VS士郎(シロウ)
第3話
静謐なる空間。
冷たい空気が充満する板張りの道場。
少年はその赤い髪を空に舞わせながら一心不乱に剣を振り続けていた。
持つ剣は二刀。
聖杯戦争のおり、アーチャーが自らの武器としていた『干将・莫耶』あの夫婦剣。
いずれ辿り着く境地をすでに知りえているのならば、その術を学び、その道をたどることこそが技を磨くになによりの近道。
それは私にもわかる。良くわかるが。
「やはり少し寂しいですね」
その少年――衛宮士郎を遠目に見ながら、私は誰にともなくつぶやいた。
シロウが二刀を扱うようになってから、彼と剣を打ち合うときに前のように自らの剣技を教え込むようなことはしなくなった。そんなことをすればシロウがただ混乱するだけだからだ。彼の剣術稽古の相手である私が今出来ることいえば、彼の練磨の邪魔をしないよう気をつけることだけ。余計なまねは一切しない、それだけだ。
彼が目指すべき道はすでに指し示されているのだから。
寂しいといえば寂しい。
シロウのために私の知りうる全てを伝授しようと思ったときもあったから。
私は……衛宮邸の庭の茂みにその身を隠しながら、もう一度しずかにため息をついた。
ちなみに、私がこんなところでこそこそとシロウを覗いているのにはわけがある。
原因は結構複雑だが、その理由は簡単。
一言で言えば、私――最強のサーヴァントであるこのセイバーの、その誇り高きマスター。遠坂凛の執念深さによるものだ。
「凛も諦めが悪い」
私はここには居ないマスターに向かってつぶやいた。
そう……私と凛はこれまで毎日のように、この家の主である衛宮士郎と、その、いろんな意味での激闘を繰り広げてきた。
それがどんな戦いであったかはこの際おいておく。
結果。
私たちの完敗。
連戦連敗。
その攻防に一分の隙も無く、我が直感をもってしても一握りの活路すら見出せない。
おそらく、今後百戦しても百敗。
奇跡でも起こらない限り勝利をつかむことは出来ないだろう。
衛宮士郎とはそれほどの力と技量をもった敵なのだ。
敵。
いや、そもそも彼を敵とみなすことのほうがおかしい。いっそ素直にすべてを認めて受け入れさえすればそれですむこと。
だが……我がマスタはー素直という言葉にはかなり縁のない性格をしている。そして哀しいかな、私は彼女のサーヴァントであり、ついでにいうと結構素直な性格である。それゆえいつも勝ち目のない戦いに繰り出され、敗北を共にするという不条理を味わっているのだ。
そして今日は凛と別行動を取り、シロウの偵察のためにこうして衛宮邸に忍び込んでいるというわけだ。
「霊体となれればこんな苦労はしなくてもすむのですが」
残念ながらそれは出来ない。聖杯が失われた今、こうしてサーヴァントである私が現界していることすら結構な無茶なのだ。そのためこの世界での私の能力はかなり制限されたものになる。さらに、シロウと最初に結んだ契約がかなり不正規なものだったため、さして魔力を必要としない行為でさえ行使出来ないことがある。霊体になるということがその一つだというわけだ。
だからこうしてセイバーという名に最もふさわしくない行動を取っている。こんな真似を本当はしたくないのだが、凛が出した「今回はわたし一人で士郎と戦うから」という交換条件を今回はのんだため、しょうがなくこうしているのだ。
正直、凛と共にシロウと戦うことは私にとってもう限界だった。前回の戦い以来、しばらくは歩くのも大変なぐらい、その……あの部分が痛んだし、どうも凛が一緒だと妙にシロウが意地悪になる気がするのだ。
私と二人きりになった時のシロウは……実はもっと優しい。私の身体ををいたわってくれるし、体を撫でる手も愛情に満ちている。失神させられるときも多いが、それでも、徐々に少しずつ昂ぶらせてくれるのでそれほど苦痛と感じたことは無い。
だから出来れば、シロウとは普通に抱き合いたい。
そう考えていたので凛の提案を素直にのんだ。
シロウの身が若干心配ではあるが、
「一対一でシロウが後れを取るとは思えませんし……」
そう考えた。
さて、再びシロウに目をやる。彼の稽古はまだ続いていた。汗を滴らせながら素早い動きで二刀を繰り出す。スピードや技量はともかく、動きそのものは「アーチャー」のそれにかなり近づいてきたようだ。訓練の賜物だろう。
だが――
「少しキレが足りませんね」
足の運びがわずかにぎこちない。力が入りすぎている。それは……身体に溜まった何かを汗とともに吐き出すような、そんな感じの動きだった。
「これは……凛の言ったとおり、あの作戦が功をそうしているのでしょうか」
凛の作戦。
それすなわち「焦らして焦らして最後は実力行使でとっちめろ」という、センスのかけらも感じられない作戦だった。
「いい、セイバー」
「これ以上、あいつにはもう好き勝手にさせないわよ」
「ええ、今までは正直甘かったと思うの。士郎に対してね」
「だってそうでしょう。もともと魔術ではわたしのほうが、剣術ではセイバーのほうがあいつより上なんですもの。実力行使でいけば簡単に勝てたのよ」
「でもさ、士郎みたいなへっぽこにそこまでやるのもどうかと思ったから、こっちがあえてあいつの土俵に上がって戦ってあげてたのに……」
「あいつったら調子に乗って好き勝手やってくれたじゃない! あんなところの初めてまで奪われちゃって……もう、こっちだって遠慮なんか必要ないわよね。わたしが本気を出したらあんなやつ……」
「でもね。ここまでされてただ単に降参させるのもつまらないわよね。うん、だからさ、しばらくあいつを焦らしてやって、欲求不満になったところで……ふふふ」
そんな不気味な笑みを浮かべていた我がマスターを思い出す。どうやら彼女はかつてシロウに受けた屈辱の意趣返しをする気のようだ。散々じらされた挙句に言わされたはしたないおねだり、それを今度はシロウに言わせるということか。
「果たしてうまくいくものでしょうか?」
戦いの期日は今夜だ。
さまざまな準備が整ったらしい凛がそう宣言していた。だから私をここに送り込んだのだ。
およそ二週間だろうか。シロウを焦らした時間は。確かにそれだけの時間を費やせばシロウも平常心を失うかもしれない。
「でも、それは私たちも同じなような気がしますが……」
それでも今回は私には余裕があった。なにしろ私自身は戦いに参加しなくてすむのだから。
「そうですね。どちらに転ぶにせよ、傍観者であれば問題ありませんし。それに……」
それに、シロウが負けた場合は私が慰めればすむこと。
「そろそろ魔力不足になりそうですし」
魔力の補給をしてもらわなければなりません。はい。なんなら翌日にでも。なにしろ二週間でしたから。別に不埒な考えがあるわけではなく、単純に魔力不足なのです。
心の中で私は言い訳じみたことをつぶやく。それが誰にあてたものかは自分でもわからないが。
「おや」
シロウが稽古をやめた。汗を拭きながら道場を出る。
「電話ですか?」
廊下の向こう、玄関のあたりからベルの音。
シロウがそれに出るために廊下を走る。私もそれに続いて茂みを走る。
受話器を取る音。
続いてシロウの声。
私は気配を殺しながら聞き耳を立てた。
え?
桜?
慎二?
病院?
ふむふむ。
なるほど。
シロウがうなずいている声が聞こえる。
つまり桜の兄である慎二の見舞いに行くと、え、今からですか。ふむ……夕方には戻ってくると。では作戦に変更はなくてもよさそうですね。
何度かこくこくとうなずきながら確認する。
その時――不意に体を襲う悪寒。はっと辺りを見回した。
なんでしょう。
なにやらいやな予感が。
ついでに言うと……似たようなものを前にも感じた気が……
「ふーん。慎二のお見舞いにねえ」
凛がつまらなそうにつぶやく。まるで興味なさげだ。
シロウが家を出て病院に行くのを確認したあと、私は遠坂家の屋敷に戻ってきた。この二週間ばかりのあいだ、ここが私たちの拠点となっている。
「ええ、ですが夕方には戻るそうです」
「そっ。じゃあ予定通り今夜が決行の日ね」
不敵に笑う凛。その顔はまさに戦場を前にした戦士のそれだ。
本来なら頼もしいはずのその凛の表情。でも今は、なぜかそれがむなしいものに感じられた。
「決意は……変わらないのですね?」
私のその言葉に凛はじっと考え込む。
彼女にだってわかっているのだろう。敵がいかに強大であるかは。
「いつかは――決着をつけなきゃならない相手なのよ」
小さく、だが確かな決意を秘めて凛がつぶやいた。
しかしその手に握り締めているものは一体なんでしょうか? 問い詰めたい気もしますが、いや……やめておきましょう。私の直感がそれにふれるなと教えてくれています。
「それで、士郎の様子はどうだったの?」
凛が問いかけてくる。自分の作戦が予定通りに進んでいるのかが気になるのだろう。
「表面上は平静をよそおっていましたが、内心かなりいらついているようです」
「そう」
ふふふ、と、凛が笑う。その顔は自信にあふれていた。
そして彼女はその自信の元となったもの、私がふれたくないと感じていたものを突き出してきた。うう、やはりこうなるのですか。
それは一冊の本だった。正直……またか、と思う。
写真集のたぐいではない。たしかマンガというもののはずだ。シロウの部屋にも似たようなものが何冊かあった。
だが、それとは決定的に違う箇所がその本にはあった。
裸。裸の人物が表紙を飾っているのは変わらない。でも、裸になっている人物の『性別』が違う。ぜんぜん違う。というか女性ではないという段階で明らかにおかしい。
つまりは――その本の表紙はなぜか男性の裸で彩られていた。
「り、凛……」
ショックのあまり声が震えているのが自分でもわかる。そのショックの度合いは……あるいはシロウの部屋で初めてそのたぐいの本を見たときよりも大きいかもしれない。
目の前に差し出されたその本を私は恐る恐る受け取った。
近くで見るとその絵の描き方がシロウの部屋にあったそれとは微妙に違うように感じられた。よりリアルというか……ちょっと怖い感じがする。そしてその男性――いや、男の子と言ったほうがいいか。彼はなぜか弱々しい瞳でこちらを見つめてきていた。
ちなみにその本のタイトルは、
『女の子の仕返し』
……
ええと、凛。
この場合、私はいったいどうしたらいいのでしょうか。
「……言いたいことはいろいろあると思うけど、とりあえずは中を見て」
凛もその部分にはふれられたくないのか、ちょっと顔を背けたままそう言ってきた。
私は息をのむ。
はたしてこの中にはいかなる衝撃が私を待ち構えているのだろうか。
衝撃に耐えうる準備を整えながらページをめくる。
「おや?」
意外なほど普通の立ち上がり。
その題名どおり、たしかに女性主動で物語が進んでいくが、いきなりそういう場面に突入するようなことはなく、まずは淡々とストーリーが進められていく。女性の心情がやけに深く掘り下げられ、どこか弱々しい男の子を徐々に追い詰めていく描写が事細かにえがかれている。それが、なぜかこう胸に迫るものがあって、私は次第にその物語に吸い込まれていった。
「…………すばらしい」
最後まで読み終えた私はついそんなことをもらす。
「セイバーも結構気に入ったみたいね」
「はい。正直、初めはもっといかがわしいだけのものかと思いました」
士郎の部屋にあったものはほとんどがそうだったから。
だが、ここに描かれた物語はなんの無理もなく、すんなりと私の心に入り込んできた。確かに最後にはいわゆるそういうシーンもあった。弱々しく懇願してくる男の子をじわじわといじめる女性。でも、そこからはさほど陰湿なものは感じられなかった。
頭の中で私たちと置き換えて想像してみる。
女性を自分に。男の子をシロウに。
なるほど。
これならば、あのシロウに対しても勝利を得ることが可能かもしれません。
「言っとくけどセイバー。今日は貴方の出番は無いからね」
「う……そう、でしたね」
迂闊でした。凛の自信にこれほど確固とした裏づけがあったとは。
急にシロウのことが心配になる。凛には悪いが、やはりシロウには負けてもらいたくない。
だからつい凛のあら捜しなどをしてしまう。
「しかし、凛。この本を元に考えてみると、シロウを焦らした二週間という期間は少し短かすぎませんか?」
この本での女性主人公はそれこそ凛を上回る執念深さというか、よりいっそうどろどろしているというか、真綿でじわじわと締めつけていくようにたっぷりと時間をかけて相手の男の子を追い詰めていくのだ。
シロウの部屋にあった本の大半は、ページをめくるともうすでにそれが始まっている、というのが多かったがこれは違う。最後のシーンよりもこの追い詰めていく過程の描写がすさまじい。
だがそれゆえに……この本の戦略があまりにも素晴らしいだけに、凛のシロウに対する責めの甘さが際立つ結果となる。
「凛。この本の主人公はこの男性を落とすのに一ヶ月以上もの期間をかけています。ですがシロウに対してはわずかに二週間。本の男性とシロウの力量を考えるとこの差は大きくありませんか?」
当然の疑問。
なにしろ相手はシロウだ。幾たびの戦場を越えてなお不敗。その身体の内に無限の精を持つ男。この弱々しい、いかにも苛めてくださいといっているような男とは格が違う。圧倒的に。
「それはわかってるけど……仕方ないじゃない」
先ほどまでとは打って変わって小さな声。凛の表情はどこか苛立たしげで、どこか切なそうだった。
私には凛のその気持ちがわかるような気がした。彼女はこの二週間、シロウには一度も会っていないのだ。私も先ほどひさしぶりにシロウの顔を見て、胸のおくからこみ上げてくるものがあった。すぐにでもシロウのそばに行って彼の声を聞きたい。彼の吐息に触れたい。そう思った。
シロウを焦らそうという凛の作戦は、そのまま私たちにも影響を与えているのだ。
「……凛」
どこかすでに勝敗の行方が見えた気がした。
「大丈夫よ」
それでも凛はなにかを決心しているような表情でうなずく。
「言ったでしょう、今回は実力行使だって。いざとなったら『呪い』を撃ち込んででも勝つつもり。その、確かにちょっと卑怯かもしれないけど、一度だけ……一度だけよ……」
そう言って彼女は大きくうなずいた。
凛の決心は固いようだ。どうしてもシロウの無敗記録に土をつけたいらしい。
その戦場や動機がどうであれ、マスターが決死の覚悟で難敵に挑むというのならサーヴァントである私も出来る限り協力したい。だが凛は一人で決着をつけるという。ならば……
「ご武運を……マスター」
そう言って送り出すだけだ。勝敗がどうなるにしろ、その誇り高き心はきっと賞賛に値するものだろう。
「ありがとう、セイバー」
凛がうなずく。
では行こう。
すでに日は暮れ、夕食の時間だ。
シロウには今日からまた衛宮邸に泊まることをすでに伝えてある。彼のことだからきっと素晴らしい夕食を用意してくれていることだろう。
その後が決戦の時。
協力することが叶わないのなら、せめて二人の戦いを見届けよう。隣の部屋から。決して出歯亀などではない。いうなれば立会人?
私たちは肩を並べて屋敷を出た。
夕闇に染まった空が出迎える。
人気の少なくなった道を歩く。この道の先に私たちの宿敵がいる。
「さあ、行くわよ。セイバー」
その言葉に私はうなずいた。
此度こそ、私たちは勝利を得ることが出来るのか?
その答えは誰にもわからない。
であればこそ――私たちは進むのだ。誰一人辿り着いたものの無い、その境地へと。
どこか歪んで狂っておかしくなってきた日常。
なぜこうなってしまったのか……私は面倒くさいのであっさりと考えることを放棄した。
「やあ衛宮。来てくれたのか」
「いろいろ迷惑かけたけど、ああ、僕はもう大丈夫だ。」
「ここの生活も結構気に入っているよ。看護婦は親切で美人だし、それに、なかなか面白い人もいるしね」
「ん? どうしたんだ、衛宮。え? 悩みがある? はっ、なるほど、あの女たちのことか」
「そりゃわかるさ。僕を誰だと思っているんだ。で、なにがあった」
「……それは衛宮、女独特の駆け引きってやつだな。おまえを試しているんだよ。……そうだな、この小説を読んだらどうだ」
「ああ、さっき言っただろ、面白い人がいるって。その人に貰ったのさ。他にもたくさんあるよ。うん、作者? ―――という人だ。知ってるか? かなり有名なんだけど」
「それにほら、こういう道具もある。これか? これもその人にもらったのさ。なかなか元気な老人でね、夜になると……いや、やめておこう。衛宮は知らなくてもいいことさ」
「ああ、全部持っていっていい。役立ててくれ。衛宮には返しきれないほどの借りがあるから。ああ、ああ、気にしなくてもいいよ」
「そうか、もう行くのか。ああ、桜には僕から伝えておく」
「じゃあな――がんばれよ、衛宮」
「兄さん」
「ん、桜か。もう少し早く来れば衛宮にも会えたってのに」
「あ、先輩もう帰っちゃったんですか」
「ああ。桜はどこに行ってたんだ?」
「少し本屋によってたんです。この間貸した本、遠坂先輩が気に入ったみたいなんで、また新しいのを買おうかと……」
「そうか。あいつとは……遠坂とはうまくいってるのか……」
「大丈夫ですよ、兄さん。わたしは、もう平気です」
「すまない、いや……ありがとう、桜」
「……兄さん……」
そして、その夜。
三者三様、というより五者五様?
そんないろんな思惑が複雑に絡み合い。
復讐に燃えるあかいあくまと、解き放たれた荒ぶる獣。
三度、壮絶な戦いの幕が切って落とされる。
―――遠坂凛
VS
士郎―――
第三戦
ハンディ無し、一対一の真剣勝負
さらに
立会人、というか、隣室で聞き耳を立てるセイバー
「……士郎。悪いけど今日は……」
「え? う、うん。そうね……その、ひさしぶり、ね」
「わたし? うん、その、ちょっとさびしかった、かな……」
「あ。士郎……、ん、なんか、いつもより、やさしい……」
「うん、その……いいわよ……」
ぎりぎりぎり、と、噛み締めた歯が鳴る音。
な、なにが、いざとなったら『呪い』撃ち込む、ですか!
あっさりと懐柔されているじゃありませんか!
私は凛の不甲斐なさに歯軋りをする。
凛はずるい。それなら、私だってシロウと……
「ん、ん、え? なに? ちょっと、士郎!」
おや?
「な、こんな! や、やめて!」
どうしたのでしょうか。
「や、やだ、うごかな……ひあっ! そ、そんなもの……」
これは……いったいなにが……
「んっ! や、こんな、かっこう。あっ、んっ!」
おきているのでしょうか?
「ふあぁ、し、ろう、はげし……ゆ、るして、んっ!」
…………
私の頭は混乱のきわみにあった。
何度か聞いたことのある凛のこの声。だが、いつもとはなにか決定的に違うような気がする。
それがなんなのか。
時間がたつにつれ徐々に明らかになっていく。
「あうっ、士郎、ん、ごめんなさい、許して……ください……」
「ひあぅっ! あ、ああぁ、もう、駄目……」
「ゆる、して、ゆるして、くださいっ、ご、ご主人さまあぁ……っっ!!」
最後の甲高い泣き声とともに、何かがベッドに崩れ落ちる音。
それがなんなのかは私にもわかった。
結局、凛はまたしても敗れたというわけだ。
その敗れ方がちょっと、いや……かなり気になる。特に最後の部分。が、私はあえて気にしないことにした。なんだか怖いから。
いずれにしろ――やはりシロウの強さに揺るぎは無いということか。
私の体は熱く火照っていた。どうやら今日は眠れそうに無い。
ふぅ……
やっぱり凛はずるい……
……ガチャ……
ん。
今の音はなんでしょうか。
なにやら、ドアを開けた時の……そんな音のような気が……
……ギシ、ギシ……
今度は廊下を歩く音……
それが私の部屋の前で止まり……
……ギィ……
ドアのノブがゆっくりと回る音……
私の体は硬直した。
すぐあとに襲い来るだろう恐怖、あるいは――に、戦慄しながら……
次は……我が身と……そういうわけですか……
抵抗の気持ちすらなく、私はただあきらめの境地にいた。
遠坂凛、そしてやっぱりセイバー組
すでに何度目だかわからないけどまたしても完敗
さらに、ある一つの愛のかたちを体感する
「んあぁぁっ! シ、シロウさまあぁ……っっ!!!」
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あとがき
正直やりすぎたかなって思ってますが、どうでしょうか。
サブタイトルは「レディコミVS団――」
ごめんなさい。やっぱりやりすぎました。
いや、――光でもいいかなとは思いましたが……
マンガのほうは似たような名前の雑誌があるようです。
もちろん、まったく関係ありませんが。
で、では……次があれば……その時はまたよろしく……
6月7日、微妙に修正。
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