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図画工作科と総合的な学習の時間での“ものづくり”



江戸川区立宇喜田小学校 川島真紀雄

アイコン はじめに
 若年者を中心としたものづくり離れや技能離れと言った傾向が続く中で、産業界の各分野で我が国の経済発展に重要な役割を担ってきた優れた技能者の確保や、その後継者の育成が困難となってきている。これらの一因としては、若年期において、ものづくり体験に乏しいこと、ものづくり現場を見る機会が少ないこと、またそのために技能に対する関心が低いことなどが考えられ、若年者にものづくりの楽しさや素晴らしさを知る機会を数多く提供することが求められている。
〈引用HP〉厚生労働省「ものづくり教育・学習に関する懇談会」の中間まとめより。平成12年5月18日http://www.jil.go.jp/kisya/noryoku/20000518_01_n/20000518_01_n_shiryou1.html

「人の真似をするな、新しいことをやれ」 ソニー創始者:井深 大 
アイコン T.ものづくりは人づくり
   新しい学習指導要領が、今年から実施されている。ゆとりは学力低下につながると、時間数削減または学習内容の省略だけが大きくマスコミ等で紹介され、父母の心配を煽っている状況である。
 「ゆとりの中で、生きる力をはぐくむ」という、文部科学省の意図している―学習の量ではなく、学力の質の問題で論議されなくてはならないだろう。“ものづくりは”とは、先の中間のまとめで述べられているように、これまで各教科や生活の中で学んだ知識や理論を実感を伴って理解し、ものづくりのプロセスの大切さを認識するとともに、作る喜びや完成の達成感を味わうことができる。その結果、創造性や自ら主体的に取り組む態度、ひとつのものに取り組む集中力や忍耐力、協調する態度を醸成することができる。
 まさにものづくり教育は、自ら学び、自ら考える力の育成を体験を通して実現する学習なのだ。ものをつくるのに必要な基礎的・基本的な内容の定着を促し、個性を生かす教育の充実を図るものである。
 紙での答案ではない、この活動はできあがった作品(製品)の成果ばかりではなく、モノを生み出すその横断的・総合的な過程が、児童の人間として調和のとれた育成を目指している。
 「“夢を追う能力”を君が持つが、こんな意思を持つ機械は存在しなかった。君は新種の第1号だ、ディビッド!」。ご覧になった方もいると思うが、これは映画『A.I』の1こまである。ディビットが自ら考え、行動し、親の愛情を追い求める姿はとても感動的であった。読み書きだけを基礎学力と叫び、机上で行う暗記主体の学習だけで、子どもをA.I[Artificial.Intelligence](人口知能)にしてはならない。答案用紙だけでは、真の学力は判断できないのである。
 「生きる力」とは、学んだことが実際の社会に生きるような、具体的な学力を希求している姿だと思う。今まで学校で学んできたことを試す機会や現実社会に対応した学習を、新しい教育課程や「総合的な学習の時間」は意図している。つまり、ものづくり学習とは、総合的な学習のねらいにあるように、学び方やものの考え方を身に付け、問題の解決や探究活動に主体的、創造的に取り組む態度を育て、自己の生き方を考えることができるような人間をつくるのである。
U. 図画工作科での進めるものづくり 
 日本は現在、戦後最大ともいわれる不景気に見舞われている。この不景気の原因として、日本の国内生産量の減少や生産技術開発力の低下、製品技術水準の低下などが叫ばれている。昭和の時代に日本の好景気を支えてきた、自動車・電気・繊維などの産業が、外国との合弁や外国産の脅威に怯えている。合わせて、日本企業の数々の不祥事により、日本製品の信用と品質が国際的に大きく低下しているのはとても残念なことである。美(倫理)を基調にしたものづくりを復活する以外に、日本国再生の道はないのかもしれない。
 私の手元に図画工作科の教科書がある。昭和27年3月に国民図書刊行会が発行した『新図画工作 小学6年』である。この驚くべき、社会に対応した36件の内容を、各ページに記されている題材名で、原文のまま紹介する。
 1.〔鑑賞〕笛を吹く少年2.〔春の風景〕風景スケッチ3.写生4.がくぶちの工作5.できあがりのいろいろ※筆者注釈:作品イラスト6.〔もけいと服しょく〕アクセサリー7.ししゅう8.船と飛行機9.動くおもちゃ10.〔美しい形〕形の感じ11.〔家の中〕間取り図・記号・見取り図12.家具のいろいろT13.家具のいろいろU14.人形の作り方15.できあがり16.〔洋風〕高層建築17.風景18.人物スケッチ19.写生20.埴輪21.油絵※筆者注釈:作品写真22.工芸品23.寒暖の配色24.〔美しい色〕明暗による単化25.捺印もようと用具26.落葉スケッチ27.落葉の写生28.〔郷土の風ぞく〕29.郷土の行事30.〔文化の生活〕文化器具の写生31.文化器具の考案※筆者注釈:洗濯機、トースター、流し台などの写真32.台所用具の工夫33.台所の設計34.板金工作35.配色と色立体36.〔思い出〕壁画

 この内容を見て、「どうやって指導すればいいのだろうか?」が教師の最初の感想であろう。しかし、多様な絵画の領域だけではなく、建築・ファッション・乗り物・インテリア・工芸品・家具・電気器具など、すべての生産部門について考慮し、その設計・製作についての熱い意欲が感じられる。児童は、実習はできなくても、この教科の壮大な領域がインプットされたであろう。大げさに言えば、この教科書を学び、多くの人間がアーチストではなく、デザイン・生産・消費者として、日本の産業や好景気を築いてきたように想う。
 振り返って現在の図画工作の教科書を見ると、写生題材は影を潜め、いろいろな材料を使って、一見楽しげで、マスコットのようなカラフル題材が溢れている。
 どの教科でも、題材の中で楽しさだけを追っている学習はないが、近年、図画工作科はこの傾向が大である。どの教科でも、うまい、優れているを認めているが、この教科では一般にタブーである。なぜなら、芸術(アート)や個性という、主観的なテイストを評価に入れようとし過ぎたからである。そして、本能的な創作の喜びに振り回され、基礎・基本の定着、作品の完成度、技術指導は後回しにされてきた感がある。事実、優劣がはっきりして、図画工作が嫌いになるからと―写生や本棚など技術的な指導を敬遠して、不定型な作品作りが多くなっているように感じる。
 一方では、○○式絵画や、三原色の○○方式など、主体的な美術教育とは反する手法で、一見大人らしく、うまいと唸らせるための会が各地で合宿を行っている。
 話は少し横に逸れたが、教科の目標である、「表現及び鑑賞の活動を通して,つくりだす喜びを味わうようにするとともに造形的な創造活動の基礎的な能力を育て,豊かな情操を養う。」と唱いながらも、楽しさや感性を優先させてしまい、教科としての基礎や生きる力に対しての考察が足りなかったように思う。
 最も抜けていた点は、ヴィジュアルな教科として、絵画や彫刻などを教える芸術教科だけでなく、形体をもつ製品すべてのデザイン・製作を担当するクリエーティブな生産教科としての意識である。学校での基礎教育としては、芸術的教養よりは、市民には生活美が優先されるのは当然である。これからは、つくる体験を基盤に、個人のつくる楽しみの質をより広げ、製品・商品のデザインを含んだプロダクト教科として、その領域をアピールしていかなければならないと考えている。
 さらに、IT(インフォーメーション・テクノロジー)の導入を、教科として、デザイン・製作・発表などの多くの具体的な場面で試行していかなければならないだろう。   
 デザインとはモノの持つ美的価値を高める行為だと言われるが、教育とは人の持つ美的価値を高める行為である。この教科で目指しているのは、生産者や芸術家だけではない、自分でよりよく生きることは美の判断であり、創造である。まさに、ものづくりとはひとづくりなのである。
V.創作和菓子の実践
 図画工作科で進めるものづくりや生産活動などの「総合的な学習の時間」を構想する段階で、まず思い浮かんだことは、「イメージを造形化」する活動である。地域の特色として、下町の江戸川区では多くの和菓子屋さんが頑張っている。この地域の手づくりから活動を起こしていった。
 『創作和菓子』のようなデザイン活動の目的は、まだ見ぬ、形になっていないモノ(コト)を具体的に見せることである。そこで必要な基礎的能力としては、まずスケッチ力があげられる。1枚のラフスケッチから、映画、自動車、建築、製品などの新製品が生まれてくる。うまい下手ではなく、スケッチする。そんな、よりよいものを目指してデザインする=“夢を追う能力”が、この学習の大切な内容になっている。そして、その最も効果的な学習方法とは夢を実現する『実習』なのである。

(1)プロダクトデザインとしての活動
プロダクトデザインとは、製品のデザインを意味する。商品の使用性と審美性の両面の価値を高めることを目的に、衣食住全般での生活に関わるすべてのモノを対象領域として取り組み、具体的に商品(作品)としてまとめあげる。それは、つくる喜びを大切にしながらも、作品(製品)を媒体として「つくり手」と「つかい手」の要求を整え、総合する活動でもある。
 今回は和菓子を取り上げたが、身の回りの道具から空間まで、あらゆるモノ、商品を対象としてその生産性・品質・使いやすさ・美しさなどを判断して、フォルムに反映させるていく生産学習である。つまり、プロダクトデザインとは問題の解決を行う「総合的な学習の時間」として捉える。
 さらに、デザインとは、世界共通語であり、翻訳なしでビジュアルコミニュケーションを進めることができる。本校がインターネットで作品発表しているのは、そのような意図をもっているからである。
〈宇喜田美術館〉http://www5f.biglobe.ne.jp/~eLearning/gallery.html

(2)制約のなかでの造形
 @材料や場所などの特徴をもとに工夫して,楽しい造形活動をするようにする。これは5.6年生の、図画工作科〈造形遊び〉の目標である。指導するのはとても難しい。なぜなら、学校での活動は、時間・場所・目的・用具などを含めて、児童に完全な自由などはないのに、「造形遊び」を自由な造形活動として支援しなければならないからである。実際の授業では、どこが自由かをはっきりと指示して活動しなければならない。
 同じように、「総合的な活動の時間」実施に対しても、そのねらいを忘れて、「なんでもいい」と解釈してる先生がいると聞く。このことが、今度の改訂について社会の不信感を招き、新しい教育課程を揺るがしている最も大きな問題であると認識している。
 この学習で進めるプロダクトデザインとは、創造という自己アイデンティティーの発揮の場ではあるが、審美性や実用性などを判断し、制約の中でものを生み出す力をはぐくむ活動である。さらには、つくる楽しさ、完成の喜びを「つくり手」「つかい手」がともに共有できる貴重な体験である。
 今後、このような生産的な活動を教科として進めるには、まさに時間的制約の中で、「総合的な活動の時間」と結びつく時間を確保していくことが大切な課題だと考えている。

(3)ものづくりの活動として
 この学習活動で意識したことは、はじめにも述べたように、日本のものづくり力の低下である。文部科学省もこのことを強く意識して、ものづくり基盤技術振興基本法(平成11年法律第2号)を制定している。その内容を見てみたい。
〈引用HP〉http://www.mext.go.jp/b_menu/public/2000/000401c.htm

 第1節 計画策定の意義と背景
 ものづくり基盤技術は、我が国の基幹的な産業である製造業の発展を支えることにより、生産の拡大、貿易の振興、新産業の創出、雇用の増大等国民経済のあらゆる領域にわたりその発展に資するとともに、国民生活の向上に貢献してきた。また、ものづくり基盤技術に係る業務に従事する労働者は、このようなものづくり基盤技術の担い手として、その水準の維持及び向上のために重要な役割を果たしてきた。
 しかし、近時、就業構造の変化、海外の地域における工業化の進展等による競争条件の変化その他の経済の多様かつ構造的な変化による影響を受け、国内総生産に占める製造業の割合が低下し、その衰退が懸念されるとともに、近年、若年者を中心としたものづくり離れ、さらには熟練技能者の高齢化等により我が国の経済発展を担うものづくり基盤技術の継承が困難になっている。
 第2節 今後のものづくり基盤技術振興のための方向性
我が国の国民経済が国の基幹的な産業である製造業の発展を通じて今後とも健全に発展していくためにはものづくり基盤技術に関する能力を尊重する社会的気運を醸成しつつ、ものづくり基盤技術の積極的な振興を図っていくことが不可欠である。

 つまり、長引く景気の低迷を受け、日本の生きる力は基幹的な産業である「ものづくり」だと訴えている。それなら、なぜ「図画工作科を高学年で20時間、中学年10時間も削減したのだ」とは教科の立場で訴えたくもなる。
 続いて、図画工作科の目標のような文章が続いている。ものづくりを「総合的な学習の時間」としてだけとらえられていることは、教科の意義や努力が理解されず、改めて残念なことである。 

 第1節 学校教育におけるものづくり教育の充実
 青少年のものづくり基盤技術に対する関心と理解を深め、ものづくり基盤技術を支える創造性に富んだ人材の育成を図るために学校教育の果たす役割は重要である。このため、青少年の発達段階に応じて、ものづくりに関する学校教育の充実を図る。
1.初等中等教育におけるものづくり教育の充実
(1)小・中・高等学校等におけるものづくりに関する体験的な学習等の充実
 自ら学び、自ら考え、自ら行動し、問題を解決する力などの「生きる力」を育成することを基本的なねらいとした新しい学習指導要領に基づき、関係教科の中にものづくりなどの体験的な学習を積極的に取り入れるとともに、新たに創設された「総合的な学習の時間」において、各学校の創意工夫を生かした教育活動の中で、ものづくりなどの体験的な学習の推進を図る。
 また、ものづくりを実際に体験することや、産業や地域社会に関する学習を通じて、我が国の産業を支えているものづくり基盤技術や、これを支える技術者や技能者の社会的な役割の重要性を理解させ、これらを尊重する態度の育成を図る。
 こうした学習の実施に当たっては、学校と地域や産業界との連携を図り、地域の熟練ものづくり労働者などの教育力を積極的に活用するとともに、地域の製造現場等における職場見学の実施などの取組を推進する。

 次に、以上の文章は少しわかりにくいので、労働省が、文部省と共同で、平成11年10月より、検討を行ってきた「ものづくり教育・学習に関する懇談会」の中間まとめを少し引用してみたい。

〈引用HP〉http://www.jil.go.jp/kisya/noryoku/20000518_01_n/20000518_01_n_shiryou1.html

○ ものづくりと教育・学習
 (前半略)
 また、ものを上手に、巧く作ることができることは、楽器の演奏やスポーツに秀でていることと同様に素晴らしいことであるという認識を育むことが、ものづくり教育・学習には期待できる。さらに、ものづくりの重要性や技能・技術が果たす役割を理解し、ものづくりを支える方々を尊敬する態度を身に付けさせ、労働を尊ぶといった望ましい職業観や勤労観を育成することが期待される。
 これらに加え、自ら道具や機械を扱う中で、安全確保の重要性、安全を最優先する態度の醸成が期待される。このように、「ものづくり」は、「人づくり」、とも言え、さらには「国づくり」にも貢献し得ると言えるのである。
ロ 教育手法 
 児童・生徒がものづくりの楽しさ、素晴らしさを知るには、教室で先生の話を聞いたり、教科書や教育用ビデオ等を使って学習するだけではなく、実際にものづくりを体験し、実物に接するといった体験的な教育手法が効果的である。これらの教育手法としては、児童・生徒が熟練技能技術者の指導によって自ら物を作ったり、ハンズ・オン活動(見て、触って、試して、考える)を行う「体験手法」、工場・作業場や学校等の施設内で実作業や実演を見る「見学手法」、仕事の内容、技能の習得過程について熟練技能技術者の話を聞く「聴講手法」等の手法が考えられる。 

 具体的な方法は参考になるが、施設見学となるとやはり図画工作科だけでは処理できない。一部は総合的な学習の時間扱いになりそうである。

(4)伝統とものづくり
 伝統の中の創造も、この学習の大きな視点になっている。
 平成11年3月に伝統の町京都で、21世紀へのものづくり・ひとづくりシンポジウムが開催された。

 「京都が長い歴史と伝統のなかで育んできたものづくりの技術は、今日、伝統産業と近代産業の融合として、様々な分野において高い付加価値をもつすぐれた品質の製品を生み出しており、全国的に高い評価を得ている。
 しかし、それらを支える高度なものづくりの技が、熟練技術者の高齢化や時代を担う青少年の科学技術・製造業離れなどによって、技術の継承・発展及び人材の育成の面から憂慮すべき事態にある。
 京都の「ものづくり」の将来、特に21世紀に向かって経営者が逞しく元気で、特化した製品技術を新たな分野、販路に生かすために開催する。」
〈引用HP〉http://www.mtc.pref.kyoto.jp/gyoji/1998/monodukuri/19990304a.htm  
5年 〈児童作品〉

 日本では長いこと鎖国を実施してきた。その結果、我が国の伝統文化は侵されず、保護されてきた面は無視できない。しかし、反面、日本人は世界を知らずしてグローバルな視点がなかっために、自国文化の良さについては気付かなかった。世界に誇る「浮世絵」や「桂離宮」等のよさは、外国人によって認められ、誉められて初めて日本人は理解した経過がある。
 図画工作科は表現及び鑑賞の活動を通して、つくりだす学習である。その外観ばかりではなく、使用する人が試して真のよさがわかるグッドデザイン商品のように、鑑賞の能力はとても重要になってくる。日本の伝統を忘れ、外国ブランドを追う日本女性の鑑賞力は外国の企業の生産力を支えている。
 「我が国や諸外国の親しみのある美術,暮らしの中の作品などのよさや美しさ,表現の意図などに関心をもって鑑賞すること。」これは、図画工作科5.6年B 鑑賞の目標である。この活動でも、暮らしの中の伝統や美に気付いて欲しいという願いを持っている。
 
 言うまでもなく、この活動で取り上げた和菓子は、美しい日本の文化である。
「四季のもつそれぞれの色、香、音・・・感じていますか。受け継がれる伝統の技で、あなたに伝えたい・・・」
ホームページ『和の心、職人の技』より
〈引用HP〉http://hinatan.cool.ne.jp/
 
(5)和菓子の良さ
「菓子は人なり」菓子は人の手がつくりだすもの。
"確かな技術と豊かな感性のバランスから、人を感動させる菓子が生まれる"。これが東京製菓学校のポリシーです。
〈引用HP〉http://www.tokyoseika.ac.jp/

 和菓子が好きであることも活動の1つの要素だが、まずコンセプトを整理しながら、これからつくろうとする作品(商品)を理解するために和菓子の歴史や由来について調べたり、その美しさやよさに触れたりすることで関心や理解を深めていった。〔インターネットでの検索〕

〈引用HP〉全国和菓子協会 http://www.wagashi.or.jp/history.htm
○歴史
古代人にとっての菓子は、天然の果物や木の実であり『果子』であったと考えられています。
古代の穀物加工技術の発展に加えて唐菓子、南蛮菓子、西洋菓子の影響を受けた 和菓子の技法は、さらに日本独特の文化と伝統の中で育まれて今日を迎えているといえましょう。これは、日本人が新しい技術を受け入れて、それを吸収し自分のものとして、その中から新しい日本独自の和菓子を創り出してきたことを示すものでもあります。

○和菓子と健康
食べ物と健康との関係が注目を集めています!!
和菓子には自然のめぐみがいっぱい。
太陽をいっぱいに浴びて育てられた小豆やいんげん、手亡(てぼう)などの豆類、餅米や米粉、小麦粉などの穀類、いも類やごま、寒天、砂糖など、どれをとっても自然の中で育てられたものばかりです。
植物性たん白質が豊富に!!
和菓子には植物性たん白質が豊富に含まれているのをはじめ、そのほとんどが植物性の栄養素で、コレステロールの大敵といわれる動物性脂肪はほとんど含まれていません。
砂糖の甘さも健康には必要!!
ほとんど純粋な炭水化物で、身体に必要なエネルギー源や、脳や神経のエネルギー源であるばかりではなく、脂肪を燃やしてエネルギーにかえるという重要な役割をはたしています。
バランスのとれた食生活のためには砂糖は欠かすことのできないものなのです。

○和菓子と季節
和菓子は現在も季節を大切にしています。私たちの生活文化ともいえる四季の行事を大切にしています。
和菓子のもつ季節にはふたつの特徴があります。ひとつは、その季節になってはじめて顔をだす和菓子の数々です。
桜もち、草もち、柏もち、水羊かんetc。これらの和菓子は季節の訪れを告げる和菓子とさらにひとつは、季節を表現する和菓子です。
和菓子という小さな形の中に自然の風物を映しとって表現し、季節の移ろいに一足早く美しい装いをみせる和菓子です。
上生菓子、煉り切りなど様々に季節を表現した和菓子が、召し上がる方々に季節の訪れをお伝えします。
人間の五感は視覚、味覚、触覚、臭覚、聴覚で、食べ物に限らず人間はこの五つの感覚で生きています。
手づくりの魅力は心の魅力でもあります。
作り手の感じるもの、作り手が表現したいものを、作り手の感性を生かして、和菓子に表現するところにあります。
 春・梅、桜、菜の花、etc、夏・あじさい、撫子、水、etc、秋・桔梗、菊、紅葉、etc、冬・椿、水仙、雪、etc
このような姿を表現する和菓子は色、形、大きさなど作り手の考え方や感じ方で、様々に変化します。それは、絵画や陶器に描き手の作風があることに似ています。和菓子が芸術的といわれる所以でもあります。
W 実践の記録
 本校の創作和菓子の実践記録は、ホームページにて発信している。ものづくり体験は感性・理性・技術などを総合的に働かせる学習活動として捉え、これからも児童の総合的なレベルを上げることを目標として取り組んでいきたい。
〈実践HP〉http://www5f.biglobe.ne.jp/~eLearning/wagashi.htm

(1)題材について・主なねらい/The subject matter, Main Aim
 ○問題の解決や探究活動に主体的,創造的に取り組む態度を育てる。〔総合的な学習の時間(2)〕 
 ○表したいことを表すために,形や色,材料の特徴や構成の美しさなどの感じ,構想して,創造的な技能などを生かして表現する。
〔図画工作科第5,6学年 A表現(2)〕
 ○我が国の親しみのある色と形―和菓子のよさや美しさ,栄養,健康などに関心をもって見る。〔図画工作科第5,6学年 B鑑賞(1)〕

(2)活動計画・活動内容/Schedule,Contents
 新商品を企画的に提案するためには、現状の問題を見つめられる分析力、アイディアを生み出す発想力、全体をまとめる構想力、そして形体をまとめる造形力、人前で提案できる表現力が必要である。
〈引用文献〉逸身健二郎著『プロダクトデザインガイドブック』美術出版社,2002 
1.和菓子について調べる。(パソコン室)
2.スケッチブックに構想する。(アイディアスケッチ)アイディアを出して視覚化する。
3.紙粘土でつくる。(色は、紙粘土に水彩絵の具を混ぜ込んで着色)モデル作製clay works
4.お菓子の名前をかいて菓子箱に並べる。
5.創作和菓子を鑑賞する。
 実際に食べる活動までは行えなかったが、将来的には検討してみたい。デザイナーは「好きだ」「自分らしい」「作っていて楽しかった」では済まされない。この学習では色や形、技術、ネーミングなど造形の美しさが評価の観点になるが、実際では味や値段、賞味期間など総合的にとらえて評価を下すことになるだろう。
 デザインプロセスは評価と創造の繰り返しである。その過程の中で、自分で判断の材料があったか、決定の場面があったか、それが創造的な学習のポイントになるような気がする。
児童の感想としては、「食べたくなった」「和菓子の作り方がおもしろかった」「自分でつくれるから楽しかった」「いろいろなものをつくった」など、好評なものが多かった。
6.パックに入れて持ち帰る。

あとがき
 デザインは夢を描くことから始まる。そして、方向転換を含めて、夢だけでは終わらないようにするにのが文部科学省の目指す「生きる力」であろう。ディビッドはそれを教えてくれている。
 自分の道を自分でデザインし、ユニバーサルデザインなど、美的生活の創造に寄与するとともに、未来の地球を美しくデザインしていける児童・生徒を目指していきたい。
 なお、本校のホームページにおいて、ITを活用して、環境を意識した活動『よいクルマをつくろう』の実践も発表しています。
〈実践HP〉http://www5f.biglobe.ne.jp/~eLearning/car13.htm
      http://www5f.biglobe.ne.jp/~eLearning/automobile.htm


 ご意見などいただき、「ものづくり」の実践の輪が広がり、共有できる実践が増えることを願っています。
 なお、ものづくりと創造性の関係について、以下に考えをまとめました。
(論文HP) http://www006.upp.so-net.ne.jp/artcommunal/Creative.htm

<追加実践HP>
○よいロボットをつくろう
      http://www5f.biglobe.ne.jp/~eLearning/robot.html

これからの都市計画(としけいかく)
    
http://www5f.biglobe.ne.jp/~eLearning/newtown.html
〈参考文献〉逸身健二郎著『プロダクトデザインガイドブック』美術出版社,2002
本田宗一郎と井深大−夢と創造−展
東京都歴史文化財団にご理解、ご協力をいただき、リンクをはらせていただいていましたが、開催期間は終了しています。


制作 8/19/2003 更新 2/9/2009

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