空気が切り裂ける音が耳に届く。
多分、それを感知出来るのは、西部署・・・いや、警視庁広しと言えど、鳩村位ではなかろうか。
銃声はない。サイレンサーがついていたと思われる。

とっさに、鳩村は林の中へと駆け込んだ。

自分の狙い通り。
奴が、自分を狙うのならば、他への注意がそがれる。
そうすれば、付け入る隙が必ず生まれる筈。

ただ。
刺し違えても。

そして、俺だけで、終わりにしてくれれば。

「ロミ! お前の姉さんを殺したのは、この俺だ!」

鳩村の言葉と共に、その居場所に正確に銃弾が撃ち込まれる。
西條の話では、相当な腕の持ち主だと。
自然と、鳩村の掌に汗がにじむ。

胸のホルスターから、銃を取り出し、走り出す。
この先には、バブルの破綻から建築途中で放り出されたビルがある。
一気に、そこで勝負をつけるつもりでいた。

SWAT時代の感覚が甦る。
ターゲットは、確実に・・・・仕留める。

空気の軋む方向からの狙撃。
それは自分の感覚でしか分かり得ない。
走りながら、相手の方角を確認し、銃弾を撃ち込む。
それに対するロミの返事は、正確きわまりない狙撃。

「っ・・・・!」

ライフル弾の衝撃が、髪を焦がす。

相手を仕留めるならば、頭を狙う。定石だ。
すぅっと感覚が昔に戻る。

「ハトっ!」

キーの高い声が、背後から飛んで来る。
それと同時に、鳩村が銃口を向けていた方角へと、別の弾丸が飛んで行く。
カラカラと、薬莢がいくつも転がって行く音が響く。
ビルの物陰へと隠れた鳩村の元へ、西條と立花が飛び込んで来た。

「ハトさんっ、あんた、なんてことしてるんだ!!!」

もの凄い剣幕で、首根っこを掴まれ、真正面から見据えた大きい目に、鳩村はたじろいだ。

「え、あ、は、あの、・・・すみません・・・」

妙に、小さくなる鳩村に、西條は苦笑した。

「ドックさん、お願いしますねっ」
「ちょ、コウ?」
「まて、コウ! お前じゃ無理だ! 相手はサイレンサーついてるんだぞ」
「ハトさんなら、撃たれてもいいってんですか!」

鳩村は、立花を振り切って物陰から出ようとした。
それを、立花が引き戻す。と、同時に壁へと銃弾が撃ち込まれた。

「いつだってそう! 俺たちかばって、前線に突っ込んで!」
「俺は、お前たちを守るって決めたんだ」
「団長のように、ですか」

キーンっと、空気が張る。
大門団長の単語が出た途端、いつもそうだ。

「俺の前で、誰かが死ぬのは・・・」

暗く目を伏せた鳩村の左頬に、拳が飛んだ。

「え・・・?」

その衝撃に、鳩村が目をむく。

「ふざけるなよ」

拳を打ち込んだのは、西條だった。


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