■ エスケイプ 4 ■


あっというまに数日がすぎて、タケルは少し日焼けした。
兄の方が日焼けは濃くて、タケルはなかなか日焼けしない肌らしく、どちらかというと火傷のように赤くなって、そのままひいてしまうことが多かったが。
今年の夏は、それでも少しだけ焼けた。
それがタケルには嬉しかった。
どうせ、東京に帰れば大輔なんかは、もっと真っ黒にサッカー焼けやらプール焼けをしているだろうが。
それに張り合う気は毛頭ないけれど、ちょっとは挽回できるかと思うと、なんだかそれが嬉しかったのだ。
毎日のように野菜をとって、野や山を駆けまわって、蝉の声を浴びながら、空を仰いで雲の流れを見る暮らし。
井戸水で冷たくひやした野菜やすいかをほおばって、タケルは日に日に生き生きとしていった。
ヤマトは、素直に笑っている弟が嬉しくて、それだけで充分しあわせだった。
本当に、この時が永遠に続いたなら、どんなにか幸福だろう。
それでもあっという間に、二人の休暇は折り返し点を過ぎ、残りがわずかになっていくと、少しタケルの顔にも陰りが見えるようになってきた。
それをかわいそうに思いつつも、どうしてやることもできなくて、ヤマトはそれを振り払うように、タケルを毎日自然の中にひっぱりだした。


「わ、いっぱい釣れたね」
「おう、まかせとけ」
バケツの中をきらきらと泳ぐ魚を見て、タケルが感嘆の声を上げた。
山の中の上流の川は、すさまじく水が澄んでいて、冷たくて気持ちがいい。
タケルはビーチサンダルを脱ぐと、釣りにいそしむ兄の邪魔をしないように、そろりと川に入っていく。
「わあ・・・・冷たい」
「ころぶなよ」
「もう、子供みたいに」
子供だろうが。と心の中でつぶやいて、川の水の中に魚を見つけて、それを素手で掴まえようとして、はしゃぐ姿に思わず微笑む。
短パンの裾が濡れるのを少し気にするしぐさに、ヤマトがからかうように言う。
「濡れるんのが嫌だったら、脱いじまえば?」
言われて、ぱっと赤くなる。
「いやですよーだ。そんなことしたら、誰に何されるかわからないもん」
「お、言ったな」
タケルの答えに、二ヤリと笑って釣り竿を置くヤマトに、タケルがぎょっとする。
そのまま、ぱしゃぱしゃと川に入ってくると、いきなり、少し日にやけた弟の腕を取った。
「誰に何されるって? ん?」
「あ・・・いや、別におにいちゃんて、わけでは・・・」
焦って、笑顔でかわそうとするけれど、握られた手首は解放される風でもない。
「挑発すんなっての」
「してない、ってば」
「だったら」
「先に言ったの、おにいちゃんの方・・・・」
言いつのろうとする唇を、兄の唇が塞いでしまう。
無駄と知りつつも抗おうとするけれど、太陽の光がまぶしすぎて目が開けられず、口中に侵入してくる兄の舌が心地よくて唇をかみしめることも出来ないで、おずおずとそれに自分の舌で答える。
甘いディープキスに酔いしれて、タケルががくりと膝を折る。
それを慌ててヤマトの腕が支えるけれど、一瞬遅く、ぱしゃりと川の底に膝をついた。
それを追うようにして、ヤマトも口づけはそのままにして、水に浸りながら、弟の身体を抱き締める。
濡れたシャツをたくしあげて手を入れて胸に触ると、いやだ・・!と身をすくめるけれど、構わずそこを指先でこするように刺激すると、「ああ・・・」と甘い声が漏れた。
のけぞる鎖骨のあたりにキスすると、バランスを崩して倒れそうになって、慌てて両手を兄の肩にまわしてしがみつく。
その身体を抱き寄せて、岸の方に上体を寝させて、キスはやめずに短パンに手をかける。
「いやだってば・・」
口付けを逃れてやっとそう言っても、兄は構うどころか腰を持ち上げ、一気に下着も下ろして足から引き抜く。
「あ・・! やだってば、誰かきたら・・!」
「誰も来ねえって。こんな山奥まで」
「わかんないよ、ねえ、やめ・・・」
その言葉の終わりを待たずに、ヤマトがタケルの身体を開いて、胸につくつらいまで膝を持ち上げ、太陽の下にタケルの奥まった秘部を露にする。
恥かしさのあまり、涙がにじむけれど、それでも中心はすでに熱い。
日焼けするはずもない場所を、白日のもとに晒されて、自然の中で兄に犯されることに欲情しているのだと自分で自覚して、タケルはきゅっと唇を噛むと、観念したように膝の力を抜いた。
こんなことをされることを、心のどこかで望んでたんだろうか。
兄の指が秘部を開く。
差し入れられると、どうにも、そこ以上に胸が苦しい。
「はあ・・」と声を上げると同時にぐいっと中を掻き回されて、そそりたつものにヤマトが舌を絡めて舐め上げる。
「ああ・・・・ッ!」
思わず、ぴんと伸ばした足先が、川の水を跳ね上げた。
濃厚な愛撫に白い内腿が痙攣したように震え、開放的な陽射しの下で薄い胸を仰け反らせる。
「ん・・・・・ぁあ・・・・・や・・・・・あ・・・・あ・・!」



悩ましい高い声が、澄んだ空気の中に響いた。
そして、充分に解されたその身体に兄が入ってきた感覚に、タケルの全身に痺れが走り、気を失いそうになりながらも細い腕が懸命にヤマトにしがみつく。
痛みとともに快楽を与えられながら見上げる空は、高くて青くて、周囲のけぶるような緑さえも、切なくて泣きたくなるような色に映った。
この夏最後の、一番強烈な思い出になるだろうと思いながら、タケルはもう自分がどんな格好でいるのかも忘れて、ただ、自然の中で兄と繋がって、そんな罪な行為さえ、どこかすべて許されるような気がしていた。







【イラストは、匿名希望さまv(笑)】

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