Autumn
薫は、小鳥遊の前にいた。

「彼女は偽証しています」
「確実か」
「はい」

薫は手にしていた写真を並べた。

「彼女は引き込んだのがこの男で、いなかったのはこの男だと言っています。ですが」

小鳥遊はその写真を見た。雰囲気を似せた写真ではあるが、誰一人としてその派出所の人間はいなかった。

「ごらんの通り、派出所の人間はいないんです」
「だが、派出所から出て来る彼女の姿は複数に確認されている」
「他の二人はレイプを認めているんですか」
「それが不思議なんだが。認めているんだ」
「・・・え?」

薫は眉を顰めた。

「認めて・・・って、どうして」
「多分、派出所の下のモノに原因があるみたいだな」
「下に?」

小鳥遊は席を立って、木暮の部屋へと入った。

「課長。お願いがあるのですが」
「班長?」
「あの派出所、爆破してくれませんか?」
「爆破って・・・」
「いやいやいや、壊していただけませんか。市民の声もありますから」

小鳥遊の本気なのか、冗談なのか分からないトーンに、一瞬木暮も慌てた。






大きな重機が現れた。
周りの住人が、こそこそと話をしている。
その内容は、大体が「無くなってほっとしたわ」という内容である。

建物の周りには埃よけの塀が設置され、徐々に建物が消えて行った。
そんなある日の夜のこと。

人影が一つ。そんな工事現場へと潜り込んだ。

こそこそと動くその人影は、地面を掘ると、黒く光る扉に、白い歯を見せた。

手にする銀色の鍵を二本、鍵穴へと差し込むと、ダイヤルを回し、鍵を回して扉を開けた。

「何も無いよ」

後ろからの声に、人影は振り向く。

「俺が開けちゃったからね。中身は、何だか現金どっさり、みたいな感じ?」
「お前は・・・」
「七曲署、捜査一課西條昭。もっとも、最近まではここにいたんだけどね。留置所のご飯って意外とうまかったな。栄養価も満点、バランスばっちり? ・・・そんな旧式な金庫、俺にかかればあっさりだ」

西條は指をくいっと曲げてアピールした。すると、別の方向からも声がし、男は慌ててその方向を見た。

「伊達に金庫破りのプロじゃないね。さてと、この中身、もう色々聞いちゃってるから、小田くん。探しても見つからないんじゃ、出て来てもらうしかないじゃないか。それで、ここを更地にさせてもらったってわけ。まあ、それだけじゃないけど? こっから先は西部署で、ちょっと話させてもらってもいいかな」
「それと、俺は殴らせてもらうっ」

いうやいなや、西條は小田へと一発叩き込んだ。

「七曲署も、随分乱暴だな」
「お前に言われたくない」
「やっと、長い出張からも解放か。お疲れさん」

鳩村の声に、西條はため息をついた。

「西部署に絡むと、ろくな目に遭わない・・・」







「で、小田はあの二人の弱みを握ってたわけ。だから、その二人は協力をせざるを得なかった。少女は少女で、本当に小田にレイプされてて、いう事聞かざるを得なかった、というわけです」

鳩村は、木暮に書類を出した上で、口頭でも説明をした。

「ふむ。ご苦労さん」

木暮の部屋には、鳩村、小鳥遊、西條がいた。

「しかし、西條君にそんな特技があったとはね」
「あ、あれは、昔に、ちょっと」

言いよどむ西條に、木暮は手を振った。

「聞かない事にするっ。君はこう、色々と英雄伝があるからな・・・」
「あは・・・」
「で、課長、あの場所はどうするんですか?」

鳩村がいうと、木暮は首を振った。

「もう、派出所がいらないって住民から話も出ているので、あのまま更地となるだろう」
「そうですか」
「西條君もご苦労だった」
「はい、有り難うございました。七曲署に戻ります」

二人が一礼して木暮の部屋から出ると、待ち構えていた様に北条・平尾・山県・立花が周りを取り囲んだ。

「何だ、お前ら」
「西條さんの送別会をやろうかなーって思ってて」
「俺の?」

平尾の提案に、西條が思わず鳩村の顔を見た。鳩村もきょとんとしている。

「少しだけだけど、西部署にいたわけだからー。ほら、同じ釜の飯を食った仲間、みたいな?」
「へー」

少し棒読み気味に、西條が返す。

「要するに、俺をだしにして、飲みたいだけだろ? 木暮課長の奢りで」
「よく分かってらっしゃる、さすが七曲署一の名刑事っ」
「おだてても何も出ないぞ。・・・分かったよ、一席設けてくれるって言うんなら、参加しようじゃないか」

わーいと諸手を上げて、喜ぶ平尾に追随するように、飲み会の話はとんとんと進んで行く。
その様子を見て、鳩村は肩を竦めた。
そして、鳩村の後に出て来た小鳥遊と木暮に、背中越しに話しかけた。

「仕事に差し支えない酒にしてやってください。俺以外」
「お前は?」
「悪酔い出来るボトルにします」

と言った鳩村の肩を、木暮が叩いた。振り向いた鳩村に、木暮は満面の笑みで言った。

「酔えればな」

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