行殺(はぁと)新選組りふれっしゅ 近藤勇子EX

第五.五幕『極秘指令、坂本龍馬ヲ暗殺セヨ!(前編)』

初めて近藤勇子EXを読む人(解説)
常連さん(本文から)


(近藤勇子EXを初めて読む人の為の解説)
 近藤勇子EXは、行殺のゲーム中どのシナリオでも(EXシナリオでさえ)近藤勇子が必ず死んでしまい、何をどうやっても絶対に幸せにならない為に、頭に来て私が書き始めた作品。文久3年春の島田誠入隊から、明治新選組政府樹立までの物語で、新選組小説としても珍しく、新選組が鳥羽伏見の戦いで完全勝利し、明治維新までおこなってしまうという内容です。
 本シリーズの主人公 島田まことは、近藤勇子の近習きんじゅう(※側近)です(近藤勇子EXですから)。このシリーズでの島田には頭痛を伴う予知能力があり、新選組の誰かが死にそうになる前に頭痛でそれを察知し、回避させるように動いています。この頭痛予知により、本来の歴史では新選組の内部粛正で早い時期に死んでしまうキャラクター(芹沢とか山南とか)が生きてる為、歴史にかなりのゆがみが生じてます。
 近藤を籠絡して新選組を乗っ取ろうとした伊東甲子だけは島田が斬ってしまいましたが(※第4幕参照)、それ以外の面子めんつ(カモミール芹沢、山南敬助、谷三十華みそか、武田観奈かんな)は生きており、新選組大坂屯所で大坂の町の治安を守ってます。
 慶応3年3月下旬。
 新選組副長の土方歳江にとって、近藤の側近として重用されている島田が邪魔になって来たため、土方は島田暗殺を計画するも、頭痛予知によって島田に事前に察知されてしまいます。近藤とはかって、島田は新選組を離脱。東山の高台寺に逃げ込み、一人で『新選組』と一文字違いの『新撰組』を旗揚げします。これに鈴木美樹みきを筆頭に旧伊東派が合流。
 同年6月初旬に新選組が幕臣に取り立てられますが、この際に大坂新選組の面々は無視され幕臣に取り立てられなかった為(本来の歴史では死んでるからなあ)、彼らは島田の『新撰組』の方に合流。藤堂たいらも北辰一刀流繋がりで新撰組の方に移籍し、最後に斎藤はじめが土方のスパイとして『新撰組』に潜入(新撰組では、斎藤は島田の浮気を調べるために近藤が送りこんだスパイだと思われている)、新撰組の方も一大勢力となってます。

◆新撰組(高台寺党とも呼ばれる)
屯所:東山 高台寺月真院
組織

局長 カモミール・芹沢
 局長附近習 斎藤はじめ
谷周子
総長 山南敬助
副長 島田誠
 副長助勤 谷三十華
鈴木美樹
藤堂平
武田観奈
 他 名前が登場しない副長助勤が若干名。
砲術師範 阿部十郎
監察方 谷万沙代


◆本作品での私のオリジナルキャラクター
 谷三十華
 谷3姉妹の長女で山南LOVEなナイスバディのお姉様。スカートの丈は新選組で1・2を争う短さである。でも大人になっても消えない顔のソバカスを気にしていて、前髪を長く伸ばし隠している。かなりキツい性格をしており自分より弱い者は認めない。種田宝蔵院流槍術の達人。原田沙乃の槍の師匠。新選組の槍術師範だが、教え方はスパルタ。元キャラは谷三十郎。
 谷万沙代:
 次女で神明流剣術の達人。大坂に道場を持っている道場主。姉と比べると性格は穏やかでおとなしめ。顔のソバカスは3姉妹の中でも一番少ない。主に諜報を担当している。元キャラは谷万太郎。
 谷周子
 姉2人とかなり年の離れた三女。まだ幼い。マスコット的存在。剣術も槍術も未熟だが、容姿がかわいらしいのと強運の持ち主なので、試合すると割と負けない。元キャラは近藤周平(近藤勇の養子になった際に改名した。改名前の名前は不明)。
 武田観奈:
 メガネの似合う知的な美少女。彼女も山南LOVEであり、三十華のライバルである。胸がないのを気にしている。蘭学者で蘭方医である。武器は手製の手榴弾で、それをたもとから取り出してポイポイ投げるという芹沢と並ぶ迷惑攻撃な人である。洋式銃も使う。でも武術は苦手。元キャラは武田観柳斎。
 鈴木美樹:
 伊東甲子の妹。控えめで丁寧な性格で礼儀正しい正統派の美少女。酒に凄く強いが、酔うと性格が変わる。神道無念流の免許皆伝。元キャラは鈴木三樹三郎。

(※ここから本編)
 慶応3年9月。 
 俺たち新撰組が、本家新選組から分離してから半年がった。

「うーむ」
 竹箒たけぼうきで庭を掃きながらうなる俺。秋なので掃除しても掃除しても次から次から枯れ葉が落ちてくる。庭掃除は副長の日課だ。箒で庭を掃きながら様々な事を静かに思い巡らすのだ。一見、風流な様だが、落ち葉と一緒に集まって来るのは金属製の空薬莢からやっきょう。高台寺の庭では洋式銃の訓練が行われる為、落ち葉に混じって空薬莢が転がってるのだ。落ち葉は焚き物として使うし、空薬莢は銅板を延ばして再利用する。実にエコロジーだ。
「誠、どうかしたの?」
 俺と一緒に庭の掃除をしてたへー(※藤堂たいら

が声を掛けて来る。彼女も向こう側から空薬莢を掃き集めて来ている。
「いや、美樹みきさんが、こっちに来たのは何でだろうと思ってな」
「・・・・」 竹箒の音がぴたっと止まる。へーが笑顔で固まった。
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・ええっ! 今頃になって!?」
 そこまで驚くほどの事だろうか? 確かに鈴木美樹みきら旧伊東一派が新撰組の方に移籍してから半年経ってはいるが。
「いや、思ってはいたのだが、伊東参謀の仇討あだうちかなあ? とか」
 鈴木美樹は伊東甲子の実の妹だ。苗字が違うが、それは姉の甲子が江戸の佐賀町の伊東道場(北辰一刀流)を継ぐ為にとついで苗字が変わったからだ。女性は嫁ぐと苗字が変わるのである。
 俺が美樹さんの姉の伊東甲子を斬ったので、その仇討ちだろうか? とか思って俺は戦々恐々とし、寝るときすらレミントンのリボルバーを手放さなかったのだが、案に相違して何もなかったのだ。
「でもこの半年、何もなかったんでしょ?」
「そうなんだよなあ。カモちゃんさん達が合流する前ならチャンスはいくらでもあったんだがなあ」
 そのチャンスは俺が殺されるチャンスなので、ない方が良くはあるのだが。少なくとも勝負になったら向こうは神道無念流の免許皆伝なので俺の勝ち目は全然ない。
「うん。美樹さんは大丈夫だよ」 と、へーが断言する。
「なにゆえ?」
「伊東先生と美樹さんって仲が悪かったんだよ」
「そうなのか!?」 それは初耳だ。「いや、しかし、そうは見えなかったぞ」
 俺の見る限り、鈴木美樹は姉の伊東甲子に静かに従っているようだった。言わば姉の懐刀的な存在だと思っていたのだ。
「あ、えーとね、仲が悪かったというか、美樹さんが伊東先生を嫌ってたというか・・・」
「姉の方がデキが良いから?」
「なに、それ?」
「参謀は知的でグラマーな美人だったじゃないか。新選組でも文学師範だったし・・・女教師だぜ、女教師! そそるよなあっ」
「そそるって・・・・」
 今にも涎を垂らしそうな俺の様子に、へーが半歩後退あとじさる。はっ! いかん、いかん。これではただの変な人だ。
「いや、もとい。姉が美人で学問が出来て剣の達人だから、妹が嫉妬しっとしてたとか?」
三十華みそかさんも美人だけど、万沙代まさよさんも周子ちゃんも嫉妬してるようには見えないよ?」
 へーが言うのは、谷3姉妹の事だ。彼女たちは姉妹仲が良い。姉は妹思いだし、妹は姉思いだ。なぜこの3人が新撰組こっちの方にいるかと言うと、三十華が山南LOVEだからだ。妹2人はそんな姉に着いて来ただけだ。三十華と同じ理由で武田観奈もこっちにいる。正直、谷3姉妹と武田観奈の存在は新撰組にとってもありがたいので、それは山南さんがモテるからで・・・何であんなおやじがモテモテなのだろう?
「確かに三十華は美人でナイスバディだけど、性格が悪いじゃん」
 そう。彼女は山南さんの前では猫を被っているが、実は性格が悪い。
「あ、あはははは。三十華さんには黙っておくね」
「あと、ソバカスが、」「誠、それは禁句。三十華さんの耳に入ったら殺されるよ」
 へーが俺の言葉をさえぎる。
 谷3姉妹は、揃いのミントグリーンの髪とソバカスが遺伝子共通だが、長女の三十華は大人なのにソバカスが消えてないのを気にして前髪を長く伸ばして顔を隠している。ソバカスがなければ美人なんだがなあ。化粧をすれば良いのだろうけど、武人だから化粧が流れるのだろうな、きっと。そういえば、新選組の女性幹部達もみんなノーメイクだったな。まあ、ノーメイクでも、かなりの美女・美少女集団なので何の問題もなかったのだが。
「で、鈴木美樹の話はどうなったんだ?」
「誠から見て、美樹さんはどんな人?」
「神道無念流の免許皆伝で、礼儀正しく、控えめでおとなしい感じの美人・・・かなあ。ん〜、伊東参謀は土方さんと同じクールビューティーで、鈴木さんはどっちかというと近藤さんタイプかな?」
「だから、仕方なかったんだよね」 へーが一瞬、遠くを見るような表情をした。
「は?」 何がどう仕方がなかったんだろう。さっぱり話が繋がらない。
「ねえ、誠。これから話す事は他言無用だよ」 へーが真顔になる。
「おう」 どうやら内密な話らしいので俺も神妙に応える。
「誠、伊東先生が、新選組内部で急速に力をつけたのは何故だと思う?」
「学問が出来るから」
 文学師範として伊東は漢学や論語、和歌などの講義を持っていたが、美人な上に教え方がうまく、しかも褒め上手だった為、伊東の授業に入りたい男達は後を絶たなかったのだ。胸元の大きく開いた白のブラウスにスリットの入った黒のタイトスカートという女教師の衣装も一役買っていたに相違ない。
「それだけで? 変じゃない?」
「それは、まあ、確かに」
 伊東の新選組加盟直後から伊東になびく若い隊士が急速に増えたのは事実だ。わずか1年で局の半分が伊東派キンノーに取り込まれた。そして満を持して新選組を乗っ取ろうとした、まさにその瞬間を俺が妨害したのだ。あれは伊東が悪い。事もあろうに近藤さんをはずかしめたのだ。その罪、万死に値する。よって俺が誅殺した(相手は北辰一刀流と神道無念流の免許皆伝だったので、実は俺の方が半殺しの目にあって死にかけたのは内緒だ)。
 確かにへーの言う通り、美人で学があって授業が人気とは言っても、それで佐幕の新選組隊士が簡単にキンノーに引っ繰り返るものだろうか?
「何か別の理由があるのか? 隊士を金で買収したとか・・・ってどこにそんな金があんだよ」
 言ってから自分でも不自然な事に気付いたので一人ボケ突っ込みになった。
「・・・美樹さんを道具に使ったんだ」 へーが声のトーンを更に落として、そう言う。
「は? 道具・・・って、まさか!?」
「うん。その、まさか」
「そ、それはつまり、あんなことや、そんなことや、こんなことも!?」
「多分、誠の想像よりももっと凄い事も」
 どばっ・・・ボタボタボタ。
「誠、鼻血出てる・・・」
 ち、ちょっと待てー、俺の想像より凄いってどんな事まで!? いや、それよりもへーは俺の想像が見えるのか!?
「それって、まさか、昔ながらの色仕掛け大作戦なのか!?」
「伊東先生の眼鏡にかなった隊士は休息所(※史実の方の新選組幹部は屯所の外に休息所と呼ばれる家を持つことが認められていた。そこに女性を囲ったのである)に呼ばれて特別授業を受けるの・・・それに新しく入った隊士って若い男が多かったじゃない」
「と、特別授業・・・何という甘い響きだろう・・・あれ、ちょっと待てよ」
 ふと、俺は気付いてしまった。へーも北辰一刀流で伊東派だったのだ。
「えーと、いや、その、何だ」 俺は鼻血を押さえながらごまかしたが、
「うん」 俺の視線で気付いたのか、俺が何も言わないうちにへーが答える。
「だって仕方ないよね」
「仕方ないで済ますなー!」
「仕方ないよ。伊東先生の命令は絶対だったんだもの・・・。美樹さんも先生には絶対服従だったし。逆らえなかったんだ」 へーがうつむく。
「くっ、何という」 俺はこぶしを握った。
「誠・・・」
「うらやましい」
「へっ?」
「俺はそんな秘密の授業には呼ばれなかったぞ!」
「だって誠はゆーこさんの側近だったじゃない」
「将を射んと欲すれば先ず馬を射よということわざもあるじゃないか! 俺を籠絡すれば俺が近藤さんを説得したから近藤さんも伊東派に寝返って、後は邪魔な土方さんを排除すれば伊東のクーデターは成功してたものを・・・」
 伊東本人が近藤さんに手を出す必要なぞさらさらなかったのだ。
「あ、あのー、もしもし」
「伊東さんに、美樹さんに、へーまで・・・くっ、何というパラダイスな!」
「あ、あのね・・・」
「じ、授業内容ってどんなだったのかな? やっぱ個別指導だったのか? それとも3人まとめてでも・・・いや、それはそれで、はうあ〜」
 俺の頭の中では様々なピンク色の妄想が渦巻いている。
「えーとね、論語と漢文と史書と、詩歌と・・・」 へーがボケる。
「おい」
「テキストはバインダー式で使いやすいんだよ」 ヘーが笑顔で更にボケる。
「違うだろ」
「冗談だよ」
「しかし・・・そういう特別個人授業を受けてたら俺はあっさり寝返ったぞ、きっと。伊東も人を見る目がないな〜」
「おーい」 へーが俺の目の前で手をヒラヒラしてる。
「はっ!」 我に返る俺。「・・・・もちろん冗談だぞ」
「今、思いっきり本気に見えたけど」
「仕方ないだろー! 俺も健康な男子なんだー! だー! だー!」 魂の叫びが木霊エコーする。
「・・・って言うか、実の妹をそういう事に使うか? ふつー」
「だから美樹さんは伊東先生を嫌ってたんだよ」
「逆らえばよかったんじゃないか」
「逆らったらもっと酷い目に遭わされるもの」
「何という姉だ。谷さん姉妹と正反対だな」 谷3姉妹は姉妹思いの仲良し姉妹だ。
「そうだね」
「つーか、三十華みそかが聞いたら怒り狂って伊東を斬りに行くかもしれん」
「もう死んでるって」 へーが苦笑する。
「そっかー、なるほどなー。死ぬほど嫌ってたのか」
「うん。殺したいほど・・・」 どうやらへーも同じ思いだったらしい。殺したいと思っても殺せなかったのだ。それぐらい伊東は強かったのだ。実際、俺は殺されかけたし。
「凄く納得出来た。姉を殺したのは俺だけど、俺はうらまれてないんだな」
「うん。どっちかというと感謝されてる方かもね」 それで副長の俺の命令をおとなしく聞いてたのか。
「そうかー。世の中って深いな〜」
「深いよね〜」
 俺たちはしみじみとうなずきあった。
「すると、内海さんや加納さん達は?」
「美樹さんのおっかけ」
「そうか、彼女は人気があったんだな」
「うん」
「と、いうことは伊東一派ではなく、実は鈴木一派だったのでは?」
「そうかも」
「じゃあ、へーにおっかけが居ないのは何でだ?」
 ピキッ。あ、へーが固まった。
「それは、私がモテないって言いたいのかな? 誠?」 へーが笑顔で怒っている。
「い、いや、そーゆーわけでは・・・」
「美樹さんの方が美人だから、全員、美樹さんについて行ったと?」
「べ、別にそこまでは・・・」
「誠、今日は夕餉ゆうげ抜き!」
「はうっ!」
 へーが怒ってしまった。次から考えてから口に出すようにしよう・・・。と、俺は心の中で反省したのだった。




「ただいまー☆」
 新撰組局長 カモミール・芹沢が月真院に帰って来た。すぐ下が祇園なので元々遊び好きの彼女は、大砲を撃つ時以外は、ほぼ毎日遊び歩いている。だが、昨年の1月に薩摩藩と長州藩の間で交わされた秘密軍事条約(※薩長同盟の事)の事を監察方よりも早く嗅ぎ付けて来たのは彼女だ。
 京詰めの藩の公用方、公家衆などは遊里で遊びや接待や会合などをするから、そこから情報が漏れることが多いのである。芹沢は金離れの良い上客であり、かつ頼れる姉御あねごなので、芸妓たちから情報が入って来るのだ。そーゆーわけで芹沢の遊びには実益がある為、情報収集の一環として局長の遊び代は隊費から出てたりする。
「おかえり。今日は何か収穫があったかい?」 新撰組総長 山南敬助が芹沢の為に、お茶を入れる。
「回転寿司じゃあるまいに、そんなに毎日新鮮なネタが転がってるわけないじゃん」 そう言って芹沢はケラケラ笑う。
「僕たちが転がり込んでから、島田君も情報収集に苦労してるみたいだからね」
「アタシとけーこちゃんが友達ダチだから、薩摩も警戒してるみたいだしね」
 最初のころはキンノーだった伊東派のつてで薩摩藩からの援助を受けて、薩摩藩の傭兵のような感じで市中見回りをやってたのだが、大坂新選組が合流してからは、薩摩藩との関係が微妙になりつつある。
「島田君が、ゆーことってるのも問題だろうな」
「元々、島田クンはゆーこちゃん一筋だもんねえ☆
 ところで、その島田クンは?」
「島田君なら勇子との逢瀬デートに出掛けたよ」
「あれ? 珍しい。ゆーこちゃんが出掛けるのを歳江ちゃんがよく許可したわね」
 黒谷と高台寺は近いため、近藤が黒谷の金戒光明寺にある会津藩本陣に呼ばれた帰りに高台寺に寄ったりしてたのだ。2人で示し合わせての外出というのは珍しい事だ。
「歳江さんは東下してるそうだ。現在の新選組は最盛期の半分ぐらいの人員だからね。幹部は幕臣に取り立てられたし、新撰組こちらに見劣りする陣容では示しがつかないからだろう」
「今は新撰組ウチの方が多いもんね」
「だから人員不足を補うために、新入隊士の募集に出掛けたらしい」
「武士は東国に限るってのは、ゆーこちゃんの口癖だったけどなあ」
「だから歳江さんも断れなかったのだろう」
「そっか、それでゆーこちゃんも羽を伸ばしてるのか」
「そういう事だね」
「ふ〜ん」 芹沢の顔に小悪魔的な表情が浮かぶ。
「その顔は何か良からぬことを思いついた顔だね」
「いや、別に何も考えてないわよ☆」 笑顔が白々しい。
「島田君をからかうのもいいけどほどほどにね」
「いやだなあ、山南クン。アタシがそんなことするわけないじゃない☆ じゃ、おやすみー」 そう言って席を立つ芹沢。
「やれやれ」 山南は首を振ると、読んでいた書物に意識を戻した。




 翌日の朝礼。
 上座に局長。その両脇に総長と副長。下座に副長助勤が座し、それぞれの組の配下の平隊士がその後ろに整列しているというのは新選組時代と同じだ。違うのは俺が副長の座に着いてる事ぐらいか。
 経緯いきさつはどうあれ、新撰組を立ち上げたのは俺なので、俺が副長職に着いてるのである。しかし、新撰組での副長とは雑用係のような気がしてならないのだが・・・。

「本日の朝礼を始めるよ☆」 と朝礼の開始を宣言するカモちゃんさん。
「島田副長、皆に連絡事項を通達してくれたまえ」 カモちゃんさんの声を受けて、総長の山南さんが俺にうながす。
「えー、昨日から薩摩のお殿様の島津茂久公が上洛されてますが、それに伴い、薩摩軍が相国寺しょうこくじに駐屯してます。彼らが洛中で乱暴狼藉を働いた時は、容赦なく召し捕らえて相国寺の薩摩藩に引き渡すよーに」
「相手が逆らった場合は?」 妖艶な笑みを口元に浮かべて谷三十華がいてくる。
「殺さないように注意して下さい」
「薩摩の芋侍達ね・・・かわいがってあげるわ」
 る気満々だ。こいつを市中見回りに出さない方が良いような気がする。
「皆、間違っても殺さないよーに」
「誠、薩摩藩といくさになっちゃうよ?」
 と、へー。俺は副長で偉いはずなのに、誰も俺に敬語を使わないのはなぜだろう?
「それは、だいじょーぶ。薩摩藩の中村半次郎殿と話をつけてきたから。いちおー、ウチは京都守護職の松平けーこちゃん様の配下なので、強い立場でのぞんで下さい」
「島津の久光公は、一時期、京都守護職を望んでおられたようだからね。まあ、薩摩藩の方に問題はないだろう。それに、薩摩といえば軍律の厳しさで知られている。薩摩藩の正規軍から不埓者は出るまい」 と山南さん。
「さすが、山南さま。博学ですわッ」 と目をハートにして祈るように胸の前で手を合わせる三十華。
「あとは、本日は谷さんの隊が洋式調練の日なので、来るかもしれない攘夷戦に向けて訓練して下さい」 やっぱりこいつを市中巡回に出すのはそう。
わたくしには、無敵の槍術があるから、銃など不要ですわ!」
 新撰組の中でも谷三十華は洋式化に反対の立場にある。実際、銃を持った人間と立ち会わせても、達人クラスなので銃弾を避けるのだが、戦場は道場ではない。どの勢力と戦うことになるかは今のところ不明だが、隊の洋式化は今や必須事項だ。三十華が洋式化に反対しているのは恋のライバルである武田観奈が蘭学者であるという有機的な事情もある。
「えーと、本日の洋式調練の担当教官は山南総長なのですが、谷さんがイヤみたいなので、武田さんの隊が・・・・」
「全力で訓練に参加させていただきますわ!!!」 全力で答える三十華。分かりやすい女だ。
「それじゃあ、本日も・・・」
「はい!」 カモちゃんさんが挙手してさえぎった。
「何ですか? カモちゃんさん」
「昨夜の島田副長と、新選組の近藤局長のひ・み・つ会談の報告を求めます☆」
 カモちゃんさんが満面の笑顔だ。
 彼女の言葉に座がざわめく。
「なぜ、その事を!?」
「アタシは何でもお見通しなのだあ☆」
 うーむ、あの事を察知するとはさすが、カモちゃんさん!
「えーと、高度に政治的な話になるので、助勤以下は解散!」
 誰も解散しない。
「解散ったら、解散! みんな散れ! 仕事、仕事!」
 しぶしぶと平隊士たちが大広間から散って行く。うーむ、俺は副長なのに威厳がないなあ。




「さあ、島田クン、ゆーこちゃんとどこまで行ったのか、お姉さんに話してごらん。
 あ、周子ちゃんにはまだちょーっと早いから、お茶とお茶菓子を取って来てね☆」
 面子が主だった幹部だけになるや否や、カモちゃんさんが目を輝かせて訊いて来る。
「芹沢さんも人が悪いよね」 とへー。
「島田さん、不潔ですわ!」
 いきどおっているのは谷三十華。でも2人とも去らない。武田観奈と伊東美樹は頬を朱に染めて、それでもこの場に留まっている。
 あー、みんな何か勘違いしてるな・・・っと言うことはこの情報を流したのは・・・山南さんか! このオヤジは、また皆が誤解するような言い方をしたに違いない。
「みんな勘違いしてるけど、俺と近藤さんは、本当に会談してきただけだぞ」
 じーっ。全員が疑惑の目で俺を見ている。
「島田君、全部話してさっさと楽になりたまえ」
 山南さんが俺の肩を叩く。こ、このオヤジは・・・。
「で、まず、場所は?」 とカモちゃんさん。どこからかメモ帳と鉛筆を取り出している。まるで取り調べの様だ。
「山緒です」
「祇園の?」
「はい」
「しまったあ! すぐ近所にいたんじゃんよ〜」
 カモちゃんさんが髪を掻き上げて悔しがる。実は灯台下暗しで、カモちゃんさんの祇園での居場所は俺にはすぐに分かるのだ。毎月、祇園のあちこちの茶店や料亭などに、カモちゃんさんの溜まったツケを払いに行ってるので、俺も祇園に独自の情報網を持ってたりするのだ。そういうわけで邪魔される事なく近藤さんと2人の時間を楽しめたのである。
「で、話の内容だが?」
 と先を促す山南さん。この人は真面目なのか不真面目なのかよく分からない。
「近藤さんが最近、胃をわずらってるしくて・・・」
「ゆーこちゃんが?」
「幕臣に取り立てられたので、最近、二条城の会議に出席するそうなんですが、幕府が救いようのないくらい腐ってるので、どうしたら良いか考えると胃が痛くなるんだそうです」
「典型的な心因性の胃痛やね。後で胃散を処方しましょ」 と医者の武田観奈。
「助かる」
「まあ、でもゆーこちゃんの気持ちも分かるなあ。旗本なんて言っても、所詮は家柄だけのボンボン達だし、ここ数百年、大きないくさもなかったし」
「新選組は叩き上げの実戦部隊だから、勇子の心痛も理解できる」
「しかも新将軍の徳川慶喜公は、人気がないらしいんですよ」
「豚一公だもんねえ」 とへー。
「だから会議はまとまらないし、幕府軍の士気も低いし、新選組は戦力が低下してるし。もし今、長州といくさになれば、確実に負ける・・・と」
「ううーむ」
「それは、ゆーこちゃんじゃなくても胃が痛くなるわよ」
「ところが、土佐の後藤象二郎さんが、『大政奉還論』なるものを提出したそうで・・・近藤さんも後藤さんに会った事があるそうですけど、かなりの人物なのだそうです」
「その『大政奉還論』とは?」
「さあ? 俺も詳しい内容までは聞かなかったので・・・」
「なんで、そんな大事な事を聞いて来ないのよ!」
「えーとですね、近藤さんが胃が痛いというので、さすってあげててですね・・・」
「さすって!」 真相を察したらしい谷三十華が口元に手を当てて驚く。
「だから胃を・・・」
「服の上からですの?」
「いや、その、それでは手当てあてにならないのでですね、えーとですね、直接ですね」
「直接ですって! まさか、ゆーこちゃんの服を脱がせたの!?」 とカモちゃんさん。そのあまりの直接的な表現に谷姉妹や武田観奈らが顔を赤くする。
「俺はそんな事は!」
「服を脱がせずに、どうやって直接触れるのよ!」
「うっ」 しまった。うまく誤魔化したと思ったのに・・・。
「島田クン、素直に白状なさい!」
「それは、その、ボタンを2つぐらい外して・・・ですね、そのー、えーと、服の隙間からですね、手を入れて・・・」
「いやらしい・・・。そうやって、ゆーこちゃんの胸をもてあそんだのね!」
 みんなの目がどんどん白くなっていく。いかん、このままでは副長の威厳がぁ。
「俺は苦しんでる近藤さんの胃をさすってあげただけで!」
「女の子の胃の部分だけを器用にさすれるものかしらん?」
 と新撰組一豊かな胸の前で手を組んで胸元を強調するカモちゃんさん。
「胸のない武田さんや沙乃ならともかくとしても」 その様子を見て同じようにする三十華。カモちゃんさんと同じく豊満な胸が両腕からこぼれそうだ。
「余計なお世話や。ウチかて」
 といきどおる武田観奈。しかし2人と同じように胸の前で腕を組んでも悲しいかな胸が寄って来ない。
「ゆーこちゃんのサイズだと無理よねえ」
「そ、そりゃ、ちょっと当たったりはしましたよ。ですが、俺にはそういう不純な気持ちは微塵もなく!」
「誠、説得力がないよ」
「やっぱり密会だったのね!」
「しかも不純異性交遊ですわ」
「ち〜が〜う〜!」
「ふむ、『大政奉還論』だが、勇子が話したのに島田君が上の空で聞いてなかったんじゃないのかね?」
「そ、そのような事は・・・」 実はその通りだったりするのだが。俺の額から脂汗がダラダラと流れる。
「その『大政奉還論』ってのは気にかかるわね。アタシも調べてみる」
「勇子から聞いた方が早いだろうな。よし、島田君、また勇子を誘いたまえ。ただし、今回はいやらしい事はせずに真面目に話を聞いて来るんだ」
「だから、俺は!」
「殿方って不潔ですわ!」
「いや、だからですね、俺は・・・」
「ふむ、それでは今日の仕事に移るとしよう。皆、解散だ。三十華の組は裏山に集合の事」
「全力で訓練に参加致しますわ」
「じゃあ、アタシは飲みに、いや情報収集に行こーっと」
「こちらは、市中巡察ですね」
 みんな満足したらしく、三々五々と仕事に散って行く。後には茫然とした俺だけが取り残された。


「しくしく、俺は副長なのに・・・」
 あんまり副長扱いされてないよーな気がする。


 そして、この『大政奉還論』が直後の世界を震撼させるような事になるとは、この時点では誰も気が付いていなかったのだった。

(後編に続く・・・ような気がする)


(今回のネタバレ)
:姉の甲子が、江戸の佐賀町の伊東道場(北辰一刀流)を継ぐ為にとついで苗字が変わった為だ。
 伊東甲子太郎の本名は、鈴木大蔵です。伊東道場を継ぐために婿養子になって伊東大蔵と苗字が変わりました。更に新選組入隊時に甲子太郎(新選組に入隊した年が甲子の年だったから)と名前も変えた為、最終的に伊東甲子太郎という名前になったのです。

:鈴木美樹
 鈴木三樹三郎。最初の名前は鈴木多聞たもん。寺内家に養子に行き、大酒のみだった為、離縁され、鈴木家にも戻れなかったので三木荒次郎と名前を変え、新選組加盟時に三木三郎と名前を変えている。御陵衛士になった時は三木和泉と名前を変え、戊辰戦争で赤報隊に入った時は鈴木三樹三郎忠良と名前を変え、明治時代になってからは、鈴木忠良と名前を変えた。兄よりも名前の変わった回数は多いのである(まあ、兄より長生きもしてる)。

:寝るときすらレミントンのリボルバーを手放さなかった
 高台寺党の面々は、新選組の夜討ちを恐れて、寝るときも刀を抱いて寝たのだそうな。

:昔ながらの色仕掛け大作戦
 伊東甲子太郎は島原の花香太夫を身請けしており、休息所に住まわせていたのですが、この休息所は伊東派の会合の場所(さすがに屯所でそういうヤバい話はできない)になっており、また、見込みのある新入隊士のお相手を花香太夫にさせていたらしい。つまり伊東甲子太郎は、自分が惚れて花香太夫を囲っただけではなし、最初からそういう目的で花香太夫を買った可能性があります。と、いうわけで、この色仕掛け大作戦は史実に基づいた私の創作です。

:土方の東下
 史実です。慶応3年の9月に、土方歳三は隊士募集の為に江戸に下ってます。

:武士は東国に限る
 近藤勇の書簡にこの言葉があります。

:それに伴い、薩摩軍が相国寺に駐屯してます。
 すいません。実は薩摩軍の入京は、もう1カ月後なのですが、話の都合上、早めました。

:島津の久光公は、一時期、京都守護職を望んでおられたようだからね。
 史実です。

:「山緒です」
 新見錦が切腹させられたと言われている料亭ですが、この話も子母澤寛の創作である模様。

「近藤さんが最近、胃をわずらってるしくて・・・」:
 実は史実で、近藤勇は胃痛持ちでした。元治元年の江戸下向の際に、松本良順から胃痛の診察を受けてます。


(おまけのSS)
【坂本】おい!
【島田】何だ?
【坂本】俺の出番がないぜよ!
【島田】出番が来たときは、暗殺される時だぞ。
【坂本】・・・・。


(あとがき)
 近藤勇子EXを書いていた時、島田の方の新撰組の方の人員不足を解決する為、旧伊東派を吸収合併(元々高台寺党の面々は伊東派)させたのですが、近藤勇子EXの世界では島田が伊東甲子を斬ってしまった為、伊東派がそのまますんなり島田の下に合流したとは考え難い。近藤勇子EXを書いた当時の私は、そんなに深く考えてなかったのですが、今になって、そのおかしさが気になって来ました。
 特に伊東甲子の実の妹の鈴木美樹(第7幕『剣林弾雨の鳥羽伏見』(後編B・新しき世界へ)の中で名前だけ出てる)がすんなり高台寺にやって来て、島田の部下になったとは、どう考えても考えられない。つーかあり得ない。
 そこで私は、なぜ鈴木美樹が島田の方にやって来たのかを一生懸命考えてみた。

 考えた結果、この作品の前半部分を構成するアイデアが浮かんだのです。
 ならば、この理由を近藤勇子EXで活かしたい。何か、高台寺党分離後、油小路の戦いの間にSSが書けそうなイベントはないか・・・そう! 私はついうっかり坂本龍馬を暗殺するのを忘れてたのですよ。じゃあ、坂本龍馬を暗殺するついでに、この事を書いてしまえい。と。そんなわけで後編では坂本龍馬暗殺事件を扱う予定・・・何か、全然前編じゃないような気がして来た・・・。ま、いいか。

 しかし、行殺のゲーム中で、へーちゃんが伊東の事をやたらと恐れていたりするし、伊東は近藤さんを手籠めにして土方さんを斬らせようとしたりするし、島田を色仕掛けで落そうとするし、これぐらいの事は、やりそうだと思いませんか?
 自分の妹と弟子すら色仕掛け大作戦の駒として使って、派閥を急速に拡大する・・・う〜む、伊東甲子のファン(いるのか?)から斬られそうな予感。


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