Autumn
「他の署のヤマに何で首を突っ込んで来るんだ?」
あからさまに嫌そうな顔をして、一人の刑事が立花を睨みつけて来た。
「いや、俺に言われましても。鳩村に直接言っていただけません?」
「その鳩村が見つからんのだ。いいから、上司を出せ!!」
「現在、木暮は本庁です」
「鳩村の上司と言ってるだろう!!」
「小鳥遊も、席を外してます。俺が電話番、苦情処理係」
机を叩きそうな勢いで、顔を真っ赤にして詰め寄る刑事を、立花は涼しい顔で対応する。
それを遠巻きに見ている北条は苦笑いしていた。
「うちの班の名前、覚えてないんですか?」
「何だと?」
「西部特別機動捜査隊。そちらのエリアも、当方でお預かりしております」
「そりゃ殺しの件だけだろ!!」
「そうでしたっけ」
立花は手にしたシャープペンを、くるりと回した。
「とにかく、自分に言われても困ります。そして、木暮、小鳥遊に言われても困ります。というか。困るのはそっちじゃない?」
「何だと?」
「ドックさんたちが、無実だと分かったら、そちらは誤認逮捕。今のうちに、うちらに権限を渡した方が傷が浅くてすむんじゃない?」
立花のふてぶてしい態度に、刑事はさらに激昂する。
「だよな。どうするんですか、あれ」
別の班の机に座っている小鳥遊に、北条が視線を飛ばした。
「防波堤になってるつもりなんだろうけど、あれじゃ悪化しそうだな。・・・仕方ねぇなぁ・・・」
小鳥遊はそういうと、近場のドアから廊下に出て、立花の近くのドアから部屋に入り直した。
「立花、どうした」
「・・・!」
立花が、目を丸くする。さっきまで小鳥遊が座っていた場所を思わず振り返ると、北条が手をひらひらと振っている。
「あんたは・・・」
刑事が小鳥遊をじろりと睨むと、小鳥遊は一つ軽く咳払いをした。
「私は小鳥遊班の班長の小鳥遊だが。私に何か用かな」
「貴方の所の鳩村が、うちのヤマに首を突っ込んで、引っ掻き回しているんですよ」
「ほう。それで、こちらに。参りましたね。うちも鳩村と連絡がつかないんですよ。今。ちょっと無線の届く範囲から出ているらしくて。さすがに埼玉じゃ無理なんですよね、警視庁の無線」
「埼玉?」
「はあ。何でも、調べたい事があるらしくて。携帯も充電不足らしく。戻って来たら、しっかり叱りますから。ですが」
小鳥遊は、それまでの飄々とした態度を翻し、真剣な口調で、刑事へと迫った。
「念のために、そちらに訴えを起こした少女にも話を聞かせて頂きたいですな」
「というわけで、お願いします」
小鳥遊の目の前には、少年課から呼び出された真山薫の姿があった。
「わっかりました。私で出来る事なら、やりますよー。ドックさんにそんなこと出来るわけないですもん。出来るなら、真っ先に私狙うでしょー」
果たして本音なのかどうなのか、明るい言葉に、小鳥遊ははははと乾いた笑いを返した。
「班長。私に魅力がないとでも?」
「言ってません」
小鳥遊は即答しておいた。
「辛いのにごめんね。何度か話を聞かないといけないんだ。だから、当日のこと、教えて」
薫は、ゆっくりと小さい子供に言い聞かせる様に、少女に話し掛けた。
少女はまだ病室にいた。精神的なショックから抜け出せないでいる、というのがその理由だ。
薫はもう一人の少年課の婦警と一緒に訪れていた。
「あの日、あの交番の前通ったら、若いお巡りさん呼び止められたの。それで、私、何だろうって思って中に行くと、中にいたお巡りさん二人と、呼び止めた若いお巡りさん、三人に奥に連れ込まれて、そのまま乱暴されたんです」
「・・・ふーん。何時頃?」
「夜の10時過ぎだったと思います・・・」
「で、あなたは、その後にその派出所を出て、宇田川署に行ったわけね」
「はい」
「で、あなたを呼び込んだお巡りさんは、誰だった」
薫は、ぱっと4枚の写真を見せた。少女は、おそるおそる、一枚の写真を指した。
「じゃ、いなかったのはどの人?」
また少女は写真をじっくりと見て、一枚の写真を指し示した。
「うん。わかった。ありがとう」
「怖かった…」
「そうね。そう思うわ」
薫は、少女の部屋を出て、ふっと息を吐いた。
前を見据えた目は、いつものおちゃらけた顔ではなかった。
「真山さん・・・」
婦警が不安そうな顔で見つめた。
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