野球戦士・真樹(6

 

マウンドの上で生き埋めにされ、雨ざらしになっている真樹に

櫻井とゾル大佐が歩み寄った。

「き、貴様らぁ〜」

二人に対して、憎悪の視線を向ける真樹。

だが、その視線はゾル大佐の仮説を証明するものでもある。

二人は顔を見合わせて、余裕の笑みを浮かべた。

「な、何がおかしい!!」

意味の分からない真樹が、ゾル大佐に食い下がる。

「ふふふ。何がおかしいか、話してやろう。

 野球戦士・真樹のパワーの正体をね」

 

ゾル大佐から語られる野球戦士・真樹の秘密。

さきほど、ゾル大佐が櫻井に話したものだ。

それは真樹にとって驚き以外の何でもなかった。

「ふざけたことを言うな!!」

真樹の言葉は負け惜しみではない。

ゾル大佐の言葉が信じられなかったのだ。

「ははは。信じるかどうかは君の勝手さ。

 ところで、我々はそろそろ引き上げるとするよ。

 君も明日は大切な試合だろ。

 肩を冷やすのは、投手には致命的だよ。

 早く家に帰った方が良いんじゃないのかね」

だが、生き埋めにされた真樹にはどうする術もない。

それを知った上でのゾル大佐の言葉に、真樹は唇を震わせる。

「あははは。そうか、そのままでは家に帰りたくとも無理だね。

 だが、心配ないよ。

 ちゃんと助けを呼べるようにしてやるから」

ゾル大佐はそう言うと、生き埋めにされた真樹の口元に

携帯電話を置いた。

「これでどうしろと言うんだ?!」

「電話で助けを呼べば良いんだよ。

 この携帯はね、音声を認識して操作できるようになっているんだ。

 いいかい、「通話ボタンオン」と言って、後は相手の番号を言えば良いんだ。

 ただし、通信できるのは、あらかじめセットされている番号だけだからね。

 君の後輩の番号だよ。

 これで、後輩を呼んで助けてもらいたまえ」

「後輩だと・・」

「そう。後輩を呼んで、今の恥ずかしい格好をよく見てもらいたまえ。

 まぁ、それが嫌なら、いつまでもそうやって雨ざらしになっているんだね」

言い残して立ち去る櫻井とゾル大佐。

 

ふたたび真樹はマウンドの上に取り残された。

くっそー。こんな姿を後輩に見られたくはない。

たしかに、それはヒーローとしては屈辱である。

何とかして脱出する方法はないのか。

真樹は土の中に埋められた手を何とか動かそうとしてみた。

しかし、土の表面こそ雨で緩くなっているものの、

中は固められたままで、全く身動きが取れない。

ちきしょー、このままでは本当に肩が冷えてしまう。

このまま、やられてしまって良いのか。

自分と共に練習してきた野球部員の顔が目に浮かんだ。

後輩にこんな姿を見られる事は恥ずかしい事だ。

だが、意地を張って、みんなの夢を潰して良いのか。

「通話ボタンオン」

真樹は携帯電話に向かって叫んだ。

何か、重い物が肩から降りたような気がした。

 

真樹が電話した相手は、今年の春に入学したばかりの1年生だ。

おそらく、真樹の剛速球の前には、バットにかする事すら無理だろう。

しかし、今の真樹はそんな1年生に助けを求めなければならない立場なのだ。

後輩を待つ間、真樹は後輩に助けられる自分の姿を想像した。

野球戦士でありながら、敵に散々ないたぶりを受け、

マウンドに生き埋めにされたあげく、後輩に助けを求めざるをえなくなった自分を見て、

後輩は何と思うのだろうか?

あぁ、早く見られたい。この惨めな姿を。

後輩を待ちながら、真樹は次第に興奮してくる気持ちを抑えられずにいた。