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── はじめに ── |
丹生都姫神のことは記紀神話には登場しませんが、『播磨国風土記』逸文に、赤い浪の威力によって神功皇后の新羅遠征を助けたとあります。現在、この女神は和歌山県かつらぎ町上天野に鎮座している丹生都比売神社で祀られていますが、私は以前から直感的に、この女神はもともと、海人たちによって祀られていた大地母神で、ほんらいはギリシア神話のデメテルやペルセポネーのようなスケールの大きい神格だったのではないか、と考えてきました。
しかしその一方で丹生都姫神は朱砂の女神であり、大地に含まれる水銀を神格化したものだという松田壽男氏の有名な研究もあり、これは広くゆきわたっています。私は松田氏の著書や、そこからうかがわれる行動力・好奇心ともに旺盛な人柄は好きなのですが、何て言うのか、それを受け入れる側の「丹生都姫神」と言えばすぐに「みずがね姫」にしてしまう紋切り型(を許している風潮というか風土)が嫌いなのです。とにかく、「丹生都姫神=みずがね姫」という言説は今でほとんど留保なしに流通し、いたるところで再生産されている感じですが、私は意外とひねくれ者なのでそういうのを見ると逆らいたくなるのです。
このシリーズでは丹生都姫神のことが扱われる訳ですが、そういう訳で、この女神が水銀の女神であるという説をできるだけ避けて執筆を進めるつもりです。本当にひねくれていますが、そうすることで今まで丹生都姫神について目に付かなかった重要なことが、よく見えるようになってくるのではないでしょうか。
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