Autumn
鳩村は、また別の警官の家に来ていた。
鳩村達もそうだが、独身は極めて署の近くの寮を利用していたりするのだが、妻帯者は賃貸住宅で、通勤をしてくる。
独身者は、寮と言ったが、当然、仕事を辞めれば出て行かざるを得ない。
仕事も無く、さりとて退職金が出るわけでもなく。その男の部屋は荒れていた。

「高津明彦さん、ですね」
「ああ。あんたは・・・西部署の鳩村・・・」
「ご存知ですか」
「ええ。刑事に憧れてましたから・・・。特に、西部署の元大門軍団に。立花に嫉妬しましたよ」
「立花もご存知」
「おんなじ署でしたからね。俺は何度も異動願い出してたのに、一回しか出さなかった立場なのが通るんですから」

高津は、そういうと首を竦めた。

「だから、嫌気がさして、かな。まあ、今もごらんの通り、自暴自棄続行中、ですよ」

と、見上げた目は、嫌な光を宿していた。
鳩村ぐらい修羅場を潜った男でないと、判別が出来ないほどの光。
鳩村は眉根を寄せた。

「高津さんが入った時には、もう既に横領は始まっていたのか?」
「いや。俺が始めたんだから。立花が西部署に異動になってからね。なーんだか、もう、ばっからしくなっちゃってさ。警官なんて、自由効かないし。上にへこへこすれば、昇進出来るし。だったら、その特典利用しないと」
「特典・・・ね」
「で、何で俺の所に来たわけ。何かあった」
「いや。ちょっと、探し物しててな」
「探し物ー?」
「ああ。これぐらいの、鍵」

鳩村は、例の鍵をちらつかせた。
わざと、自分のキーホルダーに付けて、持って歩いていた。
その鍵を見た高津の表情が、あからさまに変わった。

「お前、その鍵どうしたんだよ」
「・・・あ? これ。派出所の奴から預かったんだよ」
「あのやろ、勝手に・・・」
「勝手に?」

鳩村のその答えに、高津ははっとした。が、もう遅い。
鳩村は高津の両肩を掴み、壁へと叩き付ける様に押さえつけた。

「はい、何でしょう? 続きは?」
「・・・っ」

その鋭い眼光に、高津は生唾を飲み込んだ。
同じ警察内。鳩村達のやり方は、嫌と言うほど話題に上っている。
犯罪者には、容赦がない事。

「俺が、こうやって話を聞いているうちに吐く方が利口だぜ・・・?」

すっと鳩村は体を離した。

「さて、俺は次は何をすると思う?」
「・・・お、脅す?」
「勿論。アメリカンスタイルで行こうか?」

言うが早く、鳩村はショルダーホルスターから素早く銃を引き抜き、撃鉄を起こす。

「フリーズ! 動くな、って意味。が、今回は動いてないから・・・」

銃口がゆっくりと高津を舐める様に動く。高津はまるで蛇に睨まれた蛙のように、微動だに出来ていない。

「どうする?」

静かに問いつめる鳩村に、高津は脂汗をかいていた。

「白状します」
「OK。正直に話せ」

かちりと撃鉄を戻し、銃をホルスターへと納めるのを見ると、高津は前身の力が抜け、床へとへたりこんだ。

「その鍵は、俺と、地域課の小田の二人で貯めてた金の金庫の鍵だ。鍵はそれ一つじゃ役に立たない。鍵穴は二つあるんだ」
「お前らだけじゃ無いってことか。不正やらかしていたのは」
「小田は、交番から異動したんだ。元々、あそこにいたんだよ。それに」
「それに?」
「もう、あの金庫は運べないんだ」
「運べない?」
「ああ。土の中にあるからね」
「土の中?」

鳩村が逐一聞き返す。

「ああ。もう建物が建っちゃったからな。あいつは知らないみたいだけど?」
「建物って」
「あの派出所。建物もろとも、俺らの金庫の上に移動しちゃったんだよ。区画整理で」
「じゃあ・・・!!」

鳩村はハッとした。
派出所を無人にするためには、中の人間を全てどかせばいい。が、駐在所扱いのあの場所では、必ず誰かがそこにいる。
ならば。

「狙いは・・・それか」

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