青と蒼と藍

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VS士郎(シロウ)

第2話

「ま、結局……前回の作戦は失敗しちゃったわけなんだけど」

「…………」

「でもね、このまま引き下がるわけにはいかないわけよ、わたしとしては」

「…………」

「士郎みたいなへっぽこ、いつまでもいい気にさせてるわけにはいかないじゃない」

「…………」

「士郎の奴ったら、このあいだなんて『遠坂って結構いじめられるの好きなんだな』なんてこと言うのよっ!」

「…………」

「もう完全に調子に乗ってるわね、あいつ」

「…………」

「いい加減、どっちの立場が上かっていうのを、わからせなくちゃいけないわけよ」

「…………」

「ねえ、だからさ。協力しましょう、セイバー」

「お断りします」

 私は凛の顔を正面から見て、はっきりとそう答えた。






「ちょっ……、なんでよセイバー」

 私の答えが気に入らなかったようだ。凛が唇を尖らせながら詰問してくる。

「協力するといっても、凛。結局私たち二人がかりでもシロウに太刀打ちできなかったではないですか」

 私がそう言うと、凛はむうと顔をしかめた。

 あの日、二人でシロウの部屋に行ったあの日。
 私はシロウを喜ばせようと、凛は士郎をこらしめようと、思惑はそれぞれかなり違ったけれど、私たちは二人がかりでシロウに戦いを挑んだ。夜の戦いを。

 結果。
 私たちの完敗。
 もうそれこそ、ぐうの音も出ないほどの完敗。
 いや、そもそも二人揃って失神させられてしまったし。

「なに弱気になってんのよ、セイバー」
「別にそういうわけでは」
「たかだか一回負けただけじゃない」
「いや、そもそもこういったことに勝ち負けもないわけで」

 それに、個人個人の戦い(?)を含めればそれこそ連戦連敗。ただ一度の勝利も無いわけで。

「わたしはあきらめないわよ。このまま黙って引き下がっては遠坂の名が泣くわ」

 家名をかけてでも戦おうと決心する凛。その姿は誇り高き魔術師そのものだ。ただ、その戦場のことを考えると、そこに誇りを見出すのに意味があるのかどうか疑わしくなるが。
 それでも凛は本気だった。
 真剣なまなざしで唇をかみ締めている。
 シロウにいいようにもてあそばれているのがよっぽど悔しいらしい。

「ふう……。わかりました、凛。貴方がそこまで言うのならば、もう一度だけ協力しましょう」

 仕方なく私はそう頷いた。
 凛は私のマスターで私は凛のサーヴァント。マスターが誇りと家名をかけて戦うというならば私はそれに従おう。
 たとえその戦いの先に敗北しかないのだとしても……

 はあ……
 またシロウにいじめられことになるのですね。






「それで、またここですか」

 私たちはシロウの部屋に来ていた。前回の時もここが私たちの作戦会議場だった。

「そうよ。士郎対策を練るにはここが一番でしょう」

 いろいろと資料もあるし、と凛は言いながら、押入れの奥からごそごそと例の袋を取り出す。
 怪しげな……というか卑猥にすぎるそれらをじっと見つめながら、私は凛に疑問を呈する。

「しかし凛。これらのものからシロウの弱点を見つけるのはもはや不可能でしょう?」

 ここにある本に描かれた行為は、シロウの弱点になるというよりはシロウを喜ばせるだけのような気がする。
 一週間ほど前の深夜に行われた前回の壮絶な戦い。あの戦いから学んだ唯一の教訓だ。
 まあ、戦いというよりは、一方的な敗戦、あるいは殲滅戦みたいなものだったが。もちろん私たちが殲滅されたほう。
 あの日のことを思い出すと今でも体が震える、というか熱くなる。
 あの夜のシロウは本当にすごかった……

「ちょっとセイバー。なにほうけてんのよ」
「……え?」

 言われてはっと気づく。
 微妙に意識が飛んでいたようだ
 それになんだか身体が火照ってきている。
 おまけに右手が胸のあたりをさまよっていたりして……

「いえ、その、あの、これは……」

 あわてて右手を下げ背中に持っていく。顔が真っ赤になっていくのがわかる。
 そんな私を見ながら凛がため息をついた。

「なんかもう、完全に士郎の色に染められちゃってるわね、セイバー」

 凛、貴方に言われたくはありません。

「まあいいわ。今日はね、士郎の弱点を探るためにここに来たんじゃないの」

 そう言ってがさごそと袋の中を探る。
 そして、『あ、これね』となにやら一つの本を取り出した。

「凛?」

 彼女の手にある本は、長くて黒い髪の美しい女性(もちろん裸)が表紙の本だった。
 私の記憶によればこのあいだ来た時には見なかった本だ。インパクトがあまりに強すぎたのでここにあった物はほとんど憶えている。

「それは?」
「新入荷の本よ」
「新入荷?」

 つまり新しくシロウが手に入れたものだということか。
 私たちというものがありながら、とそう思わないではない。思わないではないが、今はそれより気になることがある。

「なぜ凛がそれを知っているのです?」

 もしかしてたびたび家捜ししているのでしょうか。む、想像するとなんかいやですね。

「ああ、そんなの簡単よ」

 そう言って凛がさっと左手をかざす。彼女の左手に刻まれた魔術刻印がぼうっときらめき、その手の先になにやら不思議な物体が浮かび出た。赤い羽根と赤い尻尾を持った小さな生物。一瞬だけ姿を現し、そしてすぐに消えた。

「使い魔……ですか」
「そう」

 平然とうなずく我がマスター。
 まさか自分の恋人の部屋に使い魔を仕掛けるとは……
 これではシロウの私生活は凛にすべて筒抜けというわけですか。
 いえ。待ってください。それでは……

「まさかとは思いますが、凛。この使い魔、いつもここにいるのですか?」

 具体的に言うと私とシロウが夜この部屋でふたりきりの時とか。

「……ええ。……いるわよ」

 凛も私が言いたいことがわかったのか、若干歯切れの悪い口調でそう答えた。

「いくら貴方でもそれはプライバシーの侵害です」
「サーヴァントが現代法律を振りかざさないで。そもそもシロウと貴方にはプライバシーなんてないの!」

 私の物なんだから、と、それこそ自分内法律を振りかざす。
 な、なんと横暴な。

「だいたいね、貴方も私のサーヴァントなら少しはマスターに気を使いなさいよ」
「……? どういうことです」
「だから、もうちょっと、その……あれするのをひかえなさいってこと」

 あれ、というのは、つまり。
「い、いや、それはですね。その、魔力補給のために仕方なく……」
「ふーん……。そのわりには最近やたらと回数多いじゃない。わたしだって士郎に魔力供給のフォローをしてもらってるんだから、そうたびたびセイバーが魔力不足になるとは思えないけど。それに、このあいだもなんかいろいろと士郎にやっていたみたいだし……」
「い、いろいろとはなんです?」

 聞いてはいけないと思いながらつい聞いてしまった。

「…………セイバー。もしかしたら知らないのかもしれないから言っとくけど、口からは魔力補給は出来な……」
「凛っ!」

 私はあわててその先の言葉をさえぎった。
「そ、そのようなことは」
「なあに、うそだっていうの」
「…………」

 うう、まさかアレを聞かれていたとは。
 だが私とてここは引けない。

「ですが、そういうことならば凛こそもう少し控えてもらいたいものですっ」
「な、なによ、わたしはセイバーの魔力供給のために……」
「はい、それはとてもありがたい。ですが、貴方の部屋は私の部屋の隣にあるということをお忘れですか? 毎夜のように貴方の鳴き声を聞かされれば私とて我慢が……」

 今度は凛があわてた。

「うそよっ! あの時には部屋の中に魔術で結界を張っているもの。聞こえるはずがないわ!」
「凛。簡易的な結界の持続性は術者の集中力によって左右されます」

 そしてシロウの責めを前にして集中力など保っていられるはずもなく。

「え……あ……、ってことは……?」
「はい。ほぼ毎回、途中から筒抜けです」
「う……っ」

 これだけ才能があるのに最後で必ず失敗するのは遺伝による呪いか。凛はその顔を自分の着ている服と同じぐらい真っ赤に染めた。

「ちなみに……昨夜の貴方はシロウに散々じらされた挙句、最後にはとうとう観念してシロウの言われるがままにはしたない言葉でおねだりを……」
「ちょっっ! やめなさいっ、セイバーっ!!」

 があー、と吠えながら私の言葉をさえぎる我がマスター。ふむ、なんとなくやり込めた気がして気分がいいです。
 ……って、なにをしているのでしょうか。私たちは。





「……今わたしたちがここでいがみ合っても仕方ないわね」
「はい、賛成です。凛」

 とりあえず言いたいことを言い合ったので落ち着いた私たちは休戦条約を結ぶ。当事者のシロウがここにいない以上、ふたりでこんなことを言い争ったってなにもならない。
 はあ、ひとりの殿方をふたりで取り合うのは現代では難しい。私の生きていた時代ならば一夫多妻など当たり前だからこんなに悩む必要も無かったのでしょうが。

「じゃあ、気を取り直して」
「…………」

 そう言って凛が手に取ったのはシロウが新しく手に入れたという本。気を取り直して目にするのがそれというのもなんだか虚しい。いや、もう考えるのはやめよう。

「それで、これはいったいなんの本なのですか?」
「見ればわかるわ」

 さっとページをめくる。

「…………」
「…………」

 なんというか、これはあれですか。
 見たことがある……というよりは、やったことがあるといったほうがこの場合は正しいのだろうか。

「ねえ、セイバー」
「は、はい」
「このあいだのことって士郎に頼まれたんでしょう?」
「え、ええ。シロウがどうしてもというので……」
「ふーん、やっぱりね。士郎のやつ、こないだ部屋で言ってたもの。こういうことセイバーにもやってもらいたいなあって」

 盗聴していることにまるで罪の意識を感じていない様子のマイマスター。
 私はその本に映し出された行為を目で追う。確かに、ほんの数日前の夜、私がシロウにしてあげた行為とまったく同じだ。口で、その、男性のものを……
 て、待ってください。

「凛。今、セイバーにも……と、言いましたよね?」
「…………」
「にも、ということはすでに貴方は……」
「聞かないで」

 憂いを含んだ瞳で凛は答えた。
 なるほど。貴方もつらい経験をしたのですね。

「でもね、考えてみて。この行為って、わたしたちが士郎のやつを一方的に攻められる唯一のチャンスなのよ」
「む、そう言われればそうですね」

 最大の弱点を無防備にさらけ出し、あまつさえそれに効果的な攻撃が出来る。戦術においてこれほど有益なことはない。なぜ今まで気づかなかったのだろうか。

「士郎の弱点を攻める。これは間違っていないと思うのよ。でもね、わたしたちにはそのための知識がなかった」
「ああ、そうですね、凛。確かにそうです」

 今まではシロウの言われるがままのことをやってきた。でもそれでは、一方的に攻撃されるだけで勝利を得ることなど到底おぼつかない。
 ん?
 なんだか私もだんだん凛に毒されてきたような気が……

「魔術師にとって知識とは力よ。それで、この本から知識を得ようというわけ」
「わかります、凛。そういうことでしたら私も出来る限りのことをしましょう」

 ええ、これはシロウのためだ。きっとこれを学び取ればシロウは喜んでくれるはず。ええそう、私は凛とは違う。別にシロウをいじめてやろうなんてこれっぽちも思っていません。はい。

 私と凛はその本に注意深く目をやる。

「凛、これは?」
「なるほど……ここをこうやって攻めるわけね」
「あっ、こうすると良いようです」
「……ちょっと、すごいわね。できるかしら」
「ふむふむ……っえ? このようなところまで?」
「う……わ、こんなところ……ありえない」
「で、ですが、相当効果があるようです。ちょっと信じられませんが」
「むうー、おくが深いわね」

 私たちはさまざまな批評を交えながらこの本から知識を吸収していく。ぺらっと凛が次のページをめくった。

「む、二人がかりですか」
「これは……わたしたちのためにあるような攻撃ね」

 確かに。
 より力を入れてそのページを見る。

「なるほど。二人で攻める場合はこうするわけですか」
「同じところを攻撃しても意味はないというわけね」
「一人は前から、一人は後ろから。なるほど、理にかなっています」

 そんなことを言いながら次のページをめくると、そこには一味違った戦術が。
 金髪の女性がその豊満なふたつの柔らかなふくらみで……
「これはどうでもいいわね」
「はい」
 どうでもいいです。

 そんなこんなで私たちは様々な知識を身につけていった。
 自分の力量が少しずつ上がっていくことを感じることが出来る。かつて剣術を習い始めた時もこんな気持ちだっただろうか。懐かしい、遠い記憶がよみがえる。
 部屋の窓から外を見た。
 夜の帳が徐々に折り始めている。そろそろ夕食の時間になるだろうか。
 おや?
 そういえば。

「凛。シロウはどこに行っているのですか?」

 私はいまだに研究をつづけているマスターに向かって尋ねた。
 シロウの姿を見ていない。さらにこの家にいるような気配も感じない。また土蔵にでもこもっているのだろうか。

「ん? ああ。士郎なら一成のやつに呼ばれて柳洞寺に遊びに行ってるわ」
「柳洞寺に?」

 私自身、あそこにはあまりいい思い出は無い。
 それゆえでしょうか。なにやら胸騒ぎが……









「む、衛宮、よく来た。まあ上がってくれ」

「番茶でも用意しよう。茶請けはなににするか?」

「ふむ、甘いものか。それならば羊羹などがあったか。しばし待て」

「…………」

「待たせたな衛宮。熱いから気をつけろ」

「……時に衛宮。もしやとは思うが――まだあの女狐とのつき合いを続けているのか?」

「なんと……ならばもう一度言おう。アレとのつき合いは金輪際やめておけ。女狐の毒に侵されるぞ」

「心配ない? むう、衛宮がそこまで言うのならばとりあえずは矛をおさめよう。が、あきらめたわけではないぞ。そこを履き違えるな」

「なに? このふるい本はなにかだと? むっ! それはっ! 迂闊、片付け忘れていたか……」

「いや、なに。俺はいずれこの寺を継ぐべき身であるからな。後学のためにこういったものの知識も必要かと思っただけだ。あくまで知識として知っておこうとしただけだぞ。うむ」

「教えてくれだと? む、む、まあ良いだろう。それはな……その、いわば衆道というやつだ。……意味? その、なんだ、簡潔に言うと男色ということになるな」

「まあ、今でこそ減ったが、かつての寺のほとんどが女人禁制をうたっていたからな。そういうものも必要であったのであろう。戦国時代の武将たちもその道に詳しい者は多かったそうだ」

「なに! 興味がある! なんと、それは僥倖……。あ、いやいや……なにを言っているのだっ、衛宮っ! そのようなことを……なに? 違う?」

「ではなんだというのだ。なに? やりかたに興味があると?」

「むう。貸すのはかまわんが……」

「もう帰るのか? ゆっくりしていけば良いものを……。夕食の準備? なるほど、あいかわらずというわけか」

「ではな。またいつでも来てくれ」

「ああ、ああ……それではな」










 そして、その夜。

 三者それぞれの思惑が交錯し。

 再び壮絶なる戦いが始まる。





―――遠坂凛&セイバー
      VS
       士郎(シロウ)―――

  ハンディキャップマッチ
      第二戦






「ん、ん……あ、シロウ……」

「はあ、はあ……んっ、や」

「ああ……もう……」

「んっ、くぅ……こんな、こと、ぐらいで…………えっ?」

「ふあ……ん……っ! やっ、シロウ、そこは……!」

「ちょっ……ば、かっ、士郎、そこ……違う……!」

「やっ、んぅ……そ、んなところに……うぅぅ」

「し、しんじられ、ない……うっ、士郎、士郎の……ば、かあぁっっ……!!」



 遠坂凛&セイバー組
 またしても完敗
 おまけに新たなる世界に目覚めさせられる












「セイバー、次こそは……っ!」

「おことわりしますっ!!」




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あとがき

すいません。またやってしまいました。
こういうのは一発ネタだから、
続けちゃいけないとは思ったんだけど、つい。
さらに言うともう一話ぶんネタがあるけど……どうしよう。
とりあえずシリアスの話で消費した魔力は補給できました。

6月7日、微妙に修正。

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