Autumn
曙町の派出所に、鳩村と西條が車から降り立つと、一人の巡査が割れたガラスの後片付けをしている所だった。

「君、どうしたんだ?」

その巡査は、首だけひょっと上げ、西條たちに気付くと、左手にほうきとちりとりをひとまとめに持ち、右手で敬礼をした。

「はっ。さきほど石を投げ込まれまして、掃除している所であります」
「石」
「はい。先日の事件後、嫌がらせで何かとされるのであります。犯人は小松が追っておりますが、中学生のようでして」

鳩村は、ひょいっと現場に落ちていた石を拾った。
5cm角位の、小さい石である。

「これでも当たれば痛いよな」
「まあ、ね」
「あの」

おずおずと巡査が、二人の間に割って入る様に問いかけて来た。

「先輩たちが・・・」
「そ。俺たちがここの教育係でこの先三ヶ月一緒にやってくことになった、西條昭巡査部長。こっちが、鳩村英次巡査部長ね」
「自分は、山川義之巡査でありますっ。かねがね、鳩村巡査部長のことはお聞きしておりましたっ」
「そんなにしゃちほこばらなくてもいいよ。それに、いちいち階級もつけなくていいから」
「了解しました、鳩村さん」

めちゃくちゃ緊張の面持ちの山川に、鳩村が苦笑していると、つつっと西條が山川に寄って耳打ちした。

「んで、何て聞いてたの? ん?」
「・・・は、はあ。大門軍団一の銃の名手だと。自分、銃が苦手なもので、尊敬します」
「・・・・・・・つまんね」
「何を期待していたんだ、何を」

ちょっとした西條のため息に、鳩村が不服そうな顔で睨みつけた。

「んー。すぐバイクを壊すとか、すぐ銃を撃つとか、すぐ拉致られるとか、すぐ撃たれるとか」
「・・・後半すっごく痛いんですが」
「鳩村さんでも撃たれるんですか?」
「これでも人間だからね。そうそう上手く行ってばかりでもないさ」
「それに、西部署管内は特に危ない空気ぷんぷんするしねぇ」

西條がオーバーアクションで言う。山川の表情がさらに強ばった。

「君、前はどこにいたの」
「青梅署の地域課、です」
「青梅か、平和な所だよなぁ・・・」
「残りの二人は」
「静川均巡査が、品川署、小松良司巡査が小平署です」
「うーん・・・」

二人は腕組みをした。

「ここいら、警官でも危ないから、銃の練習は署に行けたら必ずするようにな・・・」
「えっ」

鳩村の言葉に、瞬く間に山川の表情が凍り付く。

「覚悟はしておく様に、言われなかったか? そこまで西部署は甘くないからな」
「いえ、言われました。で、覚悟はしてたんですが、そこまでとは・・・」
「んじゃ、今からでいいから、ちょっと西部署の機動捜査隊に行って、立花巡査部長に会ってこいや」
「い、今からですか?」
「そ。今から。拾えるんだったら、他の二人連れていけ」

山川は、西條に促されるまま、ミニパトでその場を離れて行った。

「こりゃ、ちょっとやっかいじゃないか、ハト?」
「認識から教えろって言われてもなぁ・・・。ところで、その手に持ってるのは何だ、ドック」
「段ボールとガムテープだけど、何か? 窓塞ぐんだよ。とりあえず」

鳩村に段ボールを支えさせ、西條がガムテープを貼っていると、一人の巡査が中学生の男の子と一緒に入って来た。

「お、君が小松君?」
「あ、はい。あなた方は・・・」
「七曲署の西條と、西部署の鳩村。んで、投石したのはこの子?」
「はい、そうです」

西條が最後の部分を貼付けると、二人はその子の前に仁王立ちした。
身長は二人の方が高いので、少年は見上げる形になっている。
これはかなり威圧感がある。その証拠に、少し少年の肩がすぼんだ。

「この石には殺傷能力はないけど、割れたガラスで首を切ったりしたら、場合によっては死んでしまう事もあるんだぞ」
「何で、こんなバカな真似をしたんだ?」

すると、少年はキッと二人を睨みつけた。

「バカな事をしたのは、おまわりさんたちじゃないか!! 僕が拾ったお金もねこばばして!! 正直にここに持って来た僕が馬鹿みたいじゃないか!!!」
「君も被害者か・・・」

西條は、そういうと中腰になり、少年と目線を同じ位置にあわせた。

「いいかい。そうだからっていって、君がこんなことをしちゃいけない。俺たちは、被害者を捕まえたくないんだ。あいつらは、悪い事をしたからって、君まで悪い人になっちゃいけない。分かる?」
「おまわりさんなんて、信じらんないっ」

鳩村がため息をついた。

「信じられなくていいよ。別に」
「ハト?」
「けれど、こんなことする筈がないって信じてる、君の家族とか友達を裏切ったことになるのは、自業自得だからな。小松、奥で調書取れ」
「あ、・・・はい」

小松が少年を奥へと連れて行く。
その後ろ姿を見送ることすらせず、鳩村は椅子に座り込んだ。

「ハト・・・」

咎めるようなトーンの西條の声に、鳩村はため息をついた。

「子供だからって許してばかりいちゃいけないんだ、今の時代。そして、更生は大人だろうと十分可能なんだ」

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