地底恐竜はおったんかい?
≪ブルーワールドに登場する地底恐竜≫
星野之宣のジュラ紀を舞台にした冒険物語「ブルーワールド」(講談社アフターヌーンコミック)には、超ど級のオリジナル恐竜が出てきます。その名も「地底恐竜」。モグラのように穴を掘って、ミミズやムカデ、ヤスデを食べて生きている、地下世界に適応した恐竜です。
でも、そんな恐竜が実際にいたのでしょうか?残念ながら、今のところ地底恐竜の化石は発見されていません。そもそも、恐竜は地下世界に適応できたのか、地底恐竜というカテゴリーは存在しうるのか?ちょっと考察してみましょう。
1. バリオニクスとミクロラプトル・グイ〜まさかそんな奴がいたのか!〜
魚を食べる恐竜スピノサウルス科のバリオニクスと空を飛ぶ鳥に近い恐竜ミクロラプトル・グイは今でこそメジャーな恐竜です。しかし、80年代には魚を食べる恐竜や空を飛ぶ恐竜というのは誰も想像できなかったのです。理由は簡単です、中生代水辺にはすでにワニが存在し、海には首長竜をはじめ海竜が繁栄していました。そこに恐竜が割り込む余地はないというのが大方の意見でした。同じ理由で、翼竜や鳥がいるので空を飛ぶ恐竜などいるはずがないと考えられていました。
しかし実際、魚食恐竜のスピノサウルス科の恐竜は白亜紀前期に世界中に生息し、鳥そのものが空飛ぶ恐竜だといわれています。
この例を、最初に挙げたのは、恐竜は我々が考える以上に多様な生物だということです。
魚食恐竜も飛翔恐竜も80年代には化石が発見されていなかったため、想像外の生き物だったのです。ですから、化石が見つかっていないから、地底恐竜が100%いないということにはならないのです。このようなことから、先入観をすててこれから地底恐竜が存在しえたかどうかを考えて見ましょう
(右:バリオニクス/左:ミクロラプトル・グイ)
*
ただし、注意してほしいのは恐竜に限らずどんな古生物も実物の化石標本が発見され、それが科学論文として公に発表されて始めて存在が確認されます。地底恐竜は化石が発見されておらず、当然論文にもまとめられていないので、科学的にこの世には存在しないのです。地底恐竜はあくまでも理論上の恐竜、怪獣よりはリアリティがある架空動物の話になります。
2. 理論上の恐竜を想像する方法〜仮想動物園への入場券〜
理論上の恐竜を想像するにはいくつかのステップがあります。それをまず見てみましょう。
@当時の環境と現在の環境を比較する。
A現在の動物の生態系での地位と当時の動物の生態系での地位を比較する。
Bその動物に進化しそうな動物はいないかを調べる。
ざっとこの3つのステップが検証するために必要でしょう。
たとえばハチドリのような超小型翼竜を理論存在しえたかどうか検証してみましょう。ハチドリが生活の糧にする花(被子植物)は白亜紀から繁栄し始めています。白亜紀後期には花をつける植物はそれなりに生えていました。ということは@はクリア、ハチドリが生きている現在の環境と翼竜が生きていた白亜紀の環境は共通点があるということになります。白亜紀からは蜂の化石(虫入り琥珀)が発見されており、当時、すでに生態系では花(被子植物)と共生する生物がいたことが推測できます。そして、現在の生態系でも蜂とハチドリは共存しています。そこから、現在のハチドリにあたる動物がいてもおかしくないということになり、Aもクリアです。Bは当然、翼竜が候補に挙がります。ジュラ紀の翼竜には小型の種類が多くいましたので、白亜紀前記からの被子植物の発展に伴い、ジュラ紀の小型翼竜からハチドリのような花の蜜を吸う超小型翼竜が生まれたとしても不思議ではありません。彼らが生息したと思われるジャングルは化石が残りにくく、また小形動物自体の化石も残りにくいのでいので、超小型翼竜まだ化石が発見されていないだけで、存在した可能性は十分あります。もっとも、翼竜ではなく原始鳥類が直接ハチドリ型に進化したという可能性も考えられますが・・・・・・・・
(右:現生のハチドリの標本/左:小型の翼竜プテロダクティルス)
(最古の花:アーケフルツクスの復元模型・化石が中国の白亜紀前期の地層から出ている。)
同じような考え方で、樹上性の哺乳類やトカゲを獲物にしたサル型ラプトル(図1:モンキー・ラプトル)、テリジノサウルスやオビラプトルなどの草食性獣脚類の系統から派生したナマケモノ恐竜(図2:コアラサウルス)、ひげクジラのようなプリオサウルス類(図3:シロナガスサウルス)などを理論上存在しえたかもしれない恐竜・古生物を想像できます。これらの動物がどのような思考プロセスで生まれたかは、これを読んでいる皆さんも試しに考えてみください
3.じゃあ、地底恐竜ってどうなのよ〜地下への進化を考える〜
地底恐竜・・・・・。正直言って難しいです。まず、現在地下に生活する動物となるとモグラが代表的なものでしょう。彼らの主食は地下に住むミミズです。ミミズの化石は4億年前の地層から見つかっており、中生代を通じてミミズは現在と同じように土中の有機物を分解する「大地のはらわた」として活躍していたことが推測できます。今のところ、私の知る限りモグラの生態系でのポジションにあたる動物の化石は見つかっていません。
整理すると
@環境としてミミズという餌は存在したので、現在と地下の環境はさほど変わらなかったと推測できる。
A私の知る限り現在のモグラにあたる動物の化石が見つかっていない。つまり現在、モグラが生態系の中で持っているポジションは空白である。
ということになり、これだけを見ると地底恐竜がいてもおかしくないのですが、地底恐竜がいたと考えるには、地下世界をフロンティアとするライバルが多すぎるのです。
地底恐竜のライバルとしては哺乳類とトカゲがいます。それぞれについて検証してみましょう。
@ 哺乳類
現生のモグラは食虫目という分類に属します。この食虫目は相当古い歴史を持った哺乳類で、哺乳類の創成期から存在したグループなのです。実際、モグラを生きた化石と呼ぶ人もいるくらいです。彼らは、今でもミミズを食べるように、中生代もミミズを食べていました。また哺乳類の祖先である獣弓類(哺乳類型爬虫類)の巣穴の化石もペルム期〜三畳紀の地層から見つかっています。現在もモグラだけではなく、プレーリードックのように地下に穴を掘って住む哺乳類は多数存在しますので、中生代の哺乳類も巣穴を掘っていたと考えるのが自然だと思います。恐竜の巣穴の化石というのは聞いたことがないので、穴を掘るということでは恐竜よりも哺乳類のほうに分がありそうです。
そのようなことから、もうすでに中生代の段階でモグラ、またはそれに類する哺乳類が存在し、まだ化石が見つかっていない、あるいは知られていないだけで、中生代の地下世界は哺乳類の天下であったと考えるほうが合理的です。
Aトカゲ
トカゲも巣穴を掘り、ミミズを食べます。中生代にはトカゲも多様な形に進化し、日本だけでも草食性、貝食性など多様な種類のトカゲの化石が発掘されています。その中に、現在地下生活を送るアシナシトカゲやミミズトカゲに似たトカゲ化石が見つかっています。このようなことから、中生代のトカゲにとってもまた地下は有望なフロンティアだったようです。またトカゲに近縁なヘビは祖先動物で視力が一時退化傾向にあった時期があったと推測されています。もしかしたら地底に暮らすトカゲがヘビの祖先動物だったのかもしれません。
(日本石川県発見されたドリコサウルス類の復元図。ヘビはアジア起源の地底生活をするトカゲの仲間だったかもしれない)
上記のように、現在のモグラが生態系の中で占めているポジションは食虫類の哺乳類そのものか、トカゲが占めていたと考えるほうが無難なようです。
もうひとつ地底恐竜にとって打撃なのは、恐竜の中で地下にもぐりそうな奴がいないということです。
恐竜という生き物はもともとワニと翼竜と恐竜の共通の祖先である樹上性の爬虫類から進化したといわれます。樹上性動物から進化したから、翼竜は空を飛び、ワニは半直立、恐竜は直立歩行ができたといわれています。(実際のところ、現生の樹上性爬虫類であるカメレオンは木の上では直立歩行をします。)
で、恐竜ですが、基本は二足歩行の生物なのです。初期の恐竜は、前足が小さく後ろ足が大きく、2本足で素早く動くためのスタイルになっています。それが、後の時代にカミナリ竜のように巨体を支えるため、ステゴサウルスやトリケラトプスのように地表面の植物を食べるためなどの理由で四本足になったり、始祖鳥やミクロラプトル、そして鳥類のようにもう一度樹上に生活の場を戻すなどの理由から前足が発達したりしたのです。そういった意味では極端に後ろ足が発達し、貧弱な前足しか持たなかったティラノサウルスやカルノタウルスは、初期の恐竜が目指した進化の方向性に忠実だったといえます。
そんな、基本的に二本足で走る動物だった恐竜が、ミミズを食べるためにわざわざ地下にもぐるような進化をするか、かなり疑問です?少なくとも、肉食恐竜のグループである獣脚類には四足歩行のものはいません。モグラのようなスタイルになるためにはまず四足歩行になる必要がありますので、こういった点からもモグラのような地底恐竜が存在した可能性は限りなく0に近いのではないでしょうか。
4.恐怖の穴掘り恐竜:ディノケイルス〜ある意味、地底恐竜?〜
では、恐竜と地下世界はまったく無関係だったのでしょうか?
生物とは生きる活路があれば、そこに適応して進化するものです。恐竜も例外ではありません。
モンゴルで面白い化石が見つかっています。ディノケイルスと名づけられたその動物の化石は、腕の化石しか見つかっていません。しかしその腕は、人間の背丈よりも大きい3mもあります。その形態からディノケイルスはオルニトムミスやガリミムスのようなダチョウ恐竜の一種といわれています。
しかし、その腕の大きさを普通のダチョウ恐竜に当てはめてみると、体長10mを超え、ティラノサウルス以上の超ビックサイズになってしまうのです。それは、少し無理があるような気がしますが、ディノケイルスについては腕の化石だけしか見つかっていないので、そのことについては、誰もなんともコメントがしようがないのです。
まさに謎の恐竜です。
(ディノケイルスの化石)
(右:ダチョウ恐竜として復元したときのディノケイルスと人間の大きさ比較。/左:想像全身骨格図)
(ティラノサウルスやスピノサウルスよりデカイ恐竜になってしまう)
しかし、腕を除いて謎であるからその他については自由な想像ができるのがこの恐竜の魅力です。ディノケイルスについてどんな動物だったか想像してみましょう。ただし、無闇に想像するのではなく、実際に見つかった化石とディノケイルスが生きていた白亜紀後期のモンゴルの環境が想像するときのキーになります。
まず腕の化石からわかる情報について
@化石は腕の部分しか見つかっていない
→他の部分は化石に残らなかったから意外と脆弱、もしくはそんなに大きくない?
A化石の形態の比較から、ダチョウ恐竜の仲間であると推測できる。
B腕の長さは3m。手は大きく、爪は太くて頑丈そう。
C同じ時代、地域に同じく巨大な腕と爪を持ったテリジノサウルスという恐竜がいた。
→この恐竜に比べディノケイルスの爪は頑丈にできている。これはテリジノサウルスとディノケイルスは腕と爪をまったく別な用途に使っていたからではないか?
(右:テリジノサウルスの復元図/左:テリジノサウルスの手の標本。爪は大きいが厚さは薄い)
(テリジノサウルスの全身骨格図)
次にディノケイルスが生きていた白亜紀後期のモンゴルの環境からわかる情報について、
@白亜紀後期のモンゴルには多様なトカゲ、哺乳類が住んでおりヴェロキラプトルなどの肉食恐竜の生活を支えていた。
A同じ時代のモンゴルには、同じく長い腕と爪をもったテリジノサウルス類が栄えており長い腕と爪を熊手のように使い植物をかき集め、現代のパンダのような生活を送っていたと考えられている。
Bディノケイルスが生きていた時代、地続きだった日本の双葉層郡ではアリの入った虫入り琥珀が発見されている。このことからこの時代、ユーラシア大陸にアリが存在していたことは確実であり、当時のモンゴルに蟻塚があった可能性がある。
(福島県で発見された白亜紀後期(8000万年前)の蟻の虫入り琥珀化石)
これらの情報をベースにディノケイルス姿と生態を想像してみましょう。ここからは、化石とディノケイルスが生きていた当時の環境の情報をもとにしていますが、実際は私の勝手な想像です。科学というよりサイエンス・フィクション(SF)という視点で読んでください。
(科学はどんなに論理的でも検証される必要がありため、結構しんどいものです。その点、SFは検証する必要はなく、アイデアと思考と理論の世界、つまり仮説だけで成立します。だからといってSFは科学よりも格下というわけではありません。科学的思考を養うためには仮説の世界で成り立つSFは格好のトレーニング手段というより、基本教養です。)
(1)ディノケイルスの姿
ディノケイルスの姿は腕だけがやたら大きいダチョウ恐竜という感じではなかっただろうか?ちょうど現在生きている動物で言えば、ダチョウにゴリラの腕をつけたような感じだろう。ダチョウ恐竜のくせに走るのはあまり得意ではなく、爪を守るため類人猿のようにナックルウォーキングをしていたのかもしれない。(図4を参照)
(筆者が想像するディノケイルスの姿)
(2)ディノケイルスの生態
現生の動物で意外と強力な腕と爪を持つ動物を皆さんご存知でしょうか?実は南米に住むオオアリクイは動物園(私が見たのは上野動物園)で観察するとかなり大きな爪を持っていますし、前足も頑丈です。オオアリクイはこの前足と爪でシロアリが作った塚(強度はコンクリート並み)を粉砕し、あの細長い顔を巣に差込、舌を器用につかってシロアリを食べます。それで、このオオアリクイ、氷河期まではオオナマケモノと共存していました。オオナマケモノはこれまた大きな前足で植物をかき集めて食べていたパンダに似た生態で、スローモーな性質ゆえインデオやインカ文明の祖先に滅ぼされてしまった生き物です。
(右:現在南米に生息しているオオアリクイ/氷河期まで南米に生息したオオナマケモノ:メガテリウムの化石)
上記の動物たちの関係は白亜紀後期のモンゴルでも当てはまるのではないでしょうか?つまりこんな感じです。
白亜紀後期モンゴル 更新性(氷河期)南米
ディノケイルス=オオアリクイ
テリジノサウルス=オオナマケモノ
つまりディノケイルスはアリクイ恐竜と推測できます。彼らはその巨大な腕で黎明期のアリたちが作ったコロニー(蟻塚)を巨大な腕で粉砕し、アリたちを丸ごと腹の中に収めていたのでしょう。
しかし、オオアリクイ程度の大きさの動物ならともかく、巨大なディノケイルスはそれだけで体を維持できたのでしょうか。多分、無理だったでしょう。
彼らが依存したのは蟻塚ではなく、むしろトカゲや哺乳類が作っていた地下世界だったと思われます。嗅覚が発達していたディノケイルスは獣(哺乳類)のにおいをかぎつけ
巣穴を、その大きな手で掘り返し、巣穴にいた哺乳類を丸呑みにしていたのでしょう。
巣穴ごと襲いますから獲物は多く、消費するカロリーに比べ得られるカロリーが高い、効率的な狩りができ、巨体を維持できたのでしょう。もっとも、襲われる側の哺乳類にとって見ればディノケイルスはヴェロキラプトルのよりも恐ろしい怪物に映ったのでしょうが・・・・・・・・。
(3)なんでそんな生き物が生まれたか?
当時のモンゴルの生態系、特に肉食動物の生活を支えたのはトカゲや哺乳類などの小動物であったと考えられます。白亜紀後期のモンゴルは、大河やオアシスの周りに植物が生え所々、砂漠になっていたことが化石(砂漠に埋もれた恐竜の化石など)からわかっています。
多分、生態系の底辺を支えていたのはミミズや昆虫で一次消費者はトカゲや哺乳類、そしてヴェロキラプトル、ダチョウ恐竜といった中小型の肉食恐竜がトカゲや哺乳類を食べる
二次消費者として生態系の頂点にいたのでしょう。
それで、中小型の肉食恐竜は獲物を得るためにさまざまな能力を発展させていきました。
ちょっとそれを見てみましょう。
@猛ダッシュ
ヴェロキラプトル、ダチョウ恐竜が発達させたのがこの能力です。獲物を見つけたら逃げる前に捕まえるただそれだけです。しかしこの場合、獲物が巣穴などに逃げ込んだらでてくるまで、我慢強く待ち続けるかあきらめるしかありません。
(猛ダッシュするドロマエオサウルス)
A夜目
現在ではフクロウなどが発達させている能力です。鳥類と同じ系統に属する大半の恐竜が、現在の鳥類がそうであるように夜に視界が利かない鳥目だったのではないかと考えられています。恐竜は夜になるとまともな活動ができなかったのです。そのため、肉食恐竜から身を守るため哺乳類たちの多くが夜行性だったと考えられています。しかし、それを逆手に取った夜行性の恐竜たちがいました。サウロニトイデス、トロエドンなどのトロエドン科の恐竜です。彼らは夜でも見える目と発達した脳を武器に、他の恐竜が活動できない中、思う存分哺乳類の味を堪能したことでしょう。
(発達した目をもったトロエドン。彼らの目は夜活動するために進化したという。)
ディノケイルスはどのようにして生まれたのでしょうか?ディノケイルスは先ほども述たようにダチョウ恐竜に近縁だと考えられます。つまり、大本の祖先は猛ダッシュで獲物を捕まえる種族だったのです。しかし、猛ダッシュで獲物を捕まえるのはエネルギーを消費する割には得られるものが少ないライフスタイルです。そんな、あるとき走ることをやめ、穴を掘ることで自らの足元に広がる地下世界から獲物をごっそりいただくことをはじめたダチョウ恐竜がいたと考えられます。それがディノケイルスの祖先でしょう。そして、その生活様式は見事に当たり、より効率よく地下世界を侵略するため巨大な腕が発達していったと考えられます。その進化の頂点がディノケイルスです。
ディノケイルスは腕の化石が一組だけしか発見されていないため、この地下を掘り返して獲物をとるというライフスタイルをもった恐竜が白亜紀最末期まで生き残ったのか、それともあまりにも特殊なライフスタイルゆえ環境の変化についていけず、途中で絶滅したのかはわかりません。ただ、同じダチョウ恐竜がすんでいた北米でディノケイルスのような恐竜が見つからないこと、モンゴルでも化石が一組だけしか発見されていないことからディノケイルスがかなりの変わり者で、そんなに個体数が多い恐竜でなかったのは確かなようです。
(4)ディノケイルスは何がすごいのか
私もこれまでいろいろな恐竜を見てきました。恐竜とはセンス・オブ・ワンダーにあふれた動物ですが、結局のところ地球の生き物です。白亜紀の自然界においてティラノサウルスはライオンやトラ(もしくはかなり戦闘的なハイエナ)、トリケラトプスやハドロサウルス類は牛や馬、カミナリ竜は象やキリンと恐竜は現在の生物が占めている生態系での地位を持っています。逆に言うと、恐竜絶滅後に哺乳類は恐竜たちが作った空席に次々座って行ったとも言えるでしょう。どんなに奇妙奇天烈な恐竜でもその当時の地球の生態系では意味があり、その生態系での意味が現在でもあればそれに類する生き物はいるのです。
それではディノケイルスはどうでしょうか彼らにはオオアリクイという生態を連想させる生物はいるものの、巨大な手で穴を掘って獲物(穴居性の哺乳類やトカゲ)を捕らえる、地上から地下世界を掘り返してハンティングの場にする生き物は彼らが最初で最後です。まさに本当の意味で失われた動物です。またそのハンティングスタイルからディノケイルスは今のところ一番、地底恐竜の名にふさわしい恐竜といえるでしょう。
ちなみに、恐竜絶滅後、新生代になると白亜紀に登場し、大絶滅を生き延びたヘビ類が直接巣穴に侵入してハンティングを行うというスタイルを確立させディノケイルスのようなハンティングスタイルは消滅していきます。余談ですが、同じスタイルでの狩りを哺乳類でやらせようと人間がオオカミを品種改良して作った動物がダックスフンドです。地底生物の条件は胴長短足、もしくは脚なしがスタンダードなようです。
5.結論〜やっぱ地底恐竜はおらんのかね?〜
結論から言うとモグラのように地底に適応した恐竜がいた可能瀬は非常に低いといわざるを得ません。しかし、地下世界も生態系の一部ですから、生態系を通じて恐竜たちと何らかのかかわりを持っていたのは間違いありません。ここでは、SF的想像としてモンゴルで発見されたディノケイルスが、直接地下世界を獲物にしたのでは?という仮説を立ててみました。しかしこれは、新たなディノケイルスの化石(腕以外)が見つからない限り、あくまでも想像の世界の物語です。
ただし、今後の発掘で中生代のモグラ、モグラ型トカゲが発見される可能性は十分あります。また、可能性は非常に低いとはいえ、地底恐竜がいなかったという証拠はどこにもありません。案外、理屈上あるはずがないものがサクッと見つかり、我々の認識が大きく変わることもあるうるというのが古生物学の魅力のひとつでもあるのですから。
【参考】ドゥーガル/ディクソンの想像〜SF的想像力〜
イギリスの科学者、ドゥーガル・ディクソンはSF的想像力でSF作家以上に多種多様な仮想生物(SF生物と呼ぶべきか)を生み出している。彼は「アフターマン 「Future is Wild」
で人類絶滅後の未来地球生物を、「マン・アフターマン」で未来の人類を、「新恐竜」で恐竜が絶滅しなかった並行世界の地球の生物を発表している。
このページの思考様式に興味をもたれた方はぜひ一読をお勧めします。
地底恐竜に関して彼は「新恐竜」で砂漠に適応したコロエサウルスル類を、「Future is Wild」で地底生活に適応した鳥類をシミュレートしています。
そのことを紹介してこの項を終わりたいと思います。
(新恐竜より:サハラ砂漠に生息するコロエサウルス類の子孫サンドル)
(Future is Wildより:500万年後の北米砂漠にすむウズラの子孫スピンク)
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