Autumn
「んで、シフトなんだけど」
「シフト?」
「フルタイムね」
「・・・・フルタイム?」
「非番なし」
「!!!」

西條が、そう告げると鳩村が唖然として、口を開けっ放しにした。
その目の前に、シフト表をぶら下げる。

「あったり前だろ。ここのメンバーの話聞いただろ。まず、意識改革、それと同時に射撃訓練。多少は慣れてもらうまでは二人でフォローしないと」
「二人」
「そ」
「俺と、お前」
「それ以外に誰がいるよ」
「七曲署でお前以外にぴったりな奴はいくらでもいるだろうが」
「俺が抜けて、署は大変だと思うよ。なんつっても、世界一の刑事が抜けちゃったわけだし」
「じゃあ、お前以外がいいと思うよー」
「けれど、ボスが直接、お願いしたいっていうんじゃ、断れないじゃん?」
「頼む、たまには断ってくれ…」
「お前だって、断ろうと思ったら…断れないわなぁ」

西條はにやにやしながら、そう言った。
例のバイクの件を指しているに違いないと思ったら、かなり鳩村は腹が立って来た。

「今度、道場付き合えや、こら」
「射撃以外だったら、付き合ってやるよ? 俺、お前より段位上だし」
「え?」
「こう見えても、そこそこやって来てるの。国際A級ライセンスもあるの。苦労人なんだよ?」
「医者の息子がよく言うぜ…」
「バンドマンはやったことないけどね」

「初っぱなからそんなんじゃ、先が思いやられるんじゃないの?」

二人の背後から、ぽーんとそんな言葉が飛んで来た。
振り返ると、平尾が立っていた。

「イッペイ!」
「どもです。ちょっと、パトロールついでに」
「なーにがパトロールついでだ。ただの野次馬根性じゃないのか?」

鳩村がそう突っ込むと、平尾は頭をかいて、うん、と頷いた。

「制服似合うね、ハトさん」
「あったり前だろ。どんな服も着こなすんだ、俺は」
「ドックさんは、…随分新しい制服ですね…」
「着ないからね。全然。で、俺についての賛辞はないんだぁ」
「あ、いや、ほら、言うまでもなくってことでっ」

「ドック、それ脅迫」
「あう」

その時、背後のドアが開いて、小松が出て来た。
少年はうなだれている。前科がつく、という重さがようやく身にしみて来たようだ。
がっくりと肩を落とし、足取りもおぼつかない様子だった。

「調書、取れたか?」
「はい」

小松の返事に、鳩村は頷く。西條は、その鳩村の様子をちらりと横目で見ている。

「じゃあ、そいつ家に送って行け」
「は?」

小松は驚いて鳩村を見た。

「後でガラスの請求書送るから、住所を確認しておけ」
「え、じゃあ調書は」
「保管しておけ。次に何かやらかしたら、確実に学校に通報する。覚えとくんだな。それと、小松。お前も署に行って、射撃訓練しろ。いいな」

少し明るさを取り戻した少年が頭を下げ、小松とともにその場を出て行く。

「ハト…」
「鞭とあめ、ってことかな。甘いばっかりじゃ、甘さは分からなくなるだろ」
「ハトさん、いいの? そんな甘くて。あれが芝居だったら、どうする?」
「そん時はそん時。俺が撃てばいいだけ」

すらりと腰のホルスターから銃を抜く。西條は慌ててその手を押し込めた。

「俺らは今制服っ!! 簡単に抜くなよっ」
「固いな、ドックは」
「ハトが柔軟すぎるんだっ。…全く、何なんだ、西部署は…」

西條はため息をつくが、その背後では、平尾と鳩村が拳銃談義を始めた所だった。



小松は、事の次第を立花に愚痴っていた。
年齢が近い事もあり、親近感があっという間に沸いたのか、饒舌に話していた。

「どう思います?」
「んー。じゃあ、小松さんはどう思います?」
「自分ならば、きっちりした方がいいと思うんですが」
「うん。俺もそう思う」
「ですよねっ」
「きっちり叱って、分かってくれる子なら、それでもいいと思うんだ。俺はね」
「え…」
「きれいごとかもしれないけど、犯罪者、そう簡単に増やしちゃいけないって、思う。でも、次にやったらきつい対処すればいいしって言うと、俺も甘いか」

立花はそう言うと、クスリと笑って、自分の銃に弾を込めた。

「それはもう終わった事だから、おしまい。さ、続き撃つよ」

余り広くないコンクリートの部屋に、銃声が鳴り響いていた。

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