TECHNIC Ⅰ

絵画技法材料その1
―混合技法(ミックストメディア)について―
ここでは、私の「実際の絵画技法・材料」についての概略をご紹介いします。
概 要
私の場合は、テンペラと油彩を併用した技法を指します。両者の長所を生かすことにより、効果的で効率的な制作を行うことができます。西洋では、500年以上も昔から採用され、V.アイクはその先駆者として知られ、今日に至るまで、我々に計り知れない恩恵をもたらしています。
特 長
テンペラの速乾性を活かして、制作の初期段階で、下層の下描きにそれを用いると、ただちに油彩で上描きを行うことができます。その際、油彩の透明性を活かすことにより、下描きのかたちや調子をそのまま浮き上がらせられます。さらに、上層部分においても生乾きの油彩の上に、テンペラで描き込むことが可能で、ことに細かい点や線の描写に向いています。
支持体の材料
① 板(ハニーカムコア-蜂の巣状の紙をベニヤで表面と裏面を接着したもの、軽くて丈夫です。建材店にお問い合わせください。シナベニヤはより一般的です。)
② 布(木綿)化学繊維のものは不向きです。
③ 膠(ウサギ膠、他の原料によるものでも問題はありません。)
④ 白亜(ムードン)、亜鉛華(ジンクホワイト)、ボローニャ石膏も良い材料です。
支持体の製作方法
 1.布貼り
① 膠の下準備-重量比で、膠1に対して水10の割合で容器に入れ、一晩冷暗所(冷蔵庫など)に置く。
② 板の裁断-ハニーカムコアの場合は、カッターナイフで切断できます。側面から紙が出てきますので、見合った寸法の板を用意し、側面を封鎖します。20ミリ厚のハニーカムコアの場合は、ビニールハウスを作る時などに用いる板を使用していますが、ぴったりのサイズで重宝しています。
③ 布の裁断-表から裏面にかけて覆うことのできるサイズのもの1枚、裏面の隙間を覆うためのもの1枚、糸くずはこまめに取り除きます。
④ ①の膠を容器ごと、湯煎にかけて溶かします。その際50℃以上にならないようにします。
⑤ 板の全面に、膠溶液を塗布します。乾燥後もう一度行ってください。
⑥ 表面用の布を小さめに折りたたみ、温まった膠溶液に浸し、布に充分それを浸透させた上で、軽く絞り、板の上に広げ、初めは手のひらで、内から外に空気を追い出すように布を板に貼り付け、仕上げはゴムベラや壁紙貼り用の剛毛ブラシなどで仕上げます。続いて側面、そして裏面に貼り付けていきます。表面を上にして一旦乾かしますが、裏面が台のテーブルや床に接着しないように注意してください。なお、裏面の折りたたんだ部分には、ガンタッカーを用いると安心です。
⑦ 裏面の隙間を、もう一枚の布で同様に覆います。
           
2.地塗り
① 地塗り材-容量比で、白亜1、亜鉛華1、膠溶液1、水1を湯煎にかけよく混ぜ、ガーゼやキッチンの排水口に用いるネットなどで漉します。
② 布を貼った板の表側に1~2回刷毛で地塗りし、乾燥させてやすりをかけます。描き方に応じて、細かく平滑な作品を作る場合は、5回~10回は塗布と研磨の作業を行う必要があります。やすりも段階に合わせ、比較的粗めのものから細かいものに使い分けます。鏡面のように仕上げる場合は、最後にやわらかい布で磨くと効果的です。なお、大型の支持体作りには、サンダ―を用いると楽ですが、粉塵を吸引しないようにしましょう。
③ 裏面や側面も、表面の塗布をしながら、同様に行う必要がありますが、私の場合は、水性のペンキを2回ほど塗るようにしています。

3.この支持体の特長
① 市販の油彩用カンヴァスに比較すると、非常に吸収性が高いので、顔料や絵の具の「付き」がとてもよいです。
吸収力を抑えたい場合は、表面に膠を引くか、リンシードオイルを薄く塗布します。
② やはりカンヴァスに比べ、湿気による影響が小さいのと、油彩の場合の溶き油による変質が少ないようです。
③ テンペラは勿論のこと、油彩、アクリル、水彩などあらゆる材料をのせることができます。

※なかなか厄介な作業ですが、私は、1年分まとめて春先に製作するようにしています。1枚作るのも50枚作るのも時間的にはあまり差がありません。
              

作品タイトル

湯煎によるニカワ液づくり-左、布貼り(表面)-右

 

作品タイトル

布貼り用具-左、布貼り(裏面)-右


作品タイトル

布貼り(裏面終了)-左、地塗り用材-右

地塗り材の混ぜ合わせと加熱-左、研磨用具-右