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やぶれっ!住基ネット情報ファイル




目次です、目次をとばします。

請求の趣旨

請求の原因

第1 当事者について

第2 住基ネットについて

1 住基ネットの概要

(1)創設の経緯と稼働開始

(2)基本的な仕組み

(3)住民の利便性の内実

ア 住民票の写しの広域交付

イ 転入転出の特例処理

ウ 本人確認と住基カード

(4)国の行政機関等への情報提供とそれがもたらすもの

2 住基ネットの問題性

(1)プライバシーの権利

(2)個人情報の法的保護

(3)個人情報の保護が万全でないこと

(4)セキュリティ上の危惧

第3 横浜方式をめぐる事実経過について

1 横浜市の対応の経緯

(1)住基ネット参加に向けた準備

(2)横浜方式での参加表明

2 四者合意成立の経緯

(1)横浜方式に向けての準備

(2)四者合意の成立

(2)総務省の取った措置

3 その後の横浜市の対応について

4 原告の対応について

(1)住基ネットへの参加準備

(2)住基ネットへの不参加表明

ア 区民の意向調査

イ 調査会議の設置

ウ 住基ネット不参加の表明

エ 被告国への法制度提言

(3)四者合意成立後の動き

(4)横浜方式導入の表明

5 被告側の対応とその後の経緯

(1)被告東京都の対応

(2)協議の申入れと被告らの対応

(3)区民への非通知申出書送付

(4)被告らの拒否回答


本文はじめです、本文をとばします。

訴状

平成16年8月24日

東京地方裁判所御中


原告訴訟代理人〔省略〕


〒166−8570
東京都杉並区阿佐谷南1丁目15番1号
  原告      杉並区
  上記代表者区長 山田宏


(送達場所)〔省略〕


〒100−8977
東京都千代田区霞ヶ関1丁目1番1号
  被告        国
  上記代表者法務大臣 野沢太三


〒163−8001
東京都新宿区西新宿2丁目8番1号
  被告         東京都
  上記代表者東京都知事 石原慎太郎


住基ネット受信義務確認等請求事件
  訴訟物の価額4636万9677円
  貼用印紙額   16万1000円


請求の趣旨

1 被告東京都は,原告が被告東京都への通知を受諾した杉並区民の本人確認情報(氏名,出生の年月日,男女の別,住所及び住民票コード並びにこれらの変更情報)を住民基本台帳ネットワークシステムを通じて送信する場合,これを受信する義務を有することを確認する。

2 被告らは,原告に対し,各自連帯して,4476万9677円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は被告らの負担とする。

4 仮執行宣言

国の答弁(2004年11月2日付け「答弁書」):

1 原告の被告国に対する請求を棄却する。

2 訴訟費用のうち,原告と被告国との間に生じた部分は被告の負担とする。

3 被告国につき仮執行の宣言は相当ではないが,仮に仮執行宣言を付する場合は,

(1)担保を条件とする仮執行逸脱宣言

(2)その執行開始時期を判決が被告国に送達された後14日を経過した時とすること

を求める。

東京都の答弁(2004年11月2日付け「答弁書」):

原告の被告東京都に対する請求をいずれも棄却する

訴訟費用のうち、原告と被告東京都との間に生じた部分は原告の負担とする

との判決を求める。

なお、請求の趣旨第2項に係る請求につき、仮執行の宣言を付することは相当でないが、仮にその宣言をなされる場合においては、担保を条件とする仮執行逸脱の宣言を求める。

請求の原因

第1 当事者について

1.原告は,住民基本台帳法(以下「住基法」という。)に基づく事務を行う法人としての特別地方公共団体である(地方自治法1条の3,281条,住基法1〜3条)。

国・都の認否(2004年12月21日付け「準備書面(1)」の「第3 請求の原因に対する認否」、以下「準備書面(1)」という):

おおむね認めるが,住基法2条が根拠規定となることは争う。

特別区である原告は,基礎的な地方公共団体であって(地方自治法281条の2第2項),憲法上の自治権の主体として,被告国及び被告東京都とは基本的に対等な関係にある。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

原告が基礎的な地方公共団体であることは認めるが,その余の主張については,その法的な意味が不明であるから,認否の限りではない。

2 被告らは,市町村(特別区を含む。以下同じ。)の住民基本台帳事務に関し,法制上その他必要な措置を講じる責務を負う者である(住基法2条)。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

国及び都道府県が住基法2条所定の責務を負うとの限度で認める。

第2 住基ネットについて

1 住基ネットの概要

(1)創設の経緯と稼働開始

住基法の平成11年8月18日改正により,住民基本台帳ネットワークシステム(以下「住基ネット」という。)が創設された(以下,改正後の住基法を「改正住基法」あるいは単に「住基法」という。)。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

おおむね認める。ただし,改正法は段階的に施行されている(同法附則1条参照)。

もともと,住民基本台帳は,市町村において,住民の居住関係の公証(住民票の写しの交付など),選挙人名簿の登録,その他の住民に関する事務処理の基礎となる台帳であり,地方自治の本旨に基づき,市町村が備え,記録するものであって,その作成・管理等は,市町村の自治事務である(地方自治法2条8項,13条の2,住基法1条,3条,5条以下)。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

認める。

これに対し,改正住基法により創設された住基ネットは,住民の一人ひとりに付した11桁の番号(住民票コード)をもとに,市町村の区域を越えた住民基本台帳に関する事務の処理及び国の行政機関等に対する本人確認情報の提供を行うというものである。そのために,国,都道府県及び市町村のコンピュータを電気通信回線で接続する。それによって,住民基本台帳に記載されている事項のうち,住基法30条の5第1項に定める本人確認情報(氏名,出生の年月日,男女の別,住所及び住民票コード並びにこれらの変更情報(住基法施行令30条の5で定める事項))などの流通・利用を行うものである。この住基ネット構築の目的は,住民の利便増進と行政事務の効率化とされている。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

住民に住民票コードを付したとする点は否認する。住民票コードは,住民票の新たな記載事項であるにすぎず,人に対して番号を付すものではない。

その余はおおむね認めるが,住基ネット構築の目的については,その目的の一つが住民の利便増進と行政事務の効率化であるという限度で認める。

このような住基ネットの創設は,国の機関である総務省(旧自治省)の主導で行われた。事実,住基ネットの創設につき,住民基本台帳の作成・管理等を行う市町村ないし市町村議会から,あるいは,全国の住民から,多数の要望・請願等が行われた形跡はない。

むしろ,住基ネットの稼働については,住民のプライバシーや個人情報の保護,地方自治の本旨,コスト・ベネフィットの不均衡などの観点に基づいて,各方面から反対意見・慎重意見が表明されていた。それにもかかわらず,平成14年8月5日に第1次稼働が開始され,また,平成15年8月25日からは第2次稼働が開始されている。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

平成14年8月5日に住基ネットの第1次稼働が開始され,平成15年8月25日に第2次稼働が開始されたことは認めるが,その余は否認する。

政府は,改正法の法案の策定に当たって広く意見を募り,これを反映させてきた。また,住基ネットに反対する意見は皆無ではなかったが,全国知事会,全国市長会及び全国町村会の決議においても,住基ネットの必要性がうたわれている。

こうした背景があったために,全国の市町村のうち,平成16年8月現在で,福島県矢祭町,東京都国立市及び原告が住基ネットに接続していないほか,神奈川県横浜市が後述のように「横浜方式」といわれる段階的参加方式を採用する事態になったのである。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

全国の市町村のうち,平成16年8月現在で,福島県矢祭町,東京都国立市及び原告が住基ネットに参加していないことは認める。神奈川県横浜市については,原告が主張する「横浜方式」の内容が明らかでないため,認否できない。その余は不知。

(2)基本的な仕組み

住基ネットにおいては,市町村は,従来から存在する住民基本台帳電算処理システム(以下「既存住基システム」という。)と住基ネットとの橋渡しをするコミュニケーションサーバ(以下「CS」という。)を設置する。

そして,都道府県は都道府県サーバを設置し,その中に都道府県内の全住民の本人確認情報を記録・保存する。

都道府県知事は,総務大臣の指定する者(「指定情報処理機関」)に本人確認情報処理事務を委任することができるとされており(住基法30条の10以下),総務大臣が指定情報処理機関として財団法人地方自治情報センター(以下「地方自治情報センター」という。)を指定している。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

おおむね認めるが,「委任することができる」とあるのは,「行わせることができる」が正しい。なお,全国のすぺての市町村が住民基本台帳に係る事務について電算処理システムを導入しているわけではない。

そして,都道府県知事から委任された地方自治情報センターが全国サーバを設置し,その中に全国の住民の本人確認情報を記録・保存する。この全国サーバには,国の機関等のコンピュータが接続される。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

「この全国サーバには,国の機関等のコンピュータが接続される」との主張の趣旨は必ずしも明らかではないが,国の機関等への本人確認情報の提供方法は,電気通信回線を通じて国の機関等の使用に係る電子計算機に送信する方法と,保存期間に係る本人確認情報を記録した磁気ディスクを国の機関等に送付する方法のいずれかの方法により行うこととされているので(住基法施行令30条の7),その限度で認める。その余は認める。

そして,全国サーバには,各都道府県サーバが電気通信回線により接続され,各都道府県サーバには,その都道府県内の市町村のCSが電気通信回線により接続されている。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

認めるが,全国サーバ,都道府県サーバ及び市町村のコミュ二ケーションサーバ(以下「CS」という。)は,三者それぞれが専用回線により接続している。

(3)住民の利便性の内実
ア 住民票の写しの広域交付

住基ネットの住民にとってのメリットとして強調されているものの一つとして,住民票の写しの広域交付がある。これは,ある住所地に居住する住民が,住所地以外の交付地(以下「交付地」という。)で住民票の写しの請求をした場合,住基ネットを経由して,住所地市町村の既存住基システムから交付地市町村のコンピュータに住民票情報(最大で,氏名,出生の年月日,男女の別,続柄,住民となった年月日,住所,住所を定めた旨の届出の年月日及び従前の住所,住民票コード,の8情報)が送信されることによって行われるというものである。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

認める。

この住民票情報の送信は,専用回線を通じて住所地市町村から交付地市町村に直接送信されるので,都道府県サーバや全国サーバを経由しない。したがって,この関係では,都道府県サーバや全国サーバとネットワーク接続をする必要性がない。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

第1文は認めるが,第2文は否認する。現行の住基ネットのシステムにおいては,住民票の写しの広域交付を行う際には,交付地において,住民票の写しの交付を受けようとする住民について,同システム所定の本人確認を行わなければ,住所地の市町村に対して広域交付を依頼することができない仕組みになっている。そのため,住民基本台帳に関する事務の処理として,都道府県知事から本人確認情報の提供を受ける必要があり(住基法30条の7第4項3号,同条6項3号参照),その過程において,都道府県サーバや全国サーバと電気通信回線を通じて接続することになる。

なお,住民票の写しの広域交付は,住所地以外で住民票の交付を受ける必要性を感じない多数の住民にとっては利便性が乏しいものである。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

否認ないし争う。

イ 転入転出の特例処理

転入転出の特例処理も住民のメリットとして紹介されている。これは,住民が他の市町村に引っ越した場合に,後述する住民基本台帳カード(以下「住基カード」という。)の交付を受けているときは,「付記転出届」を転出地市町村に郵送し,転入地市町村において住基カードを添えて転入届を提出することで足りるというものである(住基法24条の2)。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

おおむね認めるが,「引っ越した場合に」とあるのは「転出する場合に」が正しい。

これについても,転出地市町村から転入地市町村に対して,転出証明書に記載されている事項が専用回線を通じて直接送信される。したがって,この関係でも,都道府県サーバや全国サーバとネットワーク接続をする必要性がない。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

第1文は認め,第2文は否認する。現行の住基ネットのシステムにおいては,住基法24条の2所定の特例に基づく転入届がされた場合,転入地の市町村は,転入しようとする住民について,同システム所定の本人確認を行わなけれぱ,転出地の市町村に対して転出証明書情報の要求をすることができない仕組みになっている。そのため,住民基本台帳に関する事務の処理として,都道府県知事から本人確認情報の提供を受ける必要があり(同法30条の7第4項3号,同条6項3号),その過程において,都道府県サーバや全国サーバと電気通信回線を通じて接続することになる。

なお,本特例処理は,転居の可能性が皆無か少ない大方の住民にとって利便性が乏しいものである上,住民の異動が少ない小規模の市町村においては,住基ネットの導入・運営に伴う費用に比して行政効率化のメリットは極めて小さいものである。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

否認ないし争う。

ウ 本人確認と住基カード

住民票の写しの広域交付及び転入転出の特例処理にあたって,申請者が本人であることの確認が必要になるが,住基ネットにおいては住民が住基カードというICカードを利用して本人確認をすることが期待されており,特に転入転出の特例処理においては住基カードの交付を受けていることが要件とされている。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

「住基ネットにおいては住民が住基カード.....を利用して本人確認することが期待されており」とする点は,趣旨があいまいであるため認否の限りでないが,その余は認める。

このような住基ネットによるメリットを享受するために必要な住基カードは,個々の住民の希望により交付されるものとされている。しかし,平成16年3月末までに発行された住基カードは約25万枚にすぎず,総務省が平成15年8月段階で平成16年3月末までの目標としていた300万枚を大きく下回っている。これは,住民の多くが住基ネットの有用性を高く評価していないことの反映といえよう。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

住基カードは個々の住民の希望により交付されるものであること,平成16年3月末までに発行された住基カードは約25万枚であることは認めるが,その余は否認ないし争う。

住基カードの交付を受けていることが必須の要件とされている制度は,住基法24条の2所定の転入転出の特例のみであり,住基カードの交付を受けていなければ,住基ネットによるメリットを享受することができないというわけではない。また,総務省が住基カードの発行枚数について目標を立てたことはない。

(4)国の行政機関等への情報提供とそれがもたらすもの

住基ネットは,住民基本台帳に関する事務の処理以外に,前述のように,国の行政機関等に対する本人確認情報の提供が主目的とされている。具体的には,都道府県知事は,一定の国の機関等,当該都道府県の区域内の市町村の市町村長その他の執行機関,他の都道府県の都道府県知事その他の執行機関,他の都道府県の区域内の市町村の市町村長その他の執行機関からの求めに応じて,住民の本人確認情報を提供することとされている(住基法30条の7第3項ないし6項,30条の10第1項3号ないし6号)。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

おおむね認めるが,住基法30条の10第1項は,都道府県知事が指定情報処理機関に行わせることができる事務の内容を定めた規定である。

そのほか,都道府県知事は,住民の本人確認情報を自ら利用することができるほか(住基法30条の8第1項),都道府県知事以外の当該都道府県の執行機関であって条例で定めるものからの求めに応じて本人確認情報を提供することとされている(住基法30条の8第2項)。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

おおむね認める。

このように各種のルートで本人確認情報が提供されることになっているが,その場合,情報を必要とする機関等に直接提供されるのではなく,都道府県を経由しての間接提供が多い。一般に情報の流通ルートが多いほど,また,経由箇所が多いほど,情報流出の危険が大きくなるものであるところ,そのような危険が大きい仕組みとなっている。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

争う。

さらに,国の機関等に対する提供については,当初は93事務に限定されていたが,その後,264事務に拡大され,今後も拡大されていく可能性がある。また,地方自治体への提供についても,条例により拡大されていく可能性がある。このため,情報流通ルートが一層増えて,本人確認情報の流出の危険がますます増加していくことになる。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

国の行政機関等に対する本人確認情報の提供について,当初93事務に限定されていたものが,その後264事務に拡大されたこと,本人確認情報を提供する事務が今後拡大される可能性があることは認めるが,その余は争う。

2 住基ネットの問題性

(1)プライバシーの権利

プライバシーの権利は,伝統的には「ひとりで放っておいてもらう権利」として形成されたが,20世紀の情報化の進展とともに,より広く自己情報のコントロール権として把握されるようになった。

このようなプライバシーの権利は,日本国憲法では13条の個人の尊重,生命・自由・幸福追求の権利に基礎づけられる人格権の一種として理解され,不法行為法などにより法的保護が図られてきた。

最高裁判所も,平成7年9月5日判決〈関西電力従業員監視事件〉(集民176号563頁,判時1546号115頁,判タ891号77頁)でプライバシーの権利を明示的に認めた後,平成14年9月24日判決〈「石に泳ぐ魚」事件〉(集民207号243頁,判時1802号60頁,判タ1106号72頁),平成15年3月14日判決〈長良川リンチ殺人報道事件〉(民集57巻3号229頁,判時1825号63頁,判タ1126号97頁),平成15年9月12日判決〈早稲田大学江沢民主席講演会名簿提出事件〉(民集57巻8号973頁,判例時報1837号3頁,判例タイムズ1134号98頁)などで,プライバシーの権利を認めている。

特に,早稲田大学江沢民主席講演会名簿提出事件の判決においては,早稲田大学が講演会への出席希望者に提供を求めた学籍番号,氏名,住所及び電話番号並びに当該学生が本件講演会の参加申込者であることのような個人情報につき,「本人が,自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然なことであり,そのことへの期待は保護されるべきものであるから,本件個人情報は,上告人らのプライバシーに係る情報として法的保護の対象となる」とした上で,「このようなプライバシーに係る情報は,取扱い方によっては,個人の人格的な権利利益を損なうおそれのあるものであるから,慎重に取り扱われる必要があ」り,個人情報を警察に開示することについて上告人らの同意を得る手続を執ることなく,上告人らに無断で個人情報を警察に開示した早稲田大学の行為は,「上告人らが任意に提供したプライバシーに係る情報の適切な管理についての合理的な期待を裏切るものであり,上告人らのプライバシーを侵害するものとして不法行為を構成する」としている。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

事実に関する主張でないから認否の限りでない。

(2)個人情報の法的保護

前記の早稲田大学江沢民主席講演会名簿提出事件・最高裁判決は個人情報が法的に保護される旨を判示したが,平成15年5月30日に公布された個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」という。),行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(以下「行政機関個人情報保護法」という。)などにより,個人情報が法的に保護されるものであることが一層明らかになった。

まず,個人情報保護法において,個人情報とは,「生存する個人に関する情報であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ,それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)」とされている(同法2条1項)。行政機関個人情報保護法においても,同様であるが,「他の情報と容易に照合すること」との部分が「他の情報と照合すること」とされており(同法2条2項),照合可能性につき容易性が要求されていない点において,保護の対象となる個人情報の範囲が広くなっている。

そして,これらの法律が,個人情報の取得・利用・流通等につき,一定の場合に情報主体の同意や情報主体への通知を要件としたり,情報主体が開示・訂正・利用停止等を求めることができるとされているのは,一定の限度で情報主体の自己情報コントロール権としてのプライバシーの権利を認めたものである。

住民基本台帳に記載された情報,住基ネットを流通する情報は,これらの法制からしても,法的に保護されるべき各住民の個人情報であり,各住民の自己情報コントロール権としてのプライバシーの権利によって保護されるべきものである。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」という。)及び行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(以下「行政機関個人情報保護法」という。)が平成15年5月30日に公布されたことは認めるが,その余は,事実に関する主張でないから認否の限りでない。

(3)個人情報の保護が万全でないこと

住基ネットの導入にあたり,個人情報の流出等が危惧されたため,改正住基法附則1条2項において,「この法律の施行に当たっては,政府は,個人情報の保護に万全を期するため,速やかに,所要の措置を講ずるものとする。」と規定された。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

改正法附則1条2項の規定の存在は認める。

その後,平成15年5月30日に至って,上記のように,個人情報保護法,行政機関個人情報保護法のほか,独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律,情報公開・個人情報保護審査会設置法及び行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(以下「個人情報保護関連5法」という。)が制定・公布された。しかし,これらによっても,公共部門における個人情報の保護は万全なものとはなっていない。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

平成15年5月30日,個人情報保護法,行政機関個人情報保護法,独立行攻法人等の保有する個人情報の保護に関する法律,情報公開・個人情報保護審査会設置法及び行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律が制定・公布されたことは認めるが,その余は争う。

例えば,行政機関個人情報保護法では,行政機関の職員等につき53条ないし55条に罰則が定められているが,53条・55条は「個人の秘密」に関するものであり,「個人の秘密」とまではいえない個人情報については対象外である。また,54条は「業務に関して知り得た保有個人情報」に関するものであるが,「自己若しくは第三者の不正な利益を図る目的」での提供・盗用に係るものであり,このような「不正な利益を図る目的」があるとはいえない場合には適用されない。

そして,住基法自体においても,例えば,30条の17,31及び35は,「秘密」に関するものでしかない(これらには,42条において罰則が規定されている。)。30条の32及び36は,「事務に関して知り得た事項をみだりに他人に知らせ,又は不当な目的に使用してはならない。」という規定であるが,これらについては罰則の定めがない。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

原告が引用する規定の存在は認める。

そのほか,前述のように住基ネットにおいて本人確認情報が非常に広汎な行政機関に提供されることになっているが,これらの行政機関が取得した本人確認情報が本人確認の終了後に廃棄されるべきことについての定めはおかれていない。そのため,広汎な行政機関に本人確認情報が集積されていき,情報流出の危険が増加していく。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

否認ないし争う。

都道府県及び指定情報処理機関が住基ネットを通じて情報提供を行う行攻機関の範囲は,住基法別表第1の上欄に掲げる国の機関又は法人,当該都道府県の区域内の市町村の市町村長その他執行機関,他の都道府県の都道府県知事その他執行機関,他の都道府県の区域内の市町村の市町村長その他執行機関に限定されている。

また,同法30条の33は,本人確認情報の提供を受けた国の機関等が安全確保措置を講ずべきことを定め,同法30条の34は,目的外の利用等を禁じている。

そして,国の機関等が指定情報処理機関(財団法人地方自治情報センター,以下「地方自治情報センター」という。)から本人確認情報を受領した場合には,当該国の機関等は,本人確認事務が終了した後,当該国の機関等と指定情報処理機関との間で締結されている協定書の規定に基づき,受領した当該本人確認情報を消去すべき旨が定められている。

長妻昭衆議院議員からの質問に対する政府の平成16年7月6日付答弁書によれば,平成13年4月から平成16年5月までの約3年間で,個人情報の流出が378件あり,このうち,公共部門からの流出が254件であって,全体の67%を占め,民間部門からの流出を大きく上回っている。公共部門における個人情報の管理について多くの国民が危惧を抱くゆえんである。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

第1文については,長妻昭衆議院議員からの質問に対して平成16年7月6日付け答弁書が提出されたこと,その中に原告が主張する内容が含まれていることは認める。

第2文は,不知ないし争う。

(4)セキュリティ上の危惧

ア 住基ネットにおいては,一定のセキュリティ対策が施されているが,まず第1に,コンピュータ・ネットワークにおいて完全なセキュリティを確保することが不可能であることは,コンピュータの世界における常識に属する。つまり,ソフトウェアのバグ(不備)を完全には防げないし,ソフトウェアの指示するどおりにハードウェアが動作しないという事態は時々あることである。また,コンピュータを扱う人間の不正な操作もありうるのである。

国・都の認否(「準備書面(1)」):『(ア)アについて』

コンピュータ・ネットワークにおいて「完全」なセキュリティを確保することが不可能であることは認めるが,当該ネットワークにとって必要かつ十分なセキュリティを確保することは可能であり,住基ネットについては,必要かつ十分なセキュリティ対策が講じられている。

イ 第2に,住基ネットには,国のコンピュータ,都道府県のコンピュータ,市町村のコンピュータを含めて,膨大な数のコンピュータが接続されることになるが,それらのすべてについて,完全なセキュリティを確保することは,ほとんど不可能である。一般に,セキュリティは投下費用に応じて確保されるとされているが,零細な財政規模の市町村では,投下費用を確保しにくいし,そうでない市町村や都道府県においても,他の行政サービスの予算を削って住基ネットのセキュリティに費用をかけるということにはなりにくい。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

コンピュータシステムについて完全なセキュリティを確保することができないことは(ア)と同様の趣旨で認めるが,その余は否認ないし争う。市町村におけるセキュリティ対策費については,所要の財源措置が施されている。

ウ 第3に,今や,国のコンピュータ,都道府県のコンピュータ,市町村のコンピュータは,庁内LANを介してインターネットと接続されており,どれか1台のコンピュータのセキュリティが破られれば,住基ネットへの侵入が起きる危険がある。さらに,市町村の庁内LANは,庁舎のほか,近隣の公共施設(公民館,コミュニティ・センター,図書館,スポーツ施設など)に接続されている。各庁舎・施設においては,外来者がアクセス可能な位置に,庁内LANの接続口が設けられていたり,あいた接続口があるハブ(LAN接続のための集線装置)が置かれていたりすることが十分ありうる。そのため,全国の市町村のどこかで,いつ庁内LANを通じて住基ネットへの侵入があっても不思議ではない。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

市町村の庁内LANの接続口やハブの位置については不知,その余は否認ないし争う。住基ネットについては,必要かつ十分なセキュリティ対策が講じられている。

なお,市町村が住民基本台帳に関する事務にコンピュータを利用し,かつ,庁内LANを利用してインターネット接続をしている場合においても,外部からの侵入の危険はある。それに対しては,各市町村がその責任においてセキュリティを確保すれば足りる面があるが,住基ネットに接続した場合は,全国津々浦々の膨大な数のコンピュータと接続されることになるのであり,その場合に侵入される危険は,何千倍,何万倍になると思われる。そして,ある市町村の住民の個人情報が全国のどこかの他の市町村のコンピュータが侵入されて流出した場合,情報の特性からして,つまり,一旦知ったことを知らなかった状態に戻すことは不可能であるため,原状回復は不可能である。事後の損害賠償についても,流出の経路が不明である場合など,過失等の立証に困難なことも多いと思われ,損害賠償請求等が容易でない事態が予想される。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

住基ネットヘの侵入の危険性及び住基ネットから個人情報が流出する危険性があることは否認する。その余の主張については,趣旨,内容が明確でないから,認否の限りでない。

エ 第4に,都道府県サーバには都道府県の全住民の本人確認情報が集積され,全国サーバには全国民の本人確認情報が集積されており,これらのコンピュータへの侵入があり,これらの情報が流出すると,その被害は甚大であるだけでなくとりかえしのつかない事態となる。個人情報は集積すれば集積するほど,流出の被害が大きくなるのであり,個人情報の集積度を高くするシステム設計自体に問題があるところである。

なお,地方行政事務の電子化ないし電子地方自治体化を図るとしても,必要な場合に必要な限りにおいて専用回線で情報通信をすれば足りるのであり,都道府県の全住民,そして,全国民の本人確認情報を集積する必要性はないのである。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

都道府県サーバに都道府県の全住民の本人確認情報が集積されていること,全国サーバに全国民の本人確認情報が集積されていることは認めるが,その余は否認ないし争う。

オ 第5に,CSや庁内LANなどで利用されているOS(基本ソフト)は,マイクロソフト社のWindows2000と思われるが,Windows2000についてはセキュリティ・ホールがしばしば見つかっている。一定の時間がたてば修復プログラムが用意されるが,それが用意されるまでの間はセキュリティが不備であるし,修復プログラムのインストールが迅速に行われない場合には,セキュリティ・ホールが残ったままの状態が続くことがある。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

CS並びに被告国及び同東京都の庁内LANで利用されているOSがマイクロソフト社のWindows2000であるか否かは,機密保持上,認否することができない。その他の道府県,市町村等の庁内LANについては不知。その余は,一般論としては認めるが,いずれにしても,住基ネットについては,必要かつ十分な安全対策が講じられている。

カ 第6に,一般に,セキュリティに関しては統括責任者の指示・命令により対策が強力かつ迅速に行われる必要があるが,住基ネットにおいては,セキュリティ統括責任者が不明確であり,セキュリティ対策が強力に行われにくい。この点に関しては,そもそも住民基本台帳に関する事務が市町村の自治事務である関係から,国が全国サーバの管理・運営の主体となることができず,都道府県が財団法人である地方自治情報センターに委任する形をとらざるをえなかったことに起因する。そして,地方自治情報センターには住基法上,強力な権限は認められていないのである。

これらの諸点からすれば,住民が住基ネットによる個人情報の流出の危険を感じることについては相当の根拠が認められる。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

否認ないし争う。地方自治情報センターは,法30条の12が定める指定基準を満たし,適正かつ確実に業務遂行を行う能力を有する機関であるし,住基ネットにおいては,関係機関の責任体制が明確に定められている。

第3 横浜方式をめぐる事実経過について

1 横浜市の対応の経緯

(1)住基ネット参加に向けた準備

平成14年5月頃から7月頃にかけて,全国の市町村から,それぞれの存する都道府県のサーバを経由して,地方自治情報センターのサーバに仮の本人確認情報が送信された。仮の情報は,本稼働後はそのまま正式な情報として扱うことが予定されていた。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

おおむね認めるが,本稼働までに死亡等の事由が発生した揚合には,仮の情報は正式な情報としては扱われない。

横浜市も,その頃,参加を前提として,他の市町村と同様に,神奈川県のサーバに本人確認情報を送信し,第1次稼働前の平成14年8月2日までの更新情報をも送信していた。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

認める。

(2)横浜方式での参加表明

横浜市は,平成14年8月2日,改正住基法附則1条2項で予定されていた個人情報保護に関する法整備が未だになされていないことなどを理由として,神奈川県に対し,準備段階で通知した横浜市民分の本人確認情報の消去を申し入れるとともに,住基ネットに参加することを前提としつつも,住基ネットの安全性が総合的に確認できるまでの緊急避難的措置として,非通知を希望する住民の本人確認情報を神奈川県へ通知しないこととするいわゆる「横浜方式」による参加を表明した。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

横浜市が表明した内容についてはおおむね認めるが,横浜市が表明した内容を「横浜方式」であるとする点は,原告が主張する「横浜方式」の内容が明らかでないため,認否できない。

2 四者合意成立の経緯

(1)横浜方式に向けての準備

横浜市は,平成14年8月頃より,横浜方式での参加のため,被告国及び神奈川県との調整協議を開始し,同年8月5日の第1次稼働につき,横浜方式での参加が可能になるまで神奈川県サーバとの接続を見合わせた。

次いで,横浜市は,同年9月2日から10月11日まで,本人確認情報非通知申出書を受け付けた。同期間内の非通知申出者数は83万9539人(24.28%)であった。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

第1段落はおおむね認めるが,原告が主張する「横浜方式」の内容は明らかでないため,この点については認否できない。

第2段落は,横浜市がそのように公表していることは認める。

(2)四者合意の成立

平成14年10月16日,横浜市長と総務大臣が会談した際,総務大臣は,全員参加を前提としながらも,段階的なデータの受け取りについて理解を示した。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

否認する。総務大臣は,どのような対応が可能であるかを検討させることとしたい旨を回答したにとどまる。

その後,平成15年4月9日に至って,上記横浜方式に関する合意が成立した。それは,「制度を所管する国,データ通信に関して実務的な調整が必要な神奈川県,システムの開発者である地方自治情報センター及び横浜市」の間で成立したもので,そこでの合意内容は,「横浜市の住基ネットへの参加にあたっての措置について」と題する書面(甲1)にまとめられている。それは,概略,次のようなものであった(以下,「四者合意」という。)。

① 全国サーバ及び神奈川県サーバには平成14年8月2日時点の横浜市民にかかる本人確認情報が保存されている一方,現在の横浜市のデータは,横浜市に神奈川県への「非通知申出」をしなかった者(通知希望者)と「非通知申出」をした者(非通知希望者)とに個別に区分されて管理されているが,横浜市民全員の更新データの送信が完了するまでの間は,データ全体の真正性が担保できないため,横浜市民の本人確認情報は利用及び提供をすることができないこと。

② そこで,全員参加に至るまでの段階的な対応として,横浜市は,市民の更新データ及び更新されていない旨のデータを送信すること。

③ 通知希望者については,平成15年6月9日を目途として,本人確認情報の利用及び提供が可能となることを目指すこと。

④ 横浜市は,住基ネットの本格的な稼働をふまえて,住基ネットの安全性を総合的に確認し,速やかに市民全員の本人確認情報の更新データの送信を完了すること。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

四者合意が締結されたこと及びその内容は認める。

(2)総務省の取った措置

総務省は,四者合意が成立すると同時に,「事務連絡」として,自治行政局市町村課長名で,各都道府県等の住基ネット担当部長あて,上記合意内容を送付している(甲1)。そこには,「念のため」として,選択制は認められない旨も付記されているが,もともと横浜方式は,段階的参加方式であって,選択制とは異なるものであった。その意味で,この文書は,横浜方式,つまり,全員参加を前提としつつ,住基ネットの安全性が総合的に確認できるまでの間の段階的な対応として,通知希望者と非通知希望者とを区分して送信する方式を容認する内容であった。

国・都の認否(「準備書面(1)」):「(3)総務省の取った措置」について(訴状15ぺージ最下行(2〉は(3)の誤りと思われる。)

総務省が,四者合意が成立すると同時に,「事務連絡」として,自治行政局市町村課長名で各都道府県等の住基ネット担当部長あてに合意内容を送付したこと,「事務連絡」において,「念のため」として,選択制が認められない旨が付記されていることは認めるが,その余は争う。

3 その後の横浜市の対応について

すでに述べたように,平成15年5月に個人情報保護関連5法が制定されているが,横浜市は,それらの法制定だけでは,前記の住基ネット全員参加の前提としての総合的な安全性の確認は取れていないとして,引き続き横浜方式を実施している。これに対し,神奈川県,地方自治情報センター及び被告国も横浜方式による接続を拒絶することはしていない。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

平成15年5月に個人情報保護関連5法が制定されたことは認める。神奈川県及び被告国が横浜方式による接続を拒絶することはしていないとする点については,現在,横浜市からの接続を拒絶していないことは事実であるが,被告国及び神奈川県は,横浜市に対し,速やかに住民全員の本人確認情報の通知を開始して違法状態を解消するよう,繰り返し求めている。「引き続き横浜方式を実施している」,「横浜方式による接続を拒絶することはしていない」との点については,原告が主張する「横浜方式」の内容が明らかでないため認否できない。その余は不知。

4 原告の対応について

(1)住基ネットへの参加準備

原告は,住基ネットへの参加のための準備を行い,平成14年6月26日から,他の市町村と同様に,被告東京都のサーバを経由して地方自治情報センターのサーバに仮の本人確認情報の送信を開始し,更新情報については,第1次稼働前の平成14年8月1日まで送信していた。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

平成14年6月26日,原告から被告東京都のサーバを経由して地方自治情報センターのサーバに仮の本人確認情報が送信されたことは否認する。

本人確認情報を地方自治情報センターのサーバに送信したのは,杉並区長から当該情報の通知を受けた東京都知事である。原告は,被告東京都のサーバを経由したか否かにかかわらず,地方自治情報センターのサーバに本人確認情報を送信していない。

(2)住基ネットへの不参加表明
ア 区民の意向調査

原告が行った平成14年7月9日から9月5日までのアンケート調査における7月31日段階での中間集計結果によれば,2764人の回答者のうち,1995人(72.18%)が,同年8月5日の住基ネットの稼働について,凍結・延期すべきであるとの意見であった(甲2)。

また,同年7月下旬の電話アンケート結果によれば,859人の回答者のうち,511人(59.5%)が,住基ネットの稼働を凍結・延期すべきであるとの意見であった(甲3)。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

不知。

イ 調査会議の設置

原告は,平成13年9月25日に全国の自治体に先駆けて「杉並区住民基本台帳に係る個人情報の保護に関する条例」(甲4)を制定・公布し,区長が住民票記載事項の適正管理のために講ずべき事項等を定めている。

同条例6条で,住民票記載事項の漏えいにより区民の基本的人権が侵害されるおそれがあると認めるときは,区長は必要な調査を行わなければならないと定められていることから,平成14年7月,原告は,住基ネットの構築に伴う法制度上,技術上,運用上の諸問題につき,専門家の意見を徴するため,杉並区住民基本台帳ネットワークシステム調査会議(以下「調査会議」という。)を設置した(甲5)。

同調査会議からは,同年8月1日付にて,住基ネットは万全の個人情報保護対策を講じているとはいえず,住基ネットへの接続については,慎重に対応すべきとの中間報告が提出された(甲6)。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

原告が,平成13年9月25日,杉並区住民基本台帳に係る個人情報の保護に関する条例を制定・公布したことは認めるが,その余は不知。

ウ 住基ネット不参加の表明

原告は,同年8月1日,これらのことを踏まえ,区長見解として,区民の基本的人権を危険にさらすことはできず,確固とした個人情報保護のための法制度が整備されるまでは,住基ネットに参加することはできないと表明し(甲7),翌8月2日,被告東京都に対し,8月5日以降,被告東京都への送信は行わないことを告知するとともに,送信済みの情報について速やかに消去するよう申し入れた(甲8)。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

認める。

エ 被告国への法制度提言

平成14年10月11日,原告は,内閣総理大臣あて,「住民基本台帳ネットワークシステム稼働の前提となる確固とした個人情報保護の法制化について(要望)」と題する要望書を提出した(甲9)。

そこでは,同年8月5日の第1次稼働への抗議とともに,行政機関個人情報保護法の抜本強化や個人情報保護対策・セキュリティ対策面等からの住基法関係の改正提言が行われていた。

しかし,その多くは実現されないまま推移した。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

原告が訴状記載の要望書を提出したことは認める。

(3)四者合意成立後の動き

平成15年4月9日,前記のとおり,横浜方式に関する四者合意(甲1)が成立した。同年5月12日から23日までの区民アンケート結果によれば,回答数1255件のうち,843件(67%)が,このまま住基ネットに参加しない方がよいと回答し,177件(14%)が,住基ネットに参加するかどうかは個人の選択にゆだねられるようにした方がよいと回答した(甲10)。

同年5月29日,調査会議より第三回報告書(甲11)が提出された。そこでは,住基ネットには,まだまだ多くの不安,問題点があること,個人情報保護関連5法の成立により確固とした個人情報保護法制が確立したかは疑問であることが指摘される一方で,「全国的には第二次稼動も始まる中で,住基ネットによる利便性を求める区民も一定数いることなど無視し得ない要素であろう」として,原告に全体として適切な判断を希望すると結論づけていた。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

平成15年4月9日,甲第1号証記載の内容で四者合意が成立したことは認めるが,その余は不知。

(4)横浜方式導入の表明

上記のような状況を踏まえて,原告は,平成15年6月4日,「住基ネット対応方針」(甲12)によって横浜方式の導入を表明した。

そこで明らかにした導入の理由は,次のようなものであった。

① 個人情報保護関連5法が成立してもなお,憲法上の保護法益である住民のプライバシー保護という観点からは,依然として十分な安全性が確保されたとは言いがたい状況にあること。

② 国や自治体が法を遵守すべきことはいうまでもないが,住民基本台帳事務が自治事務であることや,住基法等の定めからしても,区長には,住基法による参加義務と個人情報適切管理義務とを両面から勘案しつつ,優先すべき保護法益を選択する法的義務があること。

③ その際の保護法益は,住民の利便性の向上という法益とプライバシーの保護という法益になるが,それらが個人に根ざす法益であることから,その選択を区民に委ね,それを尊重することが二つの保護法益を最も調和させることになること。

④ そうした方向に合致するものとして,上記四者合意による横浜方式が先行して存在するので,原告としては,これによることが妥当と判断したこと。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

原告が,平成15年6月4日,甲第12号証記載の意見を表明したことは認めるが,その余は不知。

5 被告側の対応とその後の経緯

(1)被告東京都の対応

これに対し,被告東京都は,同日,総務局長コメントとして,以下のとおり見解を表明した(甲13)。

① 横浜方式は,住民全員が参加した段階では適法だが,その前の段階までは住基法に違反する。

② 横浜方式は,横浜市民全員の住民票コードを住民票に記載した上,住民全員が参加することを前提として総務省が認めた特例措置である。

③ 被告東京都としては,速やかに全員参加できるよう,その時期を区長が明示し確約した上でなければ,横浜方式への対応はできない。

④ このまま速やかに全面参加しない場合,法的拘束力のある地方自治法245条の5の規定による是正の要求について,総務省と調整を進める。

この見解は,条件次第では横浜方式に対する積極的対応があり得るようにも解せられたが,実際には,そのような方向での進展はなく,また,被告らが上記是正要求に踏み切ることもなかった。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

第1段落は認める。

第2段落については,現在,被告国が地方自治法245条の5の規定による是正の要求を行っていないことは認める。

(2)協議の申入れと被告らの対応

原告は,上記見解を受けて,平成15年6月25日,被告東京都に対し,住基ネットへの円滑な参加のための協議を申し入れたが(甲14),その後,被告らは,横浜方式による原告の住基ネット参加について何らの見解を示すこともなかった。

国・都の認否(「準備書面(1)」):『イ「(2) 協議の申入れと被告らの対応」について』の『(ア)第1段落について』

平成15年6月25日,原告から被告東京都に対し,協議の申入れがあったことは認めるが,その余は否認する。被告らは,原告に対し,速やかに住民全員の本人確認情報の通知を開始して違法状態を解消すべきことなどを,繰り返し求めている。

前記四者合意(甲1)の内容からも窺われるように,原告が,被告東京都の協力を得ることなく,横浜方式によって住基ネットに参加することは技術的に不可能であった。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

原告が主張する「横浜方式」の内容が明らかでないため認否できない。

しかし,被告東京都は,そのために必要な協力を全くせず,原告からの横浜方式での送信データの受信を拒否する姿勢を変えなかった。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

原告が主張する「横浜方式」の内容が明らかでないため認否できない。

(3)区民への非通知申出書送付

原告は,その後も協議の進展を求めたが(甲15),被告らは横浜方式による原告の参加について何らの見解を示さなかった。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

原告から甲第15号証記載の内容で協議の申入れがなされたことは認めるが,その余は否認する。その理由は,前記イ(ア)述べたとおりである。

そこで,原告は,第2次稼働日である平成15年8月25日,被告らが何ら具体的な見解を示さないこと,横浜市との取扱いを異にすることが法の下の平等に反するので,横浜方式での参加が早急に認められるよう被告らに対し強く要望すること,横浜方式での参加を目指した具体的準備に着手することなどを表明した(甲16)。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

原告が甲第16号証記載の内容の意見を表明したことは認める。

原告は,同年10月6日,準備段階での住民票コードをそのまま正式に住民票コードとして付番した。

同年10月20日,「住基ネットについてのお知らせ」,「住民票コード通知票」及び「本人確認情報非通知申出書(以下「非通知申出書」という。)」を全区民に送付した(甲17)。

原告は,「住基ネットについてのお知らせ」において,原告の住基ネットへの対応の経緯,横浜方式による本人確認情報非通知申出手続の流れ,住基ネットによるサービス内容等についての説明をした。

これによる本人確認情報非通知申出数は,非通知申出書郵送数51万3501件のうち,8万6563件(16.86%)であった(甲18)。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

不知。

(4)被告らの拒否回答

原告は,平成15年12月9日,上記非通知申出の結果を発表するとともに,平成16年1月中には送信分と非送信分との区分整理を完了して横浜方式で被告東京都へデータ送信できるよう準備をすること,被告らとねばり強く協議を進めていくこと,司法的決着が必要になる可能性があることなどを表明した(甲18)。

さらに,原告は,平成16年1月14日,総務大臣及び東京都知事に対し,それぞれ,横浜方式での参加を認めること,これを認めない場合は同月末日までに理由を文書にて回答することを申し入れた(甲19)が,被告らは,平成16年1月30日,いずれも早急に住基ネットへの全面参加を求める旨回答し,原告の横浜方式での住基ネットへの参加を拒否した。(甲20)。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

原告が甲第18号証記載の内容の意見を表明したこと,甲第19号証記載の内容で協議の申入れをしたこと,総務省自治行政局長が甲第20号証の1記載のとおり,東京都総務局長が同号証の2記載のとおり,それぞれ回答したことは認める。

第4 被告東京都の受信義務について

1 横浜方式による送信の適法性

(1)原告の憲法及び地方自治法上の地位

憲法第92条が規定する「地方自治の本旨」とは,地方の政治・行政は住民自身の手によるべきであるという「住民自治」と,それが団体として独立して行われるべきであるという「団体自治」を内容とする地方の自治権を意味するものであって,これにより住民の権利保障を実効あらしめようとするものである。

このような憲法上の自治権は,基礎的な地方公共団体である特別区にも及んでいると解される。

かかる「地方自治の本旨」に基づいて定められた地方自治法は,同法の目的として,「国と地方公共団体との間の基本的関係を確立すること」と並んで,「地方公共団体における民主的にして能率的な行政の確保を図る」ことをうたっている(1条)。

国と地方公共団体との間の基本的関係,さらには,都道府県と特別区・市町村との間の関係については,地方自治法全体は,とりわけ平成11年の大改正により,それぞれの関係が上下関係ではなく,対等な協力関係にあることを明らかにしている。

そのうえで,同法は,国と地方公共団体の役割分担に関して,「住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねること」,「地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない」ことを国に義務づけている(1条の2第2項)。

さらに,同法2条13項は,住民基本台帳事務のような法定自治事務については,「国は,地方公共団体が地域の特性に応じて当該事務を処理することができるよう特に配慮しなければならない。」として,国の特段の配慮義務を規定している。

そして,「地方公共団体に関する法令の規定」の解釈・運用に関しては,同法2条12項前段において,「地方自治の本旨に基づいて,かつ,国と地方公共団体との適切な役割分担を踏まえてこれを解釈し,及び運用するようにしなければならない。」と定めているのである。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

事実の主張ではないから,認否の限りではない。

(2)住基法における原告の義務と権限
ア 住基法改正による適切管理義務の創設

前記のとおり,住民基本台帳事務は,もともと,市町村・特別区の自治事務であった(地方自治法2条8項,13条の2,住基法1条,3条)。

それ故,住民基本台帳事務に関しては,住基法3条1項(市町村長等の責務)において,「市町村長は,常に,住民基本台帳を整備し,住民に関する正確な記録が行われるように努めるとともに,住民に関する記録の管理が適正に行われるように必要な措置を講ずるよう努めなければならない。」とされていた。まさに住民に身近な行政として,市町村長・区長が住民基本台帳管理の直接的な責任主体とされていた。

ところが,住基ネット関係の法改正に伴い,市町村長・区長は,区民の住民票記載事項のうち本人確認情報につき,住基ネットを通じて都道府県知事に送信する義務を負うこととなった(住基法30条の5第1,2項)。

さらに,これに伴って,住基法36条の2第1項が新設された。それによれば,市町村長・区長は,住民基本台帳に関する事務の処理に当たっては,住民票に記載されている事項の漏えい等の防止その他の同事項の適切な管理のために必要な措置を講じなければならないこととされた。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

原告主張の規定の存在は認めるが,その余は争う。

イ 個人情報保護法制の不備

また,改正住基法附則1条2項においては,「この法律の施行に当たっては,政府は,個人情報の保護に万全を期するため,速やかに,所要の措置を講ずるものとする。」と定められた。ここでいう「所要の措置」が,住基ネット稼動の前提として,個人情報保護に関する法制度の整備がなされることを意味していることは,改正住基法に関する国会・委員会での政府答弁などの審議から明らかである。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

改正法附則1条2項の規定の存在は認めるが,その余は争う。同規定は,個人情報保護に関する法制度の整備に向けて,立法機関ではない政府が実施可能な範囲で措置を講ずべきことを求めているものにすぎない。

しかし,個人情報保護関連5法が制定されたものの,その内容が不十分なものであることはすでに見たとおりである。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

争う。

ウ 区民の意向

さらに,すでに述べたように,住基ネットについて,その利便性に着目して参加を希望する区民がいる一方で,相当数の区民は,プライバシー保護に欠けるところがあるとして,不参加を表明していた。後者の区民が抱く危惧は,専門家によっても裏付けられるものであった。住民に身近な行政を遂行する立場からすれば,そのような区民の危惧あるいはその有する法益を無視することは許されないことであった。このような区民に関する事情こそ,地方自治法2条13項にいう「地方公共団体が地域の特性に応じて当該事務を処理する」必要性を裏付けるものであった。

エ 原告の送信義務内容

以上のとおり,住基ネットにつき,万全の安全体制にあることが確認されるまでには至っておらず,かつ,このことに危惧を抱く相当数の区民が存在する場合,原告は,住基法36条の2第1項に基づく必要な措置として,少なくとも,上述の本人確認情報非通知希望者については,横浜方式の先例にならい,その本人確認情報を被告東京都に送信しない扱いをなし得るというべきである。そして,その限りで,住基法30条の5第1項及び2項に基づく被告東京都への送信義務の内容も限定されると解すべきである。

国・都の認否(「準備書面(1)」):「ウ 区民の意向」及び「エ 原告の送信義務の内容」について

杉並区民の意向は不知。杉並区民が抱く危惧が専門家によっても裏付けられるものである点は否認し,その余は争う。

2 被告東京都の受信義務

被告東京都は,もともと,原告が,住民に身近な行政として,自主的な判断に基づき,区民の権利・利益の保護を図る行動を選択する場合,その判断を尊重すべき立場にある。住基ネットに関していえば,被告東京都は,住基法30条の5第1項及び2項の反面として,原告からの送信に伴い,これを受信する義務を負っている。それと同時に,住基法30条の29第1項に基づいて,送信を受けた本人確認情報について,住基法36条の2第1項と同様に,「適切な管理のために必要な措置を講じなければならない」とされている。

これらのことからすれば,被告東京都は,横浜方式に則って送信された杉並区民のデータを受信する義務があるというべきである。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

争う。

第5 国家賠償法上の損害賠償責任について

1 被告らの違法行為(共同不法行為)

(1)被告東京都の違法行為

被告東京都は,前記のとおり,住基法30条の5第1項及び2項に基づき,原告からの区民データの送信に伴って,これを受信する義務を負っているところ,原告の横浜方式による参加への協力要請に応じず,上記受信義務を履行しない。

よって,被告東京都の行為は,住基法30条の5第1項ないし3項に違反し,違法性を有する。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

争う。

(2)被告国の違法行為

被告国は,住基法31条1項に基づき,被告東京都に対し,同法の規定により被告東京都が処理する事務について,必要な指導を行うものとされている。上記のように,被告東京都がその受信義務を履行しないのであるから,被告国は,上記条項に基づき,自らが認めた横浜方式の例にならい,被告東京都に対し,原告の横浜方式での参加につき,必要な協力をするよう適切な指導を行うべき立場にあった。そのことは,地方自治法2条13項が定める「地域の特性」に応じた事務処理への特段の配慮義務からも当然に導かれることであった。

ところが,被告国は,これを行わないのみならず,原告の横浜方式での参加については違法である旨の誤った法解釈を被告東京都に示す違法を犯している。

しかも,被告国は,法の下の平等を定めた憲法14条の精神に則り,行政など国家作用のあらゆる分野での平等取扱いを要請されているところ,一方で横浜市に対しては横浜方式での住基ネット参加を容認しながら,原告に対しては同方式での参加については違法である旨を告知して,平等原則に反する違法を犯し,被告東京都と共同して,原告の横浜方式での参加を妨害している。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

争う。

(3)被告らの共同不法行為

したがって,被告らの行為は,国家賠償法上の違法性を有し,民法719条の共同不法行為を構成する(国家賠償法1条1項,4条)。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

争う。

2 被告らの違法行為による損害について

(1)住基ネット設備関連費用について
ア 住基ネット設備賃貸借契約の締結と継続

原告は,平成14年8月5日の住基ネット第1次稼働に向けた準備として,平成13年度中の平成14年2月1日に,日本電気リース株式会社との間で,同日から同年3月31日まで,CSをはじめとする住基ネット関連機器等の賃貸借契約を締結するなどした。

平成14年度においても,継続して賃借する必要があるため,平成14年4月1日に,同日から平成15年3月31日まで,引き続き前記機器等を賃借していた。

なお,原告は,平成14年8月1日,確固とした個人情報保護のための法制度が整備されるまで,8月5日の第1次稼働日に住基ネットへ参加しない旨を表明し,前記機器等の電源を切るなどして住基ネットに参加しなかったが,参加のための条件が整備された場合,直ちに住基ネットへ参加できるようにするため,前記機器等の賃貸借契約を継続していた。

平成15年度においても,直ちに参加できるようにするため,前記機器等の賃貸借契約を継続した。原告は,同契約により,エヌイーシーリース株式会社(旧日本電気リース)に対し,平成15年4月から平成16年3月までの間,賃借料として毎月84万2940円(消費税込み)の支払いを継続している(甲21)。平成16年度についても同様である。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

原告が,平成14年8月1日,同月5日の第1次稼働日に住基ネットに参加しない旨の意見を表明したことは認めるが,その余は不知。

イ 被告らの違法行為による無為な費用負担

原告は,前記のとおり,平成15年6月4日,横浜方式での住基ネットへの参加を表明したが,被告東京都は,被告国と共同して,同日以降現在まで,原告の横浜方式での参加を認めず,自らの受信義務を履行しない。

それ故,原告は,被告らの違法行為により,住基ネットへの参加が不可能となり,これによる通知希望者の利便性及び行政効率化が阻害され,前記支出が行政上の効果を全く発揮することができておらず,現在に至るまでの前記賃借料の支出が無為に帰した。その意味で,原告は,不要な支出を余儀なくされたものである。

しかも,原告としては,被告東京都が将来受信義務を履行した場合,直ちに横浜方式での参加が可能となる態勢を維持しておく必要があることから,前記賃貸借契約を解約することはできない。いったん同契約を解約すれば,撤去及び再設置に4カ月以上の期間を要し,余分な初期投資も必要となるほか,CSのデータを再度整備すると仮送信のデータと齟齬を来たすことになり,横浜市のようなスムーズな再接続が不可能となる。その場合は,住基ネットへの参加が遅れることとなり,通知希望者の利便性等を原告が奪うこととなってしまうのである。

よって,原告は,平成15年6月4日から平成16年7月31日までの期間に対応する賃借料相当額である1171万6866円の損害を被った。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

第1段落については,原告が甲第12号証記載の意見を表明したことは認めるが,被告東京都が受信義務を履行しないとする点は争う。その余については,原告が主張する「横浜方式」の内容が明らかでないため認否できない。

第2段落ないし第4段落は争う。なお,当該費用は,住基ネットヘ接続したとしても発生する費用と思われる。

(2)転入転出手続上の郵便費用について

原告が横浜方式での参加が可能であれば,通知希望者のうちの住基カード交付者についての前記転入転出の特例処理はもちろん,転入地市町村から転出地市町村への転入通知の処理についても,市町村間の住基ネットを通じたデータ送信により,その処理が可能となる。なお,転入通知の処理は非通知希望者についても行われる。

ところが,原告は,被告らにより,住基ネットへの参加を妨害されているために,本来住基ネット上で処理可能な転入転出手続をすることができない。そのため,原告に転入する住民については,原告の費用で転入通知を転出地市町村役場へ郵送せざるを得ない。

また逆に,転入地市町村は,原告から転入地市町村へ移住してきた住民について,原告への転入通知の郵送を強制されてしまう。そこで,原告は,かかる市町村に対し,横浜市と異なる負担をさせないため,区役所に転出届の提出に来た区外へ移住する住民に対し,転入地市町村役場の担当者に渡すように依頼して,転出証明書と併せて受取人払用封筒を交付せざるを得ず,受取人払郵便費用相当額が原告の損害となった。

平成15年8月から平成16年6月までの期間における上記転入通知郵送費用及び受取人払郵便費用は,合計で304万2160円となっている(甲22〜24)。

これらは,被告らの違法行為により支出を余儀なくされたものであり,同行為による原告の損害である。しかも,現在もその損害額は拡大している。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

不知ないし争う。

(3)住民票無料交付について

原告は,被告らにより,住基ネットへの参加を妨害されているために,住基ネットを通じた本人確認手続ができない。そのため,原告区民によるパスポート申請や所定の資格試験に際しては,必ず住民票が必要となる。したがって,区民は,上記用途での住民票交付手数料を強制的に負担させられて,同手数料相当額の損害を被ることとなる。

そこで,原告は,パスポート申請等のために住民票を要する区民に対し,横浜市民とは異なる負担をさせないため,原告が手数料を負担せざるを得ず,その手数料相当額が原告の損害となった。

なお,非通知希望者については,住基ネットへの参加を予定していない以上,自らの負担で住民票を取得する必要があり,その分については損害とはいえないところ,上記申請者に非通知希望者が含まれている可能性は否定できないが,外見上区別することは不可能である。そこで,非通知希望者割合分を減額すれば,合理的な損害額を算定することが可能である。

平成15年6月4日からの上記用途住民票交付数2万3478通(なお,平成15年6月分は日割り計算。甲25)に単価300円を乗じて,非通知希望者割合である16.86%分を減額すると次の通りである。

2万3478通×300円×(1−0.1686)=585万5882円

したがって,原告は,上記交付数に相当する交付手数料合計585万5882円の損害を被った。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

不知ないし争う。

(4)人件費について
ア 削減可能な人件費相当額の損害

原告は,横浜方式による住基ネットへの参加により,前記のとおり,住基ネットを利用した転入通知の事務処理が可能となり,これに要する時間を短縮することができる。まず,原告から前住所地市町村への転入通知については,平均で1週間に最低でも1人で12時間の作業時間を要し,年間で52週となることから,年間624時間を要している。次に,転入地市町村から送付されてくる転入通知の入力処理について,平均1件5分の処理時間を要し,年間少なくとも3万3000件が発生しているため,年間2750時間を要している。横浜方式による住基ネットへの参加により,これらの事務処理が不要となる。

また,住民票の写しの提出も不要になるから,その点に伴う住民票交付事務処理時間も短縮される。つまり,住民票の写しの交付には,平均で1件につき4分の処理時間を要し,少なくとも年間で1万7963件の住民票交付が不要となると見込まれる。それ故,年間1198時間の事務処理が不要となる。

それらの合計時間は,4572時間となる。そして,原告職員の1時間当たりの平均人件費が4194円であるから,少なくとも年間で1917万4968円の人件費の削減が可能となる。

ところが,原告は,被告らの違法行為により横浜方式での住基ネット参加を妨害されているため,本来であれば,削減できたであろう上記人件費について,削減できない状態にある。

よって,原告は,平成15年6月4日から現在までの447日分の削減可能であった人件費相当額2348万2769円の損害を被ったものである。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

不知ないし争う。

イ 人員不足によるアルバイト報酬相当額の損害

また,原告は,横浜方式での参加ができないために,区民の転入転出が多い3月ないし4月の繁忙期において,人員不足に陥り,転入転出手続の事務補助のため,アルバイトを採用せざるを得なくなった。これにより,アルバイト報酬相当額の支出を余儀なくされた。

よって,原告は,被告らの違法行為により,平成15年度においては,3月分のアルバイト報酬相当額である67万2000円の損害を被ったものである(甲26)。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

不知ないし争う。

(5)損害合計額

以上より,被告らの違法行為により,原告の被った損害は,合計4476万9677円である。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

不知ないし争う。

第6 結語

よって,原告は,被告東京都につき,原告が通知を受諾した杉並区民の本人確認情報を住民基本台帳ネットワークシステムを通じて送信する場合,これを受信する義務を有することの確認を求め,かつ,被告らに対し,連帯して国家賠償法1条1項に基づく損害賠償金として4476万9677円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

国・都の認否(「準備書面(1)」):

争う。

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この資料は、杉並区のwebサイトに掲載された以下のpdfファイルを基に作成しました。(編集:原田)


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初版:2005年09月28日、最終更新日:2007年02月25日
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