はいぱ〜不定期徒然草


【1421年をめぐるなぞ】

【1421〜中国が新大陸を発見した年】
西暦1421年。日本では一休さんが将軍様をとんちでやり込めていた時代、ヨーロッパではイギリスとフランスが百年戦争の真っ只中、ジャンヌダルクはまだ神の声が聞こえない子供だった。
そんな時代、中国は繁栄の絶頂にあった。モンゴルを万里の長城北側に追いやった明帝国は三代皇帝:永楽帝の時代を迎えていた。永楽帝はかっての中国の栄光、世界帝国:唐帝国の威光を取り戻すべく、さまざまな大事業に取り組んだ、紫禁城の造営、古今の書物を集めた「永楽大典」の編纂などである。その中でも、最大の事業がイスラム教徒の宦官:鄭和に命じた六回にわたる大航海であった。(実際は七回の航海があったが七回目は鄭和のメッカ巡礼であった。)
とくに、1421年〜1423年に行われた第六回の航海では「世界のあまねく国に明帝国の威光を知らしめよ」という皇帝の命により、複数の大船団が世界を巡った。

これが、イギリス海軍の元潜水艦艦長:ギャヴィン・メンジーズの「1421 中国が新大陸を発見した年」のあらましである。
著者のメンジーズは世界各地を回り中国人たちの大航海の証拠を次々発見していった。
中国人たちは南北アメリカに到達しただけではなく、南極を測量し、北極海を進み、オーストラリアやニュージーランドを探検し、マゼラン海峡を抜け世界を一周した。

これまで宇宙人が南極を測量した結果だとまで言われた「ピリ・イレスの地図」も、アトランチスの遺産と言われたバハマの海底道路も、オーストラリアのアボリジニに伝えられた謎の民族の伝説もすべて中国人の大航海の名残であるという。
それだけではない、コロンブスやマゼランといった後のヨーロッパの大航海時代の航海者達は、中国人航海者という「巨人の肩」にのったものであったという。つまり、彼らは中国人の大航海の情報を事前に入手していて、それをなぞっただけに過ぎないと言うのだ。

では、何故そんな重要なことが教科書には載っていないのであろう?
それは大航海が始まった直後、1421年5月5日落成したばかりの紫禁城が落雷により焼け落ちると言う事件がおこった。この後、永楽帝の周囲には不幸が次々襲った。気落ちした永楽帝はこれらを天の怒りと感じ、彼が進めてきた事業をすべて取りやめてしまった。その後、海外進出に批判的な官僚達が、政権を握り、大航海は歴史の闇に葬られ、中国はこれまでとは逆に鎖国への道をすすんだからだという。

著者も書いているが1421年5月5日落成したばかりの紫禁城が落雷により焼け落ちなければ、世界は我々の知るものとは大きく違ったもになっていただろう。想像してみるのも楽しいかもしれない。


【SF的な視点】
1421」からSF的な想像をしてみよう。

現代の世界がヨーロッパにおける大航海時代を起点に、オリエント文明→ギリシャ・ローマ文明→キリスト教社会と発展してきたヨーロッパ=キリスト教文明が地球レベルでの政治、経済、文化、価値観の主導権を握っているのは言うまでもない。我々日本人も西洋文明とハイブリット化を経なけれ先進国になれなかった、近代史を見ればそのことは痛感できると思う。(日本の場合、日本文化そのものが古代から持っている何でも受け入れてしまう柔軟性と、江戸時代に西洋文明と産業革命を受け入れる素地ができていたため、近代以降擬似西洋国として生き残ることができた。これは世界史でも例外的なことである。)

なぜヨーロッパが世界史の覇権を握れたのか?決定的であるのは産業革命がヨーロッパでおきたことといえる。何故、産業革命がヨーロッパでなしえたのかと言う背景には、市民革命と新大陸の発見が大きい。市民革命はルネサンスのヒューマニズムにその源流を求めることができても、主な要因は市民階級の経済的躍進と封建制度の衰退がなんといっても大きい。それをおこした大きな要因のひとつはやはり新大陸の発見であった。よくこの辺は、高校の世界史のテストで出るので分かるかと思うが、新大陸の発見により大量の銀の流入が価格革命を引き起こし中世的な封建制度を弱体化させ、新大陸への工業製品の輸出が富の蓄積を生み市民階級を発展させ、アメリカ独立戦争が自由平等博愛のフランス革命の思想的背景を用意したなど、ヨーロッパ文明を世界の中心に押し上げた市民革命、産業革命は新大陸と言う要素を抜いて語れないものである。そして、現在、ヨーロッパ文明を受け継いだ新大陸の国家USAが、世界の政治・軍事・経済・文化・価値観の中心というのはいうまでもない。

つまり四大文明が発生したユーラシアからみた新大陸=南北アメリカ大陸を発見し、自らに組み込んだ文明が世界史の覇権を握ったのである。
コロンブス以前、15世紀、世界は大きくいって3つの文明圏があった。ヨーロッパ=キリスト教文明、イスラム文明、中国を中心とするアジア文明の3つである。このほかにもインドや、モンゴルなど遊牧民、アジア文明の変種の日本なんかがあったが世界史のメインプレーヤーと言えば上の三大文明圏で間違いないだろう。

例えば、もしこの時代にイスラム教徒が新大陸を発見し、植民地を作り、自らの社会・経済のなかに新大陸を組み入れる歴史が存在したとすれば。21世紀、地球人の半分が毎朝メッカに祈りをささげ、豚カツや豚角煮を食べる人間をうんこを食べる野蛮人並みの扱いする世界が出来上がっていたかもしれない。

で、「1421」はそんな事態が実際に起こりかけていたと言うことを示しているのだ。
もし、1421年5月5日に紫禁城に落ちなければ中国人は再び新大陸への航海と本格的な植民をはじめていたかもしれない。場合によっては、中国人がイングランドか、イベリア半島に上陸しヨーロッパを”発見”するという事態が起こっただろう。つまり、マルコポーロの「東方見聞録」の世界が、自分のほうからやってくるのだから、ヨーロッパ人が大航海に乗り出すモチベーションが大きくそがれるのは間違いない。それどころか中国人は世界をすでにくまなく航海しているのだからヨーロッパ人が航海に乗り出す余地はない。ヨーロッパの諸王やローマ教皇が明帝国の皇帝に臣下の礼をとることもありえたかもしれない。
そんな歴史を歩んだ世界では、中国語が標準語になっているだろうし、儒教的・仏教的な道徳がすべての価値基準になっているに違いない。日本も中世的な伝統社会が21世紀まで継続しているのかもしれない。

もしかしたら中国の大航海に伴い、日本人、イスラム教徒、インド人も中国という巨人の肩に乗って新大陸へ乗り出していっただろう。ちょうど、ポルトガル・スペインのあとにオランダとイギリスが新大陸やアジア・アフリカに乗り出して言ったように。とくに、倭寇と呼ばれる海賊を抱えていた日本は中国が新大陸を発見した世界でイギリスのようなポジションになったかもしれない。(まぁ、スペインからイギリスの海の覇権を移したのはキャプテン・ドレークのような海賊達ですから)明が衰退し、満州族の清王朝が台頭してきた中国の混乱の時代は、日本では安土桃山時代から江戸時代の初期にあたり、日本では戦国時代が終わりをむかえ、国内では処理しきれないエネルギーにあふれた時代だった。現実の歴史で豊臣秀吉の朝鮮出兵や山田長政のタイでの武勇伝にはそんな時代背景があった。
もし、そこに新大陸と言うはけ口があったらどうだろう。「1421」では中国人の大航海に日本人が多数同行していたと書かれている。
戦国時代が終わり、天下泰平の世で行き場をなくした武将達が新大陸に渡るという歴史もあったかもしれない。
例えば、秀吉の命令でインカ帝国やアステカ帝国を征服する加藤清正や、スー族の戦士と戦う流れ者の宮本武蔵なんて歴史があったかもしれない。

中国人は朝貢という発想で征服という行為をしたとは考えにくい。イスラム教徒は新大陸の住人をイスラム教徒にしようとは考えただろうがジハードを挑むと言う発想は、そういうことをやりそうなオスマン帝国から新大陸までの距離を考えると考えにくい。インド人には相手を征服しようと言う発想はそもそもない。15〜17世紀前半の世界で、征服者となりえたのは国盗り合戦に明け暮れていたヨーロッパ人と日本人ぐらいだろう。日本人とヨーロッパ人の差は自前の航海術と航海の行き先があったかどうかである。ヨーロッパ人には大航海時代によりそれがあり、アジア・アフリカの征服と植民地化の歴史を歩み、日本人にはそれがなかったために鎖国と徳川幕府の安定支配と言うまったく逆の歴史を歩んだ。元禄時代の「生類哀れみの令」のような極端な平和主義に基づいた法令はそんな歴史のゆがみから生まれたのかもしれない。

もし、日本人が新大陸に乗り出す歴史があったらアメリカには50の州ではなくて、500の藩があり豊臣幕府もしくは徳川幕府が日米に渡って21世紀も君臨すると言う世界があったかもしれない。その世界では日本語が世界の標準語だが、鎖国を経験しないで新大陸征服を経験した日本人は、アメリカ文化にどっぷりつかった我々の世界の日本人よりも、アメリカ的な民族になっているのかもしれない。

このように「1421」はSF的な想像力を刺激する。
だれか、「1421」をベースに、ヨーロッパが覇権を握っていない世界の物語を書いてくれないだろうか・・・・・・・

【歴史は繰り返す?】
余談だが、15〜17世紀の新大陸めぐる人類の歴史は、そのまま新しい大陸=宇宙にも当てはまらないだろうか?
過去の歴史では新大陸と言う新たな世界を握った文明が、その後の人類の中心となった。
宇宙でも同じことは言えないであろうか?地球外の世界、月、スペースコロニー群、火星、小惑星帯、木星圏に人類の生産活動が移った時、宇宙と地球は新大陸と旧世界と同じ関係になるだろう。宇宙と繋がるもの、もしくは宇宙に住むものが人類の文明の中心になるのかも知れない。

過去の歴史のポルトガル人/スペイン人に当たるのは誰になるのか?オランダ人やイギリス人になるのは誰か?
興味の尽きない問題である。

もしかしたら、現在の我々の選択しだいでは宇宙暮らす日本人の子孫が人類の覇権を握る未来もあるかもしれない。


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