<9−6、パワーオーバーステアについて>

 前項は旋回中にブレーキングした場合の挙動についてでしたが、特にウェット路面などで後輪駆動車の場合、旋回中にアクセルを強く踏むとオーバーステアな挙動を示す場合があります。これをパワーオーバーステアといいます。発生原理は急激な駆動力の増加によって後輪のコーナリングフォースが減少するもので、コーナリングフォース減少のメカニズムは<9−2、タイヤの制・駆動力と横力、摩擦円の概念>の項の説明の通りです。

 この現象もやはり後輪荷重の低いフロントヘビーの車両で発生しやすく、またエンジントルクの大きいハイパフォーマンス車で顕著なことは言うまでもありません。また、ターボ車の方がNAのものより過渡的なトルクの出方が急激な場合が多く、この現象が問題になることが多いようです。さらにリアのデファレンシャルギヤにLSD(差動制限)が組み込まれていると現象が顕著になります。何故ならコンベンショナルなデファレンシャルギヤの場合、内輪がホイールスピンした場合はそれ以上トルクを受け持てないので駆動抜け状態となり、外輪へのトルクがそれ以上増えないために外輪側のコーナリングフォースの低下がLSD付きに対して少ないという違いの上に、LSD付きの場合は差動制限により外輪側の駆動力が内輪より大きくなり、左右の駆動力差も車両重心回りのモーメントとなって車両をより回頭させる方に働くからです。つまり少し乱暴な言い方をすれば、エンジントルクなど一見スポーツカーのスペックや性能を持ちつつ重量配分等基本の諸元がよくないと、雨の日など条件の悪いときに思わぬ挙動を示す車になりかねないということです。

 ところで制動力の場合も同じなのですが、駆動力の場合も一旦大きなエンジントルク(ブレーキトルク)をタイヤに与えると一気にホイールスピン(ロック)状態に陥り、そこからなかなかリカバリーできない傾向にあります。これはタイヤの制・駆動力特性が<9−2、タイヤの制・駆動力と横力、摩擦円の概念>で説明したように、9.5のような形をしているからです。


エンジントルク(ブレーキトルク)を与えるとタイヤはスリップ比が増大し駆動力(制動力)を発生します。これによる車輪のトルクと、与えられたエンジントルク(ブレーキトルク)が釣り合えば、そこで車輪がどんどん加速される状態は終わるのですが、一旦ピークのポイントを超えてしまうと、タイヤが発生する力(トルク)はむしろ下がってしまうために釣り合おうとする力をどんどん失って、エンジントルク(ブレーキトルク)が勝って一気にスリップ比=1.0までいってしまうのです。このためTCS(トルクコントロールシステム)やABSなどでは、いかにピークを越えない範囲でしかもなるべくピーク近くで、細かく制御するかというのが命題になるわけです。


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