2003年2月19日水曜日。
私の生まれて初めての手術の朝は、めったにないほどの快晴だった。
昨日から気になっていた喉は、お薬のおかげでほとんど楽になっている。
カーテンを開けてキラキラ光る雪を見ているうちに、遠足の朝のようにわく
わくしてきた。
たくさんの方たちが、私を応援してくれているのが、理屈ではなく、肌で感じられた。
携帯電話にメールが届き始める。
「<青空!>
庭の雪がキラキラ輝いています☆ 念じてま〜す♪」
「<皆で祈るからね。>
『知らないのですか。あなたがたの体は、神から頂いた聖霊が宿って下
さる神殿であり、あなたがたはもはや自分自身のものではないのです。
・・・・だから自分の体で神の栄光を表しなさい。
コリントT 6:19 』
祈祷会に行って来ます。皆で祈るからね。」
「<今日ですね>
手術の成功と、あなたの爽やかな目覚めを願っています。」
「<おはよう>
今朝6時半の○○の書込み。
『きょうは、へたなおしゃべりはしないの。
たいせつなひなの。
ただただ、いのるの。
はだかんぼうのこころで
ぎゅっとめをとじて
COSMOSがんばれって。
いちにち。
だから
(*^-^*)/~~~ 』
これを読んで泣きそうになった。
COSMOS、がんば! 」
読むたびに、胸がいっぱいになってありがとう、という涙が出る。
毎朝お掃除に来てくださる方に
「今日ですね。がんばってくださいね」
と言われただけで、またうるうる・・・。
今日は朝から絶食。食事はないけれど、点滴をつけながら、一日の尿の量
を測らなければならなかったり、けっこう忙しい。
お昼すぎに、夫と娘が来てくれる。
実は手術の時に、しようと思っていたことがあった。
友人の一人が手術の時に、好きな音楽のCDをかけて貰ったところ、麻酔から醒めた時に「夢のような時間だった!」らしい。
それを聞いて、私も手術中に何か音楽を聴きたい、と思った。
でも、今更病院にお願いできない、と思ったので、私の特技、頭の中で音楽を鳴らす、というのを利用することにした。
手術室に入る直前に、好きな音楽を聴く。
麻酔にかかっている間、その曲を頭の中で鳴らしながら手術を受ける。
我ながら、なかなかいい考えだ。
手術は3時ごろ、と聞いていたので、まだまだ時間があると思い、CDプレイヤーに聴きたい曲のCDをセットして、夫とむすめと3人で、テレビの午後のお笑い番組を見ていた。
看護士さんが部屋に入ってきた。
「はい、トイレに行ってきてくださーい。戻ってきたら、向かいの処置室に行ってくださいねー」
え??ここに戻って来ないの?
音楽は????
予定が狂っちゃったな〜、と思いながらトイレに行って、処置室で手術着に着替える。
着替えを手伝ってもらっている時に、看護士さんに
「手術行く前に、音楽聴いちゃだめ??」
と頼んだのだけれど
「もうだめー」
と言われてしまった。
ストレッチャーに寝かされて、点滴を入れられた。
「はい、眠くなるお薬、いれまーす」
どうしても諦められなくて、もう一度頼んでみた。
「やっぱり音楽、聴きたいんだけど・・」
しょうがないわねぇ・・というように笑って看護士さんが、夫と娘が待機している向かいの部屋に言いに行った。
「なんか、音楽聴きたいそうなんですけど」
と声がする。
夫が何か言っている。
すぐに看護士さんが戻ってきて
「あのー、ご主人が『俺が歌う、ってことですか』っておっしゃってるんですけど」
違います!!!
夫が冗談で言ったのを、まともにとらないでよー。
それとも、冗談に乗ってくれたの?
すぐに娘が、CDプレイヤーとヘッドフォンを持って来てくれた。
薬が効いてきて、眼が開けていられない。
「11番・・・」
トラックの番号を言うのがせいいっぱい。
曲は、中島みゆき 「ヘッドライトテールライト」
前奏が始まった。
静かな音が頭の中に鳴り響いて、涙がじわーっとこみあげてきた。
「旅はまだ終わらない」
このフレーズを聴きたくてこの曲にしたのだけれど、前奏を聴いているうちに、吸い込まれるように意識がなくなっていった。
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・・・・・と私は思っていたんだけど、翌朝、娘に聴いたら・・・
「私、前奏で寝ちゃったよね」
「えー?何言ってるのー。エレベーターに乗る時に、看護士さんが
『そろそろ、音楽やめてください』
って言ったら、おかあさん
『ブチ!!って切らないで、ちゃんとフェイドアウトして』
って言って、あたしがちゃんとフェイドアウトして切ったのに
『ブチって切れたー!』って言って文句言ってたじゃない(笑)」
えーーーーー???
全然覚えてないよ・・・。
麻酔にかかっている時って、本性が現れるのかしら・・・・。