〜がんとの出会い〜第二部

1.手術当日

2.麻酔から醒めて

3.翌日から退院まで



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 3.翌 日 か ら 退 院 ま で

眼を覚ましたら、朝だった。
朝の光が嬉しかった。
ナースコールして看護士さんに来てもらって、導尿管をはずしてもらい
ゆっくり起き上がって、点滴ハンガーをひっぱって自分でトイレに行った。
ふらふらして頼りないし、左上半身に痛みもあるけど、それほど悪い気分でもない。
看護師さんに促されて、体重計に乗ってみる。
昨日一日食べなかったのに、ほとんど減っていなかった^^;

ベッドに戻ってしばらくしたら朝食の時間。
手術の翌日はお粥、と思っていたら・・・
いや、確かにお茶碗の中はお粥だったけど、ついているおかずは普通食。
それを、休み休み全部食べたら、ぐっと元気になった!
食後に痛み止めの飲み薬を飲んで痛みが刻々と消えていき、ますます元気になる。

手術前から切っていた携帯電話の電源を入れると、
友人たちから何件も励ましのメールが入っていた。
本当に、みんなありがとう!

手術を担当して下さったS先生の回診。ベッドに寝た状態で。

「はい、胸の前で手を組み合わせて。
 それをゆ〜っくり頭の上まで持って行ってごらん」

え〜??傷が破けたりしない?大丈夫???
とか思いながら、言われたとおりにやってみる。
痛み止めのおかげか、痛みは感じないんだけど、左側が全然思うように動かない。
右手の力でなんとか、言われたとおりに、組んだ手をおでこに着地させることが出来た。

「はい、合格!もう、どんどん動かして大丈夫だからね。
 動かさないと固まっちゃうから、とにかく意識的に動かして」

と言われる。
左手が動かなくなったら、指揮者としてはまずいよね・・・と
初めて実感する。

点滴(抗生物質)をはずして・・・ただし、針は右手首に入れたまま・・
自由になってどんどん元気になった頃、夫と娘が来てくれた。
夫はそのまま仕事に行ったが、娘はベッドの脇に居て、
お見舞いに頂いた漫画を読んでいる。
読みながら声を殺して爆笑しているのを見ているだけで可笑しくて
でも、笑うとさすがに傷のあたりが痛くて、苦しかった(>_<)

ベッドの上で起き上がってテレビを見ていたら、院長先生が覗きに来て下さった。
座っている私を見た院長先生

「あ〜、ダメダメ!元気過ぎる!
後で揺り戻しが来るから、今はおとなしく横になっていなさい」

はい・・・^^;

午後、大学の同窓生である、院長夫人が来てくれて

「主人が、『問題無く、すっと取れた。時間も短かった』って言ってたわよ。
 よかった!」

と言ってくれた。
ありがとう!!心強いです!

病院の近所に住んでいて、毎日のように来てくれた友人が
ヨーグルトなどを持って来てくれて、私があまりにも元気なのに呆れていた。
夜、仕事帰りに夫が寄ってくれた。
やはり呆れて

「とても昨日、癌の手術をした人とは思えない!」

ははは(^o^;

その夜はぐっすり寝て、翌日、抗生物質の点滴が終わるまでは順調だった。
点滴が終わってトイレに行ったら、いきなりお腹をこわした(T_T)
私はとにかく抗生物質が苦手で、歯を抜いた後とかちょっとした風邪で貰う
抗生物質の飲み薬で必ず胃腸がダメになる。
点滴なら大丈夫かと思っていたら・・・ダメだったか・・。
せっかく体調よくて食事もおいしく食べていたのに・・。

翌日起きたら目がひっこんでいて、病人みたいな顔になっていた(-_-;)
お願いして点滴をやめてもらい、抗生物質を飲み薬に替えてもらう。

3日目にはおなかも収まって元気になり、術後初めてシャンプーを自分でする。
リハビリ体操にも参加。

リハビリ体操については、わたしの性格がばれるエピソードが・・。
入院してすぐ、まだ手術の前にリハビリ体操に参加して、その後、
どこまで腕が上がるかを計測した。
体操は1日に2回。患者が交代でリーダーになって、
棒をつかったりしながら腕が固まらないように動かす体操。
術前はもちろんまったく痛くないので軽々出来て、
その後の計測も張り切ってやりました。
壁に沿って立って、左右それぞれ、腕を上に向かって伸ばして
指先がどこまで届くかを測っておく。
この時に、優等生タイプのわたしは張り切り過ぎて、
「どうだ!」と言わんばかりにびしっと手を伸ばして、
かなり高い場所の目盛りに名前を書かれた。
この時には気づかなかったんだけど・・・。

術後、同じ場所で手を上げてみたら・・・。
左手は情けないぐらい全然上がらなくて、
術前の目盛りが遥か上にあるのがうらめしかった。
「あの時あんなに張り切って上を目指さずに、
もっといい加減に測っておけば楽だったのに・・・」

やれやれ^^;

体操も、術前とは比べ物にならないぐらい左側が動かない。
しかも、手術した場所から排出されるリンパ液を溜めておく袋がぶら下がっている。
これが何とも居心地が悪い。手術後、左のわき腹がつねられるように痛かったのは、
実はこのリンパ液を排出するためのドレイン(管)を通す穴が、
わき腹に開けられていたからだったのだ。
このドレインが抜けたのは5日目の24日。

「はい、もう排出液も少なくなってきたので、抜きましょう」
と言われて抜くところを見たら!!!

ずずずずずず。。。。(管が抜ける音)(私の頭の中ではこう聞こえた(>_<))

ええええええええ??????
こんなに長いのが身体の中に入っていたの??気持ちわる〜〜〜い(>_<)
知っていたら気持ち悪くてたまらなかっただろう。脇のリンパのすぐ下の辺りから、
管が外に顔を出すわき腹までの20センチぐらいが身体の中に入っていたわけだ。
しかも2本も!!!

でも、ドレインが抜けたおかげで、身体の動きがものすごく楽になって、
体操もルンルンで出来るようになった。まだまだ痛くて、
無理やり棒で左腕を持ち上げる動作は、
ほんとに泣きたくなるほどだし、左の脇におふとんがはさまっているみたいな、
ぼってり腫れた感じは鬱陶しかったけど、その他は全て快適で、
外出許可を貰ってすぐ近くの大型スーパーに買い物に行ったり、
同じ日に手術した方たちとも親しくなって、
お互いの病室に遊びにいくようになったりした。

私は個室だったけれど、大部屋でも同じようにみんな仲良くなっている様子で、
消灯後だというのに、まるで修学旅行の生徒たちの部屋のような派手な笑い声が上がって、
看護スタッフさんに叱られたりしていた。
入院病棟の明るさに夫が呆れて「ほんとうにみんな・・・・癌??」と言ったぐらいだった。
乳癌の手術は内臓をいじるわけではないので回復が速いことと、
最初の手術ではそれほど深刻な状況にはならないからだろう。
でもそれだけではなく、どうやら乳癌患者は他の癌患者に比べて明るくて前向きな、
さっぱりした人が多いように思う。

けれどさすがの私も、術後13日目、3月4日に初めて傷を鏡で見ようとした時には、
ちょっとビビった。

術後からもちろん毎日、傷の消毒をしてもらっていたのだけれど、
そんなに気にしていないつもりなのに、
やっぱり怖くて、自分で見ることが出来なかった。
何度か看護スタッフさんに「傷はもう、見ましたか?」
と聞かれたけれど、「いえ、まだ・・」と誤魔化していたのだ。
ドレインも抜けて、傷も落ち着いてきたのでお風呂に入っても良い、と言われ、
個室の病室の小さなバスルームで、いよいよ傷を見ることにした。
どうせいつかは見なきゃならないのだし・・。

泣くかも・・と自分の気持ちに用心しながら服を脱ぎ、
上半身を「エイッ!」と洗面所の鏡に映してみた。

「あ!・・・・」

思わぬ反応が心の中に起こった。

「あ!!ウィンクしてるみたい(*^_^*)」

右の胸は、決して立派ではないけれど^^;健康に張っていて、乳首もしっかりしている。
一方、左の胸には、まだ赤い傷が真一文字に横切っているだけ。
そして、傷を縫った針の痕が、ちょうど睫毛のようで、ウィンクしているように見えたのだ。
もっと悲惨な傷を想像していたので、この、ある意味さっぱりした傷を見て、
私はむしろ明るい気持ちになれたのだった。

ただし、50代半ばで乳房を失ったことに、
それ以来一度もマイナスの気持ちにならなかったわけではない。
そのことについては、後日「喪失感」というタイトルで書く予定。

この後、3月8日に退院するまで、たくさんの方にお見舞いに来て頂いた。
21日間の入院中、家族を除いて延べ121人!1日最高19人の方が来て下さった。
面会室で同時に来て下さったあちらのグループの方と
こちらのグループの方を引き合わせたり、
なんだか全然入院患者という気がしなかった。みなさま、本当にありがとう!

退院前日に、主治医から病理の結果を聞き、治療方針を提案され、その夜夫と相談し、
e-クリニックにも相談のメールを送って、主治医の提案どおりの治療をして頂くように、
翌日返事をした。
病理の結果と治療についても、次回もう少し詳しく書く予定。

こうして「元気に退院する」という最初の目標を、無事にクリアすることが出来た。

以下は、お見舞いに来て下さった方やお手紙、お電話、メールを下さった
たくさんの方たちに送った、お礼のハガキの文面です。

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この度の私の入院、手術の折には、力強いお励ましをお届け下さいまして、
ほんとうにありがとうございました。
皆様のお祈りに支えられ、無事に手術を終えて元気に退院することが出来ました。

これまでの人生で最大の危機でしたから、初めは悔しさと不安を
追い払うのが精一杯でしたけれど、
「病気は、誰かに治して貰うのではない。自分の身体なのだから、自分で治そう」
と決めた瞬間から不安が消え、前向きの力が溢れてきました。
それ以来今日まで、こんなにたくさんのすばらしい人々との関わりの中で
生かされていることに圧倒されながら、
一日もマイナスの気持ちに陥ることなく、感謝の気持ちに満たされて過ごす事ができました。
ありがとうございました!

目に映る景色、聴こえてくる音、心に届けられる風が、よりくっきり鮮明に感じられます。
すばらしいものに満ちたこの世界を、一日一日大切に味わって暮らしてゆきたいと思います。
これからもどうぞよろしくお願い致します。

2003年4月

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