「随分、こだわってるな」

そんな西條のセリフに、大下は言葉だけを飛ばす。

「何が」
「コウだよ。お前の部下でもないし、そんなに親しい訳でもないだろうが」
「まあな」
「何で、そこまで気にするんだよ」

大下はハンドルを握ったまま、前に視線を投げ続けた。
それに対する返事は、遥か先の沈黙の先にあった。

「いい子、過ぎるんだよ。何かさ・・・、もう少し、弾けてても良いんじゃないかな・・・。あの年なら」
「・・・過ぎるかな」
「過ぎる。何かさ、・・・・・・」

大下は、そこでまた沈黙した。エンジン音が、その沈黙の中で響く。

「誰かに似ててさ」

ふっと、口元を歪ませて、笑う。西條は横目でその仕草を見て、ふっと短く息をつく。

「溜まり過ぎると、破裂した時が怖い。その危うさが、特に今回はあるんだよ。それに・・・」
「それに?」
「あいつも、こだわり過ぎてる」
「・・・鳩村にか?」
「ああ。というか、鳩村の信念にだ。いつの間にか、鳩村自身ではなく、その上に憧れ、縛られているのかもしれん」
「・・・俺には分からん話だな」
「体育会系じゃないからな、お前は」
「理系だからね。探求者は、孤独なんだ」
「なーにが、探求者だよ」

大下が呆れた様な視線を投げたので、西條は肩をすくめた。

 

鳩村は、パソコンに向かっていた。
前科者データを見ていた。
ライフルの売人をチョイスして、プリントアウトして行く。

何本かのタバコを灰皿にすり潰した時、手元の電話が鳴り響いた。
電話口から、息を切らした立花の声が聞こえて来た。

「はい、鳩村」
「ハトさん、モンタージュの女性に似た女性を見た事があるって、情報屋からのネタが出て来たんで、確認します」
「ちょっと待て、コウ。大下たちが来てから行動しろ、いいな」
「分かってます。捜査はチームワークですから。って、一人は刑事じゃないですね」

電話を切って、再びパソコンに向かった鳩村は、最後の一人をプリントアウトした後、その書類を抱えて、コートを掴んで部屋を出た。

 

立花と、大下は渋谷の、あるアパートの前で合流した。

「ドックさんっ」

立花は目を丸くした。その様子に、西條は軽く左手を上げて挨拶をした。

「下りてくれませんでした・・・」

大下が、肩をわざと落として、立花に説明した。

「んで、これから何処に?」
「ネタでは、この一本奥の路地にある、マンションの10階に・・・」

そこまで立花が言った時、パンっと短い破裂音が響く。三人が反射的に身を屈めるが、周りでは何も起きていなかった。
騒ぎは、一本向こうの路地から起きていた。
三人は顔を見合わせ、走り出した。

「で、奥のマンションに誰がいるんだよ」
「モンタージュの女です。はじきの売人が、呼ばれたって話があって」

三人が駆けつけると、一人の男が、塀の影で震えていた。

「おい、大丈夫か?」

大下が、その肩を掴んで顔を見ると、知った顔であった。

「木元?」
「何だ、大下知り合い?」
「ああ、中光興業の下っ端。ほら、もとヤクザ屋さん」
「あ、あそこの」
「デ、デカと探偵、・・・助けて・・・」
「どうしたんだよ、一体」
「遠井・・・、やろう・・・」
「遠井?」

立花と西條は、周りを用心深く見るが、人の影はなかった。

「遠井って、誰?」

立花が、木元の襟首を掴んで、立ち上がらせた。

「と、遠井ロミ・・・、はじきの金払わないから、取り立てに行けって言われて・・・」
「んで、怖い目にあったんか、そかそか」

顔は笑っていたが、目が笑ってない大下に、木元が息を飲んだ。


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