〜がんとの出会い〜第二部

1.手術当日

2.麻酔から醒めて


3.翌日から退院まで



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 2.麻 酔 か ら 醒 め て

「COSMOSさん COSMOSさん」

呼ばれて眼を開けたら・・・
うっ!!!まぶしい!!眼が回る!!!
開けていられない。
まわりに人がいっぱいいる気配がする。

「今何時?ここどこ?もう終わったの??」

娘の声「4時半。病室。終わったよ」
私 「終わったの?うれしーーー!」
娘 「よかったね・・」

娘が、まるで母親のように優しく言ってくれる。優しさが胸に沁みる。
まだ、身体の何がどうなっているのか、さっぱりわからないけれど、左半身が苦しい。
夫も何か言ってくれたと思うけど、忘れちゃった(汗)
夫と娘が両方の手を握ってくれている。(それとも、私から頼んだのかな??)
夫が左手、娘が右手。
夫の手は、どうしたらいいかわからないらしく、なんだかもぞもぞして頼りない。
それに比べて、右手を握ってくれている娘の手からは、ものすごくまっすぐなパワーが私の掌を通って身体全体にどんどん流れ込んで来る。気持ちがいい!
つらい左半身に、このパワーを入れて欲しくて、さっそくお願いする。
「右と左、代わって!」

私は「お願い」したつもりだったのに、後で夫から
「あの時は、自分が女王様にでもなったつもりだったんじゃないか?(笑)」
と言われてしまった。

やれやれ。やっぱりこういう時って、本性が現れるのね。

それと、こういう時(麻酔の醒め際)って、いろんな神経が超過敏になっているのだろう、不思議なことがあった。
眼が開けていられなくて、眼をつぶって夫や娘と話していた時に、看護士さんの声がして
「お花が届いています」
と言われたのだが、眼をつぶっているので、どんなお花かも見えないのに
「あ、○○さんからのお花だ」
とわかったのだ。
あれは、今でも、何故わかったのか不思議。

手術を担当して下さったS先生が、ベッドの脇に座って話しかけて下さる。

「はい、肘から先を動かしてみて。
 そうそう。
 今夜ひと晩は、脇は開けちゃダメだけど、肘から先はどんどん動かして。
 手を握ったり開いたりも、気づいたらどんどんやって」

ほぉ〜。最近はこうやって出来るだけ早くリハビリを始めるのか〜。

・ ・・と感心していたら娘が

「おかあさん。二進法、やってみて!」

二進法、というのは、五本の指を折ったり開いたりしながら、片手だけで1から31まで数えるやり方で、私はこういうことが得意なので、娘が小さかった時から自慢げにやって見せていたのだ。
それにしても、この場面でそういうことを思いつく娘も、すごいな〜(笑)
言われたとおりに、左手でやってみたら、まったく問題なく出来ました!

長く眼を開けていられなくて眼をつぶると、うとうとしてくる。

夫と娘が、手術で切ったものを見た話などをしているのをうつらうつらしながら聞いていた。
「デジカメで撮りたかったけど、言えなかった」
「イクラみたいだった」(これは採ったリンパ節のことらしい)と娘。
「見せてもらう時に、M(娘)が、俺の腕にしがみついてくれて嬉しかった」と夫。

「そうだ。冷蔵庫におととい炊いたご飯を茶碗に入れてラップして入れてあるんだけど、
 あれ、喰えるかな」

うとうとしながら、内心むっとする私。

「こんな時に、家の冷蔵庫の話なんか聞きたくないよ〜」

眠ったり眼を覚ましたりして、8時半に二人が帰るまで過ごした。

ひとりになった頃、麻酔が完全に切れてきたのか、全身が痛いような苦しいような、かなりつらい感じになってきた。しかも、右手には点滴、左は動かせないし、導尿されているので下半身もうっかり動かせない。それに左のわき腹がつねられ続けているようにすごく痛い。
消灯になって暗くなった中で、ひとりで痛みに耐えているのは、けっこうきつかった。

そんな中、夜勤の看護士さんがしょっちゅう見に来てくれたのがありがたかった。
全身が痛くて苦しい、と訴えると、痛み止めの座薬を入れましょうか?と言われた。
実は私、2回のお産の時に痛み止めの座薬を入れて強いめまいに襲われてひどい目に遭ったことがあるので、あのつらさに比べたら、この痛みを数時間耐える方がまし、と思って断り続けた。
私がダメだったのは「インダシン」という薬で、入れようとしているのは「ブスコパン」という薬だから、多分大丈夫よ、と言われたのだけれど、結局使わずに頑張った。

動けないので腰が痛い、というと、バスタオルで身体の向きを固定してくれたり、腰に湿布を貼ってくれたり、まだ水も飲めないけど、口の中が気持ちがいいように、と氷を舐めさせてくれたり、ほんとうによくしてくれた。
バスタオルや湿布で痛みがとれたわけではないけれど、こうやって「あなたのことを気にかけている」ということを伝え続けて貰うことで、孤独にならずに痛みに耐えることが出来たのだろう。
看護士のKさん(今でも名前と顔をはっきり覚えています)本当にありがとう。

手術前は

「手術直後の夜は、どうせすることが無いから、ゆっくり寝ればいい」

と甘いことを考えていたのだけれど、これは全く予想と違った。

・ ・・実は、こういう予想をしたのは、母からの情報なのだ。
母は15年ほど前に70代で乳癌の手術をしたのだが、その時のことをこう言っていた。

「手術は眠ってる間に終わっちゃうし、病室に帰ってきて夜はそのままぐっすり眠って、眼が覚めたら朝だったの。
暇だったから、起きて病室の片付けしてたらE子(姉)が来てびっくりしてた」

まさかそこまで楽だとは思わなかったけれど、こういう話を聴いていたので、手術のことをほとんど心配しないで済んだのは、よかった。
でも・・・

この苦しさでぐっすり眠れるなんて、やっぱり母は只者じゃなかったんだ・・・

などと思い巡らしながら、結局朝まで眠れなかった。
明け方、そろそろ水が飲める、という状況になったので、入眠剤を貰ってようやく眠りについた。

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