「――と言うわけなんだ。これって、もしかして」
 空知との通話の後、陸朗はすぐに菜那緒に連絡を入れた。幸い彼女の方も学校が終わったところのようだった。
『ええ、絡んでいる可能性が高いわね。直接確かめないと断定は出来ないから、すぐにでも海砂さんの入院している病院に行きたいのだけど』
「じゃ、じゃあ海砂を助けに行ってくれるんだね!ありがとう、菜那緒さん」
『良いのよ、人間の夢を救うのが私の義務だから』
 陸朗も、それは解っていた。でも、彼自身を含めた陸朗の周囲に発生した悪夢を連続して解決して貰っていること、そして今回は身内だということを思えば、いくら感謝してもし足りない。
「じゃあ、檜苑かいえん大学総合病院の待合室で待ってる」
 通話を切ってから、陸朗は保のところに戻る。このまま帰る事を謝らなければならない。
 そして、ポテトは全部食べても良いよ、と。

 待合室の椅子に座り込んでいた空知は、後ろから見ると確かに肩に力が無かった。陸朗は、声をかけるのを一瞬だが、躊躇した。
「空知」
「……陸朗」
 空知は従兄が来たのを察すると拳で目の辺りを擦った。陸朗に電話してから今まで、きっと不安だったのだろう。それでも彼に泣きついてこないのは、空知の気丈な性格故だ。
「伯父さんと伯母さんは?」
「いったん家に帰った。二人とも一昨日から全然寝てないし、あたしがいるから平気だ、って言っといた。その方が都合良いんだろ?」
「うん、まぁ――」
 病院の自動ドアのガラスがすっ、と開いた。入って来たのは、この辺りでは有名な私立女子校の生徒。
「菜那緒さん」
 菜那緒は空知に向かってお辞儀だけをした。涙をぬぐった後もなお、空知の目の縁が紅くなっていたからかもしれない。
「じゃあ、海砂の病室に案内するよ」
 空知は自発的に言い出した。陸朗と菜那緒は、彼女について歩く。
 こんな時に限って、壁や床の白さが息苦しく思えるのはどうしてだろうか。
 海砂は、四人部屋の病室に入っていた。他の入院患者の見舞客に気を付けながら、中に入る。
 彼女の姿を見た時、陸朗はおとぎ話の眠り姫を想起した。
 海砂は顔を天井に対して水平に向け、眠っていた。いつもくるくると動く瞳は瞼の内側に隠され、唇は呼気しか放たない。
「海砂……ずっと、こうなんだ」
「空知さん、『診て』も良いかしら?」
 空知が頷くと、菜那緒はベッドに歩み寄り、海砂の額に白い掌を載せた。
「どう?菜那緒さん」
「確かに普通の眠りでは無いようだわ。何かの力が働いている」
「じゃあ、やっぱり……!」
 空知には陸朗と菜那緒の会話の意味はよく解らなかったが、二人には海砂の異常の原因に心当たりがあるようなのは確かだった。
 菜那緒が顔を上げた。そして決定的な一言を呟く。
「潜りましょう――夢の中へ」

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