旧制第一高等学校寮歌解説

ふりつめる

昭和10年第45回紀念祭寮歌 

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1、ふりつめる比えの    (ゆき)下水(したみつ)
  (しの)びねにゆく       かすみつゝ
  (はる)()る日に

2、(わか)()(とも)は      めぐり來て今日(けふ)
  (をと)(おも)ひぬ        篝火(かゞりび)
  まばゆきほとり
*「丘」のルビ「をと」は「をか」の誤植であろう。現在の寮歌集にはルビはない。

3、ひたすらの心       (ゆた)けき心
  (おか)にありしを       (あか)()
  めぐりつゝ(おも)

4、しづむ月影(つきかげ)        いつもあかぬを
  やがて()(あさ)       (あた)しき(をか)行方(ゆくへ)
  いはゝなん、(さかづき)(かげ)

*「新しき」の「新」のルビは「あたら」の誤植である。

*1番の「下水」(したみづ)のルビを除いて、ルビは昭和50年寮歌集で全て削除された。
譜に変更はなく、現譜と同じである。1番から4番まで珍しく各番毎に譜が付いている。左右のMIDI演奏は同じ演奏である。
Moderaroは「中位の速さで」、poco Lentoは「少し遅く」、a tempoは「もとの速さ」という意味である。


語句の説明・解釈

語句 箇所 説明・解釈
ふりつめる比えの
雪の下水(したみつ)
(しの)びねにゆく
かすみつゝ
(はる)()()
1番歌詞 降り積もった比叡山の雪の下水が、忍び泣きの声を立てながら流れてゆく。野に霞がかかって春が来る日に。

「ふりつめる比えの 雪の下水」
 「つめる」は、積める。「積む」の命令形+完了存続の助動詞「り」の連体形「る」。積った。「比え」は、比叡山。「下水」は、ものの下を流れる水。
 夫木和歌抄 「袖ぬれてかたみに忍べ若菜つむ 春日の原の雪の下水」

「忍びねにゆく」
 「忍び音」は、忍び泣きの声。また声をひそめて泣くこと。小声。
 


(わか)()(とも)
めぐり來て今日(けふ)
(をと)(おも)ひぬ
篝火(かゞりび)
まばゆきほとり
2番歌詞 若き日に一高寄宿寮で過ごした友は、巡って来た紀念祭の日に向ヶ丘を懐かしく思い出している。眩いばかりに赤々と燃え上った篝火を囲んで。

「若き日の友は めぐりて今日 丘を思ひぬ 篝火のまばゆきほとり」
 「若き日の友」は、若き日に一高寄宿寮で過ごした友。京大生等、京都一高会の同胞。「思ひぬ」の「ぬ」は、完了存続の助動詞(終止形)。「丘」のルビ「をと」は「をか」の誤植であろう。昭和50年寮歌集以降、ルビは削除された。ちなみに、3番では「おか」、4番では「をか」とルビがある。
ひたすらの()
(ゆた)けき心
(おか)にありしを
(あか)き火を
めぐりつゝ(おも)
3番歌詞 向ヶ丘には、一途に真理を追究し、自由に、のびやかに理想を語り合う雰囲気に溢れていたと篝火の赤い火をめぐりながら思う。

「ひたすらの心 豊けき心 丘にありしを 赤き火を めぐりつゝ思ふ」
 「ひたすらの心」は、一途に真理を追究する心。「豊けき心」は、自由で、のびやかな心。「ありし」はの「し」は、回想の助動詞「き」の連体形。
しづむ月影(つきかげ)
いつもあかぬを
やがて()(あさ)
(あた)しき(をか)行方(ゆくへ)
いはゝなん、(さかづき)(かげ)
4番歌詞 もう月が沈むのか。いつもの事だが、まだまだ、かがり火を囲んでいたいというのに、やがて朝がくる。まだ見ぬ駒場の丘を盃の酒に思い浮かべながら、新向陵の前途に幸あれと祝おう。

「しづむ月影 いつもあかぬを」
 「しづむ月影」は、月は西に沈んで、やがて東の空が明るくなって朝が来る。「あかぬ」は飽かぬ。もうこれでいいと満足しない。物足りない。「ぬ」は、打消しの助動詞「ず」の連体形。「を」は接続助詞。活用後の連体形を承け、順接にも逆接にも用いる。

「やがて來る朝」
 間もなく朝がくる。

「新しき丘の行方を いははなん、盃の蔭に」
 「新しき丘」は、9月に移転する新向陵・駒場の丘。「盃の蔭に」は、盃の酒に駒場の丘の姿を思い浮かべて。「新しき」の「新」のルビは、「あたら」の誤植。
                        

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