Autumn
10月のこと。
いつもの通り、鳩村がバイクでパトロールに出ていた。
その目の前を信号無視の車が走り抜けて行った。しかも、かなりスピードが出ている。
こんな町中でそんなスピードでは、危険極まりない。
すかさずコントロールパネルで、センターフロントに設置しているパトランプを回転させ、サイレンを鳴らして追走する。

「はい、前の黒の車、止まりなさいっ」

その鳩村の声は、確実に聞こえている。その証拠に、スピードが上がった。

「あぶな・・・・、止まりなさいっ、ナンバーは押えたぞ!!」

その言葉に、車は止まった。
ただし。
急ブレーキで。

「うわぁっっっ」

鳩村は、スピードを押えられず、そのままバイクごと目の前の洋服店へと突っ込む事になった。
車体は店に飛び込む事を避けられたが、鳩村はウィンドウを突き破って、店内へと飛び込む。
降り注ぐガラスの雨、なぎ倒されるマネキン、それらをヘルメットのフード越しに見ながら、

「スローモーションのように見えるってほんとだなぁ」

などと一瞬のんきな考えが浮かんでいた。
すぐに床に叩き付けられ、思考は現実に引き戻されたけれど。



「ただいま・・・」

痛む体を引きずって、鳩村は刑事部屋へと戻って来ていた。

「ちょっと、ハトさんっ!! 大丈夫なんですか?」

現場の惨状を無線で聞いていた立花が、鳩村を支えようと側に寄るが、鳩村はそれを手で制した。

「大丈夫、大丈夫。・・・クルマは平気じゃないけどな・・・。幸いにも、バーゲンの準備中だったらしくて、もの凄く服が一杯あって助かったよ」
「鳩村、ちょっといいか」

小鳥遊が、木暮の部屋から顔を出して、手招きしている。
嫌な予感に、鳩村の笑顔がなお一層引きつった。



「いい機会だから、この際、一度初心に戻ってみてはいかがかね」
「・・・課長・・・・」

口の端が引きつる。それっていわゆる、降格ではないのかと。

「ハト、お前曙町の交番の件、覚えてるよな」
「あ、はい。交番ぐるみで拾得物横領やらかした所ですよね。閉鎖するんじゃなかったでしたっけ?」
「いや。住民の希望で、残す事になったんだが、あそこに若手しか出せなくてな。色々教えてやってくれないか」
「だから、それっていわゆる降格って事でしょ」
「謹慎だ、ハト」

小鳥遊と、木暮の言葉に、鳩村は肩を落とした。

「謹慎・・・」
「三ヶ月だ。また、戻れるから課長に感謝しろよ」
「はぁ・・・。ですが、俺一人で若手の指導は・・・」
「その点はさすがに考慮した」
「え?」
「入りたまえ」

木暮の導きで、一人の男が部屋に入って来た。
真新しい制服で、制帽を小脇に抱え、いたずらっ子っぽく笑みをたたえている。
さらに鳩村のため息が大きくなった。

「な・ん・で・こいつなんスか・・・」
「お前だけじゃ、可哀想だからな」
「物見遊山にでも来るつもりか、ドック!!」
「物見鳩山、かなぁ」

にやにや笑う西條に、鳩村はうなだれるしかなかった。

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