西部署に戻ると、鳩村はまだ書類を抱えていた。
「・・・書類なんだ」
大下が、その様子を見て、ため息をつく。
「古い話なんでね。ジュンがいたころのは。それに、こう忙しくては、誰もデータベース化出来ないんだよ」
鳩村が、ファイルをぽんっと叩くと瞬く間に白いホコリが舞い上がった。
大下は、大げさに咳き込むと、資料室のドアを開けた。窓はないので、こうするしか換気の方法がなかった。
「なあ、鳩村」
「ん・・・?」
大下が振り返ると、鳩村が、椅子にかけたジャケットからタバコを引っ張り出した。それを見た立花が、じろりと睨みつけ、首を振った。
「ハトさん」
「あ」
鳩村は、あきらめたように、タバコをしまい込んだ。
愛煙家には厳しい、分煙化のルール。
「西部署への、恨みじゃないみたいだな」
「うん。それは考えたんだけど、鷹山と一緒にいたコウが狙われなかったのが、それを如実に表してるんだよな。でもなぁ・・・」
鳩村は、ため息をついた。
「俺に恨みを抱く者で、ライフルに精通してるのはいるんだが、服役中。それに、ジュンと俺の共通点では、いないんだよな・・・。射殺しちゃったし・・・」
そんな怖い台詞をさらりと言ってしまえる、西部署の事情が一番怖いのではないかと、大下は内心苦笑した。
「だからなぁ・・・、誰なんだと・・・」
大下は、ふと、昔の事件を思い出した。
「・・・あのさ。「大門軍団」を、狙ってる気がするんだよね・・・」
「ああ、それは・・・」
「肝心の一人、忘れてない?」
「肝心の一人・・・?」
「大門、圭介」
「・・・なんだと・・・?」
大門の名前を出したとたん、鳩村の持つ空気が変わった。
普段の鳩村では考えられない。
心の奥底に眠る、獣が牙を剥く。
大下も、気を抜くと捉えられてしまうかもしれない、そんな緊迫感のある空気に。
立花は、その空気を、以前も感じた事があった。
だがそれは、機動捜査隊発足前の事件であったが・・・。
「団長は、死んでるんだぞ」
「だから、軍団員に、標的を変えたんだよ。それなら、コウが狙われなかった理由も、納得がいく。下調べをしているはずたぞ」
「わかった。団長の事件を洗い直してみよう。だけど・・・、どこからしぼればいいんだろうか・・・。量が多いぞ・・・」
「とりあえず、ハトさんは資料をお願いします。俺は、大下さんと、写真から目撃者を当たります」
それまで黙って話を聞いていた立花が、そう言い出した。
「そうだな。よろしく頼む」
「はい」
すかさず踵を返して、歩き出す立花を見ていた大下は、鳩村に視線を投げた。
「やっぱり、怒ってない?」
「う・・・ん・・・」
鳩村も、不安げに大下へと視線を返した。
「大下さんっ、行きますよっ」
廊下からの催促の声に、大下も部屋を出て行った。
「コウを頼む」
その鳩村の声に、ウィンクで返事をしてから・・・。