<本文中の式の正負符号について>

 ここで本文中の各式の符号について記しておきます。式の中の正負符号については基本的に以下に従っています。

 車両の3軸方向(図1.7参照)については、それぞれ図中の矢印の向きを正、また回転方向については3軸の正の方向に右ネジの向きを正としています。したがって、よく出てくる横方向については左方向が正、上から見た回転方向については、上から見て反時計回りが正となります。


 

 特に<6−1、定常円旋回の運動方程式>の文字式の中で混乱しがちなタイヤスリップ角及び車体スリップ角の符号については、「タイヤ(車体)進行方向に対するタイヤ(車体)の向き」と定義し、上の座標軸に従って回転方向は上から見て反時計回りを正と定義しました。従って、正の旋回方向である左定常円旋回時の前後輪のタイヤスリップ角は、各タイヤ位置の瞬間的な進行方向に対してタイヤが旋回内側すなわち反時計回りに開いているので、この定義上は正のタイヤスリップ角となります。正のタイヤスリップ角で左方向(すなわち正)の横力が発生するということになります。

また、同様の左定常円旋回時の重心位置車体スリップ角は、旋回加速度が低い領域では重心点の瞬間的な進行方向=旋回円接線方向に対して外(つまり時計回り)に開いているので負の車体スリップ角で、その後旋回加速度が上がるとゼロとなった後、今度は瞬間的な進行方向=旋回円接線方向に対して内(つまり反時計回り)に開き、正の車体スリップ角となります。<6−1、定常円旋回の運動方程式>6.1はこの正の車体スリップ角の状態です。また、<2−2、前後輪タイヤスリップ角とステア特性の関係@>2.5の縦軸についてもこの定義に従った左旋回時のイメージで符号をとっています。

また、<6−1、定常円旋回の運動方程式>中のヨーレイトωにより発生する車体各位置のスリップ角については、後軸位置ではLr・ω/Vが正のωにより右方向(時計回り)に発生しますが、この位置の車体スリップ角は、定義が「車体進行方向に対する車体の向き」なので、進行方向に対しては車体は左を向いていることになり、正の車体スリップ角となります。後輪についてはタイヤも車体と同じ向きなので後輪タイヤスリップ角の中のこの成分も正の成分です。

一方、前軸位置ではLf・ω/Vが正のωにより左方向(反時計回り)に発生しますが、この位置の車体スリップ角は、定義が「車体進行方向に対する車体の向き」なので、進行方向に対しては車体は右を向いていることになり、負の車体スリップ角となります。前輪のタイヤスリップ角を考えるときは実舵角に前輪位置の車体スリップ角を足すことになりますが、この分は正のωで負の車体スリップ角成分となるので逆にマイナスされることになります。

 尚、<2>章などでの「車体スリップ角が旋回外向き」とか「内向き」等の表現については、「外向き=瞬間的な進行方向(すなわち旋回円接線方向)に対して車体が外向き」「内向き=瞬間的な進行方向(すなわち旋回円接線方向)に対して車体が内向き」の意味です。


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