ふわふわ君

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  2 お父さんの悩み  

 ボーっとしながら、仕事をしている、ケルラパパ・ラーク。ここ最近、あることについて悩んでいた。だから、ご飯を作るなどの絶対に必要なことはしていたけど、手抜きできるものは手を抜いていた。だから、ケルラは最近、ちょっと不満だった。お父さんが全然構ってくれないのだ。前ならちょっとだけでも撫でてくれる日もあったのに、今は完全に無視するから…。

「みぃー、みぃー。」
 父の足に体を擦りつけながら、懐いてみた。撫でてくれるかもしれない。
「…。」
 反応無し。
「にゃー!にゃー!にゃああぁぁーー。」
 気を引きたい猫そのままに、甲高い声を出すケルラ。
「黙ってろよ…。」
 足で押されて、ケルラはひっくり返った。蹴られていないから、痛くはない。それで、懲りずに足にじゃれついた。だんだん熱中してしまい、ラークの足に思い切り噛み付いた。
「いってえ!こらっ、ケル!!」
「みゃ!」
 ケルラは慌てて逃げ出した。でも間に合わずに、お父にゃんのお膝の上に強制移動。折角お父にゃんに触れられたと思ったのに。
 『構って欲しいだけだったにゃ。痛くしたかったんじゃないよ。』お尻をぱーんっ、ぱーんっとぶたれる。
「噛むなって何回言ったんだよ!少しは覚えろ、馬鹿息子!」
「ごめにゃ、ごめにゃ。にゃーっ。」
 痛くて暴れるケルラ。一所懸命謝るけれど、口は回ってくれない。「ごめにゃさい、お父にゃん。」
 ぱーんっ、ぱーんっ。ケルラの目から涙が零れる。お尻が痛い。痛い。止めて欲しい。痛くて、にゃー、にゃー、泣いていたら、
「お前の声を聞いてるだけで腹が立つ!」
 お父にゃんはとんでもないことを言い放ち、お仕置きを途中で止めて、ケルラを放り投げた。ケルラは、いつものようにソファの上に落ちる…筈だった。どすんっ。「えっ!?」
 いつもと音が違うので、吃驚して振り返ると、ケルラは床の上だった。一瞬後、ケルラが泣き叫び始めた。ゾッとして駆け寄るラーク。ケルラは足に触れながら泣いていた。
「折れてはいないな…。着地に失敗して捻挫したか…?」
 ラークは掌に気持ちを集中させた。「…ケル、ちょっと手をどけろ。」
「みゅう…?」
 お父にゃんの掌が足に触れると、痛い所が暖かくなった。「にゃあ。」
 お父にゃんが凄いことをしたので、吃驚したケルラは、お父にゃんに抱きつこうとした。けれど足がまだ痛くて、再び丸くなった。
「やっぱり俺だけじゃ無理か…。ケル、神父様の所へ行こう。」
 抱っこされそうになったが、足が痛いケルラは、声を上げ、抵抗した。本当はとっても抱っこして欲しかったけど…。
 その様子を見たラークは、立ち上がると、「神父様に来て頂くから、お前は大人しく待ってろ。な?ケル。」
 『そんなの嫌!!側に居て欲しいにゃ…。』「…お父にゃん、お父にゃん…。ここ。」
 ぽろぽろ涙をこぼすケルラを見たラークは、屈み込んで、ケルラの頭を撫でた。
「すぐ戻ってくるから。ケル、お前は男なんだから、我慢できるだろ?」
 お父にゃんが撫でてくれたので、ケルラはこくっと頷いた。「良い子だ。」
 お父にゃんはとても優しい顔をすると、家を出て行った。ケルラは、嬉しくなって、足の痛みが少し薄れた気がした。

「とうとうやっちまった…。」
 教会への道を走りながら、ラークは後悔の念にさいなまれた。ちゃんと狙っていたとはいえ、危ないと分かっていた。でも、時々とてもケルラが鬱陶しくなってしまう…。「やっぱり…。」
 数日悩んでいた気持ちがはっきりした。ケルラは…。ケルラを…。ラークの顔に深い悲しみが表れた。

「神父様!!」
 教会の扉を両手で開くと、ラークは中にずんずん入って行き、吃驚している神父様の手を掴んだ。「俺と一緒に来て下さい。」
「…はあ。」
 当然のことだけど、神父様はぽかんとしている。それでも一応付いて来ようとしてくれた。
「ちょっと待てよ。」
 尻尾を引っ張られた。ラークが振り返ると、元・偉い人が居た。ギョッとした彼は、後ろに飛んで、身構えた。「何でそんなに警戒する…。」
 呆れている元・偉い人。
「な・何の用だ…?」
 彼の言葉は無視して、ラークは訊いた。
「そりゃこっちの台詞だ。人が神父と話してるのに、いきなりやってきて、何処へ連れて行く気だよ?俺の用はまだ済んでいないぞ。」
「ケルが、怪我した。」
「何だとぉ?ラーク、お前、とうとうやったな?」
 元・偉い人にラークは睨みつけられた。その恐ろしい顔にラークは戦慄したが、元・偉い人は急にふっと消えてしまった。
「トゥーリナさんは何処へ?」
 神父が吃驚して、辺りを見回す。ラークも気になったが、今はケルラが心配だ。
「知りません。それより、ケルを診てもらえませんか?」
「…そうですね。」

 二人が走りながら家へ戻ると、ケルラの側に、元・偉い人が屈み込んでいた。彼はラークよりも強い癒しの力を持っているらしく、手の周りが光っていた。ケルラは大人しく床に寝ている。
「ケルラ…。」
「流石トゥーリナさんですね。わたしの力は必要ないかも…。」
 神父は能天気に言った。その声が聞こえたらしく、元・偉い人は、こっちを向いた。
「いや、俺の力じゃ間に合わない。」
「では、続きはわたしがやりますね。」
 神父様がケルラの側に座り、癒しの呪文を唱えた。

「ケルラを傷つけて楽しかったか?」
 ケルラの側を離れて、元・偉い人がラークへ言った。また恐ろしい表情になっている。
「楽しかった事なんて一回も無い!!」
 言われた言葉が酷いので、今回は恐怖を感じなかった。
「…言い過ぎた。でも、お前がケルラに対して、いい親じゃないってのは、認めるだろ?」
「…それは。でも、もういいんだ…。」
「何がいいんだよ?」
「ケルにとって何がいいか、考えたから。もうこんなことは起きない。」
「そうか。そりゃ良かったぜ。リトゥナも喜ぶ。ふわふわ君が幸せになったよってな。」
 元・偉い人は、神父をチラッと見ると、「俺はもう帰る。俺の話は、明日になったら聞いてくれ。」
「分かりました。」
 神父は答えると、また治療に集中した。元・偉い人は家へと帰って行った。
「神父様、どうですか?」
「軽い捻挫ですから、もう少しで完全に治りますよ。」
 ラークはほっとして、神父様の邪魔にならない所に座ると、ケルラの頭を撫でた。ケルラがにこにこと笑った。
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