緑の葉が漸く出そろって来た公園に、大下と立花はいた。

「確か、この公園で、ハトさんと女の人から事情を聞いていた時の写真なんですよ」
「女?」
「ええ。年齢的には、30代前半って感じで。なんだか、変質者がいるって言われて」
「・・・いたの?」
「いえ。全然。で、探してみたんだけど・・・あ」
「何だよ」

立花は、もう一度写真を見つめた。

「そうだ。これ、探した後に、ここに来た時の写真だよ・・・。で、女性はいなかった」
「・・・女か・・・。モンタージュ必要かもな」
「まさか・・・」

立花が、引きつった笑いを見せる。
そんな立花に、大下は真剣な目で、言った。

「あり得るぞ」
「・・・わかりました。署に戻ってモンタージュ・・・」

立花がそこまで言った時に、立花の持つ携帯が、着信振動した。

「はい、立花。・・・・・・・・・・・・・え? イッペイさんが?」

二人は、慌てて公園から駆け出した。




七曲署で、平尾がいきなり考え込んだ。

「イッペイさん?」

それは、鳩村から、大門団長が切っ掛けかもしれないという連絡を受けてからだ。

「いや、団長について、最近聞かれた記憶があるんだよ・・・」
「何だと?」

西條が、平尾を見た。

「うん。・・・いや、女の人なんだよね・・・。美人の」
「いつ」

山県と、五代、北条、原も平尾を見ていた。

「・・・先週の金曜日。署の前で、大門さんって、ご存知って聞かれた」
「お前のことだ。当然、ナンパかけたんだろうな」
「・・・・うん・・・・」

山県の問いに、平尾は言葉を濁した。

「何かね・・・。会った事がある気がしたんだよ。だから、つい、お会いしませんでしたかって聞いたんだ」
「お前、ベタだなぁ」

山県が、肩を落とす。

「違うってば。そしたら、その人。姉に会った事があるんじゃないですかって・・・・」
「姉?」

一同が、声を揃えた。

「そう。妙に断定的で・・・、気になったんだよね。・・・・ひょっとして・・・」

平尾は、急に立ち上がり、部屋を出そうになった。

「待て、イッペイっ」

西條が、平尾の腕を掴んで、引き戻した。

「どうしたんだよ」
「どうしても、署で確認したい事があるんだ。団長絡みの事件の中に、俺が見た女の面影を持つ人がいるかもしれない」
「・・・わかった。じゃ、俺も着いて行く。お前もターゲットの一人だからな」
「ドックさんは怪我してるじゃないか」

平尾は、その腕を振り払った。西條は、再びその腕を掴む。

「掠っただけだ。護衛位なら、平気だ」

しばし、視線を交わした後、平尾はため息をついた。

「分かりました」

西條は、平尾を裏口から、覆面パトカーに乗せて、西部署に向かい始めた。


その5分後だった。

「待った、ドックさんっ」
「え」

西條は慌ててブレーキを踏んだ。

「あれ、あの女の人!!」

振り返ると、一人の女性が歩道を歩いていた。

「間違いないか」
「ない」

そう言うと、平尾はシートベルトを外すのももどかしく、歩道へと飛び出した。

「待て、イッペイ!!」

西條も慌てて、その後を追う。
女性は、建物の角を曲がった。それを追って、曲がった平尾の目の前に、銃口が現れた。
とっさに、スライディングの様に、体勢をわざと崩す。
平尾の左肩に、焼け付く様な痛みが走る。

「ぐぁっ!!」

そのまま、アスファルトに受け身も取れず、叩き付けられた。

「イッペイっ」

追いついた西條が、ヒップホルスターから銃を引き抜き、平尾をかばう様に飛び込んだ。
平尾の状態を瞬間確認する。銃口は、道へと向け。
その銃口の先へと視線を走らせた時、西條の背筋に冷たい汗が伝う。
すぐ隣に、気配を感じたから。
そちらに視線を走らせようとした瞬間、バチッという音とともに、電撃が走り、西條はその場に崩れ落ちた。
西條の意識の最後に、人の悲鳴と、走り去る人物のヒールの音を聞きつつ・・・。



病院で、西條は不機嫌だった。
モンタージュを作りに走った立花と分かれて、大下は病院に来ていた。
鷹山が入院している病院に、二人は担ぎ込まれていた。

「西條」
「大下か・・・。情けネェよ・・・」

西條は自嘲気味に笑った。

「平尾は」
「命に別状はないとさ。・・・てか、お前、鷹山の事は聞かねぇな」

大下は、西條の隣に座った。

「・・・あいつは、大丈夫だから」

未だに意識の戻らない鷹山の容態を、大下は電話で知っていた。
心配していないと言えば、嘘になる。
けれど、自分が心配して、その場に居残っても、どうにもならない。後は、鷹山の生命力次第なのだから。

「俺がいても、どうにもなんないし」
「・・・そっか・・・」
「で、相手はどんな奴だったんだ」
「・・・それがさ。女なんだよ」
「女?」
「微かに覚えているのは、肩迄のストレートヘアの、シャネルの香水をつけている女」
「・・・沢山いるなぁ・・・」
「そして、銃火器に慣れている女だ」
「・・・」
「海外生活で身につけている女だな」
「どうして、それが?」
「俺を昏倒させたスタンガンだよ。たったあれだけの時間で俺を落とせるんだ。ボルト数が半端じゃない。そんな危険な物、国内では販売されていない」

大下は、じっと考えていた。


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