゃねえか、テメエ」 それを、勝手にまた蛮ちゃんが、オレの知らない間に棚に返しに行くんだけどね。 まぁ、この際それはおいといて。 「う、うん。そうなんだけど。お金、足りるかなあって」 「はあ? いったいどんだけ食う気だ、オメー。だいたい、今日は大して消耗もしてねえってのに、夜中に菓子バクバク食ってたら、さらにコロコロ太るっつーんだよ。今日だって、屋敷忍び込むのに、テメエ塀越えごときにもたついてただろうが!」 「あ〜れはですねぇ! お屋敷のワンちゃんに吠えられそうになったからであって! 断じて、お菓子の食べ過ぎで太ったせいでは!!」 「へいへい。とりあえずはオメー、明日から、ダイエット+逆立ち腕立て伏せ一日2000回な!」 「ええっ、そんなあ! ひどいよっ、蛮ちゃんのオニ!!」 「うるせえ!」 「いたっ! もお、すぐ殴る!」 まあ、そんなこんなで。 車内での会話は、楽しかったんだケド。 オレの心は、反してちょっと沈みがちになっていたのです。 だってさ。 どう考えても蛮ちゃんは、今日がオレの誕生日だなんて、全然気づいてないのです。 そういえば4月に入ってからも、誕生日の話題なんて、出なかったよなぁ。 …たぶん、じゃなく。 もう絶対全く忘れてるー。 ――決定。 ま、でも。それはそれでいいんだけど。仕方ないし。 それに、特に何が欲しいとか何を言って欲しいとか、そういうんじゃないから。 ただ――。 でも、ですね。 ちょっと思うのはさ。 「誕生日」っていうのが、大切でトクベツな日だって、そうオレに教えてくれたのは、他ならぬ蛮ちゃんだったから。 無限城育ちで、誕生日なんて、今まで祝ってもらった経験のないオレは、 自分の誕生日が、本当に間違いなくその日なのか、実はそれすら自信がなくて。 だから、"いつか自分の事を知る日の、手掛かりの一つ"くらいしか思ってなかった。 というか、そう思おうといていたのかもしれない。 そんなオレに、蛮ちゃんは言ってくれたんだ。 "「テメエ」が生まれたことに、「オレ」が感謝をする日だ――。" …って。 初めて、一緒にお祝いをしてもらった誕生日に、蛮ちゃんはオレにそう言ってくれた。 かなり、カッコつけながら。 でも言ったその後で、いきなり素に戻って、かぁっと真っ赤になっちゃって。 蛮ちゃん、かわいいーなんて思いつつも。 なんか、胸がじーんとして。 オレは、すごくすごく嬉しかったのです。 誕生日っていいものなんだなって、とても素直にそう思えた。 自分でも、大事にしなきゃって。 そう、思えたんだ。 そんなことがあったから、尚の事。 蛮ちゃんだけには、覚えていてほしかったんだよね。 プレゼントもケーキもいらないから。 ただ、覚えていてほしかった。 思い、膝の上できゅっと、両手の拳を握り固めてみる。 どうしよう。 言ってみようか? 思いきって。 自分から。 だいたい今の今まで、オレだって、奪還の仕事のことで目一杯だったんだし。 蛮ちゃんだって、そうだっただけなのかもしんない。 だったら。 ヨシ。 思いきって。 言っちゃおう――。 「あ、あのさ。蛮ちゃん!」 「おう? どーした」 「き、今日さー」 「ああ?」 「き、今日、実はオレ、誕…!」 「おーっしゃ、ついたぜ!」 「え、えっ?」 「は? 何だよ、え?じゃねーだろが! おら、弁当買いに行くぞ」 なんと、タイミング良く。(いや、この場合"悪く"かな) てんとう虫くんは、アパートの近くの行きつけのコンビニに到着してしまっていたのでした。 うー。 マジでタイミング悪…。 「ぼけっとしてねえで、さっさと降りろ」 「あ! ちょ、ちょっと待ってよ! 待ってったら、蛮ちゃん!」 コンビニの駐車場に車を停めて、とっとと運転席から出て店の入り口に向かう蛮ちゃんに、しばしぼけっとそれを見ていたオレは、やっと我に返ると、慌ててそれを追うように車を降りたのでした。 ――あぁ、もうサイアク。 でもって。なんか、もしかして。 かーなり、ヤな予感がするんですけど? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2へ続く。 とりあえず、3で終わるハズ。 連続更新できるといいな…。(希望) ちなみに、「オイシイ生活」の蛮銀ですので、まだ出来上がってない二人なのですv |