「ゾル大佐。真樹をあのまま放置したが、それで良かったのかな」
あの場はゾル大佐を信じた櫻井だが、疑問はぬぐえない。
櫻井財閥の経営するホテルのスイートルームに入るなり、
ゾル大佐に疑問をぶつけたのだ。
「はい。おそらく」
「おそらくだって?!
おそらくじゃ困るんだよ。
明日の試合は、テレビ中継までする手はずにしてあるんだ。
真樹に裏切られるわけにはいかない」
ゾル大佐の態度に、初めて不満をあらわにする櫻井。
「君には高い金を出しているんだからね。
もっと、ちゃんとした仕事をしてもらいたいなぁ」
だが、ゾル大佐は相変わらず落ち着いた表情を崩さない。
「ごもっともです。
ただ、今は『おそらく』としか言えません。
その『おそらく』を『たしかに』にする実験をしているところなのです」
「意味が分からないな」
櫻井が座っていたソファから身を乗り出した。
「私の分析が正しければ、真樹が着ているユニフォームは、
ブルース・ウエインが開発した素材で作られています。
「ブルース・ウエイン?」
「そう。バットマンです。
その素材には、人間の意識をパワーに変える力がありました。
ブルース・ウエインはその素材を使ったコスチュームを身につける事で、
強大な力を持つバットマンになる事ができたのです。
(慎也作「ロビン」最終回参照)
しかし、その素材には副作用がありました。
人の潜在意識にも反応してしまうのです」
「ちょ、ちょっと待ってくれないかな。
そんな物を、どうして真樹が手に入れたんだ?
それに、それと明日の試合と、どう関係があるのかな?」
「ブルース・ウエインの開発した素材が、どうして真樹の手に渡ったかは分かりません。
しかし、真樹のユニフォームがその素材で作られている事は、
以前、戦った怪人が採取したユニフォームの一部から明らかなのです。
つまり、真樹はあのユニフォームを身につける事で、超人的な能力を発揮し、
剛球投手にもなり、野球戦士にもなっているのです」
「それじゃ聞くけど、今日の真樹はどうなんだ?
野球仮面にもえらくアッサリ負けてしまったし、
何より最後は屈服してしまったじゃん」
「それは、先ほどお話しした副作用の影響です。
その素材は、最初は顕在意識に反応するのですが、
次第に潜在意識の方に反応するようになるのです。
その為、バットマンの場合は潜在意識にあったサディスティックな欲望に
とりつかれる事になりました」
「と、と言う事はだよ。
真樹の場合はその逆だと」
「そうです。真樹の場合は、悪に破れ、いたぶられたいという願望が、
潜在意識の中にあったという事です」
「なるほど。それは面白い。
だが、君はさっき、真樹を雨ざらしにして、置き去りにしたのは、
それを確かめる為の実験だと言っただろ。
あれはどういう意味なの?」
「ユニの素材の効果は、意識の高まりに比例して大きくなります。
ですから、バッターや悪と対峙した時に、その効果がもたらされるわけです。
多分、一人で置き去りにされた真樹は、もう冷静さを取り戻しているはず。
そろそろ真樹の様子を見に行きませんか。
私の考えが正しければ、奴の心は野球戦士に戻っているはずです」
「そうか。彼が我々に反抗的な態度を示すようなら、君の言う通りというわけだね。
面白い。早速、見に行こう」