青と蒼と藍

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VS遠坂

第3話

 いつもの部屋、いつものベッド。
 初めて遠坂と身体を重ねたあの日、あの時もこの部屋だった。
 聖杯戦争の終わり。
 ギルガメッシュとの戦いを前にして結んだ契約。
 魔力のパスを通すという差し迫った理由に後押しされて、俺たちは最後の一線を踏み越えた。
 あれからもう二ヶ月以上が経過している。
 そのあいだ、遠坂と何度も何度も体を重ね、彼女を抱いた。セイバーへの魔力供給の安定、そんな名目があった。
 俺と遠坂はいちおう恋人同士なんだから、抱き合うのにそんな名目がなくっても別にかまわないんだけど、どうもまだ「恋人」という関係に俺たちは慣れていないみたいだ。
 だから、わざわざそんな理由をつくってベッドを共にしたりする。
 セイバーにとってはいい迷惑かもしれない。
 俺からちょくせつ魔力の補給を受けながら、そのうえでさらに遠坂とのレイラインを通して過剰ともいえるほどの魔力供給を受けているのだから。

 そういうこともあって、最近、俺と遠坂の関係は心身ともに少しずつ繋がりが深くなってきている。
 遠坂の弱いところ、感じるところ、どうすれば彼女が喜ぶか、どうすればイクのか、そういったこともつかめ始めてきた。
 お互い、ちょっとばかり素直になりきれない部分もあるけれど、それが俺たちの関係に悪影響を与えるようなことはない。
 たとえどんなケンカをしたとしても、二人で一夜を過ごせば大体のところが水に流れる。
 というか……ケンカした後の、いわゆるそういう事は、お互い妙に燃えるということが最近わかった。

 そんないろんなことを経験し、繰り返して、俺たちはこれから本当の恋人と呼べる関係になっていくのだと思う。


 それでも、
 今夜はいつものそういうこととはちょっとだけ趣が違う。
 いや、ちょっとだけではないかも……

 俺の目の前にいる遠坂。
 上半身裸、下にはいつものミニスカートとそこから覗くまろやかな脚、上気した肌、呼吸。
 ここら辺まではいつもと同じ。
 でも唯一つ、両腕の位置が問題。
 遠坂のほっそりとした両の腕は体の後ろに回され、背中の半ばほどで交差し括りつけられている。
 手首を封じ込めるは俺の強化の魔術が込められた黒いリボン。
 完璧なまでの強化が施されたそれは、希代の魔術師、遠坂凛といえど振り解くことはかなわない。
 それが彼女の両腕を後ろ手に縛りつけ、おまけに上半身は裸、さらにここがベッドの上ということになると、妖しげな妄想が俺の脳裏を走ったとしても不思議じゃない。
 というよりも、俺の頭の中はすでにそんな妄想に支配されきっている。

 じゅうぶんな身動きがかなわない裸の女性。
 しかもそれがあの遠坂凛。
 頭脳明晰、運動神経抜群、学園のアイドルにしてなんでもこなす完璧超人、そして……俺の大好きな女の子。
 そんな彼女が、真っ白なシーツの上で恥ずかしそうに体を縮こませているのだから、おかしくなるなというほうが無理なこと。

 もっとも、遠坂をこんな格好にしたのは、他でもないこの俺――衛宮士郎なわけなのだけれど。






 ベッドの上。
 俺は捕らえた美しい獲物をしっかりと瞳に焼きつけ、いざ食らおうとにじり寄る。
 それに押し出されるように、両手を縛られ動きづらいにもかかわらず俺から離れようとする遠坂。

「なんで逃げるのさ、遠坂」
「なんでって……そ、そんなの、あたりまえじゃない」
「だからなんでさ」
「こ、こんな事しといて……良くそんなこと言えるわね」

 遠坂はなんとか腕を自由にしようともがいている。
 でもそれは無理だ。
 そうやすやすと外されるほど、俺の強化は安っぽくない。
 他のがあまりにヘタレなその反動――かどうかはしらないが、強化と投影においての俺の実力は師である遠坂をはるかに上回る。
 特に今日は、いつもよりも数段上の魔術を施行できた。
 それがなぜかは良くわからないが、技量が上がったというよりは俺に蓄積されている魔力量が増大している、そんな感覚は受ける。
 まあいずれにしろ、遠坂が自力でそれを外すことは不可能。

「くっ……外しなさい、士郎!」

 遠坂にもそれが理解できたようだ。
 しばらくは黒いリボンと格闘していたが、どうやっても外れないとわかると俺の顔を睨みつけながらそう言ってきた。
 でも、もちろん俺にはそれを外す気など毛頭ない。

「いま外したら何の意味もないじゃないか」

 せっかく上手くいったというのに。
 もう一度、あれだけの強化を成功させる自信はさすがにない。

「だいたい……外したら、『呪いガンド』食らわせるつもりだろ、遠坂?」
「当然でしょうが!」
「じゃあ駄目だ」

 ここで『呪いガンド』を受けて戦闘不能になるわけにはいかない。
 これほどのチャンス、みすみす見逃すようなことは……

「ちょ、ちょっと……ち、近づかないでよ」

 じわじわと間合いをつめる俺。
 必死で遠ざかろうとする遠坂。

「大丈夫。怖がらなくていいよ、遠坂。やさしくするから」

 安心させようとそんなことを言うが、

「こんなことしてる時点で、そんなこと言う資格あんたにないでしょうが!」

 あっさりと拒否された。
 当然といえば当然だが。
 それでも俺は、ゆっくりと確実に遠坂に近づいていく。
 それに対しやはり遠坂は下がろうとするが、ベッドの縁まで行ったところで退路を失った。

「い、いい加減にしないと、本気で怒るわよ」
「なんでそんなに嫌がるんだ? 遠坂」
「なんでって……。だって、こんなの普通じゃないでしょう。手を縛るなんて……」

 そりゃまあ確かに、普通ではないかもしれないけど。
 でも――

「極端におかしなことでもないと思うぞ。……だって、俺たち恋人同士だし」
「こ、恋人……」

 遠坂が頬を染め、言いよどんだ。
 そういったことを正面きって言われると相変わらず弱いみたいだ。

「恋人だからって……こんなこと……」

 俺の顔をちらっと見つめる。

「もっと、普通で……別にいいじゃない。い、いつもだって、そうなんだし……」
「まあ、そうだけど。たまには変化があってもいいんじゃないかな」

 好きあってる男女が夜を共に過ごす、そんなことを繰り返していれば時には変化を求めたくなるもの。
 いつもおんなじことの繰り返しというのも味気ない。
 いや、ほんの少し前までなら、遠坂を抱くというそのことだけでお腹いっぱいだったけど、最近は――特に今日はそれだけじゃ物足りない。
 遠坂のことを全身くまなく愛したい。

「変化……って言ったって……」
「これからも俺たちはずっと一緒にいるわけだし、お互いのことをもっと深く理解する必要があるんじゃないか?」
「そ、それは、そうかもしれないけど。それとこれに、どんな関係が……」
「まあそれは……いろいろと」

 何か新しいものに目覚めるかも。
 そんなことを内心考えながら遠坂に近づき、追い詰め、彼女の頬に右手をそえる。

「や、だ……士郎」
「遠坂……」
「い、いい加減にしないと、本気で怒るわよ……」

 そう言ってくるが、その声も俺を睨んでくる瞳も力不足。
 俺はそれを正面から粉砕するかのように、遠坂の瞳をじっと見つめた。
 じっと……
 遠坂が逃げられないよう、頬に手をそえたまま、じっと――

「そ……そんな顔しても、駄目なものは駄目なんだから……」
「……遠坂」

 もう一度彼女の名を呼んだ。
 うっすらと高潮したその頬。
 愛しむように撫でる。

「……嫌なのか、遠坂?」

 彼女の瞳を覗き込み、そう尋ねた。
 どうしても、絶対に、なにがなんでも嫌、と遠坂が言うのなら俺も無理強いはしない。

「だ、だって、こんなこと……」
「うん、言いたいことはわかるけど。でも、今日はこうやって遠坂を抱きたいんだ」

 普段なら赤面ものの台詞を臆面もなく言い放つ。
 うっ、と口ごもってしまう遠坂。
 そんな彼女の胸に、優しく左手をおいた。
 いきなり激しい愛撫などはせず、やんわりと撫でるだけ。

「ふ、ぁ……や、士郎」
「なあ、いいだろ」

 身動きできない遠坂の胸を優しくなでまわしながら、耳元でささやく。
 ふるえる耳たぶを甘噛みし、ふっと息を吹きかけながら、耳孔に舌を差し入れる。

「あぁ、あ、う……や、んっ……」

 胸と耳を同時に責め、遠坂の返事をうながす。

「ん、こ、こんなの……士郎、ずるい……」

 ピクピクと身体をふるわせながらそう非難してくる。

「遠坂が絶対に嫌だって言うんなら、俺もやめるけど」

 たぶんもう拒否することはないだろうと確信しながらそう聞いた。
 まあこんなんだからずるいと言われても仕方がないか。
 目の前にある遠坂の耳たぶをペロっとひと舐めし、正面から遠坂の瞳を覗きこんだ。
 さっきよりも接近してる状態。

「ん……ぁ、士郎」

 快感に身をゆだねつつある火照った表情。
 それを間近で見つめ、微笑を返しながらゆっくりと遠坂の唇を奪う。

「ん、ん……」

 いっしゅん身体を強張らせた遠坂だけど、俺がかるく唇を吸うと、そこから強張りが吸い取られているみたいに脱力していった。
 瞳を閉じ、俺にされるがままとなる遠坂。
 唇での交わりが次第に舌の絡みあいへと移行する。
 ちゅくちゅく、と、唾液で水遊びでもしているような音。
 俺の舌が遠坂の舌を絡め、つかみ取る。
 隠れようとするそれを唇で挟み、舌と歯をつかってもてあそぶ。
 苦しげで甘い吐息が遠坂から漏れる。俺は唾液をそのなかへと流し込んだ。
 
「んっ……ん、ん、ふぁ……」

 驚いたように顔をしかめ、流れ込んできた液体に拒否反応をしめしたかに見えたが、それも一瞬のこと。

「ぁん、んっく、んく、ん、ん……」

 いつものように、俺の唾液を素直に飲み干していく。
 そんな姿に調子に乗ってしまう俺。
 舌に唾液をのせ、口内へと差し込みながらかき回す。

 ぴちゃ、ぴちゃ……ちゅく……つぷ……

 唾液と舌が混ざりあう音があたりに響く。
 甘い香りが鼻孔から進入し、俺の脳内を侵食し始める。
 そしてそれは遠坂も同様。いや、遠坂のほうがより被害は深刻そう。
 熱にうなされたような頬。
 時折のどを鳴らして俺の唾液を嚥下する。
 瞳が開き、自分のしていることが信じられないというような顔で俺を見つめてきた。

 俺はゆっくりと唇を離した。唾液の糸があとを引く。
 遠坂の口内から赤い舌がのぞき、物欲しげにふるえた。
 口元に垂れているどちらのものかわからない唾液。
 それを舌で舐め取ってあげながら、俺は遠坂の体をふとんへ押し倒した。

「あ……」

 小さな呟きが漏れるが、遠坂は逆らわなかった。
 俺は手近にあった枕を引きよせ、遠坂の腰の下に敷く。
 背中で縛られた手がふとんと挟まれないための配慮だけど、腰が少し浮き上がった体勢になるから、なんだかよりそそられる格好になる。
 遠坂の体に上から覆いかぶさり、快楽と戸惑いの狭間でゆれる彼女の瞳を見つめた。

「いいか? 遠坂」

 答えがわかりきっている問い。
 わかりきっているのにあえて問う。
 ずるいとか卑怯とか意地悪だとか、遠坂やセイバーに言われる所以がこれ。
 そして遠坂は、ほんのちょっと悔しそうな顔をしながら口を開いた。

「あとで……絶対に仕返ししてやるんだから。憶えて、おきなさいよ……士郎」

 それが遠坂なりの肯定の返答。
 相変わらず素直じゃないというか、らしいというか。
 だから俺も答える。

「『呪いガンド』五発までなら何とか我慢する」

 そのぐらいは覚悟の上。
 それ以上くらったら俺も生き残る自信はないけど。








 胸においた手から鼓動が伝わる。
 どくん、どくん、と脈打つ響きが、遠坂の昂ぶりをものがたっている。

「じゃあ、遠坂。始めるぞ」

 あえてそう言うのは遠坂の羞恥心を喚起するため。
 案の定、彼女は口をつぐんだままそっぽを向いてしまった。
 勝手に始めればいいじゃない、遠坂の横顔がそう言っている。

 それに軽く微笑んで、俺は胸のふくらみを両の手でつかむ。
 仰向けになっても決して形を崩さないそのふくらみ。
 それを下から持ち上げるように手のひらで包みこんだ。

「ん――ん……ぁ」

 かすかな吐息が聞こえる。
 こんなささやかな愛撫でも感じてしまうほど、いまの遠坂は敏感みたいだ。
 すこし強く指を押しつけるとやわらかな肉の丘に埋もれていく。
 きゅっ、きゅっ、と強弱をつけて揉んであげると、

「あぅ……ん、ん、あ……っ」

 それに合わせるように鳴き声も徐々に強くなる。
 その声を耳で堪能し、指先は先端の突起へ。
 尖りきったそれを電源のスイッチでも入れるみたいに、指で押す。

「ひぁ――っ! あ、う……士郎、そこ、や……」
「すごい硬くなってるな」

 硬くしこったそこは、指で押しつぶしても跳ね除けようとするみたいに反発する。
 つまんだり、ひねったり、引っ張ったり、しばらく彼女の乳首で指遊びしていたら、今度は指ではなく別のもので味わいたくなってきた。
 なにしろ取れ立てのさくらんぼみたいにやたらと美味しそうなもんだから、口で味わってみたいと思うのも当然。

「――――ん」
「あっ……うっ、く、ん……」

 唇で咥えると同時にぴくんと遠坂の体が揺れた。
 じっとりとした熱さが唇の向こうから伝わってくる。
 唾液をからめ、乳首を舌で舐めまわすと、よりいっそう硬さが増してくるのが手に取るように……舌に取るようにわかる。

「ん……んっ……士郎……ん、あっ――」

 払いのけようとするのか、それとも押しつけようとするのか、手の使えない遠坂はもどかしげに体をゆすった。
 体はもっと求めているんだろうけど、俺に素直に屈するのが悔しいので我慢している、そんな感じだ。
 じゃあ、ということで、俺は口のなかで震えている突起に歯をたてた。

 ……かりっ……

「きゃぅ――――っ!!」

 ん、ちょっと強く噛みすぎたかな?
 動きづらいにもかかわらず、遠坂の体が反るように跳ねた。

「うっ、あ……士郎っ、そ、そんなとこ……噛まないでよ」
「気持ちよくないのか?」

 乳首を咥えたまんまそんなことをたずねた。
 自身の興奮をそのまま現すかのような熱い吐息が、ふるえるピンク色の突起を直撃する。

「あう……息が……ん、ん……き、気持ちいいわけ――ないでしょ」
「そうか……じゃ、努力する」
「努力って……んぁ――っ! ちょっ、まっ……ん――!」

 かぷっ、と噛んだまま歯を左右にゆらし、ぷくりとふくらんでいる乳首を根元からこすり上げる。
 先端を舌先で突っつきながら、唾液をまぶしてすべりをよくする。
 そしてそこへねっとりと舌を這わせた。

「ふぁ――っ、あんん、んっ……や、士郎……だめ、つ、つよすぎる……」

 暴れだしそうになる体をしっかりと両手で抱きかかえながら、唇だけは目標である乳首を捕らえて離さない。
 どれだけ遠坂が振り解こうとしても、制度抜群のスコープで捉えたかのように吸いつく。

 ちゅ……ぅ……かぷ……

「やっ、あ……ん、ちぎれちゃう……んっぁ、士郎……っ!」

 俺の腕の中でビクビクとふるえる遠坂の体。
 なめらかな肌からはじっとりと汗が滲み出していた。
 甘い蜜を内包した果実をあじわうように、歯をたて、舌でこすり、白桃のようなふくらみをむさぼる

「ん、あっ……おんなじとこばっかり……そんなに、しないでよぉ……」
「……ん、わかった」

 俺はあっさりと返事をすると、責めまくっていた乳首から唇を離し、今度は反対のほうへと……

「ひぁ……っあ、な……ん……なにを……」
「だって、片方だけじゃさびしかったんだろ?」
「ば、か。そういうことじゃなくて……んっ――ぁ!」

 まだ綺麗なままのほうの乳首を同じように汚していく。
 左手では、さっきまで玩んでいた側の乳首をクリクリとまわしていじる。
 まぶしておいた唾液のおかげですべりが非常にいい。

「あっ! あ、あぁ……! んっ……あ!」

 徹底した胸への攻撃に、さしもの遠坂も陥落寸前。
 胸の突起はこれ以上ないくらいに膨張し、俺の指と舌を楽しませてくれる。
 まったく飽きの来ないそれを思うがままに貪りつくした。


 ちゅぷ……ん……
 と、すべてを味わいつくしたうえで、ようやく俺は唇を離す。
 遠坂の胸は俺の唾液でべとべとになっていた。
 荒い呼吸と共にその胸がゆっくりと上下している。

「なんだか……いつもよりも感じてたみたいだな、遠坂」

 両手を遠坂の顔の両脇におき、紅潮したそれを見下ろしながらそう聞いた。
 瞳を閉じたまま、はぁ……はぁ……、とせわしげな呼吸を繰り返す遠坂。
 それでも俺の声が聞こえたのか、瞳を開け、微妙に力のない視線で俺を睨んできた。

「そんなわけ――ないじゃない。馬鹿」

 と、あからさまなうそをつく遠坂。
 それにはさすがに騙されない。
 なにしろ胸だけでこんなに乱れる姿を見るのは初めてだから。
 これはもしかして――

「縛られてするの、もしかして好きか?」
「な――――なに言ってんのよ馬鹿っ! わたしにそんな趣味、あるはずないでしょうが!!」
「いや、でもさ……」
「馬鹿馬鹿馬鹿、ないったらないの!」

 縛られたままの体で思いっきり否定してくる。
 うーん。
 趣味がどうこうはまあ別にしても、感じやすくなってるようには見えるんだよな。
 気のせいじゃないと思う。
 これでも遠坂の体のことなら当人以上に知り尽くしているつもりだから。

「じゃ、確認してみるか」
「え……?」

 俺は右手を遠坂の脇腹のあたりにおいた。
 ここから腰のくびれのラインは、遠坂の体の中でも最も綺麗な部分のひとつ。
 そこを伝うように指先を滑らせた。

「……んっ」

 ピクッ、とかすかな反応。
 言質をとられないようにするためか、唇は強くかみ合わせている。
 俺はそのまま下方へと手を落としていく。
 腰骨を通り、ちょっと短すぎないかといつも心配しているミニスカートをも通り過ぎ、そこからスラリと伸びる細い脚へ。

「ふ……ぁ……」

 なめらかな太腿の感触を楽しむ。
 普段からこの綺麗な脚を惜しげもなく覗かせている遠坂。
 俺の前でだけならまだしも、学校に行くときや街に出かける時などもだいたいがこんな格好。
 もともとの容姿にくわえてさらにこんな短いスカートをはいてるとなると、いちおう恋人である俺としては心配になる。
 まあでも、いまこの時に関してだけ言えば、これはこれでいいかもしれない。
 スカートを脱がさなくても簡単にこの太腿に触れることができる。
 そしてここからさらにその内側に右手を滑らせれば……

「……あ――っ」
「む……」

 下着につつまれた遠坂のもっとも大事なところ。
 そこに手を這わせようとしたが、寸前で俺の手の進攻が止められた。
 遠坂が膝を立て、さらにその両脚をしっかりと閉じてしまったのだ。

「駄目じゃないか遠坂。脚ひらいてくれ」

 このままじゃ確認のしようがない。
 でも遠坂は脚をひらいてはくれない。逆に力いっぱい両の膝と膝を押し合わせる。
 俺はその隙間になんとか手を差し入れようとするが、どこにこんな力が残っていたのかというぐらいの頑強さに跳ね返される。

「遠坂……」
「――っ」

 そう呼びかけても遠坂は顔を背けたまま。
 唇はきつく結ばれている。
 むう。
 これは素直に言うことを聞いてくれる状態じゃなさそうだ。
 怒りか羞恥かはわからないけど、俺の発した言葉によって天の岩戸が固く閉じられてしまったらしい。

 それでも――正直なところ、だからどうというわけでもない。
 さっきも言ったけど、遠坂の体のことなら世界中で俺が一番良く知っている。
 こういう時、どこをどうすればいいのか、どうすれば天の岩戸を開かせることができるのか、それも良く知っている。
 だから、いつものように少しずつ遠坂の体と心を開いてあげればいいだけだ。
 今日はまあ……普段とはちょっとばかし事情が違うので少々てこずるかもしれないが。

 俺は、遠坂の横に膝をついた。
 右手を伸ばし、彼女の膝と膝がぶつかり合っているところに置く。

「ん……」

 その動きに警戒したのか、遠坂が両脚に力を入れた。
 俺はそれをこじ開けるようなことはしない。ただ右手をそこに置いただけ。
 そして右手はそのままに、ゆっくりと自分の体を倒していく。
 目の前には上等のシルクで織られたような綺麗で真っ白な遠坂のお腹、その中で小さく窪んだおへそ。

「あ……まって、士郎っ、そこは――っ!」

 なにをされるか察したらしい遠坂が制止の声をあげる。
 そりゃあ、毎夜のようにその部分を責められているとなれば、察しが良くなるのもあたりまえ。
 遠坂の可愛らしいおへそ。
 初めての夜、俺が最初に見つけた遠坂の弱点。

「やっ、そこは駄目っ!」

 彼女もそこが自分の弱点だということは良く認識している。
 俺によって……はっきりと認識させられている。
 体をよじって何とか逃れようとするが、俺は左手で彼女の胸のあたりを押さえ、そうはさせじと動きを封じた。
 そのついでに、いまだ切り立つ小さな乳首をくいっとひねってやる。

「あっ……んっ、ん……く、あ、士郎……」

 両手でしっかりと遠坂の動きを封じておいて、俺はそのおへそにキスをした。
 まずは軽く。

「ぁ――」

 一度だけ……ピクンと震える遠坂の体。
 舌を伸ばし、二、三度、窪みをなぞるように舌先を動かす。

「くぅ、あっ……んっ!」

 今度は二、三回、舌の動きに体と鳴き声を反応させる。
 ほんとうに遠坂はおへそが弱い。
 それこそ、舐め続ければここだけでイッてしまうんじゃないかと思うぐらいに。

「やぁ……士郎。そこは、んっ、ほ、ほんとに……駄目、んっ……」

 ペロペロと舐めまわすとそんなふうに哀願してくる。
 でも俺は聞かない。
 どころかさらにその行為を加速させていく。
 唾液を舌先に乗せ、その可憐な窪みへと垂らす。
 それを塗り広げるように舐めながら、ちゅぅっ、と、ちょっと強めのキスを落とす。

「ふぁ――んっ! やっ……う、うぅ……!!」

 また揺れた。
 今度はさっきよりも敏感な反応。
 身動きを封じられているというのに、それでもなお暴れようとする体。
 体温の上昇と共に甘い香りが部屋の中に充満していく。
 このままずっと、遠坂のさえずる声を聞いていたくもあったけど、ぎりぎりのところで本来の意図を思い出す。

「……あ――――っ!」

 膝頭においていた右手をゆっくりと動かす。
 膝と膝の間、両脚を割るようにすべらせ、遠坂のもっとも大事な場所へと……

「やっ――だ、め……士郎…………」

 脚を閉じようと遠坂が力を入れるたびに、

「ん――」
「ひゃうっ、う、うぅぅ……!」

 おへそをついばんでその反攻を阻止する。
 いつものパターン。いつも通りの戦術。
 これまで何度も遠坂と体を重ね、弱いところとか強いところとかお互いに理解しあってきた。
 そのため、夜の逢瀬では勝ったり負けたりを繰り返すのが常だが、この部分を効果的に攻めた時はたいてい俺が勝つ。
 勝つ、負ける、というのをこんな場所に持ち込むのはアレだとは思うが、男としては、愛しい女性が満足する姿を見ずにして本当の達成感は得られない。
 肉体的なものよりもやっぱり精神的な満足感っていうのがこういうことには大事なんだ。

「ひぁっ――! あ、あっ……だめ、って、ん……言ってるのに……んっ!」

 だから、泣きそうになりながら懇願されても手を緩めない。
 この願いを無視したほうが、結果的には彼女を喜ばせて上げられるということを俺は知っているから。
 都合の良すぎる解釈だけど……特に今日みたいな「ちょっと普通じゃない」ことをやっている日は。

 体をガクガクさせながら、それでもは腕を使えないので身をくねらせるしかなく、そんな遠坂の姿がよりいっそう俺の気持ちを昂ぶらせていく。
 ふるえる太腿を撫でさすりながら下方へ。
 下手に身をよじったりしたものだから、すでにミニスカートなどなにほどの障害にもならない。
 まあ、これに関しては普段から無いも同然の代物だけど。

 両脚の付け根まで到達すると、むんとした熱気を感じる。
 そこにとどまっているだけで差し入れた右手から汗が滲み出してしまうぐらい。
 この奥が果たしてどうなっているのか……確認するまでもないか、な。

「し、士郎……っ! やっ、いまは――だめ、ほんとに……っっ!」

 ……くちゅ……

「ぅ――――っ!!」

 小さな音を立てて俺の右手が着地した。
 下着という薄布一枚に隠されたそこ。
 そこに触れた瞬間に聞こえる、はしたない音。

「もう濡れてる」
「そ、そんなこと……ん」
「それも……すごいびしょびしょ」
「――っ! だ、だから、いまはだめだって……あんなに言ったのに……っ!」

 右手がたどり着いたそこはスコールに遭遇したかのようにぐしょぐしょ。
 下着があるにはあるが、ほとんど役に立たない状態。
 許容量をはるかに超える水分を含んでしまい、肌にぴったりと張りついている。
 こんなに濡らしてしまう遠坂も珍しい。

「この下着、もう駄目かな」

 ぐっしょりと湿った下着を弄びながらそんなことをつぶやく。
 今度はそのまま指を一本、下着の上から秘所に向かって押し出す。

 ……くちゅぅ――

「っ……ん、んんん……あぁ――」
「うわっ、すご……下着ごと入ってく……」

 下着の上から押し込んでいるというのに、そのままどこまでも沈んでいってしまいそう。
 指と布がいっしょくたに吸い込まれる。
 第二関節の辺りまで穴に入れたところで指の動きを変えた。
 中の壁を下着の上からなぞるように回す。

 ……くちゃ……くちゃ……くちゅ……ちゅぴ――

「はぁ、ん、ん……あくぅ、うぅぅ……っ!」

 こじるような指の動きに、音と声が同時に上がった。
 ニーソックスを履いた脚がしなやかにうごめき、白く綺麗なシーツに線状の谷間を出現させる。

「やっぱり……いつもより感じてるだろ、遠坂?」
「ん――――っ!」

 これだけの状況証拠を突きつけられても気丈なまでに首を振る。
 しかし、そのあいだにも零れ落ちる蜜が、濁った旋律をベッドの上に奏でだしていた。

「でもさ、まだ下着の上からなのに、すごい音だぞ」

 くちゅっ――くちゅっ――くちゅぅっ――

 俺の言葉を証明するかのように、下方から聞こえる淫らな音。
 遠坂が感じていなければ俺がいくらがんばってもこの旋律は生み出せない。
 もっとも、俺もわざと音を出すようにいじくってるんだけど。

「し、知らないわよそんなの……んっ――も、う……ばかぁ…………っ」

 む、手強い。
 こうまでしても認めないのか。
 こうなったら何が何でも「気持ち良い」て言わせてやる。

 …………なんだか、最初に思ってたことと違う方向に行ってるような気がするけど……
 まあいいか。遠坂を可愛がってあげる、という大前提には逆らっていないはずだ。
 どのみちこの戦いが終わったら『呪い』の刑が俺を待ってるのだから、いまさら怖いものなど何も無い。
 行き着くとこまで行ってやる。

「……あぅっ……」

 下着ごと秘唇に突きこんでいた指を抜く。
 くちゅり、という音と共に、なまめかしい香りを放つ液体が数滴、指先から滴り落ちる。

「はあ…………ん、ん……はあ……」

 とりあえずの責め苦が消え、遠坂が安堵したような吐息を漏らした。
 当然の事ながら、これで終わりなはずないんだけど。

「じゃあ、直接確かめてみようか」
「……え?」

 言うが速いか、俺は遠坂の秘唇に手を伸ばした。
 申し訳ていどにその部分を覆う下着を、指でクイっと横にずらす。
 そっとのぞくピンク色の肉壁。みずみずしい花弁。

「ちょっ……ばか、やめっ――」
「なんで? いつもやってることじゃないか」
「う――それは……そうだけど。…………でも、今日は……」
「ん? 縛られていつもより感じやすくなってるから駄目か?」
「ちがうわよっ!!」

 これだけは絶対に否定してくる。
 肯定するはずもないけど。
 こっちもわかっててやってるし。

「じゃあいいだろ?」
「わ、わかったわよ……好きにすればいいじゃない」

 そう言ってまたしても横を向いてしまう遠坂だが、緊張からか羞恥からかそれとも迎撃体勢をととのえるためか、体のいたるところにぐっと力を込めまくっている。
 ちょっとやそっとの刺激じゃ驚くもんですか、と全身にみなぎる力がそう語っていた。
 俺はほんのちょっとの反応も見逃さない心積もりで遠坂の顔を注視しながら、横にのけた下着の脇から中指を秘唇の中へと埋めていく。
 つぷ、つぷ、ちゅぷ……と、暖かな泉の中へと埋没していく俺の指。
 その間、俺はずっと遠坂の反応をうかがっていたんだけど、まあなんだ……正直、そこまで注意深くする必要はまったくなかった。
 指を沈めた瞬間、遠坂の体に込められた力があっというまに失われたのだ。
 脱力。そして――

「ひあぁぁ……っ! あっ、あ、あぁ……」

 それだけで達してしまったかのようなかん高い鳴き声。
 力が抜けたおかげで指の締めつけがゆるくなったかと思ったら、その数瞬後には最初とは比べ物にならないぐらいのきつい締めつけ。
 たった一本の指に遠坂の秘唇全体が絡みつき、締めつけるだけでは飽き足らず、奥へ奥へと引きずり込もうとする。
 底なし沼、あるいは砂漠の流砂のように、入り込んできた異物を己の内に取り込もうとしていた。

「遠坂……凄いな。指が食べられてるみたいだ」
「あぅっ、う、うぅ――っ!!」

 聞きたくない、て感じで首を振る。
 その仕種だけでどれだけ彼女が切羽つまっているのかがわかる。
 いや、ほんとに凄い。ほんとに凄いけど……ちょっと凄すぎないか?
 遠坂ってもともと感じにくい体質だったし(最近はそうでもないけど)いま俺がやっていることは指を彼女の中に入れただけ。
 特に激しく出し入れしたわけでもなければ、ぐちゃぐちゃにかき回したわけでもない。
 それなのにこれだけ感じている。
 縛られてるから、ということだけじゃちょっと説明がつきそうにない。

 あ、そういえば――
 このあいだ……セイバーを抱いた時もこんな感じだった気がする。
 普段と変わりないことをやってるつもりだったのに、あの時のセイバーも異常なぐらいに乱れて。

「んっ、あぅっ……! し、ろうっ、な、なんか、へん……ふぁ――っ!!」

 そう。いまの遠坂みたいに。
 これってやはりなにか関係があるのだろうか。
 あの日以来、セイバーとは何度か体を重ねたけど、そのたびに今まで見たことのないような乱れ方をしてくれる。
 これまでは、一晩でイク回数はだいたい同じぐらいだったのが、今じゃ桁が一つ違うぐらいセイバーのほうが多くなった。
 失神するのもあたりまえ、どころか一晩で二度も三度も、というのも珍しくなくなった。
 俺にそっちの才能があるなんて欠片も思ってないから、あの時の行為が俺の体になんらかの変化をもたらした、と、そう考えるのが妥当かもしれない。

 あの時の行為。
 セイバーを抱きながら、心の内で「ある物」を投影した時。
 あの瞬間から――俺とセイバーの狭間になる何かが繋がった。
 それ以来、一進一退をくり返していた夜の戦いは、なぜか俺の連戦連勝。
 無敗記録が続き、俺自身、まったく負ける気がしなくなった。
 もしかしたらその事が今もなお生かされているのかもしれない。
 理由のほどはわからないが、体の底から湧き出てくる得体の知れない力を感じている。

「あ、う、士郎……ん、ん、なんか……んっ」

 いずれにしても、遠坂を悦ばせてあげることができるのならば、それがなんであろうと俺は構わない。
 俺の手によって遠坂が啼いてくれるのなら、それはそれで喜ぶべきことだ。

「指動かしてやるな」
「え、あ……う、うん……」

 あ、少し素直になったかな。
 気を良くした俺は指の抽送を開始。
 根元まで膣内に沈め、そして抜く。
 それをゆっくり、淡々と繰り返した。

「あぅ……っ、うぅ、んっ、んっ」

 抽送のリズムに合わせるように声が漏れる。
 差し入れればどこまでも引きずり込まれそうで、抜こうとすれば離すまいと締めつけてくる。
 その艶かしい膣内の動きを感じながら、責める指を二本に増やす。
 遠坂のそれは、二本目の指をも簡単に飲みこんでいった。

 くちゅっ、くちゅっ、くちゅっ――

 溢れだした蜜が卑猥な音を鳴らし、そのたびに蜜壷が甘く柔らかく俺の指を締めつける。
 指先が性感帯になったような気持ちよさ。とろけるような快感。
 でも、実際に性感帯を責められてるほうはそれ以上のものを感じているみたいだ。

「ひぃあ――っ! ああぁぁ…………んっ、ん――っ!!」

 体をくねらし、声だけでなく全身で気持ちよさを表している遠坂。
 痙攣のおこる間隔が少しずつ短くなり、飛び跳ねるみたいに身体が踊る。

「あっ、んっ……んっ、士郎……わたし、もう……」

 膣内の締めつけがよりいっそう強まってきた。
 もう少しでイクみたいだ。
 指先でそれを敏感に察知しながら、俺は指の動きを加速させた。

「ふ、あぁぁ――あ、あっ、士郎……し、ろう――――!」

 ぐぅっ、と体を反らし、
 遠坂が俺の名を呼びながら、今まさに達しようとする瞬間――

 ちゅぷ…………

「……あ」

 俺はその指を引き抜いた。





「はぁ……ん……ん……」

 遠坂は荒い息を吐いている。
 その声を聞きながら自分の指を見る。ねっとりとした液体にまみれた俺の指。
 やや白く濁っているような液体は、俺の脳髄をとろかせるような甘い匂いを放っていた。
 それをペロっと舐めてみる。
 甘いような、苦いような、不思議な味。

「大丈夫か、遠坂?」

 ぐったりとして、それでいて何処かもどかし気な遠坂。
 
「ずいぶん感じてたみたいだし、どこかつらい所ないか?」

 自分が加害者であることを棚におきながらそう聞いた。
 遠坂の瞼がゆっくりと開く。
 俺の優しい問いかけにうっとりとした瞳を向けながら……
 なんてことは決して無く、思いっきり非難のまなざし。
 遠坂もさすがにわかってるみたいだ。
 俺がわざと彼女をイカせなかったことに。

 俺はそんなことにまったく気づかぬふうを装おう。
 首筋とか胸とか、あまり刺激しないようやんわりと撫でながら、どうした、というような眼差しを向ける。

「……」

 遠坂は何も答えなかった。
 何か言った時点で自分の敗北になる、ということを瞬時に悟ったみたいだ。
 でもそうやって状況を理解していても体のほうはそろそろ限界のよう。
 イク寸前にお預けをくらったので相当敏感になってるらしい。
 ほんの少し触れるだけでも、ピクッ、ピクッ、と反応する。

「じゃあこのまま続けるけど、いいか?」

 おそらく……いや、間違いなく否は無い問いかけ。
 そして予想通り、遠坂は悔しそうな顔をしながらもゆっくりと首を縦に振った。

 俺の浮かべた笑みを遠坂はどういうふうに受け止めるだろうか。
 そんなことを考えながら、体を遠坂の下半身のほうへとずらす。
 ぐしょぐしょになってしまった下着と、お尻のほうが染みになってしまっているスカート。
 それに手をかけた。

「お尻、上げて……」

 そのまま脱がすことも可能だけど俺はあえてそう言った。
 俺の言葉に遠坂がどう反応するのか、それをいちいち確かめたくなったのだ。
 スカートと下着に手をかけたままじっと待つ。
 どのくらい時間がかかるだろうかと思っていたら、意外なほど素直に遠坂は従った。
 脚に力が込められ、ゆっくりとお尻が上がった。
 俺はスカートと下着の両方をスルスルと脱がす。

「――――んっ」

 守るものがすべて失われたせいか、遠坂は一度だけブルっと体を震わせた。
 恥ずかしげに目をそらし、俺の視線から少しでも隠れるように体をよじらせる。

「……」

 でも逆に、その行為がよりいっそう俺の欲望を加速させる皮肉。
 俺は下半身のほうへと回り込み、俺の目から「それ」を隠している両脚に手をかけた。
 力は――ほとんど入っていない。すぐにでもこじ開けることができそう。
 少しずつ、ゆっくりと、宝物殿の扉を開けるように、その両脚を横へと押し広げていった。


「う――わ……」

 前方に広がる薄桃色の「それ」を目にして思わず声をあげてしまう。
 これまでも何度か目にしたことはあるけど、こんな明るい場所で、なおかつこんなにあからさまに見たことはない。
 しかもそれが瑞々しい果実のように甘い香りと甘い蜜を滴らせているとなると、俺の脳髄も同じように溶けていってしまいそうになる。
 一気にかぶりつきたくなる衝動を俺は必死で耐えた。
 これだけ綺麗で美味しそうなものを、はしたなく食い散らかしてしまうのは勿体ないし失礼だ。
 まずはじっくりと鑑賞し、これが遠坂の物だということをしっかりと脳裏に焼きつける。

「や……士郎。そ、そんなに……見ないで……」

 視線で火傷しそうなほどじっと見つめていたら、恥ずかしそうに遠坂が言ってきた。
 男が自分の両脚のあいだに体を入り込ませ、自分の「それ」を間近で凝視していたら、そりゃたいていの女の子なら恥ずかしがるだろう。
 遠坂だってそう。初めての時もここを見られたり舐められたりするのは相当恥ずかしがってたし。
 あの時はあんまりにも遠坂が言うので俺も途中でやめたけど、今日は違う。
 徹底的に可愛がってあげることにしたのだから。

「心配しなくていい。綺麗だよ、遠坂のここ」

 この場合に言う「ここ」とは一つしかない。
 つまり遠坂の――

「綺麗なピンク色してるし小さくて形も良い。花びらみたいなこれも、こっちでツンと立ってるお豆も、それから……」
「ば――っ! ばかっ、そ、そんなこと……い、言わないでよ……」
「いや、でも……ほんとだぞ」

 綺麗で、それでいて可愛い。
 これは本当だ。
 俺は他の女の子の「それ」など見たことないけど、比べてみれば絶対に遠坂のほうが可愛いはずだ。
 セイバーは……うん。彼女のも同じぐらい可愛い。
 もちろん、細部は全然ちがう。特に一番違うのは……なんと言っても「毛」の色。
 黒と金。
 色はちがうけど、でも、どっちもちょっと薄目かな。

 遠坂の「それ」を見ながらセイバーの「それ」を何気なく思い出してしまい、若干の自己嫌悪。
 そんな申し訳無さも手伝い、俺はこれ以上焦らすのをやめてあげることにした。

「ん……」
「ふぁ――っ!」

 舌がそこに触れる。
 同時に甲高い声と反り返る体。
 両脚をしっかりと抱えながら、そこを丹念に舐めあげていく。

「はっ、うぅ……やっ、士郎っ!!」

 ぬるっと舌が膣内へ入り込むとさらに喘ぎ声が高くなる。
 花弁の柔らかさとは逆に、遠坂の体は再び力がこもり硬くなる。
 暴れようとするよう脚を俺はしっかりと押さえつけながら、より激しく舌をうごめかした。

「んっ、あぅ――! 信じ、られない……士郎の、舌が、わたしの中に……んっ!」

 うなされるような声は、自分がさらしている痴態を拒絶しようとしているようだった。
 股間には俺の頭、膣の中には俺の舌、下の繊毛に鼻頭を突きこまれ、それが時々もっとも敏感な肉の芽に触れる。
 おまけに両手は腰の後ろで縛られ身動きもとれない。唯一とれる意思表示は声をあげて鳴くことだけ。

「はぁ、はぁ……ん、ん……っ! はぁ……」

 指で遠坂の花弁を左右にくつろげ、さらに奥深くまで舌を差し込む。
 中から染み出してくる甘い蜜をすすりながら、周囲の肉壁をざらざらとした舌の腹で舐め上げていく。

「ひぁ――――っ!! あ、あっ、くぅん――っ!」

 膣内が収縮を激しく繰り返した。
 腰も何度か飛び跳ねそうになるので、口が外れないようにするだけで一苦労。
 遠坂の体全体から、男を狂わすような甘い香りが放たれている。

「ひぃん――んっ、んっ! あ、ぅっ、士郎……わたし――――」

 またイキそうになってるみたいだ。
 俺は正確にそれを察知する。
 というより――なぜかそれが正確に『見える』
 体が震え、腰が踊り、舌先を圧迫するような締めつけを感じながら――俺は再び舌を抜いた。





 俺は遠坂の股間に突っ込んでいた頭を上げ、ベトベトになってしまった口元をぬぐう。
 眼下ではまたしてもお預けをくらった遠坂が、火照りきったままの体を震わせていた。

「あ……くっ、士郎――」

 非難の声。
 イク直前でのお預けは今日二度目だから当然だ。
 遠坂が怒るのも無理ないけど、彼女の表情がさっきよりも切なげに見える。
 一応、ちょっとずついじめてる成果が出てるみたいだ。

「ん? なんだ、遠坂?」
「…………わかってる……くせに――」

 勿論わかってる。

「なんのこと?」

 でも、わざとらしくそう答えた。
 当然のことながら遠坂が睨みつけてきた。
 俺は体を上げ、その顔を真正面から見下ろす。

 俺を睨む遠坂と、それを見つめる俺。
 普段なら決まって俺が折れるんだけど、今日に限っては逆になった。
 悔しそうにしながらも遠坂が顔を逸らしたのだ。

「ちゃんと、最後まで……シテよ……」

 顔を真っ赤に染めながら言う。
 いや、なんというか――――めちゃくちゃ可愛い。
 自分の恋人を褒めちぎるのもなんだとは思うけど、こういう時の遠坂は、ほんとに、とにかく、とんでもなく可愛い。
 楽しげに笑う(あくまの笑みではなく)遠坂も好きだけど、こうやってベッドの上で恥らう遠坂というのもたまらなく好きだ。
 普段のあかいあくまっぷりとのギャップがそれをよりいっそう際立たせる。
 ああわかった、と答えて思いっきりその行為に突入したくなってしまう。いつもの俺なら迷うことなくそうしてるだろう。
 でもなんとか我慢した。今日の俺には目的がある。
 このまま一気に獣モードへと突入するわけにはいかない。

「してって……なにを?」

 だから、こんなふうにめちゃくちゃ意地悪な発言をする。

「――――っ」

 遠坂が唇を噛んだ。
 全部わかってるくせにそんなことを言ってるというのを、遠坂も当然気づいている。
 ちょっと意地悪が過ぎる気もするけど、これだけ俺が優位に立つというのも初めてだし、もうたぶん二度とこんなチャンスはない。
 遠坂の『可愛い女の子』の部分を徹底的に引き出す、今日はそういう夜にすると決めたのだ。

「どうしてもらいたい?」
「――ぅ…………イかせて…………」

 うわ、耳まで真っ赤に染まってる。
 恥ずかしそうに悔しそうに、それでも我慢できなくてぼそぼそとつぶやく姿はこのうえなく可愛い。
 でもまだ我慢、我慢。
 もっと――遠坂の可愛い姿を引き出したい。
 そのためにはどうすべきか。俺はしばし思案する。

「……士郎?」

 そうだ。
 こういうのはどうだろうか。
 ちょっとばかり後が怖い気がするけど、そもそもすでにとんでもないことを仕出かしてしまっているのだ。
 今さら後の仕返しを恐れたところで意味はない。

「ん、じゃあ遠坂……」

 俺は彼女の耳元に唇を近づけ、つい今しがた考えた言葉を送り込む。

「――っ! な、な、…………」

 変化は劇的。
 顔や耳どころか、首筋、胸元まで赤く染まっていく。
 そんな遠坂を見ながら俺は平然を装って――実のところ俺も少し恥ずかしかったが――もう一度口を開いた。

「こうおねだりしてくれたら、ちゃんと最後までする」

 それこそ全力で。俺の全てを注ぎ込んで。
 というかそんな言葉を遠坂の口から聞いたら、たぶん俺も我慢できなくなるだろうし。

「なあ、どうだ? 遠坂」
「――そ、そんな恥ずかしいこと、言うわけ無いでしょうが――っ! 馬鹿ぁ――――っっ!!!」

 今日いちばんの激昂。
 ぐわんと耳に響いた。

「……駄目か?」
「あ、あたりまえでしょう! だいたい……なんでそんなこと言わなくちゃいけないのよ――」
「なんでって? ……俺が聞きたいからに決まってるじゃないか」

 うん。聞きたい。
 心の底から聞きたい。

「聞きたいし、それに見たい。遠坂が全部を脱ぎ捨てて、俺にすべてをさらけ出してくれるのを」
「――な…………」

 だって恋人同士だしな、俺たち。
 それも、多分――これからずっと一緒に並んで歩いていく、絶対に代えのきかないパートナー。
 だからこそ、彼女の全部を見たいという欲求は当然のもの。
 ――もっとも、ただ単に……俺が遠坂の恥ずかしがる姿を見たいから、ということだけかもしれないけど。

 どちらにせよ、遠坂が俺の大好きな女の子で、だからこそその全部が見たいというのは確かだ。
 あと――好きな女の子だからちょっとだけいじめたい、なんていうマセた小学生みたいなこともちょっとだけ思ってる。
 うーん。このあいだもそう考えたけど、俺ってそういう性癖があるのかも。

「だからさ、遠坂。聞かせてく――――」
「絶対にいやっ!」

 すさまじい速度での拒否。
 こっちが最後まで言い切るよりも早く押し返された。

「なんでさ」
「だって、そんなはしたない事、女の子が言ったらいけないんだから……」

 そんなふうに言って、ぷいっと横を向いてしまう。
 こういうことに慣れているように見せて、実はとんでもなく初心なところがあるんだよな、遠坂って。
 普段は完璧無欠のスーパー優等生、もしくはあかいあくまなもんだからそれに気づかない奴が多いけど。
 俺も最初はけっこう勘違いしてたし。

「でもさ、俺にだけならいいんじゃないかな。恋人同士なわけだし」
「……でも……」
「遠坂が俺にだけ見せてくれる姿、俺以外には絶対に見せない姿、そういうふうに考えるのは駄目か?」

 俺の言葉に考え込む遠坂だったが。

「う…………や、やっぱり駄目。恥ずかしい」

 むう。
 これだけ説得しても駄目か。
 じゃあ仕方がない。

「あ、ちょっ……」

 顔を引っ込め、するすると遠坂の下半身に移動する俺。

「言ってくれないんなら……」

 遠坂の両脚を抑え、先ほどと同じように頭を股間に近づける。
 目の前には濡れ光る秘唇。

「士郎……?」
「言ってくれないんなら、言ってくれるまで――――」

 いじめてやる。


 そんな覚悟を決め、俺は再び攻撃を開始した。




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あとがき

いじめる側といじめられる側、それをちょっと入れ替えてみた。
いやまあ、うちのはそんなんばっかですけど。
今回は特にその傾向が強いかな。
次回は多分もっとその傾向が――

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