旧制第一高等学校寮歌解説

濁りよ深き

昭和6年第41回紀念祭寮歌 

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1、濁りよ深き   おどろの下に
  正義の光    求め歩みし
  護國の赤旗(せきき)   四十一年。
  (くれなゐ)の色    (いや)輝きて
  先人の      功績(いさをし)高し
  時移り      歴史の波に
  旗捧ぐ      人は變れど
  進みなん     唯一すじに

2、時代の歩み   導くつとめ
  四十一年    鍛へし力
  振ひて立たん  自治の城守。
  祭の庭に    火の色うすれ
  東は        見よ明るみぬ
  古き殻       打ち破りつゝ
  たくましく     いざ新しく
  進みなん     眞理の道へ
*各節三行目終わりの句読点「。」は昭和50年寮歌集で削除
3段3小節のブレスは、昭和50年寮歌集で削除されたが、それ以外は原譜に変更ない。
「赤旗」の楽譜下歌詞は「せーーっき」となっているが、歌詞のルビのように「せきき」と歌うべきか。今は、誰もこの寮歌を歌わないので、分からない。マスターするのに苦労した寮歌のひとつである。


語句の説明・解釈

語句 箇所 説明・解釈
濁りよ深き おどろの下に
正義の光 求め歩みし
護國の赤旗(せきき)   四十一年。
(くれなゐ)の色 (いや)輝きて
先人の 功績(いさをし)高し
時移り 歴史の波に
旗捧ぐ 人は變れど
進みなん 唯一すじに
1番歌詞 濁りきって、悪風が荒ぶ世に、第一高等学校は、唐紅の護國旗を捧げて、ただひたすらに正義を求めて歩んできた。先人の功績は高く、護國旗の紅の色は、益々、輝いている。時は移り、激動する時代の波に、護國旗を捧げる一高生は変っても、前に進もう。ただ一筋に。

「濁りよ深き おどろの下に」
 「濁りよ」の「よ」は名詞の「世」か助詞の「よ」か。「おどろ」は、草木のひどく茂っている所。いばら。
 「『おどろ』は本来、『草木のひどく生い茂った所』を意味するが、ここでは上の『濁りよ深き』とつなげて、正義も真理・真実も見失われている俗世間を指している。」(一高同窓会「一高寮歌解説書」)
 後鳥羽院 「奥山のおどろの下を踏みわけて 道ある世ぞと人に知らせん」

「護國の赤旗 四十一年」
 「護國旗」は一高の校旗。共産党機関紙赤旗ではない。ちなみに、共産党機関紙「赤旗」が創刊されたのは昭和3年2月1日のことである。
 「染むる護國の旗の色  から紅を見ずや君」(明治40年「仇浪騒ぐ」4番)

「歴史の波」
 その時代時代の思潮。左翼思想の取締り、学問の自由の弾圧を踏まえてか。
時代の歩み 導くつとめ
四十一年 鍛へし力
振ひて立たん 自治の城守。
祭の庭に 火の色うすれ
東は 見よ明るみぬ
古き殻 打ち破りつゝ
たくましく いざ新しく
進みなん  眞理の道へ
2番歌詞 時代の歩みを導くのは、一高生の崇高な使命である。一高生は、41年の間に鍛え貯えた力を発揮して、自治を守り、国民に進むべき針路を示すため、奮い立とう。紀念祭の篝の火はうすれ、東の空は、しらじらと夜が明けてきた。古い伝統を打ち破り逞しく、新しい伝統を作るべく、真理の道を前進しよう。

「自治の城守」
 自治寮を城に喩える。「城守」とは、自治を守ってきた一高寮生。
 「寄せなば寄せよ我が城に」(明治35年「混濁の浪」2番)
 「自治の城守りしもろ人」(昭和10年「彌生の丘四十五年」1番)
 「自治の光は常暗の 国をも照す北斗星」(明治34年「春爛漫の」6番)

「祭の庭に 火の色うすれ」
 夜が明け、周りが明るくなってきたので、「火の色うすれ」となる。
 「春のみ神は今日こゝに 祭の庭に訪づれぬ」(明治36年「筑波根あたり」1番)

「東は 見よ明るみぬ」
 しらじらと夜が明けてゆくさまをいうが、世界恐慌下、社会主義の建設に躍進するソビエト・ロシアを暗喩する。

「古き殻 打ち破りつゝ」
 駒場移転、新向陵建設を念頭におくか。「古き殻」は、時代遅れとなった伝統。

「眞理の道へ」
 一高生の目的は、眞理の追究と人間修養。
                        

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